3 / 34
第一章 突然の異世界
1
しおりを挟む
「そっちは大丈夫? 農協の村山さんから、俺に融資が通ったって連絡が来たから、さっそくトラクターの購入すすめて」
夜の都会の街。
門脇紫紋は、コンビニの入り口で、バリカーに腰を下ろしてビール片手にブルートゥースのイヤホンで話をしていた。
電話の相手は彼の興した「カドワキファーム」の従業員兼彼の同居人兼出資人の立石一馬だ。
カドワキファームは主に、紫紋の家で代々継いできた農地と、近所で高齢だったり後継ぎの途絶えた家の農地を活用して、農作物の栽培から販売、加工を行っている。
従業員は紫紋と立石を入れて、全部で六人から始めた。そこに近所のまだまだ現役のじいちゃんばあちゃん数名が加わり、事業を展開している。
屋号に「カドワキ」の名を冠しているが、従業員として登録している六人全員が、それぞれお金を出し合っているので、屋号は最初別のものを考えていた。
しかし、なぜか紫紋以外の五人は「カドワキ」の名前は絶対入れると譲らなかった。
「カドワキファーム」という屋号ではあるが最近は仕事はそれだけではない。高齢の二人または一人世帯で、日常の細かい作業、例えば電球を変えたり、水道の水漏れ、障子の張替えなど頼まれれば何でも引き受ける何でも屋もやっている。
発端は手伝いに来ている年寄りたちに、困っているからと細々したことを頼まれたことからだったが、なぜかそれが口コミで広まった。
最初は無償で引き受けていたのだが、それでは頼むのも気が引けると誰かが言い出し、色々考えた末、会費制にすることにした。
従業員は三十歳の紫紋が一番最年長で、他は皆二十代が多い。最近は高校中退の二人を見習いで雇ったので、年寄りたちからは孫かひ孫のように可愛がられ、ちょっと異世代交流になっている。
「じゃあ、そういうことでよろしく。明日帰るから」
イヤホンで話をしつつ、グビリと缶ビールの残りを飲み切ると、空になった缶を、グシャリと片手でいとも簡単に握り潰す。そのまま夜の空を見上げた彼の髪を風が撫でた。
「うわ、めっちゃ色っぽい」
「待ち合わせかな」
「え~、だったら、あんな風にお酒飲む?」
「やばい、無茶苦茶ガタイいいな」
「でもなんか悪そう」
コンビニの前には学習塾があり、ちょうど休憩時間なのか、学生たちがたくさんコンビニにたむろしていた。
その中の女子たちが明らかに紫紋の方を見て、コソコソ話をしているのが聞こえた。
「キャッ、こっち見た」
紫紋が顔をそちらに向けると、彼女たちは慌てて立ち去った。
『紫紋さん?』
一馬が怪訝そうな声で名前を呼ぶ。
「あ、悪い。ちょうど今いるコンビニの前に塾があって、学生がいっぱい来ててさ。俺を見てなんかしゃべってたみたいだから、気を取られてた」
『それって女の子ですか?』
「うん、そう」
『さすが紫紋さん、彼女たちの様子が見なくてもわかります。その容姿だし、元『疾風』の伝説の総長の威厳が今も健在ですね』
「もう何年前も前の話、ほじくり返すな。自慢にもならない。第一、高校生となんていくつ離れていると思う? 俺もこの前三十歳になったから…一回りじゃ足りないぞ」
『え~、おれたちの中では昔の話じゃないですよ。今でも現役でかっこいいですよ、紫紋さんは。当時は髪ももっと長くて、黒の特攻服に明るい茶色の髪が風で靡いて…先頭を颯爽と走る姿に、女だけでなく男もメロメロでした』
「今は普通の農業をやっているアラサーだよ。髪の色も母親がロシア人だからで、特別俺は何もしていない」
紫紋の母親はロシアから日本にダンサーとして、出稼ぎに来ていた。そこでたまたま客として来ていた彼の父親が見初め、そして紫紋が生まれた。
しかし、文化の違いから、二人は紫紋が五歳の頃に離婚して、母親は国に帰ってしまった。
見た目はハーフなので、よく目立つ。
日本語しか知らない紫紋だが、明るい茶色の髪に、彫りの深い顔立ち。背も高く、今は農業で鍛えた見事な体格をしている。
『おれたちが惚れたのは、もちろん顔じゃないですよ。男気があって、仲間のために命張って、決して怯まず逃げない。まさに男の中の』
「おい、もうそれ以上は言うな。聞いていてこっちがはずかしくなる」
『おれに紫紋さんの素晴らしさを語らせたら、ひと晩では終わらないですよ。ま、おれだけじゃなく、紫紋さんの周りにいる人間は、総長時代を知らなくても老若男女問わず、皆多かれ少なかれ紫紋さんに惚れ込んでますから』
「まあ、そう言ってくれるのは嬉しいが、おれだって完璧じゃない。女性との付き合いも長続きしないしな」
深々と溜め息をつき、紫紋はさっき買った缶ビールをもう一本開けた。
夜の都会の街。
門脇紫紋は、コンビニの入り口で、バリカーに腰を下ろしてビール片手にブルートゥースのイヤホンで話をしていた。
電話の相手は彼の興した「カドワキファーム」の従業員兼彼の同居人兼出資人の立石一馬だ。
カドワキファームは主に、紫紋の家で代々継いできた農地と、近所で高齢だったり後継ぎの途絶えた家の農地を活用して、農作物の栽培から販売、加工を行っている。
従業員は紫紋と立石を入れて、全部で六人から始めた。そこに近所のまだまだ現役のじいちゃんばあちゃん数名が加わり、事業を展開している。
屋号に「カドワキ」の名を冠しているが、従業員として登録している六人全員が、それぞれお金を出し合っているので、屋号は最初別のものを考えていた。
しかし、なぜか紫紋以外の五人は「カドワキ」の名前は絶対入れると譲らなかった。
「カドワキファーム」という屋号ではあるが最近は仕事はそれだけではない。高齢の二人または一人世帯で、日常の細かい作業、例えば電球を変えたり、水道の水漏れ、障子の張替えなど頼まれれば何でも引き受ける何でも屋もやっている。
発端は手伝いに来ている年寄りたちに、困っているからと細々したことを頼まれたことからだったが、なぜかそれが口コミで広まった。
最初は無償で引き受けていたのだが、それでは頼むのも気が引けると誰かが言い出し、色々考えた末、会費制にすることにした。
従業員は三十歳の紫紋が一番最年長で、他は皆二十代が多い。最近は高校中退の二人を見習いで雇ったので、年寄りたちからは孫かひ孫のように可愛がられ、ちょっと異世代交流になっている。
「じゃあ、そういうことでよろしく。明日帰るから」
イヤホンで話をしつつ、グビリと缶ビールの残りを飲み切ると、空になった缶を、グシャリと片手でいとも簡単に握り潰す。そのまま夜の空を見上げた彼の髪を風が撫でた。
「うわ、めっちゃ色っぽい」
「待ち合わせかな」
「え~、だったら、あんな風にお酒飲む?」
「やばい、無茶苦茶ガタイいいな」
「でもなんか悪そう」
コンビニの前には学習塾があり、ちょうど休憩時間なのか、学生たちがたくさんコンビニにたむろしていた。
その中の女子たちが明らかに紫紋の方を見て、コソコソ話をしているのが聞こえた。
「キャッ、こっち見た」
紫紋が顔をそちらに向けると、彼女たちは慌てて立ち去った。
『紫紋さん?』
一馬が怪訝そうな声で名前を呼ぶ。
「あ、悪い。ちょうど今いるコンビニの前に塾があって、学生がいっぱい来ててさ。俺を見てなんかしゃべってたみたいだから、気を取られてた」
『それって女の子ですか?』
「うん、そう」
『さすが紫紋さん、彼女たちの様子が見なくてもわかります。その容姿だし、元『疾風』の伝説の総長の威厳が今も健在ですね』
「もう何年前も前の話、ほじくり返すな。自慢にもならない。第一、高校生となんていくつ離れていると思う? 俺もこの前三十歳になったから…一回りじゃ足りないぞ」
『え~、おれたちの中では昔の話じゃないですよ。今でも現役でかっこいいですよ、紫紋さんは。当時は髪ももっと長くて、黒の特攻服に明るい茶色の髪が風で靡いて…先頭を颯爽と走る姿に、女だけでなく男もメロメロでした』
「今は普通の農業をやっているアラサーだよ。髪の色も母親がロシア人だからで、特別俺は何もしていない」
紫紋の母親はロシアから日本にダンサーとして、出稼ぎに来ていた。そこでたまたま客として来ていた彼の父親が見初め、そして紫紋が生まれた。
しかし、文化の違いから、二人は紫紋が五歳の頃に離婚して、母親は国に帰ってしまった。
見た目はハーフなので、よく目立つ。
日本語しか知らない紫紋だが、明るい茶色の髪に、彫りの深い顔立ち。背も高く、今は農業で鍛えた見事な体格をしている。
『おれたちが惚れたのは、もちろん顔じゃないですよ。男気があって、仲間のために命張って、決して怯まず逃げない。まさに男の中の』
「おい、もうそれ以上は言うな。聞いていてこっちがはずかしくなる」
『おれに紫紋さんの素晴らしさを語らせたら、ひと晩では終わらないですよ。ま、おれだけじゃなく、紫紋さんの周りにいる人間は、総長時代を知らなくても老若男女問わず、皆多かれ少なかれ紫紋さんに惚れ込んでますから』
「まあ、そう言ってくれるのは嬉しいが、おれだって完璧じゃない。女性との付き合いも長続きしないしな」
深々と溜め息をつき、紫紋はさっき買った缶ビールをもう一本開けた。
40
あなたにおすすめの小説
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
-----------------------------------------
0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる