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第十二章
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窓のない部屋。寝台と小さなテーブルと椅子が二脚置けばいっぱいの小さな部屋に手足を縛られて寝かされていた。
「それで子どもはどうした」
声は扉の外から聞こえる。子どもと言うのはミシェルのことだろう。一人が実行犯でもう一人が命令した方だとわかるが、話の内容からすると狙いは私みたいだ。
ミシェルはどうなのだろう。
「薬で眠らせていたので、例の者に運ばせました。今頃は親のところに戻っているでしょう」
ミシェルが無事だとわかりホッとした。
「ご苦労、これは約束の金だ。このことは誰にも言うな」
「わかってます。またうまい話があったら教えてください」
男の一人がばたばたと去っていく音が聞こえた後、ガチャリと部屋が唐突に開けられ、私は慌ててまだ気絶している風を装った。
人の歩いてくる音がして、顔を覗き込まれるのがわかった。
「ふん、あの旦那はこんなのが好みか……ならあのお嬢さんには難しいな」
お嬢さん?誰のこと?
そう言って男はガタンと椅子を動かしそこに腰を下ろした。
「さて、いつまで狸寝入りしてるつもりかな」
私が気が付いていることに男は気付いている。
「…………」
「別に黙っててもかまわない。そっちの方がこちらも助かるからな」
「……どうしてわかったの」
ばつが悪くなってごろりと反対側を向くと、目の前にがっしりとした体格の男が座っていた。
赤いモジャモジャの長髪をチョンマゲ風に束ね、黒に近い目をした体格のいい男が長い足を組んで座っていた。年はルイスレーンと同じくらい?
「顔を覗き込んだ時、頬がぴくぴくしてたし目もわざとらしくぎゅっと瞑ってたから……振りをするのは下手だな」
そう言われても寝たふりをなどしたことがないのだから仕方ない。
「それで……私を……どうするの?私の連れはどうしたの」
男の目的がわからない。殺すつもりなら最初にそうしているだろう。でも殴ったりはされたから暴力を奮うことは厭わないのだろう。
「まあ、気になるわな………怖がってるみたいだが、もっと泣きわめくと思ってた。連れ?ああ、あの女剣士か……死んだとは聞いてないから大丈夫なんじゃないか」
「私が……誰か知っていてこんなことを?」
単なる人拐いか、それとも私がリンドバルク侯爵夫人だと知っていてなのか?どっちの場合もあり得るが、さっきの様子では後者のような気がする。
普通誘拐なら拐った方は出来るだけ顔を見られないよう気にする筈だ。なのに彼は堂々と顔をさらしている。絶対に捕まらない自信があるのか、それとも見られても構わないと思っているのか。
「もちろん、クリスティアーヌ・リンドバルク侯爵夫人……あんたと知っていて狙った。しかし驚いた。侯爵夫人が一人でいなくなった子どもを探し回るなんて。こっそり子どもを囮に呼び出して捕まえようと思っていたんだが、お陰でかなり時間が短縮できた」
「何が狙い?お金?私を拐って侯爵家からお金を取るの?」
「う~ん、半分外れ。あんたを拐ったのはお金で雇われたからだけど、お金はあんたを拐ってこいって言った人からもらう。こんなことやってるけど、俺にも譲れないものがあるんだよね。一度受けたら雇い主を裏切らない。たとえ相手がクズでも……」
「じゃあ……何?殺すの?」
「そこまで過激じゃないよ。まあ、殺すこともあるけど……だけどあんたは殺さない。安心した?」
どこまでも明るく話しているが、感情の感じられない口調が、かえって恐ろしい。この男は何だか危険だ。
でも彼は私を殺さないと言った。なぜかそれは信用できる。自分を拐った人間を信用できるっておかしいけど、なぜか彼は嘘は言っていないのがわかる。
「……殺さないなら……リンドバルク侯爵家からお金も取らないなら何のために?あなたに私を拐うように依頼した人間はどうしろと?」
「この世には死ぬより生きている方が大変なことがある。簡単に死んではおもしろくないだろ?死より苦しい生……いっそ殺してくれと懇願したくなるような苦痛……依頼人はあんたにそんな生き方をさせたいみたいだ。よっぽど恨まれてるみたいだな。あんた一体何をやったんだ」
誘拐犯に同情いっぱいの目で見つめられ、私は力なく首を左右に振った。
「それで子どもはどうした」
声は扉の外から聞こえる。子どもと言うのはミシェルのことだろう。一人が実行犯でもう一人が命令した方だとわかるが、話の内容からすると狙いは私みたいだ。
ミシェルはどうなのだろう。
「薬で眠らせていたので、例の者に運ばせました。今頃は親のところに戻っているでしょう」
ミシェルが無事だとわかりホッとした。
「ご苦労、これは約束の金だ。このことは誰にも言うな」
「わかってます。またうまい話があったら教えてください」
男の一人がばたばたと去っていく音が聞こえた後、ガチャリと部屋が唐突に開けられ、私は慌ててまだ気絶している風を装った。
人の歩いてくる音がして、顔を覗き込まれるのがわかった。
「ふん、あの旦那はこんなのが好みか……ならあのお嬢さんには難しいな」
お嬢さん?誰のこと?
そう言って男はガタンと椅子を動かしそこに腰を下ろした。
「さて、いつまで狸寝入りしてるつもりかな」
私が気が付いていることに男は気付いている。
「…………」
「別に黙っててもかまわない。そっちの方がこちらも助かるからな」
「……どうしてわかったの」
ばつが悪くなってごろりと反対側を向くと、目の前にがっしりとした体格の男が座っていた。
赤いモジャモジャの長髪をチョンマゲ風に束ね、黒に近い目をした体格のいい男が長い足を組んで座っていた。年はルイスレーンと同じくらい?
「顔を覗き込んだ時、頬がぴくぴくしてたし目もわざとらしくぎゅっと瞑ってたから……振りをするのは下手だな」
そう言われても寝たふりをなどしたことがないのだから仕方ない。
「それで……私を……どうするの?私の連れはどうしたの」
男の目的がわからない。殺すつもりなら最初にそうしているだろう。でも殴ったりはされたから暴力を奮うことは厭わないのだろう。
「まあ、気になるわな………怖がってるみたいだが、もっと泣きわめくと思ってた。連れ?ああ、あの女剣士か……死んだとは聞いてないから大丈夫なんじゃないか」
「私が……誰か知っていてこんなことを?」
単なる人拐いか、それとも私がリンドバルク侯爵夫人だと知っていてなのか?どっちの場合もあり得るが、さっきの様子では後者のような気がする。
普通誘拐なら拐った方は出来るだけ顔を見られないよう気にする筈だ。なのに彼は堂々と顔をさらしている。絶対に捕まらない自信があるのか、それとも見られても構わないと思っているのか。
「もちろん、クリスティアーヌ・リンドバルク侯爵夫人……あんたと知っていて狙った。しかし驚いた。侯爵夫人が一人でいなくなった子どもを探し回るなんて。こっそり子どもを囮に呼び出して捕まえようと思っていたんだが、お陰でかなり時間が短縮できた」
「何が狙い?お金?私を拐って侯爵家からお金を取るの?」
「う~ん、半分外れ。あんたを拐ったのはお金で雇われたからだけど、お金はあんたを拐ってこいって言った人からもらう。こんなことやってるけど、俺にも譲れないものがあるんだよね。一度受けたら雇い主を裏切らない。たとえ相手がクズでも……」
「じゃあ……何?殺すの?」
「そこまで過激じゃないよ。まあ、殺すこともあるけど……だけどあんたは殺さない。安心した?」
どこまでも明るく話しているが、感情の感じられない口調が、かえって恐ろしい。この男は何だか危険だ。
でも彼は私を殺さないと言った。なぜかそれは信用できる。自分を拐った人間を信用できるっておかしいけど、なぜか彼は嘘は言っていないのがわかる。
「……殺さないなら……リンドバルク侯爵家からお金も取らないなら何のために?あなたに私を拐うように依頼した人間はどうしろと?」
「この世には死ぬより生きている方が大変なことがある。簡単に死んではおもしろくないだろ?死より苦しい生……いっそ殺してくれと懇願したくなるような苦痛……依頼人はあんたにそんな生き方をさせたいみたいだ。よっぽど恨まれてるみたいだな。あんた一体何をやったんだ」
誘拐犯に同情いっぱいの目で見つめられ、私は力なく首を左右に振った。
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