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第七章
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突然声をかけてきた侍従が何かをオリヴァー殿下に伝える。
「兄上、よろしいでしょうか、ルイスレーンも」
伝言を聞いたオリヴァー殿下が二人を少し離れた場所に連れ出し三人で話し合う。
「何かあったのでしょうか」
妃殿下たちも心配そうに囁きあう。
「さあ……それよりもごめんなさいね、クリスティアーヌさん…前にも言いましたがオリヴァー殿下はリンドバルク卿を兄弟のように思っているの。あなたに彼を取られたように思っているのよ」
イヴァンジェリン妃が気を遣ってくれているのがわかり、茶会で私は彼女たちに少しは好感を持ってもらえたのかもと思った。
「リンドバルク卿がまさか色恋で仕事を蔑ろにするとは思っていないし、彼がいつまでも独身でいることもずっと気に掛けていたの」
「でもいざ、その相手が現れて戸惑ってらっしゃるのだと思うの。でも、意外だったわね。リンドバルク卿も満更でもないようだし、案外これは陛下の采配が功を奏したということかしら」
「だからオリヴァー様がおっしゃったことは気になさらないで、時間が経てば受け入れられると思うわ。私が代わりに謝りますから、私に免じて」
「そんな、イヴァンジェリン様に謝っていただくわけには……事情はわかりましたので……それに覚悟はしておりましたし、陰でこそこそ言われるよりはいっそ清々しいです」
「思ったよりしっかりなさっているのね。リンドバルク卿もそんな一面が気に入ったのかしら」
「エレノア、イヴァンジェリン妃」
アンドレア殿下が二人から離れて声をかけてきた。
「すまない。オリヴァーとリンドバルク卿は陛下と少し席を外す。暫く私とそなたでこの場を接待することになる」
「わかりましたわ。お二人とも、そういうことですので、私とアンドレア様は皆様の所に挨拶に回らねば」
エレノア妃の表情からさっきまでの和やかな気配は消え、仕事モードに入ったのがわかった。
オリヴァー殿下とルイスレーン様が席を外すということは軍関係で何かあったのかも知れない。王室の全員がいなくなるわけにはいかないので、アンドレア殿下が皇太子としてこの場に残るのだろう。
アンドレア殿下とエレノア妃が離れていくのと入れ替わりにルイスレーン様が駆け寄ってきた。
「側を離れないと言ったのにすまない。なるべく早く戻る」
心配そうに私に触れ、この場を離れることを謝ってくる。
あの人ならそんなことはなかった。つきあいだと言って接待の場で私を放置することはよくあった。考えればあの女性のところへ行っていたのかもしれない。
「私なら大丈夫です。お仕事ですもの」
本当は心細かったが仕方ない。
ここは理解ある妻を演じるだけだ。
「イヴァンジェリン様、彼女をよろしくお願いします」
「あなたにこんなことを頼まれる日が来るとはね………よくってよ。でも出来るだけ早く戻ってこないと、彼女に嫌われてしまうわよ」「え!」
イヴァンジェリン様の言葉にルイスレーン様が驚いて私を見るので、そんなことはないと慌てて首を振る。
それを見て心なしかほっとした様子でもう一度イヴァンジェリン様に「よろしくお願いします」と言って、オリヴァー殿下に合流していった。
「あー、おかしいわね、あなたに嫌われると言った時の彼の表情……いいものが見られたわ」
「イヴァンジェリン様………私、そんなことでルイスレーン様を嫌ったりいたしません。お仕事なのですから」
「理解ある妻でいることも大事ですけど、何でも仕事だからと甘い顔をしていると、そのうち仕事にかこつけて放っておかれますよ。これは我が家に嫁いできた義姉上の言葉ですけど」
「はあ……あ、申し訳ありません」
気の抜けた返答をしてしまい謝罪する。
「気を遣わないで、それより今から気を引き締めた方がいいわ。オリヴァー殿下はあなたに厳しかったかもしれませんが、ある意味他の方を牽制してくれていたのね。ほら、私と二人になった途端、次の試練がやってきたわ」
イヴァンジェリン様が見ている方を振り向くと、二人の女性を先頭に何人かの女性がこちらに向かってやって来るのが見えた。
その中にグリュセラ伯爵夫人とポートリア伯爵夫人が混ざっているのを確認する。
「あの先頭の右側がオーレンス侯爵夫人、キャシディー様、左がルクレンティオ侯爵夫人ディアナ様。ルクレンティオ侯爵家にはちょうどあなたくらいのご令嬢がいらっしゃるわ」
お茶会で出会ったふたりと筆頭侯爵家の奥方。
彼女たちの目的がイヴァンジェリン様のご機嫌伺いであって欲しいと心のうちで願った。
「兄上、よろしいでしょうか、ルイスレーンも」
伝言を聞いたオリヴァー殿下が二人を少し離れた場所に連れ出し三人で話し合う。
「何かあったのでしょうか」
妃殿下たちも心配そうに囁きあう。
「さあ……それよりもごめんなさいね、クリスティアーヌさん…前にも言いましたがオリヴァー殿下はリンドバルク卿を兄弟のように思っているの。あなたに彼を取られたように思っているのよ」
イヴァンジェリン妃が気を遣ってくれているのがわかり、茶会で私は彼女たちに少しは好感を持ってもらえたのかもと思った。
「リンドバルク卿がまさか色恋で仕事を蔑ろにするとは思っていないし、彼がいつまでも独身でいることもずっと気に掛けていたの」
「でもいざ、その相手が現れて戸惑ってらっしゃるのだと思うの。でも、意外だったわね。リンドバルク卿も満更でもないようだし、案外これは陛下の采配が功を奏したということかしら」
「だからオリヴァー様がおっしゃったことは気になさらないで、時間が経てば受け入れられると思うわ。私が代わりに謝りますから、私に免じて」
「そんな、イヴァンジェリン様に謝っていただくわけには……事情はわかりましたので……それに覚悟はしておりましたし、陰でこそこそ言われるよりはいっそ清々しいです」
「思ったよりしっかりなさっているのね。リンドバルク卿もそんな一面が気に入ったのかしら」
「エレノア、イヴァンジェリン妃」
アンドレア殿下が二人から離れて声をかけてきた。
「すまない。オリヴァーとリンドバルク卿は陛下と少し席を外す。暫く私とそなたでこの場を接待することになる」
「わかりましたわ。お二人とも、そういうことですので、私とアンドレア様は皆様の所に挨拶に回らねば」
エレノア妃の表情からさっきまでの和やかな気配は消え、仕事モードに入ったのがわかった。
オリヴァー殿下とルイスレーン様が席を外すということは軍関係で何かあったのかも知れない。王室の全員がいなくなるわけにはいかないので、アンドレア殿下が皇太子としてこの場に残るのだろう。
アンドレア殿下とエレノア妃が離れていくのと入れ替わりにルイスレーン様が駆け寄ってきた。
「側を離れないと言ったのにすまない。なるべく早く戻る」
心配そうに私に触れ、この場を離れることを謝ってくる。
あの人ならそんなことはなかった。つきあいだと言って接待の場で私を放置することはよくあった。考えればあの女性のところへ行っていたのかもしれない。
「私なら大丈夫です。お仕事ですもの」
本当は心細かったが仕方ない。
ここは理解ある妻を演じるだけだ。
「イヴァンジェリン様、彼女をよろしくお願いします」
「あなたにこんなことを頼まれる日が来るとはね………よくってよ。でも出来るだけ早く戻ってこないと、彼女に嫌われてしまうわよ」「え!」
イヴァンジェリン様の言葉にルイスレーン様が驚いて私を見るので、そんなことはないと慌てて首を振る。
それを見て心なしかほっとした様子でもう一度イヴァンジェリン様に「よろしくお願いします」と言って、オリヴァー殿下に合流していった。
「あー、おかしいわね、あなたに嫌われると言った時の彼の表情……いいものが見られたわ」
「イヴァンジェリン様………私、そんなことでルイスレーン様を嫌ったりいたしません。お仕事なのですから」
「理解ある妻でいることも大事ですけど、何でも仕事だからと甘い顔をしていると、そのうち仕事にかこつけて放っておかれますよ。これは我が家に嫁いできた義姉上の言葉ですけど」
「はあ……あ、申し訳ありません」
気の抜けた返答をしてしまい謝罪する。
「気を遣わないで、それより今から気を引き締めた方がいいわ。オリヴァー殿下はあなたに厳しかったかもしれませんが、ある意味他の方を牽制してくれていたのね。ほら、私と二人になった途端、次の試練がやってきたわ」
イヴァンジェリン様が見ている方を振り向くと、二人の女性を先頭に何人かの女性がこちらに向かってやって来るのが見えた。
その中にグリュセラ伯爵夫人とポートリア伯爵夫人が混ざっているのを確認する。
「あの先頭の右側がオーレンス侯爵夫人、キャシディー様、左がルクレンティオ侯爵夫人ディアナ様。ルクレンティオ侯爵家にはちょうどあなたくらいのご令嬢がいらっしゃるわ」
お茶会で出会ったふたりと筆頭侯爵家の奥方。
彼女たちの目的がイヴァンジェリン様のご機嫌伺いであって欲しいと心のうちで願った。
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