【本編完結】政略結婚から逃げたいのに旦那様から逃げられません

七夜かなた

文字の大きさ
161 / 266
第十二章

2

しおりを挟む
ミアンさんは王宮勤めをしていて結婚を機に辞めていたが、少し前に夫を亡くし子どもを抱えながら苦労していたようだ。ここなら子どもを預けながら働けると聞いてやってきたと言う。

「どうぞ、遠慮なく仰ってください」

「私はあなたがいなくなってからここに来たので、以前のあなたを知りません。ここがどういう経緯でできたものなのか、ベイル先生からもお話はうかがっておりました。時々皆さんの話に出てくる『クリッシー』という人のことも聞いておりました。皆さん、あなたが来られなくなって残念がっていましたから。旦那様が戦争から戻られたので、働きに出ることは難しいのかなと……」

皆が残念がってくれたと聞いて、嬉しく思った。

「私は王宮に勤めいたこともありますので、多くの高貴な方々がどのように振る舞われるのか存じ上げております。今、あなた様が私たちに対して見せる態度は……正直、他の方たちと違って……本当に貴族の奥様なのか疑ってしまいます」

ギオーヴさんたちにも戸惑われてしまったことを思い出す。

「私は今は夫が侯爵だから侯爵夫人と言うだけで、子爵だった父が亡くなって貴族としての振る舞いや仕来たりをよく知りません。貴族らしくないと言われればそうなのかも知れませんね」

「いえ、悪いと言っているわけではないのです。逆にそこまで低姿勢になられると困惑します。私が言いたいのは侯爵夫人だと最初におっしゃられていたら、皆さんもここまで親しみも持てなかったと思います。そういう意味では名乗れなかったのもわかります」

今度はミアンの言葉に他の皆が頷く。

「私たちも今すぐ態度を変えたりはできないですし、戸惑っています。黙っていることもできたし、もっと高圧的に私たちに納得しろと命令できる立場にいるのですから、そうすることもできたのに、そうしなかった。それどころか騙して申し訳なかったと謝罪までされたあなたの対応に、私たちが怒れるわけがありません」

「じゃあ……」

「怒るなんてとんでもない。でも、急に態度は改められないかもしれません」
「いいんです。受け入れて欲しいとかではなく、事情を伝えたかっただけですから……お仕事中お邪魔してごめんなさい」

それだけ言って私は保育所を後にした。

「あれで良かったのか?」
「ええ……理解してもらえるとは思っていませんでしたから……胸のつかえが取れた気持ちです」

診療所の方へ戻りかけた私とニコラス先生を追って、カミラさんが走ってきた。

「先生!たいへんです。ミシェルがいないんです」
「いない?どういうことだ」
「ミシェルが!」
「わ……わかりま……せん……あのこ……お昼寝…してた」

息せき切って走り込んできたので、彼女は途切れ途切れに事情を話す。

「そろそろ……時間だから……起こしに行ったり……いなくて……勝手口が……開いていて……いつもは……そこに誰かいるんですが、今日は……」

今日は私が話があると皆を談話室に集めていた。その隙に出ていったのだとしたら…

「わ、私のせいだわ……私が皆を集めたから……」

「今はそんなことを言っている時間はない。探そう、他の子たちを面倒を見る最低限の人数を残して動ける者全員で探そう」

トラブルには慣れているのか先生がてきぱきと指示をする。

「私も探します」
「いやしかし……」
「いいえ、協力させてください」
「……わかった」

そうしてミシェルを皆が探し回った。

まずは保育所の建物内、診療所、それから通りに出て探し回った。
私たちが話をしていたのは二十分程度。いついなくなったかわからないが子どもの足だ。それほど遠くには行っていないだろう。

「すいません、これくらいの背丈の栗毛の女の子を見ませんでしたか?」

道行く人に聞いても誰も知らないという。もしかして拐かされた?悪いことばかり考えてしまう。

「クリスティアーヌ様?」
「……ナタリー」

声をかけられ振り向くとナタリーが立っていた。彼女とスティーブには時間を見て迎えに来てもらうよう伝えてあった。スティーブは一緒ではないので、別々に行動していたみたいだ。

「今そちらへ伺おうとしていたところです。勝手に出られては護衛になりません。そんなに慌ててどうされたんですか?」
「ナタリーごめんなさい。これくらいの女の子見なかった?栗毛で瞳は濃い茶色なの」
「女の子?そう言えば、向こうで見た気が……」

ナタリーが自分が歩いてきた方角を指差す。

「あっちね。ごめんなさい、見かけた場所へ連れていってくれない?」
「かまいませんが…あまり治安のいい所ではありませんよ。奥様が行くような所では」
「かまわないわ!そんな所なら尚更連れていって、一人だった?」
「誰か父親らしき人が抱き抱えていました」
「そんな……」

もし本当に拐かされたとしたらと思うと一刻の猶予もなかった。診療所に戻って報せている余裕はない。救いがあるとすればナタリーが目の前にいることだ。彼女なら腕も立つだろう。

「ナタリー、私をそこに案内しなさい」

「わかりました」
しおりを挟む
感想 139

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

王子様への置き手紙

あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯ 小説家になろうにも掲載しています。

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

処理中です...