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プロローグ
何かがおかしいんだが②
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「だから、なんで…」
振り返って抗議すると、その人物、ヴィンセンツ・ロレンソ・アシェンボーンが物凄く鮮やかな青い瞳が片方、色っぽくみつめてくる。左目に眼帯をしているのは、見えないわけではなく、魔眼のため見え過ぎてしまうからだと聞いた。
長たらしい名前をした眼帯の彼は、この国唯一のソードマスターと呼ばれている。
「黒狼」という名の伝説の魔剣に選ばれ、その剣にオーラを纏わせ、たった一閃で十人の敵を薙ぎ倒すという。
それゆえ、人は彼のことを「黒狼王」という。
たとえ奴隷であっても、ソードマスターともなればその国での地位は確立される。
彼は辺境伯家に生まれたことから、ソードマスターでなくとも高い地位にいるため、この国では国王に並ぶ力を持つ。
しかし、彼自身は再従兄弟にあたる国王に忠義を誓い、臣下であることに誇りを持っているため、王との関係はすこぶる良好だ。
ヴィンセンツは百八十センチの紫紋より十センチは背が高く、剣士として鍛えているため、体格もいい。
紫紋も昔から喧嘩が強く、農業で鍛えていてそれなりに筋肉もあるが、元からの人種の違いか、他の皆もそれなりにガタイはいいが、彼は断トツに立派だ。
「俺をすっぽり腕に収めるなんて、ヴィンセンツだけだよ」
背中に感じる彼の逞しい胸板と、太い腕。手足も長く彼がそばにいると、紫紋がか弱く見える。
年齢は紫紋より五つ歳下だが、ずっと大人びて見える。
辺境伯であり稀代の天才、唯一のソードマスターである彼もまた、特別なのだろう。
「シモン、良い酒が手に入った。北方の国の酒で度数がかなり強いが、お前ならいけるだろう。今夜にでも飲まないか」
彼も酒豪で、一緒に飲んでもいつも周りが先に潰れるそうだ。紫紋も負けないくらい酒が強く、初めて酒を飲み交わして以降、珍しい酒を手に入れてはこうして誘ってくれる。
「北部は度数の強い酒が多いんだ」
「へえ、そうなんですね。俺のいた世界でも北国は度数の強いお酒がありました」
「お前と飲むのは楽しい」
「俺もですよ」
「今夜はこの前の話の続きを教えてくれるか?」
彼は俺の話をとても楽しそうに聞く。
「いいですけど、あなたのことも教えてくださいよ」
「ふふ、俺の何が知りたい? お前が望むなら、何でも答えてやるぞ、シモン。お前は特別だからな」
「ありがとうございます。特別だなんて言ってもらえて嬉しいです」
歳下だけど、彼は精神年齢も高く、紫紋は彼をとても尊敬している。
「『嬉しい』か、そんな風に言ってもらえてるとはな。愛いやつだ」
「ひゃあっ」
何か温かいものが首筋に触れた。
「もう、またですか。やめてくださいよ。俺、首筋が弱いって言いましたよね」
それが彼の唇だと気づき、また揶揄われていると思った。
「そうだったか?」
日本人に馴染みはなくても、外国人はハグやチークキスもスキンシップのひとつであることは知っている。
「これはこの世界の信頼の証だ。慣れておけ」
「それは前にも聞きました」
彼のこの行為も、実はそうなのだと初めてされた時に聞いたが、まだ慣れない。
「お前はしてくれないのか?」
「………」
郷に入れば郷に従え。強請られて、体を反転させると首を傾けて待ち受けているヴィンセンツの首筋に、紫紋も軽く唇を付ける。
「これでいいか?」
「ああ」
顔を上げると、ヴィンセンツが満足そうに笑った。
「だが、わかっているな」
「わかっている。他の人にはしない」
彼曰く、これは真に友と思った者との行為で、気安くするものではないらしい。
『地球でも文化の違いで、色々と常識も違うし、こういうものだろう』
何かおかしいと思うが、この世界に来てまだ日が浅い紫紋は、親切に接してくれるだけで有り難いと思っている。
振り返って抗議すると、その人物、ヴィンセンツ・ロレンソ・アシェンボーンが物凄く鮮やかな青い瞳が片方、色っぽくみつめてくる。左目に眼帯をしているのは、見えないわけではなく、魔眼のため見え過ぎてしまうからだと聞いた。
長たらしい名前をした眼帯の彼は、この国唯一のソードマスターと呼ばれている。
「黒狼」という名の伝説の魔剣に選ばれ、その剣にオーラを纏わせ、たった一閃で十人の敵を薙ぎ倒すという。
それゆえ、人は彼のことを「黒狼王」という。
たとえ奴隷であっても、ソードマスターともなればその国での地位は確立される。
彼は辺境伯家に生まれたことから、ソードマスターでなくとも高い地位にいるため、この国では国王に並ぶ力を持つ。
しかし、彼自身は再従兄弟にあたる国王に忠義を誓い、臣下であることに誇りを持っているため、王との関係はすこぶる良好だ。
ヴィンセンツは百八十センチの紫紋より十センチは背が高く、剣士として鍛えているため、体格もいい。
紫紋も昔から喧嘩が強く、農業で鍛えていてそれなりに筋肉もあるが、元からの人種の違いか、他の皆もそれなりにガタイはいいが、彼は断トツに立派だ。
「俺をすっぽり腕に収めるなんて、ヴィンセンツだけだよ」
背中に感じる彼の逞しい胸板と、太い腕。手足も長く彼がそばにいると、紫紋がか弱く見える。
年齢は紫紋より五つ歳下だが、ずっと大人びて見える。
辺境伯であり稀代の天才、唯一のソードマスターである彼もまた、特別なのだろう。
「シモン、良い酒が手に入った。北方の国の酒で度数がかなり強いが、お前ならいけるだろう。今夜にでも飲まないか」
彼も酒豪で、一緒に飲んでもいつも周りが先に潰れるそうだ。紫紋も負けないくらい酒が強く、初めて酒を飲み交わして以降、珍しい酒を手に入れてはこうして誘ってくれる。
「北部は度数の強い酒が多いんだ」
「へえ、そうなんですね。俺のいた世界でも北国は度数の強いお酒がありました」
「お前と飲むのは楽しい」
「俺もですよ」
「今夜はこの前の話の続きを教えてくれるか?」
彼は俺の話をとても楽しそうに聞く。
「いいですけど、あなたのことも教えてくださいよ」
「ふふ、俺の何が知りたい? お前が望むなら、何でも答えてやるぞ、シモン。お前は特別だからな」
「ありがとうございます。特別だなんて言ってもらえて嬉しいです」
歳下だけど、彼は精神年齢も高く、紫紋は彼をとても尊敬している。
「『嬉しい』か、そんな風に言ってもらえてるとはな。愛いやつだ」
「ひゃあっ」
何か温かいものが首筋に触れた。
「もう、またですか。やめてくださいよ。俺、首筋が弱いって言いましたよね」
それが彼の唇だと気づき、また揶揄われていると思った。
「そうだったか?」
日本人に馴染みはなくても、外国人はハグやチークキスもスキンシップのひとつであることは知っている。
「これはこの世界の信頼の証だ。慣れておけ」
「それは前にも聞きました」
彼のこの行為も、実はそうなのだと初めてされた時に聞いたが、まだ慣れない。
「お前はしてくれないのか?」
「………」
郷に入れば郷に従え。強請られて、体を反転させると首を傾けて待ち受けているヴィンセンツの首筋に、紫紋も軽く唇を付ける。
「これでいいか?」
「ああ」
顔を上げると、ヴィンセンツが満足そうに笑った。
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彼曰く、これは真に友と思った者との行為で、気安くするものではないらしい。
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