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第七章
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「あの、フランチェスカ様……皆様私のことを心配してお声をかけていただいたのです。私が侯爵夫人として色々至らない部分があってはと……ですので」
険悪な空気を何とかしようと口を挟み、イヴァンジェリン様に同意を求めるように「ね」と言う顔をした。
イヴァンジェリン様は一瞬「え、私?」という顔をされたが、苦笑いで頷かれた。
「もちろん、フランチェスカ様もマリアーサ様も心配してくださっていることはわかりますわ。夜会に不慣れな私がお妃様や筆頭侯爵家の奥方様たちに囲まれては何事かと思われたのでしょう」
「クリスティアーヌさんがそうお取りになるなら、今宵はそれでよろしいのでは?ねぇお三方」
マリアーサ様がフランチェスカ様、ディアナ様、キャシディー様の顔を順番に見つめ、ディアナ様たちの背後にいる方々やヴァネッサ嬢たちの方も見る。
「確かに私はこのとおり王室の血縁ではございますが、父母はすでに亡く身分は決して高いとは言えません。国王陛下が末端に属する私でも親族であるからとお気にかけていただいたのも事実です。それは陛下が慈悲深くいらっしゃるからに他なりません。ですが、私とルイスレーン様との縁はまた別の話です。これは陛下が君主としての威光を使って私たちの仲を取り持ったわけではなく。ルイスレーン様が自らご決断されたこと。あの方が私を妻にと望み、私もそれを受け入れたのです」
一気に捲し立て、ここで一呼吸置く。
「ですので、ご心配ならさないでください。皆様から見ればまだまだ頼りないとは思いますが、私たちは私たちなりに上手くやりますので、温かくお見守りください」
一人一人の顔を見ながら頭を下げる。
ちょっと強引かなと思ったが、筆頭侯爵家同士でいがみ合うのは政治的にもよろしくないことはわかる。
「クスッ」
誰かが笑いを漏らす声が聞こえ、そちらを振り向くとイヴァンジェリン様が笑っていた。
「ごめんなさい。私が仲裁に入るべきなのに、あなたの勢いに負けてしまったわ。それに、何気に惚気られたと思うのは私の気のせいかしら」
「経緯はどうであれ、二人がそれでいいなら、外野が口を挟むことではありませんわね」
マリアーサ様もイヴァンジェリン様に同調する。
「あなたを助けに入ったつもりなのに、私も少し熱くなりました。売られた喧嘩は買ってきた部類なので、またローガン様に叱られてしまいますわ」
扇で口元を隠しフランチェスカ様が彼方を見る。その視線の先に誰かを捉えているのだろうと思っていると、近づく人がいてそちらを見る。
「これは皆様、華やかな面々がお揃いですね。イヴァンジェリン様、ご機嫌いかがですか?」
現れたのはイヴァンジェリン様に面差しがよく似た長身の男性。誰なのかすぐにわかった。
「お兄様、お久しぶりです。お陰様で機嫌はすこぶるよろしくてよ。ねえ、皆様」
イヴァンジェリン様が答え、マイセラ侯爵が皆に愛想よく挨拶する。
「そ、そうでございますわね」
キャシディー様たちが現れたマイセラ侯爵に頬を赤らめる。
いや、あなたたち人妻だし、彼にはフランチェスカ様という奥様が……まあ、イケメンはそれだけで目の保養か。
見るからに育ちのいいお坊っちゃま。貴族らしいと言えばそうなのだろう。歩く姿も優雅で洗練されている。
同じ貴族でもルイスレーン様は歩幅も大きく優雅ではあるが、きびきびした感じだ。
「お兄様、こちらはクリスティアーヌ様。リンドバルク侯爵、ルイスレーン様の奥様よ」
イヴァンジェリン様が私を侯爵に紹介してくださる。
「初めまして、イヴァンジェリン妃様の兄のローガンと申します」
「クリスティアーヌです。よろしくお願いいたします」
「それで、皆様何をお話になられていたのかな?」
ローガン様がさりげなくフランチェスカ様に寄り添い、彼女に問いかける。
彼が妹の護衛として側にいたフランチェスカ様を見初めたと言うから、てっきり彼女の方が立場は強いのかと思ったが、無言の圧力を彼から感じるあたり、さすが筆頭侯爵家の若き当主と言える。
「皆でクリスティアーヌ様から侯爵との仲について伺ったところですわ」
「そうですの。あの侯爵がようやく結婚に踏み切ったお相手がどのような方は私共も気になりまして……ねえ、皆様」
ディアナ夫人が扇で顔を扇ぎながら一同に同意を求め、周りもそうですの。と頷く。
「お母様、リンドバルク侯爵の妻には私をと……」
「おだまりなさい、ヴァネッサ。誤解なさらないでね。もし侯爵が独身のままだったら戦争が終わったら良きお相手を探して差し上げようと思っておりましたの。もうその必要もありませんわね、あらあちらは大使様……ご挨拶がまだでしたわ。失礼、夫と一緒にご挨拶しなければならない方がいらっしゃいますから……さあ、ヴァネッサ、行きますわよ。それでは皆様ごきげんよう……」
「あん、お母様……」
途中の所はむにゃむにゃと何を言っているか良く聞き取れなかったが、娘の手を引っ張り颯爽と(?)ディアナ夫人が去っていき、後の方もゴニョゴニョと何やら言い訳をしながら蜘蛛の子を散らすようにいなくなってしまった。
後に残されたのはイヴァンジェリン様とマイセラ侯爵夫妻。そしてカレンデゥラ侯爵夫人と私の五人だった。
険悪な空気を何とかしようと口を挟み、イヴァンジェリン様に同意を求めるように「ね」と言う顔をした。
イヴァンジェリン様は一瞬「え、私?」という顔をされたが、苦笑いで頷かれた。
「もちろん、フランチェスカ様もマリアーサ様も心配してくださっていることはわかりますわ。夜会に不慣れな私がお妃様や筆頭侯爵家の奥方様たちに囲まれては何事かと思われたのでしょう」
「クリスティアーヌさんがそうお取りになるなら、今宵はそれでよろしいのでは?ねぇお三方」
マリアーサ様がフランチェスカ様、ディアナ様、キャシディー様の顔を順番に見つめ、ディアナ様たちの背後にいる方々やヴァネッサ嬢たちの方も見る。
「確かに私はこのとおり王室の血縁ではございますが、父母はすでに亡く身分は決して高いとは言えません。国王陛下が末端に属する私でも親族であるからとお気にかけていただいたのも事実です。それは陛下が慈悲深くいらっしゃるからに他なりません。ですが、私とルイスレーン様との縁はまた別の話です。これは陛下が君主としての威光を使って私たちの仲を取り持ったわけではなく。ルイスレーン様が自らご決断されたこと。あの方が私を妻にと望み、私もそれを受け入れたのです」
一気に捲し立て、ここで一呼吸置く。
「ですので、ご心配ならさないでください。皆様から見ればまだまだ頼りないとは思いますが、私たちは私たちなりに上手くやりますので、温かくお見守りください」
一人一人の顔を見ながら頭を下げる。
ちょっと強引かなと思ったが、筆頭侯爵家同士でいがみ合うのは政治的にもよろしくないことはわかる。
「クスッ」
誰かが笑いを漏らす声が聞こえ、そちらを振り向くとイヴァンジェリン様が笑っていた。
「ごめんなさい。私が仲裁に入るべきなのに、あなたの勢いに負けてしまったわ。それに、何気に惚気られたと思うのは私の気のせいかしら」
「経緯はどうであれ、二人がそれでいいなら、外野が口を挟むことではありませんわね」
マリアーサ様もイヴァンジェリン様に同調する。
「あなたを助けに入ったつもりなのに、私も少し熱くなりました。売られた喧嘩は買ってきた部類なので、またローガン様に叱られてしまいますわ」
扇で口元を隠しフランチェスカ様が彼方を見る。その視線の先に誰かを捉えているのだろうと思っていると、近づく人がいてそちらを見る。
「これは皆様、華やかな面々がお揃いですね。イヴァンジェリン様、ご機嫌いかがですか?」
現れたのはイヴァンジェリン様に面差しがよく似た長身の男性。誰なのかすぐにわかった。
「お兄様、お久しぶりです。お陰様で機嫌はすこぶるよろしくてよ。ねえ、皆様」
イヴァンジェリン様が答え、マイセラ侯爵が皆に愛想よく挨拶する。
「そ、そうでございますわね」
キャシディー様たちが現れたマイセラ侯爵に頬を赤らめる。
いや、あなたたち人妻だし、彼にはフランチェスカ様という奥様が……まあ、イケメンはそれだけで目の保養か。
見るからに育ちのいいお坊っちゃま。貴族らしいと言えばそうなのだろう。歩く姿も優雅で洗練されている。
同じ貴族でもルイスレーン様は歩幅も大きく優雅ではあるが、きびきびした感じだ。
「お兄様、こちらはクリスティアーヌ様。リンドバルク侯爵、ルイスレーン様の奥様よ」
イヴァンジェリン様が私を侯爵に紹介してくださる。
「初めまして、イヴァンジェリン妃様の兄のローガンと申します」
「クリスティアーヌです。よろしくお願いいたします」
「それで、皆様何をお話になられていたのかな?」
ローガン様がさりげなくフランチェスカ様に寄り添い、彼女に問いかける。
彼が妹の護衛として側にいたフランチェスカ様を見初めたと言うから、てっきり彼女の方が立場は強いのかと思ったが、無言の圧力を彼から感じるあたり、さすが筆頭侯爵家の若き当主と言える。
「皆でクリスティアーヌ様から侯爵との仲について伺ったところですわ」
「そうですの。あの侯爵がようやく結婚に踏み切ったお相手がどのような方は私共も気になりまして……ねえ、皆様」
ディアナ夫人が扇で顔を扇ぎながら一同に同意を求め、周りもそうですの。と頷く。
「お母様、リンドバルク侯爵の妻には私をと……」
「おだまりなさい、ヴァネッサ。誤解なさらないでね。もし侯爵が独身のままだったら戦争が終わったら良きお相手を探して差し上げようと思っておりましたの。もうその必要もありませんわね、あらあちらは大使様……ご挨拶がまだでしたわ。失礼、夫と一緒にご挨拶しなければならない方がいらっしゃいますから……さあ、ヴァネッサ、行きますわよ。それでは皆様ごきげんよう……」
「あん、お母様……」
途中の所はむにゃむにゃと何を言っているか良く聞き取れなかったが、娘の手を引っ張り颯爽と(?)ディアナ夫人が去っていき、後の方もゴニョゴニョと何やら言い訳をしながら蜘蛛の子を散らすようにいなくなってしまった。
後に残されたのはイヴァンジェリン様とマイセラ侯爵夫妻。そしてカレンデゥラ侯爵夫人と私の五人だった。
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