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13.この世界の治癒魔法と薬は

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 この世界の治癒魔法と薬は、用途に応じて使い分けられている。
 治癒魔法は病気の治療には適さないが、深い傷も短時間で治すことができた。それこそ高位の治癒魔法使いなら、腕の切り傷程度は一分もかからないし、内臓まで達する傷だって修復可能だ。
 逆に薬は、怪我の手当てよりも病気の治療に用いられる。軽い怪我や、治癒魔法使いに掛かれない場合は用いることもあるが、治癒魔法程はっきりした効果はない。
 例外として、貴重な薬草や魔物の素材を用いた、治癒魔法に匹敵する回復薬も存在する。けれど入手が困難な上に高額で取り引きされているため、治癒魔法を使うほうが手っ取り早いし安上がりだ。

 それらを考慮すると、幼女が用いている薬は、明らかに異様な効能を保有していた。魔線虫を吐き出させる知識を含め、彼女に対するノムルの期待は、自然と上がる。
 なんとしても彼女の信頼を得て、知識を手に入れなければと、怪我人の治療に勤しむ幼女を見つめるノムルの瞳に、熱が宿っていく。

 ノムルが期待を膨らませている間に、理解が追い付かない冒険者や兵士たちの中から、一人の男が動き出した。
 腹部のシャツが裂けて血まみれになっているのに、顔には苦痛ではなく笑顔を浮かべている、変質者と誤解されても文句は言えないだろう見た目の男だ。
 せっせと怪我人の治療にいそしむ幼女に近付くと、ためらいもなく声を掛ける。

「お前が手当てをしてくれたのか? 助かったよ。もう駄目だと思ってたのに、凄い薬だな。それとも治癒魔法か? どちらにせよ、貴重なものだろう? あまり手持ちはないが礼をしたい」
「いえ、お気になさらないでください。御無事で何よりです」

 幼女は目の前に横たわっている怪我人の手当てに夢中らしく、上の空で返した。元気な人間の相手をするよりも、怪我人の手当てのほうが優先されるのは、災害現場では当然のことだ。
 とはいえ幼い少女が塩対応する様子は、声を掛けた男の未熟さを際立たせ、なんとも言い難い、酸っぱい気持ちを周囲に与えた。手伝えないなら邪魔をするなと、無言の圧力を視線に乗せる。
 そんな周囲の心情に気付かない男は、話しかけるのをやめない。

「そういうわけにはいかないだろう? お前は幼いから分からないのかもしれないけど、俺が受けた治療は、神殿でも最上級に相当するものだ。無償というわけにはいかない。親はどこだ? 礼をしなければ」

 辺りをきょろきょろと見回す男の動きを見て、周囲にいた人間たちも、そう言えば彼女の保護者はどこだろうかと、首を動かす。
 一方、男に指摘された幼女は体を強張らせ、手を止めた。彼女の手元が微かに震え始めたのを、ノムルは見逃さなかった。

「お、お気になさらないでください」

 それまでの空対応と違い、怯えを含んだ焦った声が、彼女の動揺を顕著にしている。
 やはり親はいないのかと、ここまで彼女を見てきたノムルは容易く答えを導き出したが、ではなぜいないのか、という問題には答えあぐねた。
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