【完結:R18】女相続人と辺境伯

七夜かなた

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夢を見ているのかと思った。

素敵なドレスを着て、気持ちが少し浮き立っていたことは否定しない。

ロザリーさんが私にかけてくれた魔法は確かに私の気持ちを上向きにしてくれた。

でもいつも会場の隅で壁の花だった身としては、正面から挑むのは弱冠恥ずかしく、メリッサさんに頼んでこっそり裏口からビッテルバーク邸を訪れた。

既に招待客の殆どが会場に到着していたが、ジーンクリフト様はまだ玄関で皆を出迎えている。その後ろ姿をこっそりと見て、今日の出で立ちも素敵だなと見惚れながら人混みに紛れて会場に入った。

殆どの人が顔見知りの狭い社交界だった。

私を見て何人かはおやっと言う顔をするのがわかる。

年嵩の方達は大体が微笑ましく、キレイだねと誉めてくれるが、同年代の男性たちはあからさまにいやらしい目付きで眺め回し、女性たちは生意気にと言う目で睨む人が多い。

私のことを馬鹿にしていたり、女性として下に見ていた人達が主にそんな反応を見せた。

「こんばんは」

所在なさげに窓際で佇んでいると、声をかけてくれる人がいて振り返ると、初めて見る男性が二人立っていた。

栗毛の男性と赤毛の男性は、ジーンクリフト様の部下だったと言って挨拶してくれた。

名前を名乗ると、彼らはジーンクリフト様から私の家のことを聞き及んでいたのか、親しげに話をしてくれた。

「あなたの家の茶葉だと言って、何度かお茶を戴いたことがあります。余程閣下に取っては誇らしいことなのだと思いました」

「そのように言っていただけて、先月亡くなった祖父も喜んでいることでしょう。ビッテルバーク候から賜った土地と家を護ることが祖父の誇りと生き甲斐でしたから」
「おじいさまが、それでは今はお父様が後を?」
「いえ、父は随分前に私が小さい頃に亡くなっております。今は私が後を継いで細々とやっております」
「なんと、それは大変ですね。実は私の実家は商会を営んでおりまして、もしよろしければ我が家と取引していただけませんか?」
「ナサニエル……こんなところで商売っ気を出すな。今日はそのために来たのではないんだぞ。閣下の祝いに来たんだ」
「これは失礼……つい……ですが、経営のことで悩みがあるならいつでも相談に乗りますよ」
「ありがとうございます。心強いですわ」

二人はとても話しやすく、女で家を継いだと言っても、特に態度は変わらなかった。やはり都会の常識と地方では違うのだろうか。

そうこうしていると、ジーンクリフト様が皆に向かって挨拶をされる。

「気になりますか?」

相変わらず堂々としていて立派だと、周りの人達と談笑している彼を羨望の眼差しで見つめていると、クリオさんが訊いてきた。

「え、あの……それは……」

「我々でも憧れるのですから、当然ですよね」

「そう……そうですね」

私のジーンクリフト様に対する気持ちに気づいたのかそうでないのか、一般的な話にすり替えてくれた。

その内にジーンクリフト様が私たちに気づき、近寄ってきた。

ロザリーさんが私にほどこしてくれた効果について、ジーンクリフト様がどう思われたかわからなかったが、突然乱入してきたキャサリンの言動に対して、彼が言ってくれた言葉が嬉しかった。

私のことを少しは妹分ではなく女性として意識してくれているのかと、心が浮き立った。

けれど、キャサリンが居心地が悪そうに立ち去り、二人が飲み物や食べ物を取りに行ってくれている間のジーンクリフト様と二人になった。

「ところで、君はどう思う?」
「どう……とは?」

「実は私もそろそろ本格的に花嫁を見つけようと思うのだが、この中で誰がいいと思う?この辺りの独身女性の殆どが君の講習会に来ていると言うし、これはという女性はいるかな?」

胸が軋んだ。

「それは……私の意見より、ジーン様の直感に従われてはいかがでしょう」

それだけ言うのが精一杯だった。

「直感……それに従って二度失敗している。だから次は他の人の意見も訊いてみよいと思ったのだが……」

「……え?」

「一度目は討伐に出発する前に……相手に生きて帰れるかわからないのに待てないと言われた……二度目はひと月ほど前……彼女には既に思う人がいた。ままならないものだな」

聞きたくなかった話だった。

彼に既に結婚を考えた相手がいた。二人も……彼にとっては不幸だが、それは実現しなかった。

でも、それで何が変わる?

私は彼のただの隣人……良くて妹分。決して花嫁候補にはなりえない。

だからこそ、彼は私に訊ねた。

体温が一気に下がった気がした。

その時、部屋の入り口辺りから誰かの怒鳴る声が聞こえてきた。

「何か問題でも起こったか」

ジーン様も気づいたらしく、入り口の方を見る。

「いいから、通せ!中に入ればわかるんだ」

他の客も気づいたらしく、同じ方向を見ている。

「あの声は………」

嫌な予感が頭を過り、そしてそれは見事に当たった。
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