【R18】勇者の姉は究極のモブではなかったんですか?

七夜かなた

文字の大きさ
27 / 65
第二章

しおりを挟む
「オレは父上たちに楽をしてもらいたい。母上にも、もっとおしゃれしてもらいたい。デルフィーヌは…今以上綺麗になったら困るから、今でも十分だけど。暗黒竜の被害でこの世界が壊れるのを防ぎたかったのも、家族のためだ。だからオレは…」
「わかっているわ。でも、別に無理していないのよ。節約って言っても、お陰で家も直せたもの。使用人たちにも十分なお給料をあげられたしね。でも、ルウが頑張っているのに、私達だけが高枕ってわけにはいかないわ」

 落ち込むルウに必死に訴えかける。
 我慢なんかしていない。ただ、身の丈にあった生活を送っているだけだと。

「雨漏りとか隙間風の心配が無くなって、皆で快適に過ごせているって、手紙にも書いたでしょ」

 私の言葉にルウが頷く。
 すっかり大人びたかと思っていたが、落ち込んで暗い表情を浮かべていると、まだまだあどけなさも感じる。

「それに、ちゃんと有効活用しているのよ。投資とかして増やしているし」
「そう言えば、ギルドで働いているって…」
「お父様から聞いたの?」
「そう」

 私からは伝えていないので、当然父からその情報を得たのだとわかる。

「経理とかの才能があって、褒められているのよ」

 前世の公認会計士の記憶の賜物だから、才能かどうかはわからないが、役に立っているのは確かだ。

「べヌシさんも私の決算報告書を気に入ってくれて、わざわざ会いに来てくれて…」
「べヌシって、さっきの男だよね。それって、デルフィーヌに会いにわざわざ来たってこと?」

 なぜかルウが剣呑な空気を発し、ピリピリとしたものを肌に感じた。 

「デルフィーヌに会いにわざわざって、そいつ、もしかしてデルフィーヌのこと…」
「一週間前くらいに初めて会った人よ。それに彼が興味あるのは私の書いた書類で」
「そんなの、最初はそうでもデルフィーヌを実際に見たら、好きになるに決まっている」

 どこからそんな考えになるのか。
 一目惚れでもされるというのか。

「そんなの、もっときれいな人なら、そうだろうけど、私なんて」
「デルフィーヌはこの世の誰よりも美人だ。過去に傾国の美女だって言われた人達だって、デルフィーヌの足元にも及ばない」
「いや、さすがにそこまでは…」
  
 どれだけ私のことを過大評価しているのか。秘めた目に見えない才能があるならわかるが、そんなことはないと誰でもわかる。

「ていうか、エルフの女王より綺麗とか、女神とか思うのは勝手だけど、家族以外にそんなこと言わないでよ。恥ずかしいじゃない」
 
 そのことをハッと思いだして、詰め寄った。

「それのどこが悪いんだ? 嘘は言っていない」
「そ、それは・・ルウがそう思っていても、皆がそう思うとは限らないでしょ」
「確かに・・」

 私の言葉を聞いて、ルウが意外とあっさり納得する。
 好きだと言ってくれることと、私が世界一綺麗だと言って憚らないことは別のことだ。
 ルウに好きだと言ってもらえることは嬉しいし、すっかり逞しく成長した彼の腕の中に包まれると、何だか安心する。
 でも、私がエルフの女王より綺麗だとか女神だとか、傾国の美女以上だと褒めちぎられても、困惑するばかりだ。

「デルフィーヌがどれほど綺麗かとか、もう言わないようにする」
「わかってくれたのね」
「ああ。デルフィーヌの美しさ素晴らしさを自慢したくて、色々言ったが、考えてみればそんなことをしたら、デルフィーヌに興味を持つ人間が増えるだけだ」
「・・・ん?」
「これ以上変な輩がデルフィーヌに興味を持たないように、デルフィーヌ自慢はもうしない」
「えっと、ルウ?」

 何だか思っていたのと違う感じがするのは気のせい?

「私は、女神とか傾国の美女とか言われるような容姿じゃないでしょ。そんな過大評価はやめてって言って…」
「デルフィーヌはいつだってオレの女神で、オレには眩しい光の天使だ。そしてオレの大事な女性ひとだ。この世にある美を表現するどんな言葉を使っても、デルフィーヌを表す言葉には足りない」
「………だ、だからね。それはルウがおかしいというか…私はそんな立派なものじゃ…」
「奥ゆかしいんだな。そんなところも好きだ」

 私を表す言葉で「奥ゆかしい」は、絶対にないと断言できる。
 前世でも仕事の出来るバリキャリとして生き、男に負けないように働いた。
 そして今でも、男顔負けに狩りをしている。

「そんなこと言うの、ルウくらいよ」
「オレにとってのデルフィーヌは、美人で優しくて勇敢で、面倒見が良くて、頭も良くて料理も上手な最高で完璧な存在だ。そして…」

 そっと頭の後ろに手を添えて、真正面に顔を向けてくる。
 青い瞳には、欲望の炎が煌めく。

「オレにとって唯一の女で、愛する女性。オレがこれまでもこれからも、抱きたいと思うのは、デルフィーヌだけだ」

 完全に獲物を狙い定めた狩人の目で、ルドウィックは私の瞳を見据えた。
 
「デルフィーヌ…キスだけじゃ足りない。この二年半、オレは再びデルフィーヌをこの腕に抱くことを、ずっと夢見てきたんだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

処理中です...