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100.文字というものは

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 文字というものは、ある程度の共通性を持つ。しかしカードに掛かれている文字は統一性がなく、複数の文明で使われた文字を組み合わせているみたいだ。
 もしや文字ではないのだろうかとノムルが考え込んでいると、ユキノが動いた。

「多すぎます!」

 怒りながら、ぺしりとカードを地面に叩きつけたのだ。
 ノムルは驚きユキノを見つめる。彼女の言葉は、カードに書かれた文章に対する反応だろう。それは彼女がカードに掛かれていた文字を読み解いたという意味に繋がる。
 薬草だけでなく、その他の分野についても、彼女は人間以上に精通しているのだろうか?

 ――違う。そうじゃない。

 浮かんだ疑問は記憶を辿ることで自己解決する。
 以前、食事処でメニューを取った彼女は、そこに書かれた文字を読むことができなかった。
 その時は、他の人の真似をしたのだろうと考えたノムルだったけれど、本当は読もうとしていたのだ。けれど彼女は、人間が使う文字は・・・・・・・・読めなかった。
 そこから導き出されるカードの意味に、ノムルは戦慄する。

 考えている間に、カードは煙と共に消えていた。どうやらユキノの手から離れるか、衝撃を受けると消えるように魔術式が組み込まれていたらしい。
 しかしそんなことは些事だ。ノムルは確かめるために問う。

「えーっと、それで、カードには何て書いてあったの?」
「え? ノムルさんも、読みましたよね?」

 不思議そうに、彼女はぽてりと幹を傾げた。
 ノムルは苦笑してしまう。どうやらユキノは、読めて当たり前と考えているらしい。
 人は自分ができることは、他者も出来て当然だと思い込みやすい。
 魔法使いばかりの中で育った子供は、非魔法使いに出会った際、魔法を使えないことに驚く。非魔法使い同士でも、計算のできない人間がいれば、走れない子供がいれば、驚くように。

「見たけど、知らない文字だったからね。魔物の文字かな?」
「え?」

 お互いに見つめ合う。

「そんなもの、ですかね?」

 ためらいがちではあるが肯定されて、ノムルは胸や頭の中を掻き毟られる気分だった。

「魔物には、独自の文字文化も存在したのか。うわあ、更なる大発見。ユキノちゃんと一緒にいるだけで、世紀の発見の連続だよー」

 どうにかして衝動を抑えようと、ノムルは空を見上げた。
 魔物たちは言語まで操る知能を持っていたのだ。さすがに全ての魔物がとは思いたくないけれど、知能が高いと言われている種族などは、ユキノ同様に文字を操れる可能性が高いだろう。
 ノムルは大きく溜め息を吐きたいのをぐっと堪える。
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