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第三章
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私は二人の后妃の目の前に座り軽くパニックに陥っていた。
初めての侯爵夫人としての公式な招待。王宮の茶会というハードルの高い場所に来るだけでも緊張するのに、なぜか后妃二人に個室に呼ばれている。
「あ、あの……他の方々は……私、時間を間違えたのでしょうか」
まさかお茶会はとっくに終わっていて、皆帰ってしまった?もしくはもっと後から始まる?まさか日にちを間違えたとか?
「いいえ、間違っていませんよ。あなただけ他の皆さんより一時間早くお呼びしたの」
しれっとイヴァンジェリン妃が答えた。
「え?……あ、いえ……その、理由をお伺いしてもよろしいですか?」
「理由は……いくつかあります。あなたは王家の血を引くそうですね。私たち二人はこの国の皇子に嫁いだ者同士。あなたとは親戚になるのですから、特別扱いしても構わないでしょ?」
今度はエレノア妃が答えた。
確か、エレノア妃は外国から嫁いで来られた。イヴァンジェリン妃はこの国の出身だと聞いている。
「それに、あなたは私の夫で今回の遠征の総大将を勤めるオリヴァー様の副官の妻。上官の妻として皆より先にお会いしたかったの」
イヴァンジェリン妃がそう言えば、二人は顔を見合せ頷きあった。
「どうか座ってください。お茶会までの間、少しお話しましょう」
「は、はい……失礼いたします」
エレノア妃がそう言い、ビクビクしながら二人の向かいの椅子に腰を下ろす。
「改めて……本日はようこそ。こうしてお会いするのを楽しみにしていました。夫から聞きました。倒れて記憶を失われたとか……その後お加減はいかが?」
「自分が誰かを忘れてしまわれるなんて、大変な思いをされたのね。それなのに頼みの旦那様が側にいないなんて……さぞ心細いでしょう」
二人が私のことについて知っていることに驚いたが、執事が戦地にいる夫に知らせたのを聞いたのかも知れない。
「お心遣いありがとうございます。お陰様で記憶を失くした以外は特に体調に問題はなく……記憶についてはお医者様も失くした時のように突然戻るかもしれないとのことですが、それがいつになるかもわからないと」
「……それで、いくらか記憶は戻ったのかしら?」
エレノア妃が訊ねる。好奇心からではなく、心から心配してくれている様子だ。
「いえ、まだ……今は侯爵邸で働く者達から聞いたことを知っているだけで……読み書きや勉強して覚えられることは夫の恩師に教えを乞うているところです」
「それでは侯爵のことは?」
「それも使用人達から聞いた程度のことしか……お顔も思い出せません」
「まあ、では結婚式のことも?」
イヴァンジェリン妃の問いに黙って頷く。
「お二人は……夫を……ルイスレーン様のことをご存知なのですよね」
「そうね……夫の副官ですし、何度か……」
「王宮の夜会ではよく警備をされていますね」
「そう……一緒に出席する相手もいないからと」
「厳めしい表情でね」
「それでも何人かのご令嬢に囲まれていたわね」
「背も高くて男前ですから。あら、奥方には面白くない話ね」
「いえ、ルイスレーン様はおもてになられるのですね」
似ているという先代侯爵の顔を思い浮かべ、それもそうだなと納得する。
「それは、侯爵ですし、無愛想なのも媚びていなくて素敵だと……でも、どんなご令嬢も侯爵を落とせなかったわね」
「彼の結婚が決まったと夫から聞いた時は驚いたわ」
「陛下からのお話ということもあるのでしょうけど、何が侯爵の心を動かしたのでしょうね」
私に答えが書いているかのように二人が私を見る。
「それは……やはり陛下の命令だからではないでしょうか」
よくわからないが、私を妻に迎えて侯爵家には何の利点もない。
だとすればこの国の絶対権力者である国王が切り出した話だから断れなかったと考えるのが妥当だ。
自分で言っておきながら、なぜか胸が痛むのは今度の結婚も政略結婚だということにショックを受けているからかもしれない。
初めての侯爵夫人としての公式な招待。王宮の茶会というハードルの高い場所に来るだけでも緊張するのに、なぜか后妃二人に個室に呼ばれている。
「あ、あの……他の方々は……私、時間を間違えたのでしょうか」
まさかお茶会はとっくに終わっていて、皆帰ってしまった?もしくはもっと後から始まる?まさか日にちを間違えたとか?
「いいえ、間違っていませんよ。あなただけ他の皆さんより一時間早くお呼びしたの」
しれっとイヴァンジェリン妃が答えた。
「え?……あ、いえ……その、理由をお伺いしてもよろしいですか?」
「理由は……いくつかあります。あなたは王家の血を引くそうですね。私たち二人はこの国の皇子に嫁いだ者同士。あなたとは親戚になるのですから、特別扱いしても構わないでしょ?」
今度はエレノア妃が答えた。
確か、エレノア妃は外国から嫁いで来られた。イヴァンジェリン妃はこの国の出身だと聞いている。
「それに、あなたは私の夫で今回の遠征の総大将を勤めるオリヴァー様の副官の妻。上官の妻として皆より先にお会いしたかったの」
イヴァンジェリン妃がそう言えば、二人は顔を見合せ頷きあった。
「どうか座ってください。お茶会までの間、少しお話しましょう」
「は、はい……失礼いたします」
エレノア妃がそう言い、ビクビクしながら二人の向かいの椅子に腰を下ろす。
「改めて……本日はようこそ。こうしてお会いするのを楽しみにしていました。夫から聞きました。倒れて記憶を失われたとか……その後お加減はいかが?」
「自分が誰かを忘れてしまわれるなんて、大変な思いをされたのね。それなのに頼みの旦那様が側にいないなんて……さぞ心細いでしょう」
二人が私のことについて知っていることに驚いたが、執事が戦地にいる夫に知らせたのを聞いたのかも知れない。
「お心遣いありがとうございます。お陰様で記憶を失くした以外は特に体調に問題はなく……記憶についてはお医者様も失くした時のように突然戻るかもしれないとのことですが、それがいつになるかもわからないと」
「……それで、いくらか記憶は戻ったのかしら?」
エレノア妃が訊ねる。好奇心からではなく、心から心配してくれている様子だ。
「いえ、まだ……今は侯爵邸で働く者達から聞いたことを知っているだけで……読み書きや勉強して覚えられることは夫の恩師に教えを乞うているところです」
「それでは侯爵のことは?」
「それも使用人達から聞いた程度のことしか……お顔も思い出せません」
「まあ、では結婚式のことも?」
イヴァンジェリン妃の問いに黙って頷く。
「お二人は……夫を……ルイスレーン様のことをご存知なのですよね」
「そうね……夫の副官ですし、何度か……」
「王宮の夜会ではよく警備をされていますね」
「そう……一緒に出席する相手もいないからと」
「厳めしい表情でね」
「それでも何人かのご令嬢に囲まれていたわね」
「背も高くて男前ですから。あら、奥方には面白くない話ね」
「いえ、ルイスレーン様はおもてになられるのですね」
似ているという先代侯爵の顔を思い浮かべ、それもそうだなと納得する。
「それは、侯爵ですし、無愛想なのも媚びていなくて素敵だと……でも、どんなご令嬢も侯爵を落とせなかったわね」
「彼の結婚が決まったと夫から聞いた時は驚いたわ」
「陛下からのお話ということもあるのでしょうけど、何が侯爵の心を動かしたのでしょうね」
私に答えが書いているかのように二人が私を見る。
「それは……やはり陛下の命令だからではないでしょうか」
よくわからないが、私を妻に迎えて侯爵家には何の利点もない。
だとすればこの国の絶対権力者である国王が切り出した話だから断れなかったと考えるのが妥当だ。
自分で言っておきながら、なぜか胸が痛むのは今度の結婚も政略結婚だということにショックを受けているからかもしれない。
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