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第一章 突然の異世界
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『紫紋さんは誰にでも分け隔てなく優しいけど、それが不満だったんじゃないですか?』
「そうかもな…」
紫紋としては、大事にしたつもりだったが、何せ皆が頼ってくるのでつい頼まれればどこにでも顔をだし、手助けしてきた。しかし付き合いもいいが、それがいつもだとどうしても彼女と過ごす時間も減る。二人きりで会う約束をしても、そこにいつも誰かが割り込んできて、結局は「私は特別じゃないのね」と言われ、ふられるのだ。
『でも、別れた女性たちも、誰も紫紋さんのことを、悪く言わないですよ。恋人としてはだめだったけど、人としては最高だって』
「それは喜んでいいのか?」
男である前に人なので、人間性を褒められるのは悪い気はしないが、男としてどうなのか。
『もちろんです。人として好かれるってなかなか難しいんですよ』
「お前にしては良いこと言うな」
『それ、おれのこと、ディスってます?』
「そうかもな…酒に酔った酔っぱらいのたわ言だと思って許してくれ」
『ザルの紫紋さんが酔っぱらい? ドラム缶いっぱい飲んでも大丈夫なのに』
「それは言い過ぎ。さすがに俺もドラム缶いっぱいの酒は飲めない。ほろ酔いにはなっても前後不覚になることも吐くこともないけどな」
『羨ましい。俺なんてビール大ジョッキ二杯と一升瓶一本が限度なのに』
「それだけ飲めれば十分だ」
そこでイヤホンからピピッと音がした。
「悪い、そろそろ充電が切れそうだし、夜行バスの発着所に行かないと」
『あ、じゃあ、切ります。林のばっちゃんがおはぎ作って持ってきてくれるそうです』
「それは楽しみだ。じゃあな」
イヤホンをタップして、紫紋は会話を終えた。
それからビールの残りを飲み干し、既に飲み終えた分の空き缶をゴミ箱に捨てた。
「う~ん、さあ帰るか」
そこで大きく伸びをすると、ぴったりだったスーツのボタンが取れそうなくらい広がった。
「これもそろそろ替えどきかな」
仕事柄普段は作業着か、カジュアルなものばかりなので、スーツを着たのは何年ぶりだろう。
スーツ自体も数年前に買ったものなので、久しぶりに袖を通すと、ギリギリ着られるといった感じだった。
今回、彼が上京したのは「カドワキファーム」が手掛ける野菜の加工品を、百貨店の物産展で販売してもらうための商談が目的だった。
商談はうまくいき、深夜バス出発までの時間つぶしにコンビニに寄っていた。
「さて行きますか」
女性との付き合いはさておき、紫紋は今の自分の生活に満足していた。
父親の実家は専業農家で、米以外にも野菜や果物を作っている。
しかし父親は農業を嫌い、都会に出てサラリーマンになった。
両親が離婚し、母親が国に帰ってから一人では紫紋を育てられないと、父親は彼を両親に預けた。
祖父母と共に田舎で育った紫紋は、子供ながらにここで祖父母に嫌われたら、自分の居場所がないと思い、幼い頃から農業の手伝いをして育った。
途中、ぐれて暴走族総長などになってしまったが、二十歳になる頃、祖父が倒れた。それを機に暴走族を辞め、祖父の代わりに祖母を手伝い、農業をすることにした。
心臓を悪くした祖父は、五年後に亡くなり祖母も昨年亡くなった。父親とは時折電話で話をしていて、葬式には顔を合わせたきりだ。
今は父親も再婚して、小学生の異母妹がいる。
事業のために借金はあるものの、余裕をもって返済できているし、仲間もいて仕事も楽しい。
いずれは結婚して子供も、とは思うが、今のところ本気でこの人と結婚したいと、思えた人はいない。
バスターミナルに向かい、紫紋は通りを歩いていた。
「きゃあっ」
「何だ!!」
歩道橋を登り、真ん中付近で高校生か大学生くらいの女性とすれ違ってすぐに、背後から突然悲鳴が聞こえ、何事かと振り返った。
「……え?」
何が起こっているのか、咄嗟にはわからなかった。
女性はまるでテレビで見たオーロラのような光に包まれていた。
しかもよく見ると、女性の足首あたりが歩道橋の中に埋まっている。
崩落かと思ったが、それなら光っているのもおかしいし、歩道橋のコンクリート自体は穴も空いていない。
「助けて…」
女性が紫紋を見て、助けを求め手を伸ばす。
思わず条件反射で、彼はその手を掴んだ。
しかし、どんな力が働いたのかわからないが、掴んだ女性の手を引き戻すことも敵わず、何か強い力に引っ張られて紫紋は女性と共に、光の中に飲み込まれた。
「そうかもな…」
紫紋としては、大事にしたつもりだったが、何せ皆が頼ってくるのでつい頼まれればどこにでも顔をだし、手助けしてきた。しかし付き合いもいいが、それがいつもだとどうしても彼女と過ごす時間も減る。二人きりで会う約束をしても、そこにいつも誰かが割り込んできて、結局は「私は特別じゃないのね」と言われ、ふられるのだ。
『でも、別れた女性たちも、誰も紫紋さんのことを、悪く言わないですよ。恋人としてはだめだったけど、人としては最高だって』
「それは喜んでいいのか?」
男である前に人なので、人間性を褒められるのは悪い気はしないが、男としてどうなのか。
『もちろんです。人として好かれるってなかなか難しいんですよ』
「お前にしては良いこと言うな」
『それ、おれのこと、ディスってます?』
「そうかもな…酒に酔った酔っぱらいのたわ言だと思って許してくれ」
『ザルの紫紋さんが酔っぱらい? ドラム缶いっぱい飲んでも大丈夫なのに』
「それは言い過ぎ。さすがに俺もドラム缶いっぱいの酒は飲めない。ほろ酔いにはなっても前後不覚になることも吐くこともないけどな」
『羨ましい。俺なんてビール大ジョッキ二杯と一升瓶一本が限度なのに』
「それだけ飲めれば十分だ」
そこでイヤホンからピピッと音がした。
「悪い、そろそろ充電が切れそうだし、夜行バスの発着所に行かないと」
『あ、じゃあ、切ります。林のばっちゃんがおはぎ作って持ってきてくれるそうです』
「それは楽しみだ。じゃあな」
イヤホンをタップして、紫紋は会話を終えた。
それからビールの残りを飲み干し、既に飲み終えた分の空き缶をゴミ箱に捨てた。
「う~ん、さあ帰るか」
そこで大きく伸びをすると、ぴったりだったスーツのボタンが取れそうなくらい広がった。
「これもそろそろ替えどきかな」
仕事柄普段は作業着か、カジュアルなものばかりなので、スーツを着たのは何年ぶりだろう。
スーツ自体も数年前に買ったものなので、久しぶりに袖を通すと、ギリギリ着られるといった感じだった。
今回、彼が上京したのは「カドワキファーム」が手掛ける野菜の加工品を、百貨店の物産展で販売してもらうための商談が目的だった。
商談はうまくいき、深夜バス出発までの時間つぶしにコンビニに寄っていた。
「さて行きますか」
女性との付き合いはさておき、紫紋は今の自分の生活に満足していた。
父親の実家は専業農家で、米以外にも野菜や果物を作っている。
しかし父親は農業を嫌い、都会に出てサラリーマンになった。
両親が離婚し、母親が国に帰ってから一人では紫紋を育てられないと、父親は彼を両親に預けた。
祖父母と共に田舎で育った紫紋は、子供ながらにここで祖父母に嫌われたら、自分の居場所がないと思い、幼い頃から農業の手伝いをして育った。
途中、ぐれて暴走族総長などになってしまったが、二十歳になる頃、祖父が倒れた。それを機に暴走族を辞め、祖父の代わりに祖母を手伝い、農業をすることにした。
心臓を悪くした祖父は、五年後に亡くなり祖母も昨年亡くなった。父親とは時折電話で話をしていて、葬式には顔を合わせたきりだ。
今は父親も再婚して、小学生の異母妹がいる。
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いずれは結婚して子供も、とは思うが、今のところ本気でこの人と結婚したいと、思えた人はいない。
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