21 / 68
20
しおりを挟む
それから先のことはよく覚えていない。ジーンクリフト様と共に皆の所へ戻り、正式に婚約したと発表をすると、会場は大いに湧き、皆が再度婚約成立の祝杯を掲げた。
次々と皆から祝いの言葉が投げ掛けられ、その間ジーン様はずっと腰に手を添えて側にいてくれた。
笑顔で祝いの言葉を掛けられれば掛けられるほど、私は罪悪感に苛まれた。
婚約はしたが、私がジーン様の花嫁になることはないだろう。
式はいつか、どうするのかと訊ねられ、一年は喪に服すこと。ジーン様は王族なので少なくとも婚約期間を一年は設けなければならないのだと話すと、是非式に呼んで欲しいと口々に頼まれた。
私のお茶会に来ていた人達も、私の背の高さをバカにしていた人達も一転して私を誉めそやし、聞いているだけで嫌気が差した。
次々と招待客を見送り、最後に残ったのはその日ビッテルバーク家に泊まることになっていた人達だけになった。クリオさんたちも用意された部屋に引き上げ、玄関ホールには私とジーン様だけになった。
「疲れただろう、すぐに馬車の手配をするから、ここに座って休んでいなさい」
入り口のホール脇でここへ来る時に羽織っていた外套をジーン様が肩に掛けてくれた。
「ありがとうございます………ジーン様?」
「今日の君は綺麗だと、言ったかな」
少し考え込むように私を見下ろしていたジーン様がいきなり言うので、驚いた。
「はい……あの衣裳が……ロザリーさんのドレスが似合っていると」
顔を赤くしてもごもごと言う。キャサリンに衣裳のお陰でましに見えるようなことを言われて、彼が言ってくれた。
「ドレスが君の良さを引き立て、今日の君はとても美しい」
「あ、ありがとうございます……でも、ここには私とジーン様しかおりませんので、そのような気遣いは不要です」
「人前でなければ、君を誉めては駄目なのか?」
「そういうわけではありませんが……気遣っていただかなくても私は大丈夫です。容姿を誉められ慣れていないので……」
背が高いだの女らしくないなどと言われたことはあっても綺麗だとかは言われ慣れないので、正直対応に困ってしまう。
「今夜皆さんが私に好意的だったのは、ジーン様の婚約者だからです。私は昨日までの私と何も変わっていません」
「君は自分のその自己評価の低さを何とかしなければいけないな。『クリスタル・ギャラリー』の主人も君のことを誉めていたではないか。アッシュブロンドの髪も、蒼天の瞳も美しい。何よりも君の美徳である知性と思慮深さが滲み出ている。堂々としていればいい。そうでなければ、彼らを黙らせることはできない」
ジーン様の言うことは正しい。今日は不意打ちで叔父たちを撤退させられたが、一晩経って冷静に考えたら、あの場を収めるための嘘ではないかと疑ってくるのではないだろうか。
「少し練習が必要かな」
「え、練習?」
どういう意味だと訊ねようとして顔を上げた時、ジーン様の唇が近づいて軽く唇に触れた。
「★☆△□」
思ってもみなかったジーン様の行動に慌てて体を引いた。
「な……ジーン様……」
「できればティアナが来る頃までは、もう少し動揺しないまでに慣れてくれているといいのだが」
心臓が早鐘を打っているのがわかる。すっかりパニックになった私とは反対に、ジーン様は冷静だ。
「ぜ……善処しますが……できれば不意打ちはやめてください。し、心臓がもちません」
「なら、もう一度してもいいか?」
不意打ちはやめてと言ったが面と向かって言われるのも恥ずかしい。それでも自分が言ったのだから覚悟するしかない。
「どう……どうぞ」
手を間接が白くなるまでぎゅっと握りしめ、目を瞑って待ち受ける。
「そんなに固くなられてはやりにくい……おや、これは何だ?」
「え?」
ジーン様が何か異変を見つけたのか、その発言に何があったかと目を見開くと、目の前に彼の顔が近づき、唇が再び重ねられた。
「ん……んふ」
今度はさっきより深く永かった。
柔らかい唇の感触に頭がくらくらして、微かにワインと彼の体臭が鼻腔を擽る。
いつの間にか彼の腕が背中に回され抱き寄せられる。
憧れ続けたジーン様との初めての口づけは、少し温度が下がり掛けた玄関ホールの寒さを忘れさせる程に私を夢中にさせた。
次々と皆から祝いの言葉が投げ掛けられ、その間ジーン様はずっと腰に手を添えて側にいてくれた。
笑顔で祝いの言葉を掛けられれば掛けられるほど、私は罪悪感に苛まれた。
婚約はしたが、私がジーン様の花嫁になることはないだろう。
式はいつか、どうするのかと訊ねられ、一年は喪に服すこと。ジーン様は王族なので少なくとも婚約期間を一年は設けなければならないのだと話すと、是非式に呼んで欲しいと口々に頼まれた。
私のお茶会に来ていた人達も、私の背の高さをバカにしていた人達も一転して私を誉めそやし、聞いているだけで嫌気が差した。
次々と招待客を見送り、最後に残ったのはその日ビッテルバーク家に泊まることになっていた人達だけになった。クリオさんたちも用意された部屋に引き上げ、玄関ホールには私とジーン様だけになった。
「疲れただろう、すぐに馬車の手配をするから、ここに座って休んでいなさい」
入り口のホール脇でここへ来る時に羽織っていた外套をジーン様が肩に掛けてくれた。
「ありがとうございます………ジーン様?」
「今日の君は綺麗だと、言ったかな」
少し考え込むように私を見下ろしていたジーン様がいきなり言うので、驚いた。
「はい……あの衣裳が……ロザリーさんのドレスが似合っていると」
顔を赤くしてもごもごと言う。キャサリンに衣裳のお陰でましに見えるようなことを言われて、彼が言ってくれた。
「ドレスが君の良さを引き立て、今日の君はとても美しい」
「あ、ありがとうございます……でも、ここには私とジーン様しかおりませんので、そのような気遣いは不要です」
「人前でなければ、君を誉めては駄目なのか?」
「そういうわけではありませんが……気遣っていただかなくても私は大丈夫です。容姿を誉められ慣れていないので……」
背が高いだの女らしくないなどと言われたことはあっても綺麗だとかは言われ慣れないので、正直対応に困ってしまう。
「今夜皆さんが私に好意的だったのは、ジーン様の婚約者だからです。私は昨日までの私と何も変わっていません」
「君は自分のその自己評価の低さを何とかしなければいけないな。『クリスタル・ギャラリー』の主人も君のことを誉めていたではないか。アッシュブロンドの髪も、蒼天の瞳も美しい。何よりも君の美徳である知性と思慮深さが滲み出ている。堂々としていればいい。そうでなければ、彼らを黙らせることはできない」
ジーン様の言うことは正しい。今日は不意打ちで叔父たちを撤退させられたが、一晩経って冷静に考えたら、あの場を収めるための嘘ではないかと疑ってくるのではないだろうか。
「少し練習が必要かな」
「え、練習?」
どういう意味だと訊ねようとして顔を上げた時、ジーン様の唇が近づいて軽く唇に触れた。
「★☆△□」
思ってもみなかったジーン様の行動に慌てて体を引いた。
「な……ジーン様……」
「できればティアナが来る頃までは、もう少し動揺しないまでに慣れてくれているといいのだが」
心臓が早鐘を打っているのがわかる。すっかりパニックになった私とは反対に、ジーン様は冷静だ。
「ぜ……善処しますが……できれば不意打ちはやめてください。し、心臓がもちません」
「なら、もう一度してもいいか?」
不意打ちはやめてと言ったが面と向かって言われるのも恥ずかしい。それでも自分が言ったのだから覚悟するしかない。
「どう……どうぞ」
手を間接が白くなるまでぎゅっと握りしめ、目を瞑って待ち受ける。
「そんなに固くなられてはやりにくい……おや、これは何だ?」
「え?」
ジーン様が何か異変を見つけたのか、その発言に何があったかと目を見開くと、目の前に彼の顔が近づき、唇が再び重ねられた。
「ん……んふ」
今度はさっきより深く永かった。
柔らかい唇の感触に頭がくらくらして、微かにワインと彼の体臭が鼻腔を擽る。
いつの間にか彼の腕が背中に回され抱き寄せられる。
憧れ続けたジーン様との初めての口づけは、少し温度が下がり掛けた玄関ホールの寒さを忘れさせる程に私を夢中にさせた。
13
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
兄様達の愛が止まりません!
桜
恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。
そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。
屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。
やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。
無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。
叔父の家には二人の兄がいた。
そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…
婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!
柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました
春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。
名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。
誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。
ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、
あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。
「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」
「……もう限界だ」
私は知らなかった。
宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて――
ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる