『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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真相編

423.雪乃によく似た少年は

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 樹人の王として人型になった雪乃によく似た少年は、新緑の瞳で悪戯っぽく全員を見回した。

「大丈夫だよ。雪乃は元の世界に帰っただけだから」

 唐突に提示された内容に、男たちは顔をしかめ目配せしあう。

「どういう意味だい? そして君は誰?」

 冷静を保っていたナルツが、いち早く問うた。視線を向けた少年は、嬉しそうでいて、少し寂しそうに笑う。

「雪乃はね、僕が違う世界から連れてきたんだ。僕の運命と、この世界を救うために。そしてその願いを叶えて、元の世界に戻ってしまったんだ」

 少年の話す内容が理解できず、男たちは怪訝な気持ちに顔をゆがめる。敵かもしれないと、ナルツとマグレーンは警戒を強めた。
 少年の正体に目星を付けたカイの心情は、人間たちとは違う意味で混乱していた。
 なぜ彼がここに現れたのか、そして目の前の少年が想像通りの相手だとするならば、雪乃はいったい何者だったのか? 思考が駆け巡り錯綜する。
 そんな中、魔力の暴走を続けていたノムルが縋るように顔を上げた。

「生きて、いるのか? ユキノちゃんは無事な」
「戻れるんですか?! 僕も戻してください! お父さんに会わせてください!」

 ノムルの声を押しのけて、戦闘狂が少年に襲い掛かった。肩を掴まれ揺さぶられる少年は揺さぶられるに任せていたが、途中から笑い出す。

「あはははは。これ楽しいね!」
「わー!」
「わー!」

 紛れもなくマンドラゴラだと、男たちの胸にすとんっと何かが落っこちた。しかしカイは顔色を青くして止めに入る。

「お、落ち着くんだ、ムダイ殿!」
「落ち着いていられますか! もう六年もお父さんに遊んでもらっていないんですよ? 限界です! 早く帰してください!」

 いい年した男とは思えぬ台詞である。絶世の美青年が台無しだ。すでに色々と台無しになっていた気もしないでもないが、とりあえず置いておこう。
 しかし置いておこうにも、すでに人間なのかさえ怪しいムダイである。ナルツとマグレーンも参戦したが、単身で竜種を葬る男など、人に取り押さえられるものではない。
 
「はあ。仕方ないなー。起きろー!」

 マンドラゴラ少年の手がムダイの顔の前にかざされ、緑色の光を発する。その途端、ぴたりとムダイが止まった。じいっと少年を見つめていたかと思えば、驚愕したように目を見開き、慌てて手を離し跪く。

「も、申し訳ありません、母君。如何様にも罰してください」
「いやいや、君のおかーさん、どんな鬼婆だったのさ? 別に怒ってないって。あと僕、一応男だから」

 ひらひらと手を振る少年に、ムダイは身を縮こまらせて小さくなる。
 男たちはムダイを凝視し、それから少年を見、再びムダイに戻して眉をひそめた。以前から意味の分からない言動が散見した男だが、今回もまた理解を超えている。

「調度いいや。君が説明してよ。僕、こういうの苦手だからさ」
「はっ、仰せのままに。して、何を説明すればよろしいのでしょうか?」
「……。」

 やっぱりムダイは残念な人なのかもしれないと、男たちは改めて思ったとかなんとか。
 そんなこんなのやり取りの後、雪乃たちがどこから来たのか、なぜ異世界から呼び寄せたのかという説明が始まった。

 ことの始まりは、数代前の樹人の王が誕生する際に、異世界で出会った人間を連れてきてしまったことにあるという。
 樹人の王はその人間と共に世界を旅し、友情を深め、成木となった時に彼に祝福を与えた。この世界に同族が一人もいない彼が寂しくないように、彼の血を継ぐ者たちは人間として生まれるようにと。
 それが過ちだった。

 人間の男は複数の女と繁殖に及んだ。それは種族を問わず、獣人や竜人、人魚、果てはエルフにまで手を出し、複数の女性を身ごもらせる。

 これに怒りを訴えたのが狼獣人たちだ。
 生涯を一人の伴侶と共に生きる狼獣人にとって、契りを結びながら他の女に手を出す人間は理解できず、行いを改めるように抗議した。しかし人間は狼獣人たちの言葉を聞き入れず、苛立ちを己の子を孕んだ狼獣人の娘に向けるようになる。
 狼獣人たちは憤るが樹人の王から祝福を受けている者に対して、制裁を加えるわけにもいかない。
 ついに狼獣人たちは、その代の樹人の王を見限り東の果てに移り住む。

 それから間もなくして、今度は竜人たちが怒りを訴えた。
 子供を深く慈しむ彼らは、子を作っておきながら顧みない人間を詰った。そのことに怒った人間は、自分の血を継ぐ子の顔を見にくることさえなくなった。竜人たちもまた人間を見限り、狼獣人の後を追って東へと向かう。
 二つの種族に生まれた人間の子は愛情を持って育てられたが、子を成すことは許されなかった。

 更に歳月が経ち、大陸には人間が溢れるようになった。そうなると人間たちは、土地や富、地位を手に入れるため争うようになる。
 平和だった世界は戦乱の世となった。

「母君は嘆いておられた。自分が人間を連れてきたために、祝福を与えたために、平和だったはずのこの世界は壊れてしまったと」

 しかし樹人の王の苦悩は、それだけでは終わらなかった。

 千年の時が流れ、新たな樹人の王となるべき御子が生まれるころ、新たな樹人の王の力を手に入れんと人間たちの争いはさらに悪化していく。巻き込まれた樹人の御子は、成木となる前に命を落としてしまった。
 樹人の御子を手に入れることができなかった人間たちは、樹人たちを逆恨みし、虐殺し始める。

 さすがに精霊たちも憤った。精霊たちは自我の弱い獣や鳥などに宿ると、樹人たちを守り、人間たちを攻撃し始める。世界は更に混沌としていく。
 嘆く樹人の王を断罪するかのように、王が枯れ落ちる際に見せられた未来は、この世界が人間によって滅ぼされる姿だった。
 樹人の王は最後の力を振り絞り、人間と出会った異世界への介入を試みる。自分の犯した罪の責任を取るために。

 人間が住んでいた世界にこの世界を模した世界を生み出し、精霊を宿らせる。そこで世界を変える力を持つ者を探し出すようにと命じて、樹人の王は命を終えた。
 精霊はその世界で、人間離れした力を持ち多くの人間たちを引きつけてやまない、魅了の才能を持つ人間を見つけ出す。
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