【完結:R18】女相続人と辺境伯

七夜かなた

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翌日私は熱を出して寝込んだ。
寒い玄関ホールで長時間いたせいだ。
そのうえ、ジーン様との婚約や口づけと、色々許容範囲を上回る出来事が重なって、知恵熱めいたものもあったのだろう。

発熱は三日ほど続いた。その後落ちた体力を取り戻すのに四日かかり、床から起き上がったのは宴の日から一週間後のことだった。



熱が下がった頃にジーン様に頼まれたと、クリオさんが様子を見にきてくれた。
彼が医療に携わっていたからだが、少し熱が出たくらいでは滅多に医者にかからないし、この辺りのお医者様はおじいちゃん先生なので、若い男性の診察はとても照れた。

脈を取り、額に手を当てられただけで顔を赤らめる私とは逆にクリオさんは至って冷静なので、意識した自分がばかみたいだった。

「総大将……失礼…まだ討伐隊での呼び名が抜けなくて……閣下も心配されておりました。どうしてホールに長時間いたのか聞きませんが……」

「ご心配をおかけしました……」

外套も着ていなかったジーン様が風邪ひとつ引かなかったのに、私だけが引いたので二人でいたことはばれていないといいが、恥ずかしくて理由を訊かれても答えられない。

「まあ、予想はつきます」
「え!」

クリオさんがため息と共に言った。それを聞いて驚いて顔を見ると、彼は優しく微笑んでいる。

「な、なんで……どうして……何だとお思いになるのですか?まさか……ジーン様が」
「内緒です。私の勝手な憶測ですから……私はこう見えて医者の端くれですから、人の顔色を窺うのが得意なのです。そうそう、ナサニエルが君に話があると言っていた」

クリオさんがそう言いかけた時、下から騒がしい声が聞こえてきた。

「おやめください」
「うるさい、使用人は下がっていろ」

「あの声は……」

嫌な予感がして顔を曇らせる。

「セレニア!」

荒々しく扉を開けて入ってきたのはグラント叔父とカーターだった。

「なんだお前は!」

入ってくるなり二人はその場にいるクリオさんを睨み付けた。

「セレニア、この前はよくも恥をかかせてくれたな!」
「叔父さんたちこそ、なぜ許可もなく勝手に入って来たのですか!」

いきなり許可もなく入り込んできた叔父に怒鳴った。病み上がりでいつもより迫力が足りないが、怒りは伝わったと思う。

「私は親戚として寝込んでいるお前を心配して見舞いに来たのだ」
「誰も頼んでいません。それに、あなた達に来られては元気なものも病気になります。お引き取りください」
「生意気な!それが心配して来た者に対する態度か、まったく亡くなった大叔父も、大叔母もどんな躾をしたんだか……ありがとうのひと言も言えないのか」

「お祖父様たちは親切にしてもらったらお礼を言いなさいと、ちゃんと教えてくれています。我が物顔で人の家に上がり込む礼儀知らずに対する対応についてもね」

お祖父様たちのことを悪く言われて腹が立った。

「な、何だと?この……人が下でに出ていれば付け上がりおって……可愛げもなにもないな、余計な知識ばかり身に付けおって、見てくれが恵まれていない上に、口ばかり回るお前のような女が一番最悪だ。なぜお前と結婚するなどと辺境伯も仰ったんだ。どうせ一時の気の迷いか何かだろう」

「何の権利があってそのようにご令嬢を侮辱するようなことを仰るのですか」

私が反論する前にクリオさんが叔父に食って掛かった。

「黙れ、どこのどいつか知らんが、お前こそなんだ!庇護者のいない独身の娘を親族が後見するのは当たり前ではないか」
「そうだ!父上の言うとおりだ!」

「私はそんなこと頼んでおりません。それに、私は既に成人しております。誰の庇護も必要としていません!帰ってください」
「そんなことあるか!女には無理だと言っているだろう」
「病み上がりの者にその態度はなんですか!」

クリオさんが一歩前に進み出て恫喝する。
医者とは言っても背が高く、体もそれなりに鍛えているのがわかる。そんな彼に詰め寄られ、いつかのジーン様に威圧されたのと同じように二人は後ずさった。

「私はクリオ・ロータフと言い、ビッテルバーク家の客です。魔獣討伐の際には閣下の部下でした。ちなみに父は伯爵で、首都で近衛武官として勤務しております」

「は、伯爵……」

彼の身分を知って二人は分が悪いと思ったのか腰が引けて動揺したのがわかった。



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