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12.冒険者や兵士たちが見守る中

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 冒険者や兵士たちが見守る中、魔線虫に乗っ取られていた人間の口から、ずるりと白く長い生き物が姿を現した。魔線虫の本体だ。
 その光景を優しく表現するならば、超極太の手延べうどんを啜る様子が、逆再生されていると書けばいいだろうか。 一本だけで数メートルほどある、超ロングな手延べうどんであるが。ついでに、うごうごと動いているけれど。

「魔線虫が出てきた!?」

 乗っ取りに成功した魔線虫は、宿主が命尽きるまで外に出てくることはないというのが、人間たちの常識である。それが覆されたのだ。誰もが驚愕に目を瞠り、繰り広げられる光景を凝視してしまう。
 全てを吐き出し終えたらしき宿主の人間は、その場に倒れた。指先が救いを求めるように微かだが動いているので、生きているのは確かだ。
 一方、外に出た魔線虫たちは、いったん退却とばかりに、物陰へ隠れようと動き出す。夜を待って、眠った人間を襲うつもりだろう。
 中には隙だらけとなっている人間たちに襲いかかろうとする、元気な魔線虫もいるけれど。

「逃がすな! 残さず討伐しろ!」

 一匹でも取り逃がせば、サゾンにいる人間全員が標的になってしまう。場合によっては町を封鎖しなければならない。
 逃げる魔線虫を追いかけようと足を踏み出す者もいれば、返り討ちにするため武器を構える者もいた。しかしその全てが、無駄な行動となる。
 刹那の間に魔線虫は燃え上がり、灰となって消えたのだ。その炎を生みだしたのは、ノムルだった。
 一匹残らず燃え尽きたのを確認して、元凶から視線を切った彼は、周囲を一瞥して目を瞬く。彼の視線の先には、件の幼女の姿があった。

「大丈夫ですよ。大丈夫ですからね! しっかりしてください!」

 横道に隠れていたはずの幼女は、なぜか怪我人の手当てに精を出していた。

 怪我人を介抱する幼女の姿は、この場では異様過ぎる。いや、ここでなくても異様だろう。戦いの場に混じっているいることも、怪我人を介抱する姿も、どちらも幼女には似つかわしくない。
 魔線虫の宿主になっていた人間の様子を確かめるため、警戒しながら近付いていく者。まだ手当てされていない怪我人の対応に向かう者。どこかに何かを報せに走る者。
 そういった忙しく立ち働く者たちを除いた視線が、幼女に注がれていた。

 しかしノムルが驚愕したのは、幼女の存在自体ではない。もちろん彼女が表通りに出てきていることにも驚いているが、それ以上に、彼女が使っている薬に意識を奪われた。
 露出させた傷口に、彼女が丸い葉を宛がうと、驚く速度で傷が癒えていく。高位の治癒魔法使いに匹敵する回復速度だが、彼女が治癒魔法を使っている気配はなかった。
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