【完結】偏食ヴァンパイアはド田舎娘を所望する

七夜かなた

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「最上のものを食べ、最上のものを身に着け、そして惜しみない愛を、君に捧げるよ。雪緒はただ、それを享受すればいいだけだ」

 そう言った月夜見さんが連れてきてくれたお店は、高台にあって遠くに海が見える「料亭」だった。
 石畳の上を歩いて行くと、旅館のロビーみたいな広いエントランスがあって、着物を来た女性が私達を出迎えてくれた。

「お待ちしておりました、月夜見様」
「女将、世話になる」
「とんでもございません。代々ご贔屓いただき、ありがとうございます」

 月夜見さんに恭しく頭を下げ挨拶してくれた女将は、この場の格式にまったく合わない格好の私を見ても、表情を変えない。
 プロなんだろうな。
 そんな女将が案内してくれた部屋は、三方が窓になった広々としていた。長いテーブルが置かれ、お客さんは窓の外を向いて座るようになっている。
 今日は雲ひとつない晴れの日。秋の空はどこまでも高く、空とはまた違う青をした海面が、陽光を浴びて海がキラキラ輝いている。
 
「わ、きれい」

 空や海の青を縁取るように、お店の庭にある木々が色づき始めている。赤や黄色の紅葉と空と海の青という自然の色が目に優しい。

「食前酒と先付けでございます」

 机には四角い和紙がランチョンマットのように置かれ、箸置きに箸、漆のコースター、御手拭き。それから巻紙に毛筆で書かれたお品書き。

 そこに女将が自ら運んできてくれたのは、グラスに入った黄金色したシャンパン。食前酒なので、量は少なめだが、細く繊細な作りの逆三角のグラスもとてもおしゃれだ。
 シャンパンの泡が下から生き物のようにのぼっている。

「わ、ステキ」

 景色からシャンパンに目を移した私は、それを持って目の前にかざす。
 透明な黄金色の液体に、外の景色が重なって見える。

「気に入ったか」

 私の反応を見て、月夜見さんが満足しているのがわかる。

「乾杯」

 彼もシャンパングラスを持って、それを私に向かって差し出した。

「か、乾杯」

 ひとくち口に含むと、シュワッとした炭酸が舌を刺激し、喉越しがいい。
 それから美しく盛り付けられた八寸、最初の一皿、小鉢、吸物、お造り、煮物、焼き魚、揚げ物、ご飯と香の物と続き、最後に果物とシャーベットが続いた。

「満足か?」

 月夜見さんも私と同じものを食べていた。
 偏食だとか言っていたけど、食べられるものも結構あるんだ。

「夕べ、雪緒の血を飲んだ」
「ふぇ、あ、そ、そうですか……」

 前の晩熾さんが採取した私の血。
 美味しかった? と聞いたら変だよね。なんて思っていると

「あまりの美味しさに、暫く意識が吹っ飛んだ」

 と、彼が感想を口にした。

「お、お口に合って良かった……です」

 どう反応したらいいかわかない。

「それから雪緒の血が、俺の体に浸透し一部になるのを想像したら興奮した」

 彼の瞳が潤み、またとんでもない色気が放たれる。

「世界が、何もかも変わって見えた。体中に力が漲って、何でもできる気がした」

 彼ら手を開いたり閉じたりする。長くて綺麗な指。ちょっと筋張っていて、大きな男の人の手。
 おじいちゃんの手はゴツゴツしていて、しわや染みもあったけど、私はその手で頭を撫でられるのが好きだった。
 運動会の徒競走で一番になったとき、テストでいい点を取った時、競書会で金賞ももらったとき、描いた絵が飾られたとき、お手伝いを頑張ったときなど、いろいろな時におじいちゃんは頭を撫でてくれた。
 月夜見さんのは、おじいちゃんのそんな手とはまったく違うきれいに整ったものだ。

「そ、それは良かった……」
「それだけではない。君の血を飲んだあとから、さらに五感の感覚が増した。とくに舌と鼻」
「舌と鼻?」
「そうだ。これまで何とも思わなかった匂いが鼻腔を刺激し、空腹感を覚えた。初めてだった」
「……へえ……」

 空腹感を覚えたことがないなんて、お腹を鳴らしてばかりの私では考えられない。

「匂いと連動して、お腹が鳴って何でも食べられる気がした」
「良かったですね」
「良かった、どころではない。こんなこと初めてだ。そしたら、急に雪緒と一緒にご飯が食べたくなった」

 それで鎌倉まで来るとは、本当に行動力が凄い。

「ここの料理は昔から食べてきた。作る人は変わり、店の雰囲気も少しずつ変わっても、ここは俺がまともに食べられるものを出す数少ないところだ。それでも、なんとか食べられるというだけだった」
「どれも凄く美味しかったけど……」
 
 テーブルに置かれたデザートが入っていたお皿を見て、あれでも何とか食べられると言っていたことに驚く。

「そう、いつもはそうだが、今日初めて味がわかった」
 
 月夜見さんはそう言って私の方に手を伸ばすと、指の背で私の頬を羽のように軽く触れた。
 ちょっとビクッとなりつつ、彼の方を見る。

「間違いなく君の血のお陰。君の血が俺の五感を研ぎ澄ましたんだ」
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