125 / 266
第九章
11
しおりを挟む
「お父様……厳しかったと伺いました」
「侯爵家の後取りだから、今思えば当たり前のことなのだし、あれが父の愛情なのだと今ならわかるが、小さい私はどうしてなのだと反発していた。母や他の兄弟がいればまた違ったのだろうが」
父親に甘えられず周りは他人ばかり……甘やかしてくれる筈の母もいなかった。そんな彼の子どもの頃を想像し、診療所の子どもたちと比べる。思い切り遊んで、時には喧嘩もして、自分の存在を否定すること無く受け入れてくれる人がいる。そんな安心感が彼にはなかったのだとしたら……。
「私も……アイリも同じです。母が亡くなって父は仕事ばかりで殆ど家にいなくて、家は子守りと家政婦に任せて……大きくなったら家庭教師をつけられ、門限は厳しくて自由がなかった。周りの友達は自分よりずっと恵まれていると恨めしく思うだけで……ずっと父が決めた通りの人生を歩いてきました。今思えば、私も反発すれば良かった……自分の意見をもっとはっきり言って、我が儘も言って……そうすればもっと違う最後を迎えられたかも」
「あなたと私は境遇が似ているな。同じように母を早くに亡くし、厳しい父のもとに育って……だが私は士官学校へ行って父と離れられたことで、客観的に見ることができた。あれも父の愛情なのだとね。自分が苦労した分、人の気持ちを思い謀って優しくできる人もいる。今のあなたのように……」
「そんな……他人の顔色ばかりうかがっているだけです……そんな自分を変えたいとは思いますが……」
「成りたい自分になればいい……あなたが望むなら……だが今は……私の妻になってくれると嬉しい」
「もうとっくに妻ですが」
「それは法の上での話だ。意味はわかっているのだろう?だが、今夜はもう遅い……疲れたろうから休みなさい」
昼間出掛けて、彼に自分のことについて打ち明けた。痣のことも伝えた。確かに今日はこれ以上のことはもうお腹いっぱいだった。
「これまで待ったんだ。後一晩くらい待てるよ。明日の朝早く、あなたの護衛を頼んだ者に来てもらうようになっている」
「護衛……ですか。やはり私には分不相応な気が……」
「これは絶対に譲れない。護衛の一人は私の士官学校の剣術の講師だ。他の二人も若いが優秀だし、女性もいる。あなたが今後侯爵夫人として生活するなら大事なことだ」
「女性も?」
「そうだ。もし会って気に入らなければ人を変えてもいい」
「そんな権限は、ルイスレーン様が選んで下さったのならそれを信用します」
「ルイスレーンだ。様は必要ない。そちらも慣れてもらいたいものだ」
「すいません……」
服を戻し二人で書斎を出て二階へ向かう。
途中でダレクとマリアンナが立っていて、寄り添って歩く私たちを見て安心したように頷いた。
「心配をかけた」
「滅相もございません」
彼が二人に言うと二人は恐縮して首を振る。
「マディソンには咎めはなしだ。戻ったらそう伝えなさい」
「は、はい。ありがとうございます」
マリアンナが深々とお辞儀をして、ダレクが嬉しそうに頷いた。
「侯爵家の後取りだから、今思えば当たり前のことなのだし、あれが父の愛情なのだと今ならわかるが、小さい私はどうしてなのだと反発していた。母や他の兄弟がいればまた違ったのだろうが」
父親に甘えられず周りは他人ばかり……甘やかしてくれる筈の母もいなかった。そんな彼の子どもの頃を想像し、診療所の子どもたちと比べる。思い切り遊んで、時には喧嘩もして、自分の存在を否定すること無く受け入れてくれる人がいる。そんな安心感が彼にはなかったのだとしたら……。
「私も……アイリも同じです。母が亡くなって父は仕事ばかりで殆ど家にいなくて、家は子守りと家政婦に任せて……大きくなったら家庭教師をつけられ、門限は厳しくて自由がなかった。周りの友達は自分よりずっと恵まれていると恨めしく思うだけで……ずっと父が決めた通りの人生を歩いてきました。今思えば、私も反発すれば良かった……自分の意見をもっとはっきり言って、我が儘も言って……そうすればもっと違う最後を迎えられたかも」
「あなたと私は境遇が似ているな。同じように母を早くに亡くし、厳しい父のもとに育って……だが私は士官学校へ行って父と離れられたことで、客観的に見ることができた。あれも父の愛情なのだとね。自分が苦労した分、人の気持ちを思い謀って優しくできる人もいる。今のあなたのように……」
「そんな……他人の顔色ばかりうかがっているだけです……そんな自分を変えたいとは思いますが……」
「成りたい自分になればいい……あなたが望むなら……だが今は……私の妻になってくれると嬉しい」
「もうとっくに妻ですが」
「それは法の上での話だ。意味はわかっているのだろう?だが、今夜はもう遅い……疲れたろうから休みなさい」
昼間出掛けて、彼に自分のことについて打ち明けた。痣のことも伝えた。確かに今日はこれ以上のことはもうお腹いっぱいだった。
「これまで待ったんだ。後一晩くらい待てるよ。明日の朝早く、あなたの護衛を頼んだ者に来てもらうようになっている」
「護衛……ですか。やはり私には分不相応な気が……」
「これは絶対に譲れない。護衛の一人は私の士官学校の剣術の講師だ。他の二人も若いが優秀だし、女性もいる。あなたが今後侯爵夫人として生活するなら大事なことだ」
「女性も?」
「そうだ。もし会って気に入らなければ人を変えてもいい」
「そんな権限は、ルイスレーン様が選んで下さったのならそれを信用します」
「ルイスレーンだ。様は必要ない。そちらも慣れてもらいたいものだ」
「すいません……」
服を戻し二人で書斎を出て二階へ向かう。
途中でダレクとマリアンナが立っていて、寄り添って歩く私たちを見て安心したように頷いた。
「心配をかけた」
「滅相もございません」
彼が二人に言うと二人は恐縮して首を振る。
「マディソンには咎めはなしだ。戻ったらそう伝えなさい」
「は、はい。ありがとうございます」
マリアンナが深々とお辞儀をして、ダレクが嬉しそうに頷いた。
43
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる