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第2章 とりあえず「恋人」
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「え、引き払った?」
「はい、今朝チェックアウトされました」
マリベルが仕事終わりにフェルに会うためホテルに行くと、フロントの人にそう言われた。
普通は個人情報だとかで教えてくれないところ、マリベルがギルド職員であることと、フェルが冒険者なのを知っているので、特別に教えてくれた。
しかし従業員もどこにフェルが行ったかはわからないと言っていた。
何でも住むところが見つかったそうだ。
フェルとの連絡手段もないので、どうしようか困ったが、仕方なく家に帰ることにした。
「え、な、なんで」
アパートに帰ると大家のドリトシュさんが声をかけてきた。
新しいお隣さんを紹介すると言われて、そこにフェルが居た。
「よろしく」
「冒険者なんだってね。マリベルちゃんも知っている人みたいだし、仲良くしてね」
「は、はい」
ドリトシュさん夫婦と別れて二人で3階に上がる。
「びっくりした。もしかして、フェルさん、私が同じアパートだって知ってたんですか?」
「……はい」
「そうだったんですね」
それならそこまで言ってくれれば良かった。だから家の話になったのかも。大家さんはマリベルの勤め先を知っている。彼がここを契約する時にマリベルのことも聞いたんだろう。
「あ、あの、今朝のことですけど、何だか巻き込み事故みたいなことになってしまってすみません」
「え?」
「この前私から酔った勢いで言ったとこだからなかったことにしてほしいとお願いしておきながら、結局恋人役をさせてしまって」
「気になさらないで。俺は、あなたのお父上に恩がある。それを返す前に亡くなってしまった。だから、これはその恩返しだと思ってくれればいいです」
「そこまで恩を感じてくれるなんて、父とあなたとの間に何があったのですか?」
何かあったとしても、それはきっと十年以上前の話だ。彼も子供だった頃の。
「俺が養父と知り合えたのもゲオルグさんのお陰です.あの出会いがなければ、俺は死んでいたかもしれない。だから、ゲオルグさんは命の恩人なんです。ゲオルグさんに返せなかった恩を、マリベルさんを守ることで返せるなら、俺はどんなことでもします」
「そこまで気にかけてくれてありがとうございます。でも、それでは私の気が済みません。私に出来ることがあれば、お返しに何でもします。あ、でも先にこれからのこと、話し合っておきたいので、約束どおり、私の部屋へ来てもらってもいいですか?」
男性を一人暮らしの部屋に招くなど、本当の恋人でもないのにすべきではないかも知れない。
でも、言葉を交わしたのはここ数日のことだったが、なぜかフェルのことは信用できる気がした。
「お、お邪魔します」
緊張した面持ちでフェルがマリベルの部屋にやってきた。
間取りは彼の部屋と同じ筈だ。
フェルはソワソワと辺りを見回して食卓に座った。
そこで二人でシチューを食べた。食器を片付け改めてマリベルはフェルに言った。
「それで、『恋人』の話ですが…暫くこのままでお願い出来ませんか」
虫が良すぎる話だとは思う。何しろ自分から一旦は断りを入れた話なのだ。
「私、エミリオと付き合っていると思っていたんです。でも、彼は『ギルド長の娘』、『ギルドの受付』として私を利用していただけで、ずっと前からプリシラと付き合っていたの。それだけでなく、私がエミリオを脅してつきまとっていたと言いがかりをつけられていて。だから、恋人がいるとわかれば、彼らもそのうち諦めると思うんです。勝手なことを言っているとは自覚しています」
「俺を、利用する。ということ?」
「も、もちろんタダとは言いません、ギルドに依頼を張り出すことは出来ませんが、個人依頼ということで引き受けて」
「俺は構いません。お金もいりません」
「え?」
断られるのを覚悟でいたマリベルは、フェルから返ってきた言葉に面食らう。
「はい、今朝チェックアウトされました」
マリベルが仕事終わりにフェルに会うためホテルに行くと、フロントの人にそう言われた。
普通は個人情報だとかで教えてくれないところ、マリベルがギルド職員であることと、フェルが冒険者なのを知っているので、特別に教えてくれた。
しかし従業員もどこにフェルが行ったかはわからないと言っていた。
何でも住むところが見つかったそうだ。
フェルとの連絡手段もないので、どうしようか困ったが、仕方なく家に帰ることにした。
「え、な、なんで」
アパートに帰ると大家のドリトシュさんが声をかけてきた。
新しいお隣さんを紹介すると言われて、そこにフェルが居た。
「よろしく」
「冒険者なんだってね。マリベルちゃんも知っている人みたいだし、仲良くしてね」
「は、はい」
ドリトシュさん夫婦と別れて二人で3階に上がる。
「びっくりした。もしかして、フェルさん、私が同じアパートだって知ってたんですか?」
「……はい」
「そうだったんですね」
それならそこまで言ってくれれば良かった。だから家の話になったのかも。大家さんはマリベルの勤め先を知っている。彼がここを契約する時にマリベルのことも聞いたんだろう。
「あ、あの、今朝のことですけど、何だか巻き込み事故みたいなことになってしまってすみません」
「え?」
「この前私から酔った勢いで言ったとこだからなかったことにしてほしいとお願いしておきながら、結局恋人役をさせてしまって」
「気になさらないで。俺は、あなたのお父上に恩がある。それを返す前に亡くなってしまった。だから、これはその恩返しだと思ってくれればいいです」
「そこまで恩を感じてくれるなんて、父とあなたとの間に何があったのですか?」
何かあったとしても、それはきっと十年以上前の話だ。彼も子供だった頃の。
「俺が養父と知り合えたのもゲオルグさんのお陰です.あの出会いがなければ、俺は死んでいたかもしれない。だから、ゲオルグさんは命の恩人なんです。ゲオルグさんに返せなかった恩を、マリベルさんを守ることで返せるなら、俺はどんなことでもします」
「そこまで気にかけてくれてありがとうございます。でも、それでは私の気が済みません。私に出来ることがあれば、お返しに何でもします。あ、でも先にこれからのこと、話し合っておきたいので、約束どおり、私の部屋へ来てもらってもいいですか?」
男性を一人暮らしの部屋に招くなど、本当の恋人でもないのにすべきではないかも知れない。
でも、言葉を交わしたのはここ数日のことだったが、なぜかフェルのことは信用できる気がした。
「お、お邪魔します」
緊張した面持ちでフェルがマリベルの部屋にやってきた。
間取りは彼の部屋と同じ筈だ。
フェルはソワソワと辺りを見回して食卓に座った。
そこで二人でシチューを食べた。食器を片付け改めてマリベルはフェルに言った。
「それで、『恋人』の話ですが…暫くこのままでお願い出来ませんか」
虫が良すぎる話だとは思う。何しろ自分から一旦は断りを入れた話なのだ。
「私、エミリオと付き合っていると思っていたんです。でも、彼は『ギルド長の娘』、『ギルドの受付』として私を利用していただけで、ずっと前からプリシラと付き合っていたの。それだけでなく、私がエミリオを脅してつきまとっていたと言いがかりをつけられていて。だから、恋人がいるとわかれば、彼らもそのうち諦めると思うんです。勝手なことを言っているとは自覚しています」
「俺を、利用する。ということ?」
「も、もちろんタダとは言いません、ギルドに依頼を張り出すことは出来ませんが、個人依頼ということで引き受けて」
「俺は構いません。お金もいりません」
「え?」
断られるのを覚悟でいたマリベルは、フェルから返ってきた言葉に面食らう。
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