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25.ノムルの口から
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ノムルの口から一音出るたびに、金色の文字が空中に綴られていく。最後の一文字まで書き終わると、金色の文字はノムルの左手首に巻き付いた。
「さ、これで俺は契約で縛られた。俺は君の正体を人に告げることも、君と君の同族に危害を加えることもできない。君を同族の下へ連れていくか、君が契約の解消を望まない限り、この魔法が解けることはない」
ノムルはローブの袖をまくると、小さな文字が刻まれた手首をユキノに見えるよう差し出す。
「あの、私には?」
金色の文字が刻まれたのはノムルだけで、ユキノには刻まれていない。なぜならノムルはユキノに対して、一つも制約を掛けなかったから。
「必要ないでしょ? 君が逃げようとしたところで、俺から逃げられるなんてありえないし。それに、子供に契約紋を刻むとか、悪趣味だからねー」
「ソウデスネ」
ぎこちない返事をしたユキノは、何かを察したらしい。けれど、もう遅い。彼女は満足気にへらりと笑う魔法使いから、逃げることはできないだろう。
とはいえ身の安全は確保できたと前向きに捉え直したのか、ユキノはノムルにお辞儀する。
「色々とご迷惑をおかけするかと思いますが、これからよろしくお願いします」
「堅苦しいのはなしでいいよー? 俺、そういうの苦手だからさ。……ああ、聞き忘れるところだった。魔線虫にヘカの仁が効くって話なんだけど、魔法ギルドと冒険者ギルドに報告してもいいかな?」
「構いませんけれど、知られていないことなのですか?」
小首を傾げる少女に、ノムルは苦笑した。
「知られていないねー。検証して確認が取れれば報奨金も出ると思うんだけど」
「おお! それはありがたいです。実はお金を持っていないのです」
「ただし、検証に時間が掛かるから、ユキノちゃんの身許を証明する必要が出てくると思うんだよね? あと、人間たちから注目を浴びちゃうかも」
「それは困ります」
高揚していたユキノの声に、警戒が混じる。正体を知られたくないのだから、当然だろう。ノムルは分かっているとばかりに大仰に頷く。
「だから俺の名前で連絡しておいて、報奨金が支払われたらユキノちゃんに渡すっていうのでどうかな?」
「助かります。お手数をおかけしますが、ぜひお願いします」
ぺこりと頭を下げるユキノを見て、この子は一人にしたら確実に騙されるなと、ノムルは思うのだった。
とはいえ、今はノムルがいるのだから問題ない。扱いやすい点に関して文句を言うつもりもない。
「じゃあ、ギルドに連絡しておくね」
「はい」
ユキノの了承を取ったノムルは、魔法空間からペンと便箋を取り出すと、手早く二通の手紙を認める。鳥の形に折って杖の柄を当てると、紙の鳥は羽毛の生えた小鳥に姿を変えた。
「おお! 鳥さんです!」
はしゃぐユキノの周りを数度旋回してから、小鳥は壁に向かって飛んでいく。するりと壁に溶け込み、姿を消した。
「さ、これで俺は契約で縛られた。俺は君の正体を人に告げることも、君と君の同族に危害を加えることもできない。君を同族の下へ連れていくか、君が契約の解消を望まない限り、この魔法が解けることはない」
ノムルはローブの袖をまくると、小さな文字が刻まれた手首をユキノに見えるよう差し出す。
「あの、私には?」
金色の文字が刻まれたのはノムルだけで、ユキノには刻まれていない。なぜならノムルはユキノに対して、一つも制約を掛けなかったから。
「必要ないでしょ? 君が逃げようとしたところで、俺から逃げられるなんてありえないし。それに、子供に契約紋を刻むとか、悪趣味だからねー」
「ソウデスネ」
ぎこちない返事をしたユキノは、何かを察したらしい。けれど、もう遅い。彼女は満足気にへらりと笑う魔法使いから、逃げることはできないだろう。
とはいえ身の安全は確保できたと前向きに捉え直したのか、ユキノはノムルにお辞儀する。
「色々とご迷惑をおかけするかと思いますが、これからよろしくお願いします」
「堅苦しいのはなしでいいよー? 俺、そういうの苦手だからさ。……ああ、聞き忘れるところだった。魔線虫にヘカの仁が効くって話なんだけど、魔法ギルドと冒険者ギルドに報告してもいいかな?」
「構いませんけれど、知られていないことなのですか?」
小首を傾げる少女に、ノムルは苦笑した。
「知られていないねー。検証して確認が取れれば報奨金も出ると思うんだけど」
「おお! それはありがたいです。実はお金を持っていないのです」
「ただし、検証に時間が掛かるから、ユキノちゃんの身許を証明する必要が出てくると思うんだよね? あと、人間たちから注目を浴びちゃうかも」
「それは困ります」
高揚していたユキノの声に、警戒が混じる。正体を知られたくないのだから、当然だろう。ノムルは分かっているとばかりに大仰に頷く。
「だから俺の名前で連絡しておいて、報奨金が支払われたらユキノちゃんに渡すっていうのでどうかな?」
「助かります。お手数をおかけしますが、ぜひお願いします」
ぺこりと頭を下げるユキノを見て、この子は一人にしたら確実に騙されるなと、ノムルは思うのだった。
とはいえ、今はノムルがいるのだから問題ない。扱いやすい点に関して文句を言うつもりもない。
「じゃあ、ギルドに連絡しておくね」
「はい」
ユキノの了承を取ったノムルは、魔法空間からペンと便箋を取り出すと、手早く二通の手紙を認める。鳥の形に折って杖の柄を当てると、紙の鳥は羽毛の生えた小鳥に姿を変えた。
「おお! 鳥さんです!」
はしゃぐユキノの周りを数度旋回してから、小鳥は壁に向かって飛んでいく。するりと壁に溶け込み、姿を消した。
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