【本編完結】政略結婚から逃げたいのに旦那様から逃げられません

七夜かなた

文字の大きさ
96 / 266
第八章

3

しおりを挟む
狭く暗い所に閉じ込められた夢を見た。
はっと目が覚めて辺りを見渡すと、本当に暗くて狭い所にいた。

「……ここは?」

何か布のようなものに取り囲まれて、体を動かす。
伸ばした腕に固いものが当たり押しきると少しの力で動いた。

上半身から転がり出て、床に腕をついて見渡すと、そこは自分の部屋のクローゼットだった。

薄暗い部屋の様子から、夜はまだ明けていない。

急いでクローゼットから飛び出て深呼吸する。

クチャクチャになったクローゼットの中を整えて寝台に戻ってシーツを触ると、ひんやりと冷たい。
クローゼットに入っていたのはついさっきではないということだ。

こんなことは初めてだった。
一体自分に何が起こったのか。

その日はもう眠ることが出来ず朝を迎えた。

いつもの時間にマディソンが起こしに来る。

「旦那様は、もう起きているの?」

水差しから顔を洗うための水を注ぐマディソンに訊ねる。

「はい。朝早く起きられて、今はもう朝食を摂られて書斎にいらっしゃいます。一段落したら奥さまにお越しになるようにとのことです」

昨夜はいつ部屋に戻ったのだろう。少なくとも私が寝付いた後だろう。
それなのに、もう朝から仕事をしているのか。

「今日は国王陛下のお茶会ですね」

そうだった。
昼には再び王宮へ向かわなければならない。

「クリスティアーヌ様……腕」
「あ、ああ……そうね」

言われて見ると昨日は赤かったところが思った通り青黒くなっている。

「どこでこんな………」

「人に酔って途中でテラスに出たの。明るいところから急に暗い所に出たからよくわからなくて、よろけて壁にぶつかったの」

放っておけば治るから、くれぐれも他の人には言わないでと言った。

「わかりました。痣が消えるまでは私だけでお世話します」
「ありがとう、マディソン」

お茶会の前にもう一度着替えるつもりで、シンプルなドレスに着替えた。

朝食を摂ってから、厨房に向かう。

今日のお茶会の手土産に手作りの何かをと考えていた。

手作りなんて貧相かなとは思ったが、診療所でお会いした陛下の様子なら喜んでもらえるのではないか。
陛下の好みがわからないし、ルイスレーン様も一緒に食べるなら甘さは控えめがいい。

色々考えてパウンドケーキを焼くことにした。
中身はドライフルーツを使い、少しラム酒をきかせ大人風に仕上げる。
いくつかまとめて焼いて一番綺麗な焼き色のものを選んだ。

それとは別にナッツを混ぜたビスコッティも焼く。型なしで天板に広げて焼くだけなのでよく作っていた。
一度焼いた生地を切ってまた焼く。二度焼くのがビスコッティだ。

パウンドケーキは出掛けるまで冷ましておき、後でラッピングすることにした。

「今日もおいしそうに焼き上がりましたね」

ダレクが厨房に入ってきて、厨房に広がる香りに感想を述べる。

「みんなの分もあるから後で食べてね。ビスコッティもあるから」

「それは楽しみです。そろそろ旦那様にお茶をお持ちになられますか?ビスコッティもそのつもりでお作りになられたのですよね」

「そのつもりなのだけど、食べていただけるかしら」

「もちろんです、奥さまがお作りになられたとお聞きになれば、たとえ砂糖の塊でもお食べになりますよ。実は旦那様は昨夜はお部屋でお休みになられず、書斎で仮眠を取られたのです。朝もお茶を飲まれただけで、いくら鍛えられているとは言え、心配しております」

「どうしてそんな……戦地から戻られたばかりだと言うのに……」

半年以上の不在の間に彼の侯爵としての仕事がかなり滞っていたのはわかる。ダレクからそういった管理をするのは主が不在の間は家令である彼の仕事で、領地は領地で別の者がいると聞いていた。どうしても支持を仰がなければならないことは手紙でやり取りし、そうして処理したことを確認しているらしい。

「ですから、奥様からも根を詰めすぎないようにおっしゃってください。休憩も必要ですし」

「わかったわ」

私の忠告を聞き入れてくれるかどうかわからないが、焼いたビスコッティとお茶を持って書斎に向かった。
しおりを挟む
感想 139

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】妻の日記を読んでしまった結果

たちばな立花
恋愛
政略結婚で美しい妻を貰って一年。二人の距離は縮まらない。 そんなとき、アレクトは妻の日記を読んでしまう。

処理中です...