【本編完結】政略結婚から逃げたいのに旦那様から逃げられません

七夜かなた

文字の大きさ
107 / 266
第八章

14

しおりを挟む
「ようこそ、お待ちしていました」
「よく来てくれたね」

乗ってきた馬を少し手前の繋ぎ場に預け、フォルトナー先生のお宅に着くと、夫婦二人で出迎えてくれた。

「突然連絡してすいません」

「気にしないで。その代わりご馳走は用意できないが、ゆっくりしてくれ」

「さあさあ、遠慮しないで中に入って」

二人で大歓迎で招き入れてくれ、私たちは居間へと通された。

「今すぐお茶を持ってきますね」

二人で勧められるまま応接用の椅子に腰かけると、先生が向かいに座り奥様が部屋を出ていく。

三人になるとルイスレーン様が立ち上がったので私も立ち上がった。

「ご無沙汰しておりました。この度は妻までお世話になって、大変助かりました」

一緒に頭を下げると先生も慌てて立ち上がった。

「座って下さい。それに世話をしたとは思っていません。もうお金のためだけにあくせくする必要のない身の上だ。自分がやりたい、楽しいと思うことしかしていない。そんなだから礼には及ばない。年寄りの道楽ですから」

三人でもう一度座り直す。

「そう言っていただけて、こちらも幾分気が楽になります」

「それはそうと、無事の帰還おめでとう。早速二人揃って訪問してくれて嬉しいよ」

「ありがとうございます。お陰さまで無事に帰還することができました」

「私は何もしていないよ。実力と運があったからだ。私の家庭教師生活初めての生徒が君だからな。思い入れもある。ずいぶん立派になったようだが、外見だけでないことを祈るよ」

ルイスレーン様の無事な帰還は喜んでくれているのは間違いないが、表向きは立派でも中身が伴っているのかと指摘するあたり、厳しい方なんだろう。私には優しかったが、あれは記憶喪失を気遣って手加減してくれていたのかも。

「ご期待に添えるよう、日々精進していくつもりです」

ちょうどそこへ奥様がお茶のセットを運んできた。

「何かお手伝いすることはありますか?」

何度かここへ来ていて、その度に娘のように接してくれるので、すっかり慣れ親しんで彼女の側に寄った。

「あらぁ、今日はお客様のつもりでお迎えしたのに座ってらっしゃいな」
「そうだよ。今日はレジーナに任せておきなさい」
「ほら、また今度は一緒に手伝ってちょうだい」

「では、ここは私に……レジーナさんは料理の方へ戻ってください」

今日は構わないからと二人に言われ、それならとこの場は任せて欲しいと申し出た。

「それは助かりますが、でも……」

それも申し訳ないとレジーナさんが先生の方を見る。ルイスレーン様に気遣っているのだろう。

「そうおっしゃるならここはクリスティアーヌ様にお願いしよう。お前は食事の支度に戻りなさい」

「わかりました。じゃあ、ここはお任せしますわ。気を遣わなくていいのに」

ティーワゴンの押手を私に託し、レジーナさんは台所へと戻っていった。

「クリスティアーヌはここへ来ると調理の手伝いをしているのか?」

お茶の出具合を確認しようとティーポットの蓋を開けて中を見たときに、ルイスレーン様が呟いた。

「え!」

蓋を持って中を覗き込むために少し腰を曲げたまま、ルイスレーン様の方を見た。

何を思っているかわからないが、その口振りは驚いているのがわかる。

こちらを見つめるルイスレーン様の横で先生が複雑な顔をしている。

私が『愛理』だと知る先生は、私の行動をある程度理解してくれて好きにさせてくれていた。

社長令嬢でもひととおりの家事は仕込まれていたので家事は苦手ではない。
でもよそ様の家庭の台所まで立ち入って何かをするのはさすがに行き過ぎだったかもしれない。

「何がきっかけで記憶が甦るかわからない。やれることは何でもやった方がいいと思ってな。ほら、歩き方や食事の仕方のような体ですることは覚えているだろう」

「治療の一環……ということですか」

「そうそう、それだ!」

先生が力強く言うのでルイスレーン様もそれ以上は何も言わない。

「ベイル医師の所を紹介したのも先生だと聞いていますが、それもそうなのですか」

「まあ侯爵家の主治医のスベンには悪いが、他の医者の意見も必要だと思ってな……」
「診察についての話でなく、なぜ彼女が子どもの世話をすることになったのですか?」
「もう話したのか」

カップにお茶を入れて二人の前に置いた私に先生が訊ねた。

私が頷くと先生はルイスレーン様に訊ねた。

「不満なのかな?」

「ベイル先生のやろうとしていること自体は良いことだと思います。その支援をするのに出した資金が惜しいと思っているわけでもありません。ですが、彼女が働きたいと言ったことを先生がなぜ後押しされるのか理解できません」

「貴族の奥方が働くなど考えられんことだからな」
「そう思われるなら反対してくれても良かったのでは?」
「何が気に入らないのだ。世間体か?」
「何が………」

ルイスレーン様が私の顔を見て考え込む。

「誰かに必要とされたい。彼女がそう言うのでニコラスの所を紹介した。一ヶ月以上も持つとは思っていなかったが、案外彼女はしっかり者で頑張り屋だとわかった。自慢していいのではないかな」
「自慢……」
「私の教え子は常識や固定観念で人を判断せず、人の本質を見極められる男だと思うが、違ったか」
「そのように私を買い被らないでください。私はただ……」
「ただ?」
「笑わないで聞いてくださいますか?クリスティアーヌも、こんなことを言う私を嫌いにならないで欲しいのだが……」

彼の口ぶりが重くなり、私たちを交互に見た。
しおりを挟む
感想 139

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】妻の日記を読んでしまった結果

たちばな立花
恋愛
政略結婚で美しい妻を貰って一年。二人の距離は縮まらない。 そんなとき、アレクトは妻の日記を読んでしまう。

処理中です...