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真相編
424.確かにそのとおりだと
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続いて精霊は、樹人の王が残した異世界に繋がる細い糸に魔力を注ぎ、別の時代の枯れ落ちようとしている樹人の王を引き寄せた。そして引き寄せられた樹人の王によって開かれた時空を渡る道を使い、人間の魂をこの世界に連れ帰ることに成功する。
精霊は本来ならば彼が得るはずだった肉体に、持ち帰った魂ごと宿った。
樹人の王が精霊たちに与える肉体は、魂の姿を反映する。持ち帰った魂が宿った肉体は、精霊の予想通り人間の魂の影響を受け、エルフではなく人間の体となった。
「馬鹿なの?」
無表情で聞いていたノムルが、ぽつりと言った。
「なんで人間を連れ帰ったことで問題が起きたのに、更に人間を引き入れるのさ? そもそもそれ、すでにいる人間に祝福を与えれば済む話だろ?」
確かにそのとおりだと、男たちは同意して精霊に問うような眼差しを向ける。
「エルフは樹人の王が命じれば逆らえない。樹人の王が人間以外を気に入れば、母君の願いを叶えることはできない可能性が高くなる。確実に人間への祝福を望むなら、私自ら人間となり幼木の時に深く関わって信頼を得る必要があった」
つまり人間に祝福を与えるためには、非力な樹人の御子に、人間と行動を共にさせる必要があるということになる。しかし樹人の御子を手に入れるために争い、果ては御子を弑した人間を信用することなど、樹人の王にも精霊たちにもできなかった。
だからこの世界にいる人間ではなく、最初の人間と同じ世界に住む人間を連れてこようとした。最初の人間と同じように、樹人の御子と友になってくれると信じて。
「それに世界を滅ぼす切欠となる人間は、恐ろしいほどの魔力を持っていた。しかもその時代に生きていた樹人の王まで味方につけ、対抗できる者は存在しなかったのだ。だが強い人間の魂にエルフの強靭な肉体を与えて、新たな人間を作れば対抗できる可能性があった。少なくとも次の樹人の王が成木となるまで護れる力は持っていた」
ムダイがノムルに勝てたことは一度もないが、確かにノムルとまともにやりあえる唯一の人間だったと男たちは納得する。しかし続いた言葉に、全員の顔がしかめられた。
「そうして当代の樹人の王が成木となった暁には、この体に祝福を頂くつもりだった。我が母君が人間に与えた祝福と相反する祝福。この体の血を継ぐものは全て、人間以外の存在となるように」
生まれてくる子供が全て人間になる祝福を与えたために、他の種族は激減し、人間が増加して問題になった。だから逆の力を与えれば良い、というところまでは理解できる。だがそれにしても、
「それって、生まれてきた子と母親になる人は大変なんじゃ?」
マグレーンがぽつりと呟いた。
人間以外の種族に対する偏見や差別は大きい。そこに獣人の子供が生まれてきたら、人間たちはどうするだろうか?
中には愛情を持って育てる母親もいるかもしれないが、そうとばかりは限らないだろう。
そもそも片親が子供と同じ種族であればまだしも、人間同士の間に生まれた子供が他種族であれば、浮気も疑われてしまう。
「しかしこの人間には、大きな問題があった」
今度は何だ? と男たちは頭痛を覚えながら精霊に意識を向ける。正直あまり聞きたくない気がしていたが。
「かつて母君が連れてきた人間は、見目の良い女を見つけると種族構わず発情し、交配を望んだ。しかしこの人間は、女に興味がない。これでは計画が破綻してしまう」
全員がまぶたを落として顔を逸らした。
「まさかとは思っていたけど、そうだったんだ」
「もてているのに女性と付き合っているって話は、一切聞きませんでしたからね」
「ちょっと待て。俺、もしもあいつに負けてたら、どうなってたんだ?」
呻くように呟いたナルツとマグレーンだったが、ノムルの言葉に思わず気の毒そうな顔を向け、そっと視線を逸らした。想像したくないという思いが、ありありと彼らの表情を彩っている。
「どちらにしろ、生まれてくる子供が人間以外であれば一代限りだろう。人間以外と契りを結ぼうとする人間は、まずいない」
カイのもっともなツッコミに、その場の空気が固まった。あまりにずさんな計画である。祝福の無駄遣いと言ってもいいだろう。
じとりと蔑むような目を向けられても、精霊の話は止まらない。
「さらには我が意に従わず、樹人の王を探し護るのではなく、そこの人間に執着をし始めた。結果として樹人の王のお側に仕えるようになったが、あまり役には立たなかった」
ノムルの顔が言いようのないほどに崩れていき、生気が抜け落ちる。
役立たずの判を押されたムダイに対し、人間たちの心に同情の気持ちは生まれなかった。むしろ精霊に憐憫を含んだ眼差しを向ける。精霊も似たようなポンコツなのではないだろうかと、小首を傾げながら。
そんな冷たい視線にも負けず、精霊は話を続ける。
「だが予定外のことは他にもあった。私が母君からお聞きした世界を滅ぼすという人間は、赤だった」
お前じゃないか! というツッコミを入れそうになった男たちだったが、ぐっと飲み込んだ。頭の天辺から足の先まで赤尽くしのムダイである。
しかし精霊が示す人物が誰なのか、ノムルを除く三人は気付いている。だからこそ、何も言えなかった。
「そうなの? 僕が見た未来だと、その人間が世界を滅ぼしかけていたよ?」
重く微妙な空気になっていようが何のその、マンドラゴラ少年は平気で口を挟む。指差されているのは、ノムルだった。
「どういうことだ?」
男たちは顎に手を当てて考えるが、答えは分からない。
「とりあえず、この気味の悪いものを壊しちゃおっか? 中の気持ち悪いのは、今ならそんなに影響ないだろう?」
指差されているのは、悪意を溜めていた赤玉。溜まった悪意が一度に解放されると人心が侵され、戦乱を引き起こすという話だったが、今は底の方にわずかに残るだけだ。
「でも壊すと、人間の悪意がそのままになるんだよね? 昔はそれで争いが絶えなかったって」
マグレーンは腰が引き気味だが、カイとナルツは進み出た。
「誰か一人に押し付けなければ生き延びられない種族ならば、滅びれば良い」
「俺は人間を信じるよ。こんな物がなくても、平和を守ってみせる」
腰の刀を抜いたカイが、赤玉の前に立つ。ナルツもまた、剣を抜いて立った。二人の刃が赤玉を突き刺し、赤いガラス片が散った。
砕かれたガラス片は赤い煙となり、人らしき形へと姿を変えていく。男たちに緊張が走る。
精霊は本来ならば彼が得るはずだった肉体に、持ち帰った魂ごと宿った。
樹人の王が精霊たちに与える肉体は、魂の姿を反映する。持ち帰った魂が宿った肉体は、精霊の予想通り人間の魂の影響を受け、エルフではなく人間の体となった。
「馬鹿なの?」
無表情で聞いていたノムルが、ぽつりと言った。
「なんで人間を連れ帰ったことで問題が起きたのに、更に人間を引き入れるのさ? そもそもそれ、すでにいる人間に祝福を与えれば済む話だろ?」
確かにそのとおりだと、男たちは同意して精霊に問うような眼差しを向ける。
「エルフは樹人の王が命じれば逆らえない。樹人の王が人間以外を気に入れば、母君の願いを叶えることはできない可能性が高くなる。確実に人間への祝福を望むなら、私自ら人間となり幼木の時に深く関わって信頼を得る必要があった」
つまり人間に祝福を与えるためには、非力な樹人の御子に、人間と行動を共にさせる必要があるということになる。しかし樹人の御子を手に入れるために争い、果ては御子を弑した人間を信用することなど、樹人の王にも精霊たちにもできなかった。
だからこの世界にいる人間ではなく、最初の人間と同じ世界に住む人間を連れてこようとした。最初の人間と同じように、樹人の御子と友になってくれると信じて。
「それに世界を滅ぼす切欠となる人間は、恐ろしいほどの魔力を持っていた。しかもその時代に生きていた樹人の王まで味方につけ、対抗できる者は存在しなかったのだ。だが強い人間の魂にエルフの強靭な肉体を与えて、新たな人間を作れば対抗できる可能性があった。少なくとも次の樹人の王が成木となるまで護れる力は持っていた」
ムダイがノムルに勝てたことは一度もないが、確かにノムルとまともにやりあえる唯一の人間だったと男たちは納得する。しかし続いた言葉に、全員の顔がしかめられた。
「そうして当代の樹人の王が成木となった暁には、この体に祝福を頂くつもりだった。我が母君が人間に与えた祝福と相反する祝福。この体の血を継ぐものは全て、人間以外の存在となるように」
生まれてくる子供が全て人間になる祝福を与えたために、他の種族は激減し、人間が増加して問題になった。だから逆の力を与えれば良い、というところまでは理解できる。だがそれにしても、
「それって、生まれてきた子と母親になる人は大変なんじゃ?」
マグレーンがぽつりと呟いた。
人間以外の種族に対する偏見や差別は大きい。そこに獣人の子供が生まれてきたら、人間たちはどうするだろうか?
中には愛情を持って育てる母親もいるかもしれないが、そうとばかりは限らないだろう。
そもそも片親が子供と同じ種族であればまだしも、人間同士の間に生まれた子供が他種族であれば、浮気も疑われてしまう。
「しかしこの人間には、大きな問題があった」
今度は何だ? と男たちは頭痛を覚えながら精霊に意識を向ける。正直あまり聞きたくない気がしていたが。
「かつて母君が連れてきた人間は、見目の良い女を見つけると種族構わず発情し、交配を望んだ。しかしこの人間は、女に興味がない。これでは計画が破綻してしまう」
全員がまぶたを落として顔を逸らした。
「まさかとは思っていたけど、そうだったんだ」
「もてているのに女性と付き合っているって話は、一切聞きませんでしたからね」
「ちょっと待て。俺、もしもあいつに負けてたら、どうなってたんだ?」
呻くように呟いたナルツとマグレーンだったが、ノムルの言葉に思わず気の毒そうな顔を向け、そっと視線を逸らした。想像したくないという思いが、ありありと彼らの表情を彩っている。
「どちらにしろ、生まれてくる子供が人間以外であれば一代限りだろう。人間以外と契りを結ぼうとする人間は、まずいない」
カイのもっともなツッコミに、その場の空気が固まった。あまりにずさんな計画である。祝福の無駄遣いと言ってもいいだろう。
じとりと蔑むような目を向けられても、精霊の話は止まらない。
「さらには我が意に従わず、樹人の王を探し護るのではなく、そこの人間に執着をし始めた。結果として樹人の王のお側に仕えるようになったが、あまり役には立たなかった」
ノムルの顔が言いようのないほどに崩れていき、生気が抜け落ちる。
役立たずの判を押されたムダイに対し、人間たちの心に同情の気持ちは生まれなかった。むしろ精霊に憐憫を含んだ眼差しを向ける。精霊も似たようなポンコツなのではないだろうかと、小首を傾げながら。
そんな冷たい視線にも負けず、精霊は話を続ける。
「だが予定外のことは他にもあった。私が母君からお聞きした世界を滅ぼすという人間は、赤だった」
お前じゃないか! というツッコミを入れそうになった男たちだったが、ぐっと飲み込んだ。頭の天辺から足の先まで赤尽くしのムダイである。
しかし精霊が示す人物が誰なのか、ノムルを除く三人は気付いている。だからこそ、何も言えなかった。
「そうなの? 僕が見た未来だと、その人間が世界を滅ぼしかけていたよ?」
重く微妙な空気になっていようが何のその、マンドラゴラ少年は平気で口を挟む。指差されているのは、ノムルだった。
「どういうことだ?」
男たちは顎に手を当てて考えるが、答えは分からない。
「とりあえず、この気味の悪いものを壊しちゃおっか? 中の気持ち悪いのは、今ならそんなに影響ないだろう?」
指差されているのは、悪意を溜めていた赤玉。溜まった悪意が一度に解放されると人心が侵され、戦乱を引き起こすという話だったが、今は底の方にわずかに残るだけだ。
「でも壊すと、人間の悪意がそのままになるんだよね? 昔はそれで争いが絶えなかったって」
マグレーンは腰が引き気味だが、カイとナルツは進み出た。
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「俺は人間を信じるよ。こんな物がなくても、平和を守ってみせる」
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