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第十三章
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覚悟を決めて彼に懇願する。
「話して…何があったんですか?どうやって私を見つけてくれたんですか?ヴァネッサはどうなったの?それにモーシャスやアレックス・バーレーンは?」
「質問だらけだな」
「だって、何もわからないのですもの」
「私が口下手なのを知っているだろう?それに、聞いて楽しい話ではない。むしろ聞かなければよかったと後悔するぞ」
「それでも、私の身に起こったことなら、知っておきたい」
「はっきり覚えていないことなら、無理に訊く必要はない」
「それでも、私は知りたいです。アイリは辛いことから目を反らした結果、一人で死んでいった。もっと早くに勇気を出していれば、変わったかもしれない。私も母があんな死に方をしたのに、怖くて口を閉じ、叔父の罪をうやむやにしてしまった」
「腕力で勝てる筈もない。しかも母上への暴力を見せつけられていたのだ」
寝台の枕を立てて彼がそこに背を預け、私はそんな彼にすっぽり包まれながら、彼の足の間に座った。
「まず最初に君が行方不明だとわかって、手がかりもないまま一夜が明けた。それからナタリーがギオーヴに連れられて告白したんだ………」
夜会に出てヴァネッサを誘い出し、ハミルを脅してウェストの屋敷を、ギオーヴさんとスティーブの三人で襲撃したことを語る。
ヴァネッサがルイスレーンにしつこく色気を振り撒いたと聞いてムカついたが、彼が小指の先程も心を動かされなかったと聞いて安心した。
そしてヴァネッサとハミル二人の顛末を聞いて目を丸くした。
二人を乗せた馬車をウェストに預けた後、ウェストは言われたとおり二人をルクレンティオ侯爵家に連れていったらしい。
使用人たちは唖然とし、母親はショックのあまりその場で昏倒した。ハミルは父親の侯爵から解雇を言い渡されたそうだ。
ルイスレーンが後からウェストに聞いたことだ。
ウェストが今回の実行犯になるが、彼の組織は潰すには惜しいと考え、これからは街の治安のために領地されるという。
それからあのクラブでの出来事へと続いた。
「いざ乗り込んでみると君は跡形もなく消えていた。さっきまでこの腕に抱いていたのに、あれは君を想うあまり見せた幻だったのかと思った」
その時のことを思いだし、彼が私をぎゅっと抱き締める。
「自分が出ていった時に共に連れ出すべきだったと後悔した。君と共にいた女性たちが、もう一人目が見えないケイトリンという娘もいないと言っていた。二人でどこに消えたのか、モーシャスとその側近もいなかった。あそこの建物にあった彼の部屋は荒らされていて、慌てて大事なものだけ引っ張り出して逃げたのがわかった。事前に摘発が洩れたようだ」
それからモーシャスを探すのに二日かかった。クラブと彼の事務所に残された手がかりは殆どなく、オヴァイエの事務所にも捜索の手が入り、そうして王都内で彼らを庇護していた人物が判明した。
「ルクレンティオ侯爵……彼がモーシャスと繋がりバーレーンを庇護していた。他にも彼から誘いを受けた貴族が何人か捕まり、今エリンバウアの貴族層はかなり混乱している」
そんな中でルイスレーンは私のためにひと月も休んでいる。申し訳ない気持ちが沸き上がった。
ルイスレーンが語ってくれた色々な話を聞きながら、私は彼があることについて語らなかったことに気がついていた。
私を見つけた経緯や関わった人々の顛末、まだ解決していないことなど。私が見つかったときにバーレーンの毒気に犯されていたことはわかったが、どのようにしてそうなったか、彼は何も言わない。
「バーレーンを殺したことであなたは罪に問われたりはしないのですか?」
いくらお尋ね者でも相手は他国の者だ。本来ならきちんと身柄を確保してカメイラに引き渡すべきではなかっただろうか。
「バーレーンのことはカメイラにとって秘匿すべきことだ。王を手玉にとり戦争を仕掛けたこともそうだが、黒魔石の利用については表だって発表することができない。国がそんな研究をしていたことを国民は知らない。それに、バーレーンは既に処刑されていることになっていた。死んだ人間が犯した事件だ。私は言わば、既に死んだ人間を殺したことになる。それに先に君を拐ったのはやつだ。彼もそれなりに覚悟はしていただろう」
私のせいで人を殺したルイスレーンが心配だった。日本ではそれでも罪に問われるかも知れないが、政治的な考えが絡むとここではそうではないらしい。私の知らない取引が行われたのだろう。
「ずっと夢を見ていたの。愛理の時に見聞きしたこと。それからクリスティアーヌの消えた記憶も……あなたとの結婚式の頃から、愛理の記憶や思いが甦っていて、混乱していた。自分がおかしくなったと思った。クリスティアーヌの知らない世界、知らない人が今と重なって……それにずっと母が叔父に暴力を振るわれていたことで、男の人が怖かった。旦那様は背も高くてがっしりとしていて……」
「そうだったのか……すまなかった……君を怖がらせるつもりはなかった」
「初夜の日も……最初に怖がっていたのは私だけど、結局何もしなかったのは、この結婚があなたにとって無理矢理なんだと思ったこと……」
「そんなことはない。嫌なら始めから断っていた」
「今ではそうだとわかっているわ。私たちお互いにきちんと自分の考えを伝えあっていなかった」
「そうだな………」
「今もそう……私にわざと言っていないことがありますよね」
後ろを向いて彼と正面になる。
表情は努めて冷静で眉ひとつ動かなかったが、瞳の緑と橙の虹彩が僅かに揺れた。
「生きてさえいれば誰かが私に何かをしても、そんなことで穢れはしない……あなたはさっきそう言ったわ……それはつまり……私は……」
「愛しいクリスティアーヌ………誰も本当にそうだとは言いきれない。バーレーンは既に死んでいるし、ケイトリンという女が何か言っても、彼女もバーレーンの洗脳を受けていた。妄想かも知れない」
「でも、私を見つけてすぐにお医者様にみてもらったんですよね。その……色々と調べた筈です。それに、朦朧としていましたけど、何となく覚えているんです。あなたが私を傷つけたくなくてわざと避けているなら……はっきり言ってください。覚悟は出来ています」
はっきり強姦されたとは言えず言葉は濁したが、相対するルイスレーンの瞳が今にも泣きそうに揺れた。
「話して…何があったんですか?どうやって私を見つけてくれたんですか?ヴァネッサはどうなったの?それにモーシャスやアレックス・バーレーンは?」
「質問だらけだな」
「だって、何もわからないのですもの」
「私が口下手なのを知っているだろう?それに、聞いて楽しい話ではない。むしろ聞かなければよかったと後悔するぞ」
「それでも、私の身に起こったことなら、知っておきたい」
「はっきり覚えていないことなら、無理に訊く必要はない」
「それでも、私は知りたいです。アイリは辛いことから目を反らした結果、一人で死んでいった。もっと早くに勇気を出していれば、変わったかもしれない。私も母があんな死に方をしたのに、怖くて口を閉じ、叔父の罪をうやむやにしてしまった」
「腕力で勝てる筈もない。しかも母上への暴力を見せつけられていたのだ」
寝台の枕を立てて彼がそこに背を預け、私はそんな彼にすっぽり包まれながら、彼の足の間に座った。
「まず最初に君が行方不明だとわかって、手がかりもないまま一夜が明けた。それからナタリーがギオーヴに連れられて告白したんだ………」
夜会に出てヴァネッサを誘い出し、ハミルを脅してウェストの屋敷を、ギオーヴさんとスティーブの三人で襲撃したことを語る。
ヴァネッサがルイスレーンにしつこく色気を振り撒いたと聞いてムカついたが、彼が小指の先程も心を動かされなかったと聞いて安心した。
そしてヴァネッサとハミル二人の顛末を聞いて目を丸くした。
二人を乗せた馬車をウェストに預けた後、ウェストは言われたとおり二人をルクレンティオ侯爵家に連れていったらしい。
使用人たちは唖然とし、母親はショックのあまりその場で昏倒した。ハミルは父親の侯爵から解雇を言い渡されたそうだ。
ルイスレーンが後からウェストに聞いたことだ。
ウェストが今回の実行犯になるが、彼の組織は潰すには惜しいと考え、これからは街の治安のために領地されるという。
それからあのクラブでの出来事へと続いた。
「いざ乗り込んでみると君は跡形もなく消えていた。さっきまでこの腕に抱いていたのに、あれは君を想うあまり見せた幻だったのかと思った」
その時のことを思いだし、彼が私をぎゅっと抱き締める。
「自分が出ていった時に共に連れ出すべきだったと後悔した。君と共にいた女性たちが、もう一人目が見えないケイトリンという娘もいないと言っていた。二人でどこに消えたのか、モーシャスとその側近もいなかった。あそこの建物にあった彼の部屋は荒らされていて、慌てて大事なものだけ引っ張り出して逃げたのがわかった。事前に摘発が洩れたようだ」
それからモーシャスを探すのに二日かかった。クラブと彼の事務所に残された手がかりは殆どなく、オヴァイエの事務所にも捜索の手が入り、そうして王都内で彼らを庇護していた人物が判明した。
「ルクレンティオ侯爵……彼がモーシャスと繋がりバーレーンを庇護していた。他にも彼から誘いを受けた貴族が何人か捕まり、今エリンバウアの貴族層はかなり混乱している」
そんな中でルイスレーンは私のためにひと月も休んでいる。申し訳ない気持ちが沸き上がった。
ルイスレーンが語ってくれた色々な話を聞きながら、私は彼があることについて語らなかったことに気がついていた。
私を見つけた経緯や関わった人々の顛末、まだ解決していないことなど。私が見つかったときにバーレーンの毒気に犯されていたことはわかったが、どのようにしてそうなったか、彼は何も言わない。
「バーレーンを殺したことであなたは罪に問われたりはしないのですか?」
いくらお尋ね者でも相手は他国の者だ。本来ならきちんと身柄を確保してカメイラに引き渡すべきではなかっただろうか。
「バーレーンのことはカメイラにとって秘匿すべきことだ。王を手玉にとり戦争を仕掛けたこともそうだが、黒魔石の利用については表だって発表することができない。国がそんな研究をしていたことを国民は知らない。それに、バーレーンは既に処刑されていることになっていた。死んだ人間が犯した事件だ。私は言わば、既に死んだ人間を殺したことになる。それに先に君を拐ったのはやつだ。彼もそれなりに覚悟はしていただろう」
私のせいで人を殺したルイスレーンが心配だった。日本ではそれでも罪に問われるかも知れないが、政治的な考えが絡むとここではそうではないらしい。私の知らない取引が行われたのだろう。
「ずっと夢を見ていたの。愛理の時に見聞きしたこと。それからクリスティアーヌの消えた記憶も……あなたとの結婚式の頃から、愛理の記憶や思いが甦っていて、混乱していた。自分がおかしくなったと思った。クリスティアーヌの知らない世界、知らない人が今と重なって……それにずっと母が叔父に暴力を振るわれていたことで、男の人が怖かった。旦那様は背も高くてがっしりとしていて……」
「そうだったのか……すまなかった……君を怖がらせるつもりはなかった」
「初夜の日も……最初に怖がっていたのは私だけど、結局何もしなかったのは、この結婚があなたにとって無理矢理なんだと思ったこと……」
「そんなことはない。嫌なら始めから断っていた」
「今ではそうだとわかっているわ。私たちお互いにきちんと自分の考えを伝えあっていなかった」
「そうだな………」
「今もそう……私にわざと言っていないことがありますよね」
後ろを向いて彼と正面になる。
表情は努めて冷静で眉ひとつ動かなかったが、瞳の緑と橙の虹彩が僅かに揺れた。
「生きてさえいれば誰かが私に何かをしても、そんなことで穢れはしない……あなたはさっきそう言ったわ……それはつまり……私は……」
「愛しいクリスティアーヌ………誰も本当にそうだとは言いきれない。バーレーンは既に死んでいるし、ケイトリンという女が何か言っても、彼女もバーレーンの洗脳を受けていた。妄想かも知れない」
「でも、私を見つけてすぐにお医者様にみてもらったんですよね。その……色々と調べた筈です。それに、朦朧としていましたけど、何となく覚えているんです。あなたが私を傷つけたくなくてわざと避けているなら……はっきり言ってください。覚悟は出来ています」
はっきり強姦されたとは言えず言葉は濁したが、相対するルイスレーンの瞳が今にも泣きそうに揺れた。
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