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第18話 姫様の名前を呼びたい
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「ラウラ様」
と、姫様は、お母様の方に身体を向けた。
「お二人はこの私がかならずやお守りいたします。ですからどうか、ご安心ください」
そう言って、胸に手を置いた。
お母様は無言で、姫様を眺める。
その目から鋭さを感じたため、ひやひやとしたけれど、姫様は臆することなく見つめ返している。先程までの――のほほんとした感じではなく、真剣な顔付きで。
緊迫した雰囲気の中、お母様は突如として笑みを浮かべた。そして、姫様も同じように微笑む。
「アリシア様、どうか娘たちを頼みます」
そう言って、お母様はアリシア様に頭を下げた。
「お任せください。必ずやあなた様のご期待に応えてみせましょう」
アリシア様は、自分の胸を思いっきり叩き、いい音がした。いくら胸当てがあろうとも、痛そうに思えるけど、大丈夫か?
「ラウラ、心配するな。娘の想い――誓いは本物だ」
「そんなもの、言われずとも分かっています、陛下」
「そうか、それはなによりだ」
女王様は、笑い出しました。
* * *
メリエーヌ様へ会いに行くと言って、婆やさんは先に部屋から出て行った。
あれだけ腰が曲がっているのに、どうやってあの扉を開けるのかとひやひやしていたけれど、ちょうどいいタイミングで向こうから扉が開いた。どうやら、扉の前の兵士さんは優秀なようだ。
女王様は、お母様にふたりっきりで話したいことがあると言った。そう――女王様のお部屋で、ふたりっきり。
お母様はしばらく考える素振りを見せたあと、姫様の方に視線を向けた。
「アリシア様、大変申し訳ありませんが――娘ふたりをお屋敷の方まで連れ帰っては頂けませんか?」
「どうぞ、お任せください」
姫様は、快く引き受けてくれた。
お母様が満足そうに頷くと、陛下とともに謁見の間から出て行った。
それにしても――本当に子作りする訳じゃないよね?
さっきまで、百合だなんだと喜んでいたが、流石に不安となってきた。
い、いや、大丈夫なはずだ!
「レナ様、ラナ様、もう街のほうには行かれたのでしょうか?」
私達は首を横に振った。私達は家っ子なため、基本街へ出掛ける――と言う発想がない。
昔、街に出かけた時、私と妹は一度、親類から誘拐され殺されかけたことがある。その恐怖はなかなか消えてくれない。その時に私はカトレアと出会っている。――まぁ、今は関係のない話だけど。
だけどそれ以来、お母様は更に過保護となり、妹も剣の稽古を始めた。
「であれば、お屋敷へ戻る前にわたくしがお二人を街の方までご案内したいと思っているのですが、どうでしょう? 凄く、いいところなのですよ」
「姉様」
妹は、不安そうな顔で、私の服を掴む。
私は笑って、彼女の頬に触れる。
「大丈夫だよ。私たちはもう――大丈夫」
どこか自分に言い聞かせる響きがあったけれど、妹は微かにだが笑ってくれた。
「本当に、仲が宜しいのですね」
「はい、それはもう」
「わたくしはこう見えて、中々に強いのですよ? レナ様たちのこと、絶対に傷つけさせませんとも。ですからどうか、ご安心ください」
姫様は細い体で握りこぶしを作るポーズ。
申し訳ないけど、正直――あまり強そうには見えない。
「姫様、大変申し訳ありませんが、どうか――街へ行く前に、一度私と剣で模擬戦をしてはいただけませんか?」
妹は膝をつき、頭を下げる。
ラナの発言に、私は驚いた。
彼女は意外と人見知りのため、知り合ったばかりの人間に模擬戦を頼むなんてことはまずありえない話だ。
「ラナ様、お願いですから、どうか顔をお上げください」
姫様は妹と同じ目線で言葉を吐き、ラナの手を取ると、立ち上がらせた。
「すみません」
「次からはもう、畏まらないよう――お気を付けてください」
姫様は、妹を諭すよう優しく言葉を紡いだ。
「……分かりました」
妹は少しだけ、項垂れた。
「ラナ様も、剣を嗜んでおられるのですね」
「はい、お恥ずかしながら、少々――ですけれど」
「いいですよ、試合ましょう。ラナ様に、レナ様を守る資格があるかどうか、証明してみせますとも」
姫様は再び握りこぶしを作る。
そのポーズ、気に入っているのかな?
「べ、別に、そういうわけじゃないですから」
妹は顔を真っ赤にして、手をわたわたと動かす。
姉妹百合? 相手が私だと思うとなんだか照れくさいぞ! 是非とも、第三者視点でじっくりと眺めてみたいものである。
……。
いやいや、超絶美少女である妹の相手が自分では――興醒めもいいところですよ!
ぷんぷん!
* * *
街へ行く前に、剣の模擬戦を行うため、稽古場へと向かう。
「姫様」
「何でしょうか?」
姫様は私へと目線を向け、ほほ笑んだ。
多少、耐性はついたはずなんだけど――やはり、まだ身構えてしまう。
姫様は優しげな顔で、私を眺めてくれる。
なのに、私は視線が逸れてしまう。
気合を入れるため、自分の手を思いっ切り握りしめた。
そして、私は姫様に頭を下げ――。
「ごめんなさい」
と、彼女に謝罪した。
「何故、謝られるのでしょうか?」
顔を少しだけ上げると、姫様の驚いた顔。
確かに、色々と端折りすぎたな。何故かテンパってしまう自分が嫌だ。
「だって、迷惑をかけたから。私たちがここへ残るから、姫様は護衛を任されてしまったわけですよね? それは、姫様の貴重な時間を奪うことです。だから――そこんところは、ちゃんと謝っときたくて」
そんなの、謝ってどうにかなる話ではない。だから、これはただの自己満足。でも、申し訳ないって――そう、思っていることだけはちゃんと、伝えておきたかった。
姫様は私の方へと近づくと、人差し指で私の眉間を軽く突っついてくる。
「勘違いしないで頂きたいのですが――レナ様の護衛の件、わたくしからお願いを致しました」
「え? それは……何で、ですか?」
正直、意味が分からない。
「だってわたくし――レナ様の話を、昔からよく聞いておりましたから」
私は愕然とする。何故、私の話なんかが王国まで流れているの? しかも、何で姫様の耳まで届くの?
「そして、わたくしは勝手に――あなたに親近感を感じておりました。ですから、今回の件で少しでもあなたと仲良くなりたい――という、ただのわたくしの我儘です」
理解が、まったく追いつかない。
「お恥ずかしながら、わたくしにはお友達がいません。ですから、出来ればあなた方とお友達になれたらと――そう、考えております」
姫様は顔を真っ赤にして、そんな可愛いことを言ってくれる。私はなんだか可笑しくなって、つい――笑ってしまった。
「そ、そんなに笑わないでいただけると、嬉しいのですが」
姫様の、どこかむくれたようなお顔が、すんごく可愛い。
私は、姫様に体を硬くする魔法をかけられていたけれど、その呪縛から――解放された気がする。
勝手に私よりかなり背が高いと思っていたけれど、実はそれほど大したことない? なんだか、私と同じ普通の女の子って感じがしてきたじゃないか!
「ねぇ、姫様って身長、何㎝ですか?」
「姉様、何でいきなり身長を尋ねるんです?」
妹はあきれ顔。
し、失礼な!
だけど、姫様は嫌な顔ひとつせずに答えてくれた。
「165㎝です」
あらら、意外と離れていた?
いやいや、10㎝ぐらい大したことないよね?
この私なら、あと一年もあれば追い越せるレベル――なはずだ!
多分、だけど。
「ねぇ、姫様じゃなくて――名前で、読んでもいいですか?」
私の発言に、妹はギョッとした顔をする。
「はい、名前で呼んでいただけると、わたくしも嬉しいです。レナ様」
アリシア様は、嬉しそうに笑ってくれた。
と、姫様は、お母様の方に身体を向けた。
「お二人はこの私がかならずやお守りいたします。ですからどうか、ご安心ください」
そう言って、胸に手を置いた。
お母様は無言で、姫様を眺める。
その目から鋭さを感じたため、ひやひやとしたけれど、姫様は臆することなく見つめ返している。先程までの――のほほんとした感じではなく、真剣な顔付きで。
緊迫した雰囲気の中、お母様は突如として笑みを浮かべた。そして、姫様も同じように微笑む。
「アリシア様、どうか娘たちを頼みます」
そう言って、お母様はアリシア様に頭を下げた。
「お任せください。必ずやあなた様のご期待に応えてみせましょう」
アリシア様は、自分の胸を思いっきり叩き、いい音がした。いくら胸当てがあろうとも、痛そうに思えるけど、大丈夫か?
「ラウラ、心配するな。娘の想い――誓いは本物だ」
「そんなもの、言われずとも分かっています、陛下」
「そうか、それはなによりだ」
女王様は、笑い出しました。
* * *
メリエーヌ様へ会いに行くと言って、婆やさんは先に部屋から出て行った。
あれだけ腰が曲がっているのに、どうやってあの扉を開けるのかとひやひやしていたけれど、ちょうどいいタイミングで向こうから扉が開いた。どうやら、扉の前の兵士さんは優秀なようだ。
女王様は、お母様にふたりっきりで話したいことがあると言った。そう――女王様のお部屋で、ふたりっきり。
お母様はしばらく考える素振りを見せたあと、姫様の方に視線を向けた。
「アリシア様、大変申し訳ありませんが――娘ふたりをお屋敷の方まで連れ帰っては頂けませんか?」
「どうぞ、お任せください」
姫様は、快く引き受けてくれた。
お母様が満足そうに頷くと、陛下とともに謁見の間から出て行った。
それにしても――本当に子作りする訳じゃないよね?
さっきまで、百合だなんだと喜んでいたが、流石に不安となってきた。
い、いや、大丈夫なはずだ!
「レナ様、ラナ様、もう街のほうには行かれたのでしょうか?」
私達は首を横に振った。私達は家っ子なため、基本街へ出掛ける――と言う発想がない。
昔、街に出かけた時、私と妹は一度、親類から誘拐され殺されかけたことがある。その恐怖はなかなか消えてくれない。その時に私はカトレアと出会っている。――まぁ、今は関係のない話だけど。
だけどそれ以来、お母様は更に過保護となり、妹も剣の稽古を始めた。
「であれば、お屋敷へ戻る前にわたくしがお二人を街の方までご案内したいと思っているのですが、どうでしょう? 凄く、いいところなのですよ」
「姉様」
妹は、不安そうな顔で、私の服を掴む。
私は笑って、彼女の頬に触れる。
「大丈夫だよ。私たちはもう――大丈夫」
どこか自分に言い聞かせる響きがあったけれど、妹は微かにだが笑ってくれた。
「本当に、仲が宜しいのですね」
「はい、それはもう」
「わたくしはこう見えて、中々に強いのですよ? レナ様たちのこと、絶対に傷つけさせませんとも。ですからどうか、ご安心ください」
姫様は細い体で握りこぶしを作るポーズ。
申し訳ないけど、正直――あまり強そうには見えない。
「姫様、大変申し訳ありませんが、どうか――街へ行く前に、一度私と剣で模擬戦をしてはいただけませんか?」
妹は膝をつき、頭を下げる。
ラナの発言に、私は驚いた。
彼女は意外と人見知りのため、知り合ったばかりの人間に模擬戦を頼むなんてことはまずありえない話だ。
「ラナ様、お願いですから、どうか顔をお上げください」
姫様は妹と同じ目線で言葉を吐き、ラナの手を取ると、立ち上がらせた。
「すみません」
「次からはもう、畏まらないよう――お気を付けてください」
姫様は、妹を諭すよう優しく言葉を紡いだ。
「……分かりました」
妹は少しだけ、項垂れた。
「ラナ様も、剣を嗜んでおられるのですね」
「はい、お恥ずかしながら、少々――ですけれど」
「いいですよ、試合ましょう。ラナ様に、レナ様を守る資格があるかどうか、証明してみせますとも」
姫様は再び握りこぶしを作る。
そのポーズ、気に入っているのかな?
「べ、別に、そういうわけじゃないですから」
妹は顔を真っ赤にして、手をわたわたと動かす。
姉妹百合? 相手が私だと思うとなんだか照れくさいぞ! 是非とも、第三者視点でじっくりと眺めてみたいものである。
……。
いやいや、超絶美少女である妹の相手が自分では――興醒めもいいところですよ!
ぷんぷん!
* * *
街へ行く前に、剣の模擬戦を行うため、稽古場へと向かう。
「姫様」
「何でしょうか?」
姫様は私へと目線を向け、ほほ笑んだ。
多少、耐性はついたはずなんだけど――やはり、まだ身構えてしまう。
姫様は優しげな顔で、私を眺めてくれる。
なのに、私は視線が逸れてしまう。
気合を入れるため、自分の手を思いっ切り握りしめた。
そして、私は姫様に頭を下げ――。
「ごめんなさい」
と、彼女に謝罪した。
「何故、謝られるのでしょうか?」
顔を少しだけ上げると、姫様の驚いた顔。
確かに、色々と端折りすぎたな。何故かテンパってしまう自分が嫌だ。
「だって、迷惑をかけたから。私たちがここへ残るから、姫様は護衛を任されてしまったわけですよね? それは、姫様の貴重な時間を奪うことです。だから――そこんところは、ちゃんと謝っときたくて」
そんなの、謝ってどうにかなる話ではない。だから、これはただの自己満足。でも、申し訳ないって――そう、思っていることだけはちゃんと、伝えておきたかった。
姫様は私の方へと近づくと、人差し指で私の眉間を軽く突っついてくる。
「勘違いしないで頂きたいのですが――レナ様の護衛の件、わたくしからお願いを致しました」
「え? それは……何で、ですか?」
正直、意味が分からない。
「だってわたくし――レナ様の話を、昔からよく聞いておりましたから」
私は愕然とする。何故、私の話なんかが王国まで流れているの? しかも、何で姫様の耳まで届くの?
「そして、わたくしは勝手に――あなたに親近感を感じておりました。ですから、今回の件で少しでもあなたと仲良くなりたい――という、ただのわたくしの我儘です」
理解が、まったく追いつかない。
「お恥ずかしながら、わたくしにはお友達がいません。ですから、出来ればあなた方とお友達になれたらと――そう、考えております」
姫様は顔を真っ赤にして、そんな可愛いことを言ってくれる。私はなんだか可笑しくなって、つい――笑ってしまった。
「そ、そんなに笑わないでいただけると、嬉しいのですが」
姫様の、どこかむくれたようなお顔が、すんごく可愛い。
私は、姫様に体を硬くする魔法をかけられていたけれど、その呪縛から――解放された気がする。
勝手に私よりかなり背が高いと思っていたけれど、実はそれほど大したことない? なんだか、私と同じ普通の女の子って感じがしてきたじゃないか!
「ねぇ、姫様って身長、何㎝ですか?」
「姉様、何でいきなり身長を尋ねるんです?」
妹はあきれ顔。
し、失礼な!
だけど、姫様は嫌な顔ひとつせずに答えてくれた。
「165㎝です」
あらら、意外と離れていた?
いやいや、10㎝ぐらい大したことないよね?
この私なら、あと一年もあれば追い越せるレベル――なはずだ!
多分、だけど。
「ねぇ、姫様じゃなくて――名前で、読んでもいいですか?」
私の発言に、妹はギョッとした顔をする。
「はい、名前で呼んでいただけると、わたくしも嬉しいです。レナ様」
アリシア様は、嬉しそうに笑ってくれた。
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