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「あ、あなたの元へ、とはどういう意味ですか?」
「俺の家に一緒に住むということだ」
「あ、あなたのい、家?」
それがどこかはわからないが、頭の中には大きくておどろおどろしい洋館が浮かんだ。
鬱蒼とした木々に囲まれ、暗くてじめっとしていて、カラスなんかが屋根に止まっている。ホラーな洋館。
「期待を裏切って悪いが、そんな家は俺も住みたくない」
また私の思考を読んだみたいで、彼が顔を顰めた。
「言っておくがわざと思考を読んでいるわけではない。君の思考が勝手に流れ込んでくるんだ」
それって、私が悪いということ?
「別に悪いとは言っていない。俺としては助かる。きっと雪緒は裏表のない素直な人間なんだ。血と同様、それが心地良い。俺の前に来る人間は、皆打算や欲に塗れているからな。そんな人間の血は吐き気がするほど不味いし、吐く息も臭すぎる」
すっきりと通った鼻筋にシワを寄せ、心底嫌そうな顔をする。
「例えば、硫黄、または腐敗臭、とにかく気が変になるくらい酷い」
もしそんな匂いがしたら、私だって耐えられない。そんなのを嗅がないといけないなんて、気の毒になる。
「雪緒の血や吐く息は、そんな俺には清涼剤、いや至高の香りと味なんだ」
自分の匂いには鈍感だし、血は舐めたこともないから、それが本当かどうかはわからない。
でも彼には特別なのだ。
「俺の部屋はこの街が一望できるビルの最上階だ。このビルの向かいにある」
「向かい……」
隣は何だったっけ、と考えて窓の外を見る。そこには高級タワーマンションかそびえ建っていた。
「あのタワマン……の、最上階?」
一緒に掃除をしている人達が、どんな人が住んでいるのか。きっと芸能人や億万長者なんだろうと話していた。
その最上階に彼は住んでいるという。
「ひ、一人で?」
「そう。熾はひとつ下の階だ。誰かと同じ空間で寝泊まりするのは落ち着かないから」
だとしたら、私もそうなるのか。そう考えて、そこが億ションと呼ばれるところだと思い出した。とてもじゃないけど私の今の収入では玄関のひとつさえ借りられないことに気がついた。
「む、無理です。私には逆立ちしたってそんな部屋借りられません」
ブルブルと震え首を激しく振る。
「それに、私にはちゃんと住むところが……」
そう言いかけて、大家さんからの電話を思い出した。そうだ。あのアパート、取り壊されることになったから、次の部屋を探さないといえないんだった。
すっかり忘れていた。
「どうした、雪緒?」
「い、いえ、なんでもないです。と、とにかくあんな高そうなマンションの家賃なんて、とても払えません」
「でも、雪緒が今住んでいるアパートは、取り壊されるんだろう?」
「……え? な、なぜそれを?」
私だって今日聞いたばかりの話なのに、なぜ彼がそれを知っているのか。
「調べたんだ。雪緒のことは、なんでも知りたいから。どんな所に住んでいるかも。だから今朝、待っていたんだ」
勝手に調べられるのはかなり怖い。しかも住んでいる場所を調べたついでに、取り壊しのことを知ったのだとしたら、彼は私より先に取り壊しのことを知っていたことになる。
「それに、俺が誘っているんだから、そんなもの払わなくていい」
「そ、そんなこと、見ず知らずの人にしてもらうわけにはいきません」
「見ず知らずじゃない、水臭いな。俺たちは将来夫婦になるんだから。夫の稼ぎで妻が暮らす。当たりまえのことだ」
「だ、だから私は花嫁になるなんて」
「雪緒、聞いてくれ」
頑として譲ろうとしない私に、月夜見さんがやけに真剣な顔で少し声を大きくして言ってきた。
「田舎から誰にも頼ろうとせず、自分の力で頑張ろうとするのはいいことだ。そんな雪緒を誇らしく思う」
「ど、どうも……あ、ありがとう」
いきなり褒められて、毒気を抜かれた私は素でお礼を言った。彼には失礼だけど、なんだかおじいちゃんに言われている気になる。
「しかし、少しは人に頼ることも覚えるべきだ。君には俺がいる。君一人の人生くらい、面倒見られる。いや、見る。だから堂々と頼れ」
イケメン吸血鬼は、そう言って私を胸に掻き抱いた。
「俺の家に一緒に住むということだ」
「あ、あなたのい、家?」
それがどこかはわからないが、頭の中には大きくておどろおどろしい洋館が浮かんだ。
鬱蒼とした木々に囲まれ、暗くてじめっとしていて、カラスなんかが屋根に止まっている。ホラーな洋館。
「期待を裏切って悪いが、そんな家は俺も住みたくない」
また私の思考を読んだみたいで、彼が顔を顰めた。
「言っておくがわざと思考を読んでいるわけではない。君の思考が勝手に流れ込んでくるんだ」
それって、私が悪いということ?
「別に悪いとは言っていない。俺としては助かる。きっと雪緒は裏表のない素直な人間なんだ。血と同様、それが心地良い。俺の前に来る人間は、皆打算や欲に塗れているからな。そんな人間の血は吐き気がするほど不味いし、吐く息も臭すぎる」
すっきりと通った鼻筋にシワを寄せ、心底嫌そうな顔をする。
「例えば、硫黄、または腐敗臭、とにかく気が変になるくらい酷い」
もしそんな匂いがしたら、私だって耐えられない。そんなのを嗅がないといけないなんて、気の毒になる。
「雪緒の血や吐く息は、そんな俺には清涼剤、いや至高の香りと味なんだ」
自分の匂いには鈍感だし、血は舐めたこともないから、それが本当かどうかはわからない。
でも彼には特別なのだ。
「俺の部屋はこの街が一望できるビルの最上階だ。このビルの向かいにある」
「向かい……」
隣は何だったっけ、と考えて窓の外を見る。そこには高級タワーマンションかそびえ建っていた。
「あのタワマン……の、最上階?」
一緒に掃除をしている人達が、どんな人が住んでいるのか。きっと芸能人や億万長者なんだろうと話していた。
その最上階に彼は住んでいるという。
「ひ、一人で?」
「そう。熾はひとつ下の階だ。誰かと同じ空間で寝泊まりするのは落ち着かないから」
だとしたら、私もそうなるのか。そう考えて、そこが億ションと呼ばれるところだと思い出した。とてもじゃないけど私の今の収入では玄関のひとつさえ借りられないことに気がついた。
「む、無理です。私には逆立ちしたってそんな部屋借りられません」
ブルブルと震え首を激しく振る。
「それに、私にはちゃんと住むところが……」
そう言いかけて、大家さんからの電話を思い出した。そうだ。あのアパート、取り壊されることになったから、次の部屋を探さないといえないんだった。
すっかり忘れていた。
「どうした、雪緒?」
「い、いえ、なんでもないです。と、とにかくあんな高そうなマンションの家賃なんて、とても払えません」
「でも、雪緒が今住んでいるアパートは、取り壊されるんだろう?」
「……え? な、なぜそれを?」
私だって今日聞いたばかりの話なのに、なぜ彼がそれを知っているのか。
「調べたんだ。雪緒のことは、なんでも知りたいから。どんな所に住んでいるかも。だから今朝、待っていたんだ」
勝手に調べられるのはかなり怖い。しかも住んでいる場所を調べたついでに、取り壊しのことを知ったのだとしたら、彼は私より先に取り壊しのことを知っていたことになる。
「それに、俺が誘っているんだから、そんなもの払わなくていい」
「そ、そんなこと、見ず知らずの人にしてもらうわけにはいきません」
「見ず知らずじゃない、水臭いな。俺たちは将来夫婦になるんだから。夫の稼ぎで妻が暮らす。当たりまえのことだ」
「だ、だから私は花嫁になるなんて」
「雪緒、聞いてくれ」
頑として譲ろうとしない私に、月夜見さんがやけに真剣な顔で少し声を大きくして言ってきた。
「田舎から誰にも頼ろうとせず、自分の力で頑張ろうとするのはいいことだ。そんな雪緒を誇らしく思う」
「ど、どうも……あ、ありがとう」
いきなり褒められて、毒気を抜かれた私は素でお礼を言った。彼には失礼だけど、なんだかおじいちゃんに言われている気になる。
「しかし、少しは人に頼ることも覚えるべきだ。君には俺がいる。君一人の人生くらい、面倒見られる。いや、見る。だから堂々と頼れ」
イケメン吸血鬼は、そう言って私を胸に掻き抱いた。
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