持っていたのは魔力じゃなくて霊能力〜『真夜中の相談室』は死者限定

七夜かなた

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17 手紙

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ガチャーン。何かが割れる音がしてアディーナは目を覚ました。

気のせいかと思ったが、その後もガチャガチャと音がする。

外を見ると日はすっかり登っているが、まだ昼にはなっていない。

「勘弁してよね」

三日続けての安眠妨害に流石に苛立つ。

ネグリジェのままガウンを羽織り、護身用の剣を掴んで部屋を出る。物音は台所からだ。

「うま……」

誰かがいるのか呟く声が聞こえる。

その声を聞いて誰がいるのかわかり、剣を入り口に置くと台所へ続く扉を開けた。

「こら、泥棒猫」

背中を向けて立っていた人物がびっくりしてこちらを振り向く。

「姉上」

黒髪に母親譲りの茶色の瞳をした少年。今年十歳になる異母弟のライルだった。

「ここに来ちゃだめでしょ。またお母さんに怒られるよ」
「でも、昨日本宅に姉上が来たって聞いたから、僕も会いたくなって」
「そう言えばいなかったね。どこかに行ってたの?」
「ひどい……母上に急に言われてクレインのお祖父様のところへ行ってたんだ」
「ああ、そういうことか」

異母弟のライルはシャンティエと違い、アディーナを嫌うどころか姉上と慕ってくる。継母はそれが気に入らなくて、昨日はアディーナが本宅へ辿り着く前に急遽自分の実家にライルを送ったのだ。

「それより、勝手に食べちゃだめでしょ」
「だって、来たら姉上はまだ寝てて、そしたら美味しそうなパイがあったから……これ、すごく美味しいね」
「まあね、教えてくれた人が上手だから」

アディーナもこの弟が可愛い。生きている者で彼女に好意を寄せてくれるのがこの弟だけということもあるが、純粋に好意を向けてくれるとそれに応えたくなる。

「それより、何か割ったの?」
「ごめんなさい、お皿…割っちゃった。でもちゃんと片付けたよ」
「怪我しなかった?危ないでしょ」
「大丈夫、僕そんなにばかじゃないよ」

片隅に寄せられた割れた食器を見て、弟の手を確認するが、本人が言ったとおりどこも怪我はないようだ。

「お茶……淹れてあげるから、それあっちへ持って行きなさい」

「はあい」

仕方ないなとお湯を沸かし、紅茶を二人分淹れ自分の分のパイも持って居間へ運ぶ。

すでに殆ど食べ終えていたライルがお茶を美味しそうに飲む。

一時間ほどライルと過ごした。

『可愛い子ね』
『あの二人の子とはとても思えん。鳶が鷹を産んだとはこのことだな』

手を振って元気に帰って行くライルを見送ると、母と祖父が言った。

成人してこの家を出ることについて残念なのは彼に会えなくなることだ。

幼いライルはきっとそのうちアディーナのことを忘れてしまうだろう。

それが悲しくもあるが、アディーナがここにずっと居続けることはできないとも思う。


いつの間にか雨が降りだし、その日の日中は穏やかに過ぎていった。

夕食は野菜の切れ端スープと昨日ヘレンが差し入れてくれた鶏肉をハーブで焼いた。

「ハンスの手紙、どうしようかな」

ハンスの手を借りて書いた手紙を昨夜指輪とともにハンスの弟子に届けるつもりだった。
しかしアシェルと遭遇してそれどころではなくなっしまった。
指輪は何とか彼に渡すことが出来た。

「今行ったらまずいよね」

ジャクソンの件はどうなったのかもわからないし、今ハンスの関係者の周りに姿を現すのは危険すぎる。

『暫く様子を見るしかないじゃろう』
『私もそう思うわ』
「そうだね」

物理的攻撃に対してはアディーナも対抗できる勝算はあるが、魔力量最大を誇る王子に再び会って次は逃げ切る自信がない。

「それより、あれはなんだったのかな」

何度考えても不思議な出来事だった。
今はもうあの風は感じない。
考えても何も思いつかないことだし、どうすることもできない。

「ま、二度と会うこともないしね」

公爵家に生まれながらこれまで社交界に出ることもなかった。これから先もこの国でそんな華やかな場所とは一生縁がないだろう。
ということは王子である彼とも会う機会がないということだ。

王子様という存在に憧れないわけでないが、自分には関係のない世界の人間だ。

『世が世なら年齢的にも身分も王子の婚約者として申し分ないがな』
『私の子ですもの。淑女教育も完璧だし第一こんなに美人なんですもの。アディーナを一目見ればどんな殿方だって心を奪われるわ』
「母上もおじいもやめてよね。王太子妃なんてガラじゃないわ」

いつか自分を好きになってくれる人が出来たらとは思うけど、それはこの国ではないと思っている。

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