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番外編 その後の二人
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「お帰りなさい」
「ただいま」
階下に降りていくとルイスレーンは帰宅していて、書斎の椅子に座っていた。
机に肘を立てて顰めていた顔が、私を見て緩んだ。
「ごめんなさい。いつの間にか眠っていて」
最近眠気がよく襲ってくる。夕方からウトウトとしだして、気がつくととっくに日は落ちていた。
「気にするな。体が欲しているからだ。でもここの書類も片付けてくれたんだな」
さっき私が目を通して整理した書類の束を指差す。
「簡単な計算なら…難しいことはわかりませんけど」
「いや、それだけでも随分助かる。それに重要なものとそこまででないものなど、よく仕分けされている。侯爵家の内部事情は私より君のほうが詳しくなっているな」
「少しでもお役に立てているなら嬉しいです」
「前世での教育課程はかなりのものだな。特に計算は正確だ。それにこの帳簿はとても良くできている」
算数程度の計算と複式簿記の知識が侯爵家の家計を見るのに役立った。
「さて、君も目が覚めたことだし、そろそろ夕食にしよう」
立ち上がり側まで来ると、私に向かって手の平を向けた。
そこに手を載せ二人で食堂へ歩き出した。
「昼間出かけた件はうまくいったのですか?」
「ああ。先生たちに相談して何とか…」
「それは良かったわ」
ルイスレーンはあまり言いたくなさそうだったのて、根掘り葉掘り聞くのは躊躇われた。軍内のことは、いくら妻にも言えないことがあるのだろう。
「もしお疲れでなかったら、夕食の後でお時間をいただけますか?」
「君との時間ならいつでも空けよう」
どこまでも優しい目で私を見つめる。目には見えないがこの人から発せられるオーラのようなものが私を包み、安心させてくれる。
「それで、話とは?」
二人で寝室に戻った。
私は刺激の少ないハーブティーを、ルイスレーンはまだ少し飲み足りないらしく、デカンターに移した赤ワインを口にしている。
もしかしたら送っていく馬車の中で、すでにモアラから聞いていたかもと思いながら、話を切り出した。
「実は出産した後の話なんですが…」
「うん、それで?」
「乳母をお雇いになるんですよね?」
「そうだな。そろそろ人選にかからないといけないとは思っている」
「私…じ、自分でしてはだめでしょうか?」
「え、何を?」
「授乳…赤ちゃんに、その…お乳を…」
「え…」
ルイスレーンの目が大きく見開かれる。彼にとって意外な話だったのだとわかる。
「もちろん、双子だし私の母乳の出が悪いことだってありますから、乳母は必要かもしれません。でも、出来るなら、自分の母乳で育てたいんです」
ルイスレーンが黙っている間に、一気に言い切った。
「その…貴族の風習に逆らうことはわかっています」
言い終えて、ルイスレーンの無言の間が耐えられずに最後は小声になった。
「それは、アイリの世界の考えなのかな?」
「普通の人は乳母なんて雇いません。母乳が出なければ粉ミルクがあります」
それが買えない人はどうするのかは正直よく知らない。でも乳母を雇うなんていうのはどこかの王族クラスの話で、日本には貴賓の制度はない。お金持ちだって庶民だから、ベビーシッターはいても授乳までする人がいるのだろうか。
「母乳…か」
私の話を聞いてルイスレーンが困った顔をする。
「やっぱり、貴族らしくないですか?」
「いや、そうではない。ただ…」
「ただ?」
ルイスレーンは口を開きかけては閉じ、考えてまた口を開きかけを数度繰り返した。
何か言い難いことがあるのだとわかる。
「何かあるんですか?」
「その、君を不安にさせたくはなくて、黙っていようと思ったのだが」
「私や赤ちゃんたちのことなら、何でも話してください。ルイスレーンだけが抱え込むのではなく、二人で共有しましょう」
私がそう言うと、ルイスレーンは覚悟を決めたのか「わかった」と頷いた。
「ラジークのことだ」
「ラジークさん?」
「そうだ。今日も体調が思わしくなくて来られなかった」
「はい。そうですね」
「彼は黒い魔女、黒の魔石の影響を受けた母親から生まれた。これまで何もなかったが、今の彼の体の状態は黒の魔石のせいではないだろうかと、思っている」
「ただいま」
階下に降りていくとルイスレーンは帰宅していて、書斎の椅子に座っていた。
机に肘を立てて顰めていた顔が、私を見て緩んだ。
「ごめんなさい。いつの間にか眠っていて」
最近眠気がよく襲ってくる。夕方からウトウトとしだして、気がつくととっくに日は落ちていた。
「気にするな。体が欲しているからだ。でもここの書類も片付けてくれたんだな」
さっき私が目を通して整理した書類の束を指差す。
「簡単な計算なら…難しいことはわかりませんけど」
「いや、それだけでも随分助かる。それに重要なものとそこまででないものなど、よく仕分けされている。侯爵家の内部事情は私より君のほうが詳しくなっているな」
「少しでもお役に立てているなら嬉しいです」
「前世での教育課程はかなりのものだな。特に計算は正確だ。それにこの帳簿はとても良くできている」
算数程度の計算と複式簿記の知識が侯爵家の家計を見るのに役立った。
「さて、君も目が覚めたことだし、そろそろ夕食にしよう」
立ち上がり側まで来ると、私に向かって手の平を向けた。
そこに手を載せ二人で食堂へ歩き出した。
「昼間出かけた件はうまくいったのですか?」
「ああ。先生たちに相談して何とか…」
「それは良かったわ」
ルイスレーンはあまり言いたくなさそうだったのて、根掘り葉掘り聞くのは躊躇われた。軍内のことは、いくら妻にも言えないことがあるのだろう。
「もしお疲れでなかったら、夕食の後でお時間をいただけますか?」
「君との時間ならいつでも空けよう」
どこまでも優しい目で私を見つめる。目には見えないがこの人から発せられるオーラのようなものが私を包み、安心させてくれる。
「それで、話とは?」
二人で寝室に戻った。
私は刺激の少ないハーブティーを、ルイスレーンはまだ少し飲み足りないらしく、デカンターに移した赤ワインを口にしている。
もしかしたら送っていく馬車の中で、すでにモアラから聞いていたかもと思いながら、話を切り出した。
「実は出産した後の話なんですが…」
「うん、それで?」
「乳母をお雇いになるんですよね?」
「そうだな。そろそろ人選にかからないといけないとは思っている」
「私…じ、自分でしてはだめでしょうか?」
「え、何を?」
「授乳…赤ちゃんに、その…お乳を…」
「え…」
ルイスレーンの目が大きく見開かれる。彼にとって意外な話だったのだとわかる。
「もちろん、双子だし私の母乳の出が悪いことだってありますから、乳母は必要かもしれません。でも、出来るなら、自分の母乳で育てたいんです」
ルイスレーンが黙っている間に、一気に言い切った。
「その…貴族の風習に逆らうことはわかっています」
言い終えて、ルイスレーンの無言の間が耐えられずに最後は小声になった。
「それは、アイリの世界の考えなのかな?」
「普通の人は乳母なんて雇いません。母乳が出なければ粉ミルクがあります」
それが買えない人はどうするのかは正直よく知らない。でも乳母を雇うなんていうのはどこかの王族クラスの話で、日本には貴賓の制度はない。お金持ちだって庶民だから、ベビーシッターはいても授乳までする人がいるのだろうか。
「母乳…か」
私の話を聞いてルイスレーンが困った顔をする。
「やっぱり、貴族らしくないですか?」
「いや、そうではない。ただ…」
「ただ?」
ルイスレーンは口を開きかけては閉じ、考えてまた口を開きかけを数度繰り返した。
何か言い難いことがあるのだとわかる。
「何かあるんですか?」
「その、君を不安にさせたくはなくて、黙っていようと思ったのだが」
「私や赤ちゃんたちのことなら、何でも話してください。ルイスレーンだけが抱え込むのではなく、二人で共有しましょう」
私がそう言うと、ルイスレーンは覚悟を決めたのか「わかった」と頷いた。
「ラジークのことだ」
「ラジークさん?」
「そうだ。今日も体調が思わしくなくて来られなかった」
「はい。そうですね」
「彼は黒い魔女、黒の魔石の影響を受けた母親から生まれた。これまで何もなかったが、今の彼の体の状態は黒の魔石のせいではないだろうかと、思っている」
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