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魔王復活編

398.情熱的に踊りだした

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 勇者一行が二人の動向を探るように窺っていると、音楽が鳴り始め、二人が動き出す。

「オーホッホッホッホ!」

 高笑いを響かせながら、フラメンコに似た踊りを情熱的に踊りだした。
 ちょっと大丈夫だろうかと心配になってきそうな光景ではあるが、会場は大盛り上がりである。

 雪乃は死んだ魚よりも真っ白な眼で傍観していた。他の仲間たちも、似たような反応だ。
 何がしたいのか、さっぱり分からない。いや、踊りたいのだろうということは分かるのだが、時と場合を考えてほしいと思ってしまったのは、仕方ないだろう。
 音楽が終わると同時に、ダンッと舞台を踏み鳴らして決めのポーズを決めた二人の視線が、雪乃たちへと向かう。

「ふふ。そんなに怯えなくてもいいんだよ、子猫ちゃん。さあ、僕と勝負といこうではないか!」

 ぱちこーんっと、男のほうがウィンクを飛ばしてきた。
 途端に客席から割れんばかりの黄色い悲鳴が沸きあがったが、雪乃は幹に悪寒が走り、カイにしがみ付いた。

「魔法使いでありながら剣術にも長けている、金色の稲妻ジーク。攻撃魔法を得意とする黒バラのローレン。ドューワ国を中心に活動している冒険者兄妹だ」

 二人を知っていたらしきマグレーンが説明してくれた。
 彼らの二つ名を、どこかで聞いたことがあるような気がした雪乃は、記憶を掘り返す。掘り続けた先に、こつりと何かが触れた。
 以前グレーム森林で出会った冒険者たちが話していた、魔法使いの冒険者だ。樹人の杖を愛用しているという話を思い出し、雪乃は二人をじいっと観察するように見る。

「どうしたんだい? 子猫ちゃん。僕の美しさに見惚れちゃったかな?」

 未だスポットライトを浴び続けているジークが、雪乃に流し目を送ってきた。

「いえ、美しさなら、たぶんムダイさんとナルツさんの方が上ですから、特に興味はありません。そんなことよりも、杖を見せていただきたいのですが」

 ぴしり、と会場の空気が固まった。
 ジークの額に青筋が浮かび、口の端がひくひくと痙攣している。ギャラリーたちからも、射殺さんばかりの殺気が雪乃に投げつけられた。

「えーっと……」

 とりあえず、雪乃はカイにぴったりしがみ付く。いつもの通り、ぽんぽんっと頭を叩かれた。
 引きつっていたジークがなんとか自分を立て直し、雪乃を睨むように見下ろす。

「いいだろう。その勝負、受けて立とうではないか!」

 誰も宣戦布告などしていないはずなのだが、なぜか買われてしまった。

「ローレン、下がっていろ。さあ、そのムダとかナルシストとかいう男を、舞台に立たせるといい。真の美しさというものを、僕が教えてあげよう」

 キラキラとしたエフェクトが、ジークの周りを彩る。幻影魔法だろうか。
 巻き込まれる形となったムダイとナルツの目が雪乃へと向かい、雪乃はちょこんと土下座する。

「申し訳ありませんでした」

 言葉には気をつけようと反省する雪乃だった。

「ユキノちゃん、顔を上げて。大丈夫だから」

 困ったように微苦笑を浮かべながら手を差し伸べるナルツに促がされて、雪乃はゆっくりと立ち上がる。
 起きたことは仕方がない。ナルツとムダイは舞台に上がった。
 スポットライトが二人にも降り注ぐ。その瞬間、ジークが固まった。彼の顔からほほ笑みとバラが落ちていく。自分たちにだけライトを当て勇者サイドは暗転していたことで、二人の顔が見えていなかったようだ。

 天然爽やか騎士のナルツと、エルフ顔負けの美丈夫ムダイである。
 静かに白い舞台に落ちたバラから、花びらが散った。ジークの唇に白い歯が食い込み、赤い露が現れる。
 憤りと妬みの混じる視線で睨みつけられたムダイは、ふっと口元に余裕の笑みを浮かべた。ジークからの視線を切って客席へと顔を上げると、手を挙げて軽く振りながら、甘く蕩ける笑顔を振りまいた。

「きゃあーっ!」

 途端に会場中から黄色い悲鳴が上がり、そこここで女性たちが倒れる。ムダイは全ての観客に見えるように、ゆっくりと向きを変ていく。
 女性たちの反応に合わせるように、笑みを深めたり、軽く投げキッスをしたり、ウィンクを飛ばしたり、しっかり乙女心を掴んでいくではないか。
 男性たちの中にも、頬を赤らめている者も多いようだ。

「さ、さすが本職。お見事です」

 ムダイをアイドルだったと認識している雪乃は、その技術にごくりと幹を鳴らした。
 一方のナルツは困惑気味だ。照れ隠しにはにかんでいるが、場慣れしていない初心な様子に、ムダイが取りこぼした一部の女性や男性から、熱い眼差しを向けられていた。
 美形対決は、ぶっちぎりでムダイ・ナルツ組の勝利に終わったようだ。

「くっ。まさか、こんなことが……」

 握り締めた拳を震わせ歯を噛みしめ、悔しそうに俯くジークだが、観客はもとより妹のローレンからさえ慰めの声は掛からなかった。
 ローレンもまた、ムダイの笑顔に見惚れていた。

「ところでこれはいったい、何の茶番だ?」

 カイとマグレーンは説明を求めるようにビクターを見るが、彼もムダイの営業スマイルにやられてしまったようで、頬を赤らめて俯き、ちらちらと舞台上を見ている。
 役に立ちそうにないと、カイは眉根を寄せた。

「ふ、ふんっ! 勝負はこれからだ!」

 剣先を向けて怒鳴るジークに、ムダイとナルツは顔を見合わせる。

「普通に勝負するってことかな?」
「そうでしょうね」
「僕、弱いものいじめは趣味じゃないんだよね」

 戦う前から勝敗は決していると、ムダイは肩を竦める。最強の一角を担うムダイの態度に、ナルツは苦笑を浮かべた。

「じゃあ俺が行きます。ムダイさんにはノムルさんをお願いしたいですから、温存しておいてください」
「そうさせてもらうよ」

 ムダイは客席に笑顔を振りまきながらスポットライトを外れ、雪乃たちの下に戻ってきた。苦々しげにジークが睨んでいるが、どこ吹く風だ。

 舞台の上ではナルツとジークが間合いを取って剣を抜く。いつの間にやら舞台に戻っていたローレンが黒色のバラを投げると、すぐに退いた。
 バラが揺れながら床に付くと同時に、二人は動き出す。一瞬の間も置かずに金属が打ち合う音が高く響いたと思えば、ナルツが踏み込むより先にジークが斬り込んでいた。

「へえ? これを受け止めるとは。少しは楽しめそうだ」

 ジークの剣を正面から受け止めたナルツは、手に力を込めジークの剣を押す。
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