【本編完結】政略結婚から逃げたいのに旦那様から逃げられません

七夜かなた

文字の大きさ
141 / 266
第十章

14★

しおりを挟む
「魔石を取引しているということは、戦争が終わってやれやれですね。おかわりは?」

二杯目のエールを飲みながらモーシャスが尚も話しかけてきた。空になったワイングラスを見て言うので、もう結構と手のひらを向ける。

「どんな状況でも活路を見出だし商売に繋げるのが商人。戦争が終わってやり易くはなりましたが、いつどんな事態になっても何とかしますよ」
「それは頼もしい。さて、私はそろそろ行きますよ」

モーシャスが立ち上がって、また一緒に仕事をしましょうと立ち去った。

彼が扉に向かって行くのをオヴァイエたちがちらりと見ているが、特に声をかける風でもなく見送った。
それがなぜかわざとらしく見えたのは気のせいだろうか。

「どう思いますか?」

ヒギンスが訊いてくる。

「どうもこうも……単なる商売人には見えないな」

緩慢とした歩き方をしていたが、足運びは舞台俳優が演技をしているようにも見えた。

「オヴァイエや五大老について調べてみますか?」

ヒギンスは特殊部隊の要員で、諜報が得意なためギルドに潜り込ませている一人だ。

「そうだな……それより、例の人物についてだが」
「はい。これを」

ヒギンスがカウンターの下から一通の手紙を出してくる。

「見張りをつけていますが、殆ど外に出ることはないようです」
「わかった……会ってみよう」

立ち上がり自分も出ていきかける。

「モンドリオールめ……約束をおじゃんにしやがって……せっかくの俺のコレクションに金目が加わるところだったのに」

ゆっくり通りすぎる際に忌々しそうなオヴァイエの声が耳に入った。意外な名前を聞いて内心驚く。

「金目とは?何ですかオヴァイエ様」

取り巻きの一人が訊ねる。

「金目は金目だ。珍しい毛色の玩具が手に入る予定が、うっかり横からかっさわれてしまった。その代わり大金をせしめてやったが。普段気取ってるお貴族様の悔しそうな顔は見ていて爽快だったぞ」

ガハハとオヴァイエが下品に笑い、周りも一緒に笑う。

「ご希望を言っていただければ、私どもで手配しましょうか?」

別の男が機嫌を取ろうと持ちかける。

「まあ、気が向いたらな……同じようなものを手配出来るとは思えんが……今のところは手元にある分で我慢するさ」

「では、その気になったらお申し付けください」
「私もその時は一肌脱ぎましょう」

下卑た笑いが響き渡り、格式ある商業ギルドのサロンが一気に場末の安い酒場に成り下がる。

ヒギンスから教えてもらった場所に行き、見張りの者に様子を訊ねた。

お世辞にも治安がいいとは言えない地域。この国は安定した王の治世が続きそれなりに裕福ではあるが、それでも闇の部分はある。ここはその日暮らしやすねに傷を持つ者が隠れ住むような場所だった。
男の名前はテリー・ミンス。かつてモンドリオール子爵家で馬丁兼御者をしていた男だ。前の子爵、クリスティアーヌの父が亡くなった事故の時は途中まで同行していたが、直前の村で急に体調不良となり、急遽村に残り、子爵は村で雇った者に手綱を握らせて領地へと向かった。

子爵の事故後、自分が付いていかなかったからだと自分を責めて辞めて田舎に帰ったとなっているが、またここに戻ってきたのはどういうことなのだろう。
陛下が彼を見張れと言うからには、子爵の事故について何か裏があると思っているのだろうか。

ミンスが住んでいる長屋の向かいの建物で、見張りの男とともに出入りを見張る。

「昼間は殆ど出歩きません。夜になると酒場をうろうろして人に酒をたかったりしています」
「よく行く酒場は調べてあるのか?」
「決まった場所はありません。素行が悪く出入り禁止になったりして転々としています」
「では、次に出入りする店に心付けを渡して、彼がそこに頻繁に出入りできるようにしてやれ、そこで近づいて油断させて話をうまく引き出すんだ」
「畏まりました」

「引き続き頼む」

その場を後にしてただ道を歩いているつもりが彼女と会った街角までやってきた。

ここからそう遠くないところにベイル氏の診療所がある筈だと思い立った。

何人かに訊ねると、その内の一人がそこの患者らしく道を教えてくれた。

ここではないかと外から一軒の建物を眺めていると、外から戻ってきた女性に訊ねられた。

午前中の診察の受付は終わり次は夕方からですと言われ、患者ではないと言うと、胡散臭げに見られた。

ベイル氏に会いたいと言うと、今日は往診に行っていて留守だと教えられた。明日ならどうかと訊ねられた。

明日は確か彼女がここに来るつもりだと言っていた。ここで彼女と鉢合わせになるかも知れないが、ルーティアスとして会うなら問題ないだろう。

彼のことは何度か見かけたことがあった。
記憶にある姿とあまり変わっていない。「保育所」というらしいそこの施設について色々と語ってくれ、良かったら案内しようかと言ってくれているところに、クリッシーが来たとベイル氏に告げた。

保育所の案内なら彼女が適任だと彼が言う。
やってきた彼女は私を見て驚いていた。

案内されて隣の建物に行くと、皆が彼女に親しげに声をかけ、子どもたちまで歓迎していた。

まるで昔からそこにいるかのように周りと溶け込んでいる。子どもたちと接する彼女はとても嬉しそうだった。
しおりを挟む
感想 139

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】妻の日記を読んでしまった結果

たちばな立花
恋愛
政略結婚で美しい妻を貰って一年。二人の距離は縮まらない。 そんなとき、アレクトは妻の日記を読んでしまう。

処理中です...