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第42話 始まりの音
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楽しい食事が終わり、楽しい団欒の時間が終わる。
そして今――暗い部屋の中、私は布団の中へと潜り込む。
なんだろ?
何だか、胸が苦しい。
正直、訳が分からない。
だけど、もしかしたら――。
私は今、物凄く寂しいのかもしれない。
音がした。
微かな、音。
私は布団をどけ、上体を起こす。
もう、何も音がしない。
だけど、妙に気になった。
カーテンが風でゆらゆらと揺れ、その隙間から月の光が溢れていた。
もしかして、窓が開いている?
そこは、バルコニーへと通じる扉。
私は誘われるよう、ベットから下りると、靴を履き、歩き出した。
カーテンを開き、外へ出る。
「来たわね、レナ」
彼女がいることに――何故か驚きはなかった。
でも、感激の声が漏れる。
だって、美しすぎたから。
まるで、月の精霊。
その神秘的な姿は、人を惑わせる。
「流石は――師匠、ですね」
そんな言葉が、自然とこぼれ落ちた。
「本当――変な子ね、あなたは」
「そうですかね?」
「ええ、変な子よ。間違いなく」
メリエーヌ様は――表情があまり変わらず、まるで精巧な美術品。
月に照らされた彼女は、その異様さが際立つ。
シンプルなノースリーブの白いワンピース姿。
金色の細く流れる、しなやかな髪がきらきらと月の光で反射する。
彫刻が施された手すりの上に彼女は座り、白いサンダルが微かにゆらゆらと。
「ねぇ、レナ。これから、あなたの物語が始まるわ」
まるで歌うように、口ずさむ。
「月の向かう方向。東の奥には、何があると思う?」
「奥? 奥には――なんだろ?」
私は、首を傾げた。
「東の奥にはね、精霊の力の及ばない地があるわ」
「及ばない――地」
「それがなぜだか、分かるかしら?」
私は首を横に振る。
「遥か昔、この星は滅びかけた。けれど、各地が大精霊と繋がることにより、再びマナが溢れ――豊かな土地となった」
それは、御伽話。
「東の奥は――時の大精霊が司る地。契約が途絶え、人は魔法が使えなくなった。他の大精霊と契約した者でも、あそこでは魔法が使えない。それなのに、魔物は変わらずに存在する」
それはもう、一大事では?
「あの地は――マナが混濁し、自然が壊れ始め、獣が減り、作物の育ちにくい土地となった」
「家が途絶えたことにより、その土地から人がいなくなったんですね」
「殆ど、いなくなったわ。でもね、変わり者の人間たちがまだ、あの地に残っている」
「え? でも――人は魔法がつかえないんですよね? 確か、魔物は魔法でしか倒せないんじゃなかったでしたっけ?」
「正確には、マナの力でしか魔物は倒せない」
「では――」
「あそこには、変わり者のドワーフがいる」
「ドワーフ?」
「この星に残ることを選んだ唯一のドワーフ」
そう言って、メリエーヌ様は月を眺めた。
「ドワーフが作る武器にはマナの力が及ぶ」
「その武器で、魔物を倒しているんですか?」
「そうよ」
「でも、なぜその地に残っているんですか?」
「あなたの帰りを待っているわ」
「え?」
「あなたがあの土地に帰り、再び時の大精霊と契約することにより、再び豊かな土地となることを――あの地に残る誰もが、望んでいる」
「まだ、契約できていないんですか?」
私は、印が刻まれた右の甲を月の光に照らした。
「あなた個人としか、まだ契約がなされていないわ。あなたがあの地に赴き、その地と契約することにより、正のマナが溢れだす」
「な、なるほど」
「あなたはここで力をつけ、いずれその地に向かわないといけない」
「は、はい」
頷いた後、急に不安となる。
「ひとりでって――ことですよね?」
「私も着いていくわ」
「え? そうなんですか?」
「人は使えなくても、私は魔法が使えるから」
おぉ。
流石は、メリエーヌ様!
「でも――気合を入れないといけないですね」
私は拳を作り"ふんすか、ふんすか"と鼻息荒くする。
「だってそこは、師匠にとっても未知の土地ですもんね!」
「そんなことはないわ」
と、メリエーヌ様は言った。
「1年に一度は行くようにしている。魔物を定期的に駆除するよう依頼されているから」
「それは、向こうの人たちからの依頼となるんですか?」
「そうね」
と、メリエーヌ様は頷かれる。
向こうの人たちにも頼られているとは――流石は、メリエーヌ様。
「次に向かう時は、私もご一緒する感じですかね?」
「それは、あなた次第よ」
「なるほど。では、頑張ります!」
自然と、鼻息が荒くなってしまう。
「期待しているわ、レナ」
何だろ? 何だか、凄く嬉しい。
「はい、期待しててください!」
「ふふ、頑張りなさい。レナ」
そう言って、メリエーヌ様は杖を取り出すと、身体が"ふわり"と浮き上がり、手摺の上に足を乗せた。
ここは2階のため、ヒヤッとした。
「それじぁね、レナ」
その言葉を私に残し、メリエーヌ様は空を飛んで帰って行った。
それにしても、もしかして――さっき笑ったのだろうか?
相変わらず無表情だったけれど、微かに笑みを浮かべられた気がする。
私はしばらく、月が沈む先を眺めた。
ずっと怖かった。
外へ出ること。
何かに期待されること。
何かに期待することも。
だけど、今は違う。
今は――楽しみだ。
楽しみで、仕方がない。
それは――。
外へ出ること。
誰かに期待してもらう私のこと。
そして――知らない土地に向かうことを、私は期待している。
そして今――暗い部屋の中、私は布団の中へと潜り込む。
なんだろ?
何だか、胸が苦しい。
正直、訳が分からない。
だけど、もしかしたら――。
私は今、物凄く寂しいのかもしれない。
音がした。
微かな、音。
私は布団をどけ、上体を起こす。
もう、何も音がしない。
だけど、妙に気になった。
カーテンが風でゆらゆらと揺れ、その隙間から月の光が溢れていた。
もしかして、窓が開いている?
そこは、バルコニーへと通じる扉。
私は誘われるよう、ベットから下りると、靴を履き、歩き出した。
カーテンを開き、外へ出る。
「来たわね、レナ」
彼女がいることに――何故か驚きはなかった。
でも、感激の声が漏れる。
だって、美しすぎたから。
まるで、月の精霊。
その神秘的な姿は、人を惑わせる。
「流石は――師匠、ですね」
そんな言葉が、自然とこぼれ落ちた。
「本当――変な子ね、あなたは」
「そうですかね?」
「ええ、変な子よ。間違いなく」
メリエーヌ様は――表情があまり変わらず、まるで精巧な美術品。
月に照らされた彼女は、その異様さが際立つ。
シンプルなノースリーブの白いワンピース姿。
金色の細く流れる、しなやかな髪がきらきらと月の光で反射する。
彫刻が施された手すりの上に彼女は座り、白いサンダルが微かにゆらゆらと。
「ねぇ、レナ。これから、あなたの物語が始まるわ」
まるで歌うように、口ずさむ。
「月の向かう方向。東の奥には、何があると思う?」
「奥? 奥には――なんだろ?」
私は、首を傾げた。
「東の奥にはね、精霊の力の及ばない地があるわ」
「及ばない――地」
「それがなぜだか、分かるかしら?」
私は首を横に振る。
「遥か昔、この星は滅びかけた。けれど、各地が大精霊と繋がることにより、再びマナが溢れ――豊かな土地となった」
それは、御伽話。
「東の奥は――時の大精霊が司る地。契約が途絶え、人は魔法が使えなくなった。他の大精霊と契約した者でも、あそこでは魔法が使えない。それなのに、魔物は変わらずに存在する」
それはもう、一大事では?
「あの地は――マナが混濁し、自然が壊れ始め、獣が減り、作物の育ちにくい土地となった」
「家が途絶えたことにより、その土地から人がいなくなったんですね」
「殆ど、いなくなったわ。でもね、変わり者の人間たちがまだ、あの地に残っている」
「え? でも――人は魔法がつかえないんですよね? 確か、魔物は魔法でしか倒せないんじゃなかったでしたっけ?」
「正確には、マナの力でしか魔物は倒せない」
「では――」
「あそこには、変わり者のドワーフがいる」
「ドワーフ?」
「この星に残ることを選んだ唯一のドワーフ」
そう言って、メリエーヌ様は月を眺めた。
「ドワーフが作る武器にはマナの力が及ぶ」
「その武器で、魔物を倒しているんですか?」
「そうよ」
「でも、なぜその地に残っているんですか?」
「あなたの帰りを待っているわ」
「え?」
「あなたがあの土地に帰り、再び時の大精霊と契約することにより、再び豊かな土地となることを――あの地に残る誰もが、望んでいる」
「まだ、契約できていないんですか?」
私は、印が刻まれた右の甲を月の光に照らした。
「あなた個人としか、まだ契約がなされていないわ。あなたがあの地に赴き、その地と契約することにより、正のマナが溢れだす」
「な、なるほど」
「あなたはここで力をつけ、いずれその地に向かわないといけない」
「は、はい」
頷いた後、急に不安となる。
「ひとりでって――ことですよね?」
「私も着いていくわ」
「え? そうなんですか?」
「人は使えなくても、私は魔法が使えるから」
おぉ。
流石は、メリエーヌ様!
「でも――気合を入れないといけないですね」
私は拳を作り"ふんすか、ふんすか"と鼻息荒くする。
「だってそこは、師匠にとっても未知の土地ですもんね!」
「そんなことはないわ」
と、メリエーヌ様は言った。
「1年に一度は行くようにしている。魔物を定期的に駆除するよう依頼されているから」
「それは、向こうの人たちからの依頼となるんですか?」
「そうね」
と、メリエーヌ様は頷かれる。
向こうの人たちにも頼られているとは――流石は、メリエーヌ様。
「次に向かう時は、私もご一緒する感じですかね?」
「それは、あなた次第よ」
「なるほど。では、頑張ります!」
自然と、鼻息が荒くなってしまう。
「期待しているわ、レナ」
何だろ? 何だか、凄く嬉しい。
「はい、期待しててください!」
「ふふ、頑張りなさい。レナ」
そう言って、メリエーヌ様は杖を取り出すと、身体が"ふわり"と浮き上がり、手摺の上に足を乗せた。
ここは2階のため、ヒヤッとした。
「それじぁね、レナ」
その言葉を私に残し、メリエーヌ様は空を飛んで帰って行った。
それにしても、もしかして――さっき笑ったのだろうか?
相変わらず無表情だったけれど、微かに笑みを浮かべられた気がする。
私はしばらく、月が沈む先を眺めた。
ずっと怖かった。
外へ出ること。
何かに期待されること。
何かに期待することも。
だけど、今は違う。
今は――楽しみだ。
楽しみで、仕方がない。
それは――。
外へ出ること。
誰かに期待してもらう私のこと。
そして――知らない土地に向かうことを、私は期待している。
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