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真相編
422.もう一人のノムル
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「待ってください。暗殺者として生きていた、もう一人のノムルさんとは?」
確かにノムルは幼い頃、暗殺者として育てられていた。だが雪乃は当時のノムルを話でしか知らない。
ふわりと、ノムルは気恥ずかしそうに笑む。
「こっちに戻ってくる時に、会っただろう? 本物の聖女が契約を受け入れた世界の俺と」
雪乃はぱちぱちと視界を瞬く。
日本からこちらの世界に戻るための媒介として、『ルモン味』をプレイした。しかしあれはゲームの世界だ。たしかにゲームにしては登場人物の言動や、選択肢の自由度が幅広く、リアルと見間違えそうではあったが、ゲームのはずである。
「ユキノちゃんを連れ戻すための道を広げるために、こちら側からも介入したんだ」
本来の道である『無題』が消滅していたため、副産物として偶然できていた『ルモン味』を利用することになった。だがすでに本体が枯れてしまっているダルクには、単独で雪乃の魂を連れ戻す力は残っていなかった。
足りない力を補うために、『ルモン味』に登場するこちらの世界の者たちが協力し、道を広げたのだという。
雪乃が出会った者たちの他にも一部の騎士など、皇帝やアルフレッドからの信頼が厚い者たちも参加してくれたらしい。
眠りに就いた魂をダルクが運び、『ルモン味』の世界に一時的に移した。そうしてゲームの世界を体験して戻ってきた彼らには、夢を見ていたようにおぼろげな記憶が残っていたという。
蛇足になるが、雪乃にスルーされてしまったレオンハルト皇子は目覚めるなりどんよりと落ち込んでしまい、いったい何があったのかと周囲を心配させたとかなんとか。
「大勢の方にご迷惑を掛けてしまったのですね」
「違うよ」
萎れる雪乃に、ノムルははっきりと言った。顔を上げた雪乃を、真っ直ぐに見つめる。
「みんな、ユキノちゃんにもう一度会いたかったんだ。戻ってきてほしかったんだ。迷惑なんかじゃない。俺たちが望んだんだよ」
優しい茶色の瞳に映る樹人の子供。
雪乃はノムルのシャツを握り締めたまま、涙を流すことなく泣いた。帰ってきたのだと、心が震えた。
そのまま何も言えなくなり、ただ顔を擦り付けて泣きじゃくる雪乃を、ノムルは優しく撫で続けた。
気持ちが落ち着いた雪乃は、恥ずかしさで挙動不審となる。初期のロボットのように、ぎこちない動きでノムルから離れ、誰とも顔をあわせようとしない。緑の葉っぱは真っ赤に紅葉していた。
二人の邂逅が終わったと見て取ったカイが進みでる。
「雪乃、お帰り」
「ただいま、です」
気恥ずかしさを覚えながら、雪乃はカイに応える。微かな笑みを浮かべたカイだったが、すぐに気まずそうに視線を逸らした。
「すまない」
雪乃は幹を傾げる。何を謝られているのか、分からなかった。
「護れなかった」
きょとんっと瞬いた雪乃は、魔王となったノムルに、雪乃が制止を振り切って突入したことだと気付く。
「私が望んだことです。カイさんは何も悪くありません」
なんでもないことのように言う雪乃を、カイは悲しそうに見つめたが、すぐに目を伏せ拳を握り締めた。
「違う。俺は知っていた。雪乃が自分の身を顧みることなく行動することがあると。止めなければいけないと。それなのに、一人で行かせてしまった」
実際にはムダイもいたのだが、戦闘狂の危険地帯突入は数に入っていないようだ。
「失ったと思った。気が狂いそうだった。ノムル殿だけじゃない。俺も、雪乃を失うことは耐えられない」
細い枝を引き寄せ、カイは雪乃を抱きしめる。
温かい腕の中で、雪乃は動揺する。収まったはずの熱いものが込み上げていた。
「カイさん、ごめんなさい。ありがと、ございます」
声を震わせる雪乃を、カイはいつもよりきつく抱きしめ何度も頭を撫でる。少しして落ち着いた雪乃は、やっぱり恥ずかしそうに俯いている。
「そ、それで、お二人はどうしてここへ?」
気恥ずかさを隠すように、話題を変えた。
「ああ、『ムダイ』殿が雪乃が目覚めたと教えてくれたのだ」
「ムダイさんが……?」
顔を上げた雪乃は、ようやくもう一人に気付いて凝視した。人間離れした端整な顔立ちの男は、
「赤くありません」
緑色だった。正確には、光が当たると銀色にも見える青竹色の髪と深緑の瞳を持ち、白藤色の貫頭衣を着ていた。よく見れば、耳も長くなっているではないか。
魅了を振りまく柔和な笑顔もなく、冷たい印象を与える。機嫌が悪いのだろうかと思った雪乃だが、そういう気配はない。顔立ちは似ているが、別人のようだ。
「赤いムダイさんが黒いムダイさんになり、今度は緑色ですか。次は青か黄色……まさかのピンク?!」
じいっと見つめてくる雪乃に、緑ムダイのポーカーフェイスが崩れ、眉をひそめた。
「あなたが言っているのは、私ではなくエンのことだろう。彼は元の世界に帰した」
再び無表情になった緑ムダイをちらりと見やってから、カイは雪乃が燃えた後のことを語り出した。
雪乃が炭となってしまった後、その場は混乱した。
ノムルに宿っていた魔王の魔力は、雪乃のポシェットに入っていた聖剣が落ち出た際にノムルに触れたことによって封じることができたので、空は晴れ暴風も消えた。それでも彼自身が生まれ持っていた魔力は残っている。
慟哭し暴走を続けるノムルを、ムダイが押さえ込む。
一方でカイも自制を失っていた。雪乃だったものに駆け寄り、その名を叫び続けた。
「雪乃、雪乃ーっ!」
「落ち着くんだ、カイ君!」
ナルツとマグレーンに羽交い絞めにされながらも、カイは小さな樹人の名前を叫ぶことをやめない。
目的である魔王の暴走を止めたはしたが、そこに喜びはなかった。やりきれない悲壮感が漂う中、
「わー」
と、困ったように肩を竦めるマンドラゴラの声は、その場において異端だった。ぴょんことカイの肩から飛び降りると、雪乃だったはずのものに飛び乗った。
「マンドラゴラ? さすがに空気読もうよ」
マグレーンが呆気に取られて声を掛けるが、マーちゃんとスターベルまで駆け寄る。予想だにしないマンドラゴラたちの行動に、男たちの思考が停止し、視線が引き寄せられる。
「「わわわわ~」」
マンドラゴラの歌が、魔王の部屋に響いた。そして現れたのは、常磐緑の髪を垂らした美しい少年だった。
確かにノムルは幼い頃、暗殺者として育てられていた。だが雪乃は当時のノムルを話でしか知らない。
ふわりと、ノムルは気恥ずかしそうに笑む。
「こっちに戻ってくる時に、会っただろう? 本物の聖女が契約を受け入れた世界の俺と」
雪乃はぱちぱちと視界を瞬く。
日本からこちらの世界に戻るための媒介として、『ルモン味』をプレイした。しかしあれはゲームの世界だ。たしかにゲームにしては登場人物の言動や、選択肢の自由度が幅広く、リアルと見間違えそうではあったが、ゲームのはずである。
「ユキノちゃんを連れ戻すための道を広げるために、こちら側からも介入したんだ」
本来の道である『無題』が消滅していたため、副産物として偶然できていた『ルモン味』を利用することになった。だがすでに本体が枯れてしまっているダルクには、単独で雪乃の魂を連れ戻す力は残っていなかった。
足りない力を補うために、『ルモン味』に登場するこちらの世界の者たちが協力し、道を広げたのだという。
雪乃が出会った者たちの他にも一部の騎士など、皇帝やアルフレッドからの信頼が厚い者たちも参加してくれたらしい。
眠りに就いた魂をダルクが運び、『ルモン味』の世界に一時的に移した。そうしてゲームの世界を体験して戻ってきた彼らには、夢を見ていたようにおぼろげな記憶が残っていたという。
蛇足になるが、雪乃にスルーされてしまったレオンハルト皇子は目覚めるなりどんよりと落ち込んでしまい、いったい何があったのかと周囲を心配させたとかなんとか。
「大勢の方にご迷惑を掛けてしまったのですね」
「違うよ」
萎れる雪乃に、ノムルははっきりと言った。顔を上げた雪乃を、真っ直ぐに見つめる。
「みんな、ユキノちゃんにもう一度会いたかったんだ。戻ってきてほしかったんだ。迷惑なんかじゃない。俺たちが望んだんだよ」
優しい茶色の瞳に映る樹人の子供。
雪乃はノムルのシャツを握り締めたまま、涙を流すことなく泣いた。帰ってきたのだと、心が震えた。
そのまま何も言えなくなり、ただ顔を擦り付けて泣きじゃくる雪乃を、ノムルは優しく撫で続けた。
気持ちが落ち着いた雪乃は、恥ずかしさで挙動不審となる。初期のロボットのように、ぎこちない動きでノムルから離れ、誰とも顔をあわせようとしない。緑の葉っぱは真っ赤に紅葉していた。
二人の邂逅が終わったと見て取ったカイが進みでる。
「雪乃、お帰り」
「ただいま、です」
気恥ずかしさを覚えながら、雪乃はカイに応える。微かな笑みを浮かべたカイだったが、すぐに気まずそうに視線を逸らした。
「すまない」
雪乃は幹を傾げる。何を謝られているのか、分からなかった。
「護れなかった」
きょとんっと瞬いた雪乃は、魔王となったノムルに、雪乃が制止を振り切って突入したことだと気付く。
「私が望んだことです。カイさんは何も悪くありません」
なんでもないことのように言う雪乃を、カイは悲しそうに見つめたが、すぐに目を伏せ拳を握り締めた。
「違う。俺は知っていた。雪乃が自分の身を顧みることなく行動することがあると。止めなければいけないと。それなのに、一人で行かせてしまった」
実際にはムダイもいたのだが、戦闘狂の危険地帯突入は数に入っていないようだ。
「失ったと思った。気が狂いそうだった。ノムル殿だけじゃない。俺も、雪乃を失うことは耐えられない」
細い枝を引き寄せ、カイは雪乃を抱きしめる。
温かい腕の中で、雪乃は動揺する。収まったはずの熱いものが込み上げていた。
「カイさん、ごめんなさい。ありがと、ございます」
声を震わせる雪乃を、カイはいつもよりきつく抱きしめ何度も頭を撫でる。少しして落ち着いた雪乃は、やっぱり恥ずかしそうに俯いている。
「そ、それで、お二人はどうしてここへ?」
気恥ずかさを隠すように、話題を変えた。
「ああ、『ムダイ』殿が雪乃が目覚めたと教えてくれたのだ」
「ムダイさんが……?」
顔を上げた雪乃は、ようやくもう一人に気付いて凝視した。人間離れした端整な顔立ちの男は、
「赤くありません」
緑色だった。正確には、光が当たると銀色にも見える青竹色の髪と深緑の瞳を持ち、白藤色の貫頭衣を着ていた。よく見れば、耳も長くなっているではないか。
魅了を振りまく柔和な笑顔もなく、冷たい印象を与える。機嫌が悪いのだろうかと思った雪乃だが、そういう気配はない。顔立ちは似ているが、別人のようだ。
「赤いムダイさんが黒いムダイさんになり、今度は緑色ですか。次は青か黄色……まさかのピンク?!」
じいっと見つめてくる雪乃に、緑ムダイのポーカーフェイスが崩れ、眉をひそめた。
「あなたが言っているのは、私ではなくエンのことだろう。彼は元の世界に帰した」
再び無表情になった緑ムダイをちらりと見やってから、カイは雪乃が燃えた後のことを語り出した。
雪乃が炭となってしまった後、その場は混乱した。
ノムルに宿っていた魔王の魔力は、雪乃のポシェットに入っていた聖剣が落ち出た際にノムルに触れたことによって封じることができたので、空は晴れ暴風も消えた。それでも彼自身が生まれ持っていた魔力は残っている。
慟哭し暴走を続けるノムルを、ムダイが押さえ込む。
一方でカイも自制を失っていた。雪乃だったものに駆け寄り、その名を叫び続けた。
「雪乃、雪乃ーっ!」
「落ち着くんだ、カイ君!」
ナルツとマグレーンに羽交い絞めにされながらも、カイは小さな樹人の名前を叫ぶことをやめない。
目的である魔王の暴走を止めたはしたが、そこに喜びはなかった。やりきれない悲壮感が漂う中、
「わー」
と、困ったように肩を竦めるマンドラゴラの声は、その場において異端だった。ぴょんことカイの肩から飛び降りると、雪乃だったはずのものに飛び乗った。
「マンドラゴラ? さすがに空気読もうよ」
マグレーンが呆気に取られて声を掛けるが、マーちゃんとスターベルまで駆け寄る。予想だにしないマンドラゴラたちの行動に、男たちの思考が停止し、視線が引き寄せられる。
「「わわわわ~」」
マンドラゴラの歌が、魔王の部屋に響いた。そして現れたのは、常磐緑の髪を垂らした美しい少年だった。
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