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猫背気味だった背筋もピンと伸び、相変わらず意思の強そうな力強い瞳をしているが、今日の彼女はいつものように伏し目がちではなく、真っ直ぐにこちらを見返している。
「ジーンクリフト様、本日はお招きいただきありがとうございます」
言葉を失っている彼にセレニアが先に挨拶をする。本来なら自分が先に挨拶すべきところを失敗してしまった。
「彼らとは挨拶は済ませたのか?」
「はい、何とかお名前だけは教えていただきました」
セレニアに訊ねたのにナサニエルが答える。
「お二人ともジーンクリフト様の部下だったそうですね」
「ええ、私が医療担当で、こちらのナサニエルが補給部隊の担当でした」
いつも自分の前では伏し目がちだったセレニアが、どういうわけか二人の目を真っ直ぐに見て笑っている。
「二人を君に紹介しようと思っていたのだが、その必要はなかったみたいだ」
既に打ち解けあっている三人を見て言う。
「ところで、その衣裳……『クリスタル・ギャラリー』の作品でないですか?」
ナサニエルは商家の出だけあって、物を見る目がある。食材から骨董品までその目利きはかなり信頼できる。
セレニアの作る茶葉も彼なら上手く売り出してくれると考えている。
「わかりますか?私もびっくりなんですが、メリッサさんのお知り合いが、まさか『クリスタル・ギャラリー』のオーナーなんて」
嬉しそうにくるりと回転するセレニアを見て、驚いた。こんな風に軽やかな動作をする子だったろうか。
「『クリスタル・ギャラリー』ですって!」
声がして振り向くと、そこに金髪の巻き毛に緑色の瞳をした小柄な女性が立っていた。
淡いグリーンを基調としたドレスは美しいが、ロザリーさんが仕立ててくれたドレスはその何倍も素晴らしくセレニアを引き立てている。
なぜか彼女はセレニアを頭から爪先まで睨み付けるように見つめ問いただす。
確か、ヴェイラート伯爵家のキャサリンと言った。
先ほど入り口で挨拶したばかりだ。
「今『クリスタル・ギャラリー』って言わなかった?」
「ええ、そうよ……メリッサさんのお知り合いが王都でそういう名の仕立屋を営んでいらっしゃるの」
「なんで……なんでセレニアが……」
「ご令嬢……少し不作法ではありませんか?」
クリオがセレニアのドレスの裾を引っ張るヴェイラート伯爵令嬢に厳しい目を向ける。
「あら、失礼………さすが、職人の腕が違うと、大柄なセレニアでも何とかなるものですわね」
意地悪い彼女の言葉に、さっきまであんなに輝いていたセレニアの輝きがみるみる失われていく。
背の高いことを指摘されるのが、セレニアにとって苦痛だと知っていてそう言うなら、彼女は見事成功したと言えるが、どんな場であれ、人の欠点や気にしていることを攻撃するのは気に入らない。
クリオとナサニエルを見れば、彼らも同じ気持ちのようで顔をしかめている。目の前の彼女はセレニアの顔が曇ったのを見て満足そうにして、自分の言動が我々に不快感を与えたことに気づいていない。
「そ、そうね……これがほんとの馬子にも衣裳……かしら」
セレニアは精一杯の笑顔を貼り付かせ自嘲気味に言う。その気持ちが痛々しくなる。
「そんなことはない。十分似合っている。思わず見惚れた」
不意に口を吐いて出た言葉に自分自身が一番驚いた。彼女が卑下することなど何もない。メリッサの友人であるロザリーの腕は評判通り確かだ。彼女はこの中の誰より際立っている。
「閣下のおっしゃるとおりです。首都でもあなたのようにすらりとした体躯の方は珍しい。さぞかし大勢の注目の的になるでしょう」
「そうです。著名な画家があなたを題材に是非絵を描かせてくれと言ってくるに違いありません」
クリオとナサニエルもこぞってセレニアを絶賛する。彼らがセレニアの背丈を欠点でなく美徳だと受け入れたのは嬉しい限りだが、なぜか胸がモヤモヤした。
「……ありがとう……ございます」
初対面の異性から容姿について称賛されたことがないセレニアが、今度は一転して頬を赤らめる。
その様子が明らかに面白くないキャラリン嬢が、口許を震わせた。
「皆様、女性の扱いがお上手ですこと……でもお気をつけ下さい。下手に誉めると好意があると勘違いしてしまう者もおりますから」
「心にもない世辞は言わない。私はその場しのぎの嘘を言わなければならない立場にはない。私の無事な帰還を祝うためにここに来てくれているなら、それ以上の失言は慎んでもらえると有難い」
今宵は皆が自分を祝うために集ってくれている。そこに水を差すつもりはないが、セレニアに対して蔑んだり貶めることを言うためにいるのなら、彼女はこの場に似つかわしくない。そう言う苛立ちを込めて告げた。
「わ、私は……別に……」
浅はかだが脳みそは少しはあるのか、自分の発言が私の不興を買ったと察して彼女が口ごもった。
「ジーンクリフト様、本日はお招きいただきありがとうございます」
言葉を失っている彼にセレニアが先に挨拶をする。本来なら自分が先に挨拶すべきところを失敗してしまった。
「彼らとは挨拶は済ませたのか?」
「はい、何とかお名前だけは教えていただきました」
セレニアに訊ねたのにナサニエルが答える。
「お二人ともジーンクリフト様の部下だったそうですね」
「ええ、私が医療担当で、こちらのナサニエルが補給部隊の担当でした」
いつも自分の前では伏し目がちだったセレニアが、どういうわけか二人の目を真っ直ぐに見て笑っている。
「二人を君に紹介しようと思っていたのだが、その必要はなかったみたいだ」
既に打ち解けあっている三人を見て言う。
「ところで、その衣裳……『クリスタル・ギャラリー』の作品でないですか?」
ナサニエルは商家の出だけあって、物を見る目がある。食材から骨董品までその目利きはかなり信頼できる。
セレニアの作る茶葉も彼なら上手く売り出してくれると考えている。
「わかりますか?私もびっくりなんですが、メリッサさんのお知り合いが、まさか『クリスタル・ギャラリー』のオーナーなんて」
嬉しそうにくるりと回転するセレニアを見て、驚いた。こんな風に軽やかな動作をする子だったろうか。
「『クリスタル・ギャラリー』ですって!」
声がして振り向くと、そこに金髪の巻き毛に緑色の瞳をした小柄な女性が立っていた。
淡いグリーンを基調としたドレスは美しいが、ロザリーさんが仕立ててくれたドレスはその何倍も素晴らしくセレニアを引き立てている。
なぜか彼女はセレニアを頭から爪先まで睨み付けるように見つめ問いただす。
確か、ヴェイラート伯爵家のキャサリンと言った。
先ほど入り口で挨拶したばかりだ。
「今『クリスタル・ギャラリー』って言わなかった?」
「ええ、そうよ……メリッサさんのお知り合いが王都でそういう名の仕立屋を営んでいらっしゃるの」
「なんで……なんでセレニアが……」
「ご令嬢……少し不作法ではありませんか?」
クリオがセレニアのドレスの裾を引っ張るヴェイラート伯爵令嬢に厳しい目を向ける。
「あら、失礼………さすが、職人の腕が違うと、大柄なセレニアでも何とかなるものですわね」
意地悪い彼女の言葉に、さっきまであんなに輝いていたセレニアの輝きがみるみる失われていく。
背の高いことを指摘されるのが、セレニアにとって苦痛だと知っていてそう言うなら、彼女は見事成功したと言えるが、どんな場であれ、人の欠点や気にしていることを攻撃するのは気に入らない。
クリオとナサニエルを見れば、彼らも同じ気持ちのようで顔をしかめている。目の前の彼女はセレニアの顔が曇ったのを見て満足そうにして、自分の言動が我々に不快感を与えたことに気づいていない。
「そ、そうね……これがほんとの馬子にも衣裳……かしら」
セレニアは精一杯の笑顔を貼り付かせ自嘲気味に言う。その気持ちが痛々しくなる。
「そんなことはない。十分似合っている。思わず見惚れた」
不意に口を吐いて出た言葉に自分自身が一番驚いた。彼女が卑下することなど何もない。メリッサの友人であるロザリーの腕は評判通り確かだ。彼女はこの中の誰より際立っている。
「閣下のおっしゃるとおりです。首都でもあなたのようにすらりとした体躯の方は珍しい。さぞかし大勢の注目の的になるでしょう」
「そうです。著名な画家があなたを題材に是非絵を描かせてくれと言ってくるに違いありません」
クリオとナサニエルもこぞってセレニアを絶賛する。彼らがセレニアの背丈を欠点でなく美徳だと受け入れたのは嬉しい限りだが、なぜか胸がモヤモヤした。
「……ありがとう……ございます」
初対面の異性から容姿について称賛されたことがないセレニアが、今度は一転して頬を赤らめる。
その様子が明らかに面白くないキャラリン嬢が、口許を震わせた。
「皆様、女性の扱いがお上手ですこと……でもお気をつけ下さい。下手に誉めると好意があると勘違いしてしまう者もおりますから」
「心にもない世辞は言わない。私はその場しのぎの嘘を言わなければならない立場にはない。私の無事な帰還を祝うためにここに来てくれているなら、それ以上の失言は慎んでもらえると有難い」
今宵は皆が自分を祝うために集ってくれている。そこに水を差すつもりはないが、セレニアに対して蔑んだり貶めることを言うためにいるのなら、彼女はこの場に似つかわしくない。そう言う苛立ちを込めて告げた。
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