【R18】勇者の姉は究極のモブではなかったんですか?

七夜かなた

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第五章

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 国王様の姪で公爵令嬢で、聖女様。

 噂によると、かなりの美人らしい。

 そんな方をいくら勇者の身内だからと、マナーの教師に頼むなんて。

「だ、だだだだ大丈夫なの? そんな方を…私なんかの…」
「なんか、じゃない。デルフィーヌのことを任せるんだから、それくらいでないと務まらない」
「いや、それは…私の方が恐縮するわ」

 日本にいては、お目にかかることのない身分の人。
 この世界に生まれてこの方、貴族の人に会ったのも数えるほどしかない。

 そう言えば、我が家も一応貴族なんだよねと思い出す。
 
 殆ど平民と変わらない我が家も貴族と言えばそうなのだが、同じ男爵でも地方と中央では格も違うと聞く。

「ベネデッタ様、そんなこと頼んで怒ったりしなかった?」
「怒る? なぜ? 信頼してもらえて嬉しいと言っていた」
「そ、そう…」
 
 ルウの手前そう言っただけで、実は心の中ではそうじゃないかも知れない。
「氷の勇者」のルウに頼まれたから断れなかっただけで、なんで田舎の男爵ごとき令嬢とも言えるかどうかわからない女をと、思っているかも。

「その、聖女様って、ルウのこと…」
「え? オレのこと?」
「その…ルウのこと、好きだったり…」
「あ、それはないない。何しろベネデッタはメーデと出来ているから」
「メーデ?」
「そう、同じパーティの魔法使いだ。彼女はメーデのことが好きで、オレには興味がない」
「そうなんだ」

 ルウに興味ない女性もいたんだと、不思議な気持ちだった。

「もしかして、嫉妬?」
「え?」
「ベネデッタがオレのことを気に掛けていると思って、気になったの?」
「・・・・そ」

 そんなことない。と言いたかったが、図星だった。

「ちょっとはオレの気持ちわかった?」
「ルウの・・気持ち?」
「そ、デルフィーヌに気がありそうな男がいるのを見ると、モヤッとするオレの気持ち」
「へ?」

 確かに聖女が私の教育係を引き受けてくれたことに、何か裏があるんじゃないか、私を出汁にしてルウに近づきたかったんじゃないかと思った。

 それが嫉妬だと言うなら、そうなんだろう。
 それは認める。
 
 でもその後に言ったルウの言葉は・・

「私に気がありそうな男って、いるの?」

 ルウが私を好きな理由もはっきりわからない。
 それでも、彼が今私のことを大事にしてくれているのがわかるし、いつか熱が冷めるかもしれないと思いつつ、ルウが私のことを必要とする限り、傍にいようと思っている。

 でも他の男性なんて、まったく心当たりがない。

「そんな人、いないでしょ」

 私のことを気に掛ける男性なんて、父とルウくらい。今はポチタマもか。

「無自覚か」
「どういう意味?」
「デルフィーヌが鈍感だって事はわかっていたし、それで良かったと思うこともあるけど、ちょっと危機意識ないのは問題だな」
「悪かったわね鈍感で」

 ルウが私のことを好きだったことを、告白されるまでずっと気づかなかった。
 だから鈍感だと言われても反論できない。
 
「でも危機意識ないとか、そこまで言われたくないわ。いったい私のどこに危機意識がないって言うの?」
「心当たりがない?」
「だから何?」
「肉屋のディルビン、覚えてる?」
「へ? ディルビン?」

 私の二つ上の肉屋の息子の名前がルウの口から出て、目を丸くする。
 狩りで捕った獲物を卸す時にいつも会っていた。
 でも、私は滅多に行かせてもらえなかった。
 十歳くらいまでは父と一緒に行っていたが、途中からルウが行くようになったからだ。

「なんでディルビン?」
「あいつ、デルフィーヌに気があった」
「え、まさか」
「だってデルフィーヌ、あいつに花祭りに誘われただろ?」
「え、そうだったかな?」

 花祭りは国のあちこちで開かれている、春の訪れを喜ぶ祭りだ。

 街中が花で彩られ、未婚の女性は花の精に扮して花車に乗って街を回る。
 
 私ももちろん何度も花の精になった。

「一度肉の安売りするから来てとは言われたけど・・」

 でもルウが行くと言ったので、私は行かなかった。

「あいつの魂胆なんてわかっていたから、二度とデルフィーヌに近づくなって軽く脅しといた」
「おど・・」

 ルウがいなくなってから、私が肉屋に行くようになった。
 何だか怯えたように見えたのは、気のせいじゃ無かったかも。

「他にもある。行商に来ていた男も、冒険者崩れの男も、オレが目を光らせていなかったら、デルフィーヌが餌食になっていた」
「餌食って・・思い過ごしでしょ」
「デルフィーヌは自分が同年代の男達からどんな目で見られているか、もっと自覚するべきだ」
「どんな目?」
「男にとってはデルフィーヌは獲物だ」
「獲物?」

 獲物を狩ることはあっても、自分が獲物扱いされていたとは思っていなかった。
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