『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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真相編

421.たぶん人間でも

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 雪乃は慰めた方が良いのだろうかと思いつつも、視線を逸らした。

「たぶん人間でも、ノムルさんの行動は理解も予測もできなかったと思います」
「そっかー」
「はい」

 なんだか居心地の悪い微妙な空気が漂う。雪乃は払いのけるために話題を変える。

「では、ムダイさんはなぜあの世界に転移したのでしょうか?」

 樹人の王の目的は、彼の運命を変えると共に世界を救うことであり、雪乃の魂だけを連れていったように聞こえる。けれど実際には、雪乃の他にもムダイやユリアも時空を超えているのだ。

「あの赤いのなら、僕は関係ないよ?」
「へ?」

 思わず聞き返してしまった。

「言ったでしょう? 精霊の真似をして君を連れ帰ったって」
「そうですね。つまりムダイさんは、その精霊さんが連れて行ったのであって、私とは関係なかったわけですか」
「うん。まったく」

 巻き込んだわけではないと知り安心したような、更なる謎が出てきたようで落ち着かないような、もやもやした気持ちが雪乃の胸に渦巻く。
 そんな雪乃にはお構いなしに、樹人の王は話を進める。

「さて雪乃、選択の時だ。樹人として生きるかい? それともエルフの体を与えようか? これが最後の選択だ」

 樹人の王の背中に淡く輝く四枚の羽が、輝きを増し光の粒子を放つ。蛍が舞うような幻想的な光景を見つめながら、雪乃は答えを出した。

「私は――」

 光の粒子は雪乃を取り囲み、眩い光で少女の姿を隠した。




「るるるる、るーるるるー」
「るっるっるー」
「るっるっるー」

 東の果てにある島国の北の端には、森が広がる。
 かつて樹人の王が根を張り、エルフたちによって護られ、獣人たちに崇められていたその森には今、若き樹人の王が根を張っていた。

 淡く輝く精霊たちは美しい歌声を披露しながら、王の周りで舞い踊る。伴奏はパイプオルガンの重厚な音色――とはいかず、ギーコギーコと不慣れなバイオリンのように押しては引いて賑々しい。
 樹人の王から切り取った枝を、精霊たちは大切そうに地面へと運ぶ。切り口を水の玉で覆い、それから土へと挿した。

「るー」
「るー」
「るー」

 小さな枝の周りを、精霊たちは待ちわびるように舞い踊る。そして半月が経ち、

「ふんにゅーっ! ま、またしっかり埋まっていますね。ふんって、ふみゃああーっ?!」
「るー!」
「るー!」
「るー!」

 目覚めた小さな樹人は、がっつり幹まで埋められて身動きがとれないところを、精霊たちに襲われた。

「これが挿し木の運命なのでしょうか」

 幹や枝になだれ込んできた精霊たちの勢いに圧倒された小さな樹人は、がっくりと肩を落とす。
 くすくすと笑う声に顔を上げると、常磐緑の髪を垂らした少年が立っていた。新緑の瞳は悪戯っぽく笑っている。
 雪乃は硬直した。そして一気に紅葉していく。

「ふんみゃあああーっ?!」

 森の中に、大絶叫が響く。驚いた鳥が羽ばたいて木々の枝葉を揺らし、獣たちも目を丸くし耳を立てる。

「なんという変態! 埋まって逃げられない樹人に対して、この破廉恥な!」

 雪乃は視界を閉じつつも、必死に土から抜け出そうと枝をつっぱる。しかし彼女の心など土には通じず、一向に抜け出せそうにない。

「ふんにゅうーっ!」
「あはははは。本当、雪乃は面白いなー。ちゃんと隠してるじゃない?」

 少年――樹人の王は楽しそうに笑う。

「花びら一枚を腰に巻いたくらいで、良しとしないでください! ふんにゅーっ!」
「あははははは」

 真っ赤に紅葉しながら奮闘している雪乃の脇で、樹人の王は腹を抱えて身を曲げる。彼の背後には困惑の色を隠せないラスエルが立ち尽くしているのだが、視界を閉じている雪乃は気づかなかった。

 樹人の王が満足したところで、雪乃はラスエルによって引っこ抜かれた。ついでに言うと、樹人の王もちゃんと服を着せられた。
 ノムルの魔力が聖剣によって封じられたことで、エルフの森を囲っていた障壁も消滅していた。ラスエルはすぐに樹人の王たる大樹の下に駆けつけ、世話をしていたという。

「つまり私が目覚めるのに合わせて、わざわざあのような格好を?」
「うん!」

 とってもにこやかに頷かれてしまった。さすがは元マンドラゴラだと、雪乃は樹人の王に対する畏敬の念がすっかり消え失せた。
 額を押さえて俯いてしまう。

 くつろぐマンドラゴラたちに囲まれながら話していた雪乃の上に、影が差す。見上げると、大きな飛竜の腹が見えた。
 言わずもがな、ぴー助である。
 地面に降り立ったぴー助の背中からまず現れたのは、烏羽色の狩衣を着たカイだった。そして次に現れたのは、

「ユキノちゃん」

 やつれた姿の、ノムルだった。
 いつもの草色のローブも、つば広の帽子も身に付けていない。生成りのシャツに茶色いズボンという、町で見かける人たちよりも貧相な出で立ちをしていた。
 雪乃はノムルの下まで近づくと、細い小枝で彼のシャツを握った。

「ノムルさん、ご無事でよかったです。心配かけてしまって、ごめんなさい」
「ユキノちゃん……」

 ノムルはまぶたを強く瞑ると、少し上向いて気持ちを飲み込む。

「ユキノちゃん、俺がおとーさんでいいの?」
「ノムルさん以外に、私のおとーさんはいません」

 雪乃の声は震えていた。

「変態だよ?」
「……自分で言いますか?」

 一気に冷めた。

「それでも、私にとってはおとーさんです。もっと可愛い樹人もいるみたいですけど」

 すねるようにそっぽを向く雪乃を見たノムルは、気まずそうに頬を掻く。

「あの時は正気を失っていたんだよ。俺の娘は、ユキノちゃんだけだから」

 ノムルは雪乃を愛しそうに見つめる。膝を折って雪乃に目線をあわせると、彼女の幹に手を伸ばして優しく抱きしめた。
 いつもと違うその動きに、雪乃は驚き目を瞬く。けれど決して悪い気分ではない。むしろ心地よくて、雪乃はノムルの胸に自ら顔を埋めた。

「ずっと、いつ嫌われるのかと不安だった。でも、誰とも関わることさえ許されなかった俺から、逃げずに一緒にいてくれた。暗殺者として生きていたもう一人の俺も、おとーさんと呼んでくれた」

 強引に同行させられていた気もしなくもない雪乃だったが、それよりも気になる部分があった。
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