炎の魔獣召喚士

平岡春太

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第三章 氷の国

 第十一話 揺るぎない決意

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 フラムはアインベルクに連れられて、森の中を歩いていた。

「本当にいいんですか、シャルロアを連れて行かせて?」
「いいんですよ。申したでしょう、私は結婚には反対だと。シャルロア自身も断固拒否するでしょうし。あんな不細工な王子など、元々シャルロアには不釣り合いなのよ。あの頑固オヤジ」
「頑固オヤジね。どうやらシャルロアが面食いなのは、アインベルク様の血を継いでるのね」
「でヤンス」

 パルも頭を撫でながら同意する。
 少しして、アルファンド城よりはかなり小さいものの、城と見紛う程の大きな建物が見えて来た。

「さあ、着きましたよ」
「これが別荘!?」
「凄いでヤンス……」

 通された部屋も、何人が座れるのかと言う長いテーブルが置かれた大広間だ。
 フラムとアインベルクが席に着くと、図られたようにお茶と茶菓子が用意された。

「オイラの分がないでヤンス」

 アインベルクの計らいで、直ぐにパルの分も用意された。

「久しいですね。わざわざ会いに来てくれるなんて。前に会った時は抜け殻のようでしたからね」

 フラムの表情が少し曇る。
 前に会ったのは、師であるヴァルカンが殺されたと耳にし、フラムの元に駆け付けた時だ。

「元気が出たようでなによりです。それで、私に会いに来たとは何用です?」
「実は先日、故郷に戻ったんですが、仕事の仲介所に寄ったら師匠が依頼書を出していて。内容が、カチャッカ山の洞窟にある氷を溶かせって」

 話を聞いていたアインベルクの紅茶を口に運んでいた手が一瞬止まる。

「氷は溶かす事が出来なかったんですが、氷の中に人が居るのが見えるようになったんです。あの氷って、アインベルク様が作ったんですよね? あそこに居るのは誰なんですか? 師匠が依頼書まで残して見せたかった人物って、気になるじゃないですか」
「あの氷を作ったのは私じゃありませんよ」

 アインベルクは紅茶を飲み干し、ゆっくりとカップを皿の上に置いた。

「でも、あそこに居る人の状況からして、あの氷は自然の物とは考えられないし、だとしても人工であんな芸当が出来るのは、アインベルク様しか居られないじゃないですか」
「居られるじゃないですか。私以外にそれが出来るお方がもう一人」
「もう一人? アインベルク様があのお方って言う人って……まさか!?」
「そう、もうこの世に居られませんが、私達五賢人の師でもある大賢人ルディア様ですよ」
「ルディア様が……」
「ルディア様はあなたと同じ特異質で、それも五属性の魔獣を五賢人と変わらぬレベルで召喚する事が出来たのです。私達の師でもあるのですからね。あのぐらいの氷を張る事は造作もありませんよ」

 アインベルクは、横に立つ執事が空のカップに新たに注ぎ入れた紅茶を一口だけ口にし、カップを置いた。

「あそこに倒れているのが誰か、教えるのは構いませんが、一つだけ条件があります」
「条件?」
「ケルハイトへの復讐を諦めること」

 紅茶を飲んでいたフラムの手が止まる。その顔色も明らかに変わった。
 茶菓子を無心に食べていたパルの動きも止まっていた。

「あの時、ケルハイトはヴァルカンによって右腕を斬り落とされたのでしょう? つまりはもう、魔獣を召喚する事が出来ない訳です。そんな男に復讐した所で何に━━」
「出来ません!」

 突然フラムが上げた大声に、周りで色々と動いていた執事やお世話係が動きを止める。

「師匠は親代わりでもあったんです。目の前であんな殺され方をして、放っておけるはずが……はずが……」

 フラムの目に、薄っすらと光るものが。

「フラム……」

 パルも掛ける言葉さえ見つからない。

「言いたい事も分かります。気持ちも分かります。ただ、仇を討ったとしてもヴァルカンは……」

 俯くうつむくフラムの姿に、アインベルクの溜息も深くなる。

「意志は固いようですね。止むを得ませんね。ただ、そう言う事なら私の口からあの二人が誰なのかは言えませんよ。構いませんね?」
「……分かりました」
「あなたも遅かれ早かれ炎の魔獣召喚士の名を冠する事になりましょう。復讐などと言うものにうつつを━━いえ、小言はここまでにしましょう。気が変わったなら、いつでも言いなさい。夕食には少し時間がありますし、部屋で少しお休みなさい。アンベッタ、フラムに部屋を用意して」

 席を立ったフラムはパルを落ち込む肩に乗せ、寄って来たお世話係に連れられて部屋を出て行った。

「全く、ヴァルカンも堅物だから、ルディア様の遺言を守って余計な事をしてくれますね」

 夕食時、再び顔を合わせたフラムとアインベルクに会話はなかった。ただ、パル共々その食欲が変わる事はなかった。
 夕食を終えたフラムは、用意された部屋に戻り、何人寝れるのかと思うぐらいの大きなベッドに仰向けになって寝ていた。

「どうするでヤンス? あの調子じゃあ絶対に教えてくれないでヤンスよ」

 少し離れて寝ているパルが話し掛ける。

「そうね。アインベルク様がダメなら他の人に聞くしかないわね。ルシェール様も知っているのかしら? でも、もうあの島に居ないかもしれないし。だとしたらビエント様? 魔法大学校に行ったら会えるのかしら。ああ、もう……」

 苛々が募る内、知らぬ間に深い眠りの中に落ちて行き、夜は更けて行った。
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