【完結:R18】女相続人と辺境伯

七夜かなた

文字の大きさ
18 / 68

17

しおりを挟む
「申し訳ございませんでした。彼らを通してしまいました」

入り口で警護にあたっていた騎士が自分の失敗について謝った。

彼にしてみれば夜会服に身を包んだ二人が、よもや招かれざる客だとは思わなかったようだ。

「気にするな。武器ももたずあのような体型の彼等がまさか暗殺者とは誰も思わないだろう。もう持ち場に戻りなさい」

「はい」

彼が立ち去るのを見てから、ジーン様はくるりと振り返り、一部始終を見守っていた人達に向かい合った。

「皆もすまなかった。さあ、料理も酒もまだある。残りの時間を楽しんでください」

「それよりも、閣下、セレニアとのことは真実なのですか」

キャサリンが納得できないのか、問い詰めるような口調で詰め寄ってきた。

「キャサリン、その言い方は失礼ではないか」

さすがに父親の伯爵も娘の言い方に驚き窘める。

「父親の言うとおりだ。私が誰と結婚しようが、それについて意見を言えるのは陛下だけだ。皆も私の伴侶については色々と気を揉んでくれていたことはわかるが、そう言うことだから好意的に受け止めてくれると有難い」

「でも……」
「キャサリン、それ以上何も言うな」
「ん……」

なおも食い下がろうとしたキャサリンだったが、父親が恥を偲んで彼女の口を塞いだ。

「申し訳ございません。私どもの躾が足らず、家に戻って言い聞かせますので平にご容赦を。ドリフォルト嬢も娘の失言を赦していただいたい」

伯爵は青くなりながら冬だと言うのに汗をかき、引きずるようにしてキャサリンを連れて慌てて帰っていった。

クスクスとその様子を笑うのは他の令嬢たちだ。キャサリンがいずれ自分がジーン様に見初められると幅をきかせていたことを、彼女たちは内心面白く思っていたなかったようだ。

しかし、ジーン様が彼女たちに顔を向けると、ピタリと笑いが止んだ。

「何か言いたいことがあるなら聞くが」
「い、いえ……私たちは別に……」
「セレニアさんと閣下のこと、お祝い申し上げます」
「考えてみれば、セレニアさんは小さい時から閣下と親交がありましたし、当然と言えば当然ですわね」

「ありがとう。しかし、何度も言うように正式にはまだ私は彼女に求婚しているだけで、まだ決まったわけではない。祝いは彼女から色好い返事を貰ってからにしてくれ」

こちらに視線が集中し、居たたまれなくなる。壁の花から一転、時の人になって注目されてどうすればいいのかわからない。

「困らせるつもりはなかった。ああでも言わなければ彼等も引いてくれないと思った。返事は二人きりになった時に聞こう。すまない、暫く二人きりにさせてもらおう」

「ジーン様……」

彼は優しくそう言うが、時既に遅しだ。皆の顔が今この場で決断しろと言っているように見える。ジーン様はヘドリックさんに後の事を託し、私を奥の書斎へと連れていった。

こんな時、本物の貴婦人ならどうするだろうか。いっそ気絶してみる?でもわざとらしく気絶してもすぐにばれてしまう。

背中に皆の視線が突き刺さる。

「悪かった。君に事前の話もなく、あんなことを言ってしまった」

書斎に入るや否やジーン様が頭を下げた。

「良かった……私の勘違いではないのですね……そんな話が私たちの間で出ていた覚えがなくて」

喜んでいいのか悲しんでいいのかわからないが、少なくとも私の記憶違いではなかった。

「私を助けるための方便だったのですね。でも心臓に悪いです。同じ叔父から庇ってくれるなら、もっと違う方法もあったのでは……例えば別の方を……今夜来ていたジーン様の部下の方でも……」

彼等にも失礼だが、首都から来てこの辺りに知人もいない彼等なら、その後破談になってもジーン様ほど大事にはならなかった筈だ。

「……そうだな……いや、駄目だ。彼等が駄目とかではなく、彼等では君の叔父たちは納得しないだろう。今夜初めて会った彼等ではすぐにあの場を何とかするための嘘だとばれてしまう」

嘘……そうではないかと思ったが、ジーン様の口からはっきりそう言われると、やはり傷付く。

「それでも、ジーン様のお立場を考えるとあの場で言っていいことではありませんでした。皆さんの反応を見たでしょう?やはり私とでは信憑性に欠けると思います」

キャサリンのように面と向かって言う人は稀だろうが、少なからず皆の顔色を見ればどう思っているかわかる。

「実は、あんなことを言ったのは、君の事情ばかりを考えたのではない」

「と、言いますと?」

私を気遣ってのことだけではない?意外な言葉に頭が働かない。

「私にも、急遽婚約者を作る必要ができた」






しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!

柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました

春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。 名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。 誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。 ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、 あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。 「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」 「……もう限界だ」 私は知らなかった。 宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて―― ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

処理中です...