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54 浄化
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話には聞いていたし、ある程度予想はしていた。
長椅子の背もたれがあると言っても、背が高いので上半身の大部分がはみ出ていた。肩から二の腕の辺り、少し日に焼けた肌の色より赤味がかってボコボコとした肌が見えた。
「見られたくないなら見ないでおきますが、私に気を使っているだけなら気にしないでください」
「……忠告は…しました」
まだ具合は悪いらしく、それ以上のことを言う元気はないみたいで、深くため息だけついた。
目を逸らすつもりもないけど、じっくり見るつもりもなかった。でも人間見るなと言われたら見たくなるもの。
そのまま同じ位置で着替えが終わるのを待った。
いつもお風呂上がりに着ていた服に着替え終わると、シーツの取り替えも終わりベッドへ移動した。
「ふう…」
枕に頭を預けるとアドルファスさんは力を抜いて息を吐いた。
「まだ辛いですか?」
「吐いたら少し…楽になった」
そうは言ってもまだ顔色も悪いし小刻みに震えている。波は去ったのかもしれないけど、油断はまだ出来ない。
「どうして…あんなこと…」
「あんなこと?」
「吐いたものを…手で…」
「床が汚れると思って咄嗟に…」
「床など…気にしなくても…」
「ですね」
「もう…二度と…しないで…」
「じゃあ、アドルファスさんも」
「え?」
「こうなったの…私のせい、ですよね」
「違う」
「でも…」
「これは…私が…配分を間違った…せい」
アドルファスさんは否定しているが、私を探すために魔法を使ったのは確か。
「違うと…言っている。午前中…仕事で…訓練、があって…あなたを…探すために少し加減を間違った」
「どうして加減を間違ったんですか?」
「それは…あなたが危ない目に…あっているのではと…焦って…」
それが私のせいと言うのではないだろうか。
「手を…」
「え?」
「手を握ってもらっても?」
アドルファスさんが私に向かって手を伸ばしてくる。
「さっき触れてもらった時、少し気分が良くなった」
「気分の問題だと…」
「それでも…だめ…ですか?」
枕に頭を預け、懇願するアドルファスさんはまるで子どもみたいだ。
「あの、旦那様、神官殿が見えられました」
一旦部屋を出ていたディーターさんが神官が来訪したことを告げに戻ってきた。
「私は、席を外しますね」
「いいえ、ここにいてください」
「え?」
「側にいて…ください」
「いいんですか?」
「是非」
手を握ってほしいとか側にいてほしいとか、急に甘えてこられる。
頼りにされているようで何だか嬉しい。
「入ってもよろしいですか」
「どうぞ、クムヒム神官。夜遅くにすいません」
遠慮気味に入ってきた神官はオレンジ色の髪をした男性だった。
年齢はディーターさんくらいだろうか。
柔らかい物腰の優しそうな人だった。
「発作が起きたと聞き慌てて飛んできましたが、意外に元気そうですね」
「さっきより少し楽になりました」
「そのようですね」
クムヒム神官はアドルファスさんの顔を覗き込み、それから私の方を見る。
「あ、彼女は…」
「聖女様と一緒に召喚された方ですね。カザール副神官長からお話は聞いております」
「ユイナです。どんな噂でしょう」
「小柄で愛らしいと」
「え?」
小柄はわかるが、愛らしいと言われているとは思わなかった。
「クムヒム神官、治療は?」
「ああ、そうでしたね。では手を出してください」
彼に言われたとおりに手を出す。
神官がその手を掴み、目を閉じて何かを唱えだした。
彼の手が仄かに光だし、それがアドルファスさんに流れていくのが見えた。それがアドルファスさんの体を包み、やがて砂に水が染み込むように消えていった。それに合わせて靄も消え失せた。
「どうですか?」
「はい、随分楽になりました」
「今回は比較的軽い発作のようでしたから、私もいつもの半分ほどの力で済みました」
「半分…」
「どうかされましたか?」
「いえ…潔斎の儀式を控えて忙しい時に申し訳ない」
「いいえ、これが私の役割ですから」
「そうだったな」
「ところで、お詫びが遅くなりました。今日は神殿の者がご迷惑をおかけしました」
クムヒム神官が神殿での騒動について話題にした。
「クムヒム神官のせいとは思っていない」
「ですが、行き届かなかったことは事実です」
「すみません、私が勝手に…聖女様が召喚されたと噂が広がり参拝の方が増えたとか、急に忙しくなったのでしょうし、仕方ありません」
「ええ、朝早くから夜遅くまで、遠くから詰めかける方も多く、私達も対応に追われております」
「それで、神殿としてはどのような処分を考えている」
「処分だなんて、何もしなくても」
「ユイナさんはそう言うが、一度甘い顔をすると、示しがつかない」
「でも、彼らは怠けていたわけでは…」
「門番もそうですが、貴方が建物を出ていくのを見過ごした神官たちも、同じように罰を与えるつもりです」
「そんな…」
私一人を見過ごしたせいで、大勢の人たちが処罰を受けることになるなんて思っても見なかった。
ここは私の常識が通用しない世界。
そのことを改めて実感した。
長椅子の背もたれがあると言っても、背が高いので上半身の大部分がはみ出ていた。肩から二の腕の辺り、少し日に焼けた肌の色より赤味がかってボコボコとした肌が見えた。
「見られたくないなら見ないでおきますが、私に気を使っているだけなら気にしないでください」
「……忠告は…しました」
まだ具合は悪いらしく、それ以上のことを言う元気はないみたいで、深くため息だけついた。
目を逸らすつもりもないけど、じっくり見るつもりもなかった。でも人間見るなと言われたら見たくなるもの。
そのまま同じ位置で着替えが終わるのを待った。
いつもお風呂上がりに着ていた服に着替え終わると、シーツの取り替えも終わりベッドへ移動した。
「ふう…」
枕に頭を預けるとアドルファスさんは力を抜いて息を吐いた。
「まだ辛いですか?」
「吐いたら少し…楽になった」
そうは言ってもまだ顔色も悪いし小刻みに震えている。波は去ったのかもしれないけど、油断はまだ出来ない。
「どうして…あんなこと…」
「あんなこと?」
「吐いたものを…手で…」
「床が汚れると思って咄嗟に…」
「床など…気にしなくても…」
「ですね」
「もう…二度と…しないで…」
「じゃあ、アドルファスさんも」
「え?」
「こうなったの…私のせい、ですよね」
「違う」
「でも…」
「これは…私が…配分を間違った…せい」
アドルファスさんは否定しているが、私を探すために魔法を使ったのは確か。
「違うと…言っている。午前中…仕事で…訓練、があって…あなたを…探すために少し加減を間違った」
「どうして加減を間違ったんですか?」
「それは…あなたが危ない目に…あっているのではと…焦って…」
それが私のせいと言うのではないだろうか。
「手を…」
「え?」
「手を握ってもらっても?」
アドルファスさんが私に向かって手を伸ばしてくる。
「さっき触れてもらった時、少し気分が良くなった」
「気分の問題だと…」
「それでも…だめ…ですか?」
枕に頭を預け、懇願するアドルファスさんはまるで子どもみたいだ。
「あの、旦那様、神官殿が見えられました」
一旦部屋を出ていたディーターさんが神官が来訪したことを告げに戻ってきた。
「私は、席を外しますね」
「いいえ、ここにいてください」
「え?」
「側にいて…ください」
「いいんですか?」
「是非」
手を握ってほしいとか側にいてほしいとか、急に甘えてこられる。
頼りにされているようで何だか嬉しい。
「入ってもよろしいですか」
「どうぞ、クムヒム神官。夜遅くにすいません」
遠慮気味に入ってきた神官はオレンジ色の髪をした男性だった。
年齢はディーターさんくらいだろうか。
柔らかい物腰の優しそうな人だった。
「発作が起きたと聞き慌てて飛んできましたが、意外に元気そうですね」
「さっきより少し楽になりました」
「そのようですね」
クムヒム神官はアドルファスさんの顔を覗き込み、それから私の方を見る。
「あ、彼女は…」
「聖女様と一緒に召喚された方ですね。カザール副神官長からお話は聞いております」
「ユイナです。どんな噂でしょう」
「小柄で愛らしいと」
「え?」
小柄はわかるが、愛らしいと言われているとは思わなかった。
「クムヒム神官、治療は?」
「ああ、そうでしたね。では手を出してください」
彼に言われたとおりに手を出す。
神官がその手を掴み、目を閉じて何かを唱えだした。
彼の手が仄かに光だし、それがアドルファスさんに流れていくのが見えた。それがアドルファスさんの体を包み、やがて砂に水が染み込むように消えていった。それに合わせて靄も消え失せた。
「どうですか?」
「はい、随分楽になりました」
「今回は比較的軽い発作のようでしたから、私もいつもの半分ほどの力で済みました」
「半分…」
「どうかされましたか?」
「いえ…潔斎の儀式を控えて忙しい時に申し訳ない」
「いいえ、これが私の役割ですから」
「そうだったな」
「ところで、お詫びが遅くなりました。今日は神殿の者がご迷惑をおかけしました」
クムヒム神官が神殿での騒動について話題にした。
「クムヒム神官のせいとは思っていない」
「ですが、行き届かなかったことは事実です」
「すみません、私が勝手に…聖女様が召喚されたと噂が広がり参拝の方が増えたとか、急に忙しくなったのでしょうし、仕方ありません」
「ええ、朝早くから夜遅くまで、遠くから詰めかける方も多く、私達も対応に追われております」
「それで、神殿としてはどのような処分を考えている」
「処分だなんて、何もしなくても」
「ユイナさんはそう言うが、一度甘い顔をすると、示しがつかない」
「でも、彼らは怠けていたわけでは…」
「門番もそうですが、貴方が建物を出ていくのを見過ごした神官たちも、同じように罰を与えるつもりです」
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私一人を見過ごしたせいで、大勢の人たちが処罰を受けることになるなんて思っても見なかった。
ここは私の常識が通用しない世界。
そのことを改めて実感した。
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