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番外編 その後の二人
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その二日後、王宮から手紙が届いた。
差出人はエレノア様とイヴァンジェリン様だった。
ルイスレーンから私の悪阻が落ち着いたことを聞き、体調が良ければお茶でも一緒にという内容だった。
日にちは明日で、あくまでも個人的な茶会なので出席者は二人のお妃と私、それからフランチェスカ様の四人だから気兼ねなく参加してほしいと言う内容で書かれていた。
二人からは時折手紙や花などを贈っていただき、手紙でお礼は伝えていたが、お会いするのは久しぶりだった。
愛理として目覚めてすぐのお茶会を思い出す。
あの時はひどく緊張したが、今ではマリアーサ様も含めて私にとって姉のような存在だ。
喜んで参加させていただきますと返事を書いて、マリアンナたちに外出のことを伝えた。
「クリスティアーヌ様について外出するのは本当に久しぶりですね」
翌日、支度を済ませて玄関を出ると馬車の横で待機していたギオーヴさんと言葉を交わした。
初めてルイスレーンが私の護衛として雇ってくれたスティーブはルイスレーン付きとなり、ルイスレーンについて被災地へと行っていた。
ギオーヴさんは正式に侯爵家で雇い入れ邸の警護の傍ら私の護衛を続けてくれている。
悪阻の間も邸内で会えば話はしたが、彼の言うように外出は久しぶりだった。
「本当ね。近いうちにニコラス先生の保育園にも行くつもりですから、よろしくね」
「かしこまりました。ところで、マディソンも同行されるのですね」
「ええ、途中で何かあっては大変ですし、男の方では対応できないこともありますから」
マリアンナが万が一のことがあってはと侍女を一人付けることを主張した。
「それは心強いことです。男の我々ではクリスティアーヌ様のお体に触れることもできませんから」
「ところで、この馬車は前からありましたか?」
リンドバルク侯爵家の家紋がついた鈍色に光る馬車は初めて見た。
車輪も大きく幅も太い。前までの馬車の車輪が乗用車なら目の前のはトラック並みだ。
「お気づきになりましたか。こちらは最近新しく購入したものです」
「新しく…前のはそんなに古かったかしら」
そう言うとギオーヴさんや御者のトムたちがまさかと笑った。
「前までの馬車もちゃんとあります。こちらはルイスレーン様がクリスティアーヌ様が外出できるようになったらとご用意されました」
「どういうことですか?」
馬車に乗るのは私とルイスレーンだけだ。もちろん王都内を走る用から長距離移動で使うもの、4頭立てから二頭立て、荷馬車なども含めれば一台だけとは言えないが、新たに買うなんて。
「まずはお乗りください。乗っていただければわかります」
ギオーヴさんが扉を開けて、不思議に思いながら馬車に乗った。マディソンに続いてギオーヴさんも乗り込んだ。
中はさすがに買ったばかりとあって何もかも新しい。
「私が行くのは王宮なのに、これは長距離用と同じ感じですね」
広々として座席もクッションがきいていて座り心地がいい。背もたれも直立ではなくゆったりと背を預けられる。
「奥様がゆっくり座って移動できるように素材にも拘り、振動も少なくなるように設計されています。旦那様が細かく指示を出して特別に作らせたそうです」
「素晴らしいです。こんな豪華な馬車は初めてです」
マディソンが私より興奮している。
馬車が動き出してからギオーヴさんが教えてくれた。確かにこれまでの馬車より確実に振動が少ない。
乗ったことはないがまるでロールスロイスのような雰囲気だ。
「それだけでなく厚さも普通の倍はあって窓も二重になっています」
「それであれだけ大きな車輪なのですね」
「矢が飛んできてもおいそれと貫通しません」
まるで戦車のような装甲に最高の快適性を備えた馬車だった。一体いくらしたのだろう。下世話だがついそんなことを考えてしまう。
「そういえば、閣下からもし奥様が費用について心配するようなら、これは未来のリンドバルク侯爵のための投資だからだと言うようにということでした」
「ルイスレーンがそんなことを…」
私が気を使うのをルイスレーンは見越していたのだろう。私のことをよくわかっている。
妊娠中の乗り物移動は振動が良くないとは聞いたことがある。
王都内の道はほぼ石畳でどうしても振動が気になる。まったく振動をなくすことはできないが、この馬車は王族でも持っているかどうかわからないくらい豪華だ。
「奥様とお子様のことをとても大切にされているのが伝わります」
本当にそのとおりだと思った。涙がこみ上げてきて今すぐ彼に会って感謝の気持ちを伝えたいと思った。
馬車の窓から見える空を見上げ、この空がルイスレーンのいる場所につながっているのだと思いながら王宮へと向かった。
差出人はエレノア様とイヴァンジェリン様だった。
ルイスレーンから私の悪阻が落ち着いたことを聞き、体調が良ければお茶でも一緒にという内容だった。
日にちは明日で、あくまでも個人的な茶会なので出席者は二人のお妃と私、それからフランチェスカ様の四人だから気兼ねなく参加してほしいと言う内容で書かれていた。
二人からは時折手紙や花などを贈っていただき、手紙でお礼は伝えていたが、お会いするのは久しぶりだった。
愛理として目覚めてすぐのお茶会を思い出す。
あの時はひどく緊張したが、今ではマリアーサ様も含めて私にとって姉のような存在だ。
喜んで参加させていただきますと返事を書いて、マリアンナたちに外出のことを伝えた。
「クリスティアーヌ様について外出するのは本当に久しぶりですね」
翌日、支度を済ませて玄関を出ると馬車の横で待機していたギオーヴさんと言葉を交わした。
初めてルイスレーンが私の護衛として雇ってくれたスティーブはルイスレーン付きとなり、ルイスレーンについて被災地へと行っていた。
ギオーヴさんは正式に侯爵家で雇い入れ邸の警護の傍ら私の護衛を続けてくれている。
悪阻の間も邸内で会えば話はしたが、彼の言うように外出は久しぶりだった。
「本当ね。近いうちにニコラス先生の保育園にも行くつもりですから、よろしくね」
「かしこまりました。ところで、マディソンも同行されるのですね」
「ええ、途中で何かあっては大変ですし、男の方では対応できないこともありますから」
マリアンナが万が一のことがあってはと侍女を一人付けることを主張した。
「それは心強いことです。男の我々ではクリスティアーヌ様のお体に触れることもできませんから」
「ところで、この馬車は前からありましたか?」
リンドバルク侯爵家の家紋がついた鈍色に光る馬車は初めて見た。
車輪も大きく幅も太い。前までの馬車の車輪が乗用車なら目の前のはトラック並みだ。
「お気づきになりましたか。こちらは最近新しく購入したものです」
「新しく…前のはそんなに古かったかしら」
そう言うとギオーヴさんや御者のトムたちがまさかと笑った。
「前までの馬車もちゃんとあります。こちらはルイスレーン様がクリスティアーヌ様が外出できるようになったらとご用意されました」
「どういうことですか?」
馬車に乗るのは私とルイスレーンだけだ。もちろん王都内を走る用から長距離移動で使うもの、4頭立てから二頭立て、荷馬車なども含めれば一台だけとは言えないが、新たに買うなんて。
「まずはお乗りください。乗っていただければわかります」
ギオーヴさんが扉を開けて、不思議に思いながら馬車に乗った。マディソンに続いてギオーヴさんも乗り込んだ。
中はさすがに買ったばかりとあって何もかも新しい。
「私が行くのは王宮なのに、これは長距離用と同じ感じですね」
広々として座席もクッションがきいていて座り心地がいい。背もたれも直立ではなくゆったりと背を預けられる。
「奥様がゆっくり座って移動できるように素材にも拘り、振動も少なくなるように設計されています。旦那様が細かく指示を出して特別に作らせたそうです」
「素晴らしいです。こんな豪華な馬車は初めてです」
マディソンが私より興奮している。
馬車が動き出してからギオーヴさんが教えてくれた。確かにこれまでの馬車より確実に振動が少ない。
乗ったことはないがまるでロールスロイスのような雰囲気だ。
「それだけでなく厚さも普通の倍はあって窓も二重になっています」
「それであれだけ大きな車輪なのですね」
「矢が飛んできてもおいそれと貫通しません」
まるで戦車のような装甲に最高の快適性を備えた馬車だった。一体いくらしたのだろう。下世話だがついそんなことを考えてしまう。
「そういえば、閣下からもし奥様が費用について心配するようなら、これは未来のリンドバルク侯爵のための投資だからだと言うようにということでした」
「ルイスレーンがそんなことを…」
私が気を使うのをルイスレーンは見越していたのだろう。私のことをよくわかっている。
妊娠中の乗り物移動は振動が良くないとは聞いたことがある。
王都内の道はほぼ石畳でどうしても振動が気になる。まったく振動をなくすことはできないが、この馬車は王族でも持っているかどうかわからないくらい豪華だ。
「奥様とお子様のことをとても大切にされているのが伝わります」
本当にそのとおりだと思った。涙がこみ上げてきて今すぐ彼に会って感謝の気持ちを伝えたいと思った。
馬車の窓から見える空を見上げ、この空がルイスレーンのいる場所につながっているのだと思いながら王宮へと向かった。
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