上 下
25 / 110

25.ノムルの口から

しおりを挟む
 ノムルの口から一音出るたびに、金色の文字が空中に綴られていく。最後の一文字まで書き終わると、金色の文字はノムルの左手首に巻き付いた。

「さ、これで俺は契約で縛られた。俺は君の正体を人に告げることも、君と君の同族に危害を加えることもできない。君を同族の下へ連れていくか、君が契約の解消を望まない限り、この魔法が解けることはない」

 ノムルはローブの袖をまくると、小さな文字が刻まれた手首をユキノに見えるよう差し出す。

「あの、私には?」

 金色の文字が刻まれたのはノムルだけで、ユキノには刻まれていない。なぜならノムルはユキノに対して、一つも制約を掛けなかったから。

「必要ないでしょ? 君が逃げようとしたところで、俺から逃げられるなんてありえないし。それに、子供に契約紋を刻むとか、悪趣味だからねー」
「ソウデスネ」

 ぎこちない返事をしたユキノは、何かを察したらしい。けれど、もう遅い。彼女は満足気にへらりと笑う魔法使いから、逃げることはできないだろう。
 とはいえ身の安全は確保できたと前向きに捉え直したのか、ユキノはノムルにお辞儀する。

「色々とご迷惑をおかけするかと思いますが、これからよろしくお願いします」
「堅苦しいのはなしでいいよー? 俺、そういうの苦手だからさ。……ああ、聞き忘れるところだった。魔線虫にヘカの仁が効くって話なんだけど、魔法ギルドと冒険者ギルドに報告してもいいかな?」
「構いませんけれど、知られていないことなのですか?」

 小首を傾げる少女に、ノムルは苦笑した。

「知られていないねー。検証して確認が取れれば報奨金も出ると思うんだけど」
「おお! それはありがたいです。実はお金を持っていないのです」
「ただし、検証に時間が掛かるから、ユキノちゃんの身許を証明する必要が出てくると思うんだよね? あと、人間たちから注目を浴びちゃうかも」
「それは困ります」

 高揚していたユキノの声に、警戒が混じる。正体を知られたくないのだから、当然だろう。ノムルは分かっているとばかりに大仰に頷く。

「だから俺の名前で連絡しておいて、報奨金が支払われたらユキノちゃんに渡すっていうのでどうかな?」
「助かります。お手数をおかけしますが、ぜひお願いします」

 ぺこりと頭を下げるユキノを見て、この子は一人にしたら確実に騙されるなと、ノムルは思うのだった。
 とはいえ、今はノムルがいるのだから問題ない。扱いやすい点に関して文句を言うつもりもない。

「じゃあ、ギルドに連絡しておくね」
「はい」

 ユキノの了承を取ったノムルは、魔法空間からペンと便箋を取り出すと、手早く二通の手紙を認める。鳥の形に折って杖の柄を当てると、紙の鳥は羽毛の生えた小鳥に姿を変えた。

「おお! 鳥さんです!」

 はしゃぐユキノの周りを数度旋回してから、小鳥は壁に向かって飛んでいく。するりと壁に溶け込み、姿を消した。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

私の主治医さん - 二人と一匹物語 -

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:681pt お気に入り:503

孤独なまま異世界転生したら過保護な兄ができた話

BL / 連載中 24h.ポイント:60,992pt お気に入り:3,770

夢見の館

ホラー / 完結 24h.ポイント:1,107pt お気に入り:1

【R18】私の担当は、永遠にリア恋です!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:319pt お気に入り:376

スパイだけが謎解きを知っている

ミステリー / 完結 24h.ポイント:383pt お気に入り:3

婚約者の義妹に結婚を大反対されています

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:55,459pt お気に入り:4,998

処理中です...