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45 ホワイトブラッド

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「我々はホワイトブラッド、通称Wbと言います。白血球から名前を取りました」

白血球は身体への異物の侵入に対し体を守る働きをする血液成分のひとつ。
ゆえに、地球を侵略するトゥールラークに抵抗する組織の名としたと彼は言った。

「私のことはXとでもお呼びください。Wbの日本支部での責任者です」

どこかの中二病を発生した痛い大人にしか見えない。顔を隠し、本名を明かさないことで、胡散臭さは彼も同じだ。いや、それ以上かも知れない。

「つまり、異物とはトゥールラーク人のことですか?」
「御名答。我らWbはトゥールラーク人の支配からの脱却を目指し結成されました。すでに千年の歴史があります」
「千年」

燕やトゥールラーク人の寿命もそうだが、耳にする年数が桁違いだ。
もはや一年二年などほんの瞬きにしか思えない。

「坂口さんはどうしたのですか? 高野さんや大平さんもあなたの仲間ですか?」
「まあ、落ち着いてください。坂口というのはあの看護師ですね。彼女にはちょっと別室で眠っていただきました。今頃は目覚めているでしょう」
「いきなり眠らされてわけのわからない所につれてこられて、落ち着いていられません」

本当かどうか確かめる術はないが、生きているなら良かった。

「その点は謝りますが、これはあなたのためなのです」
「わたしのため?」
「トゥールラーク人のことは、どこまで聞いていますか」
「どこまで…とは?」
「どういう理由で奴らが地球に来たのか、ここで彼らが何をしようとしているのか、何をしてきたのか。そして、地球の歴史の中で奴ら蜥蜴野郎たちがどう関わってきたのか」
「蜥蜴…」
「そうだろう? 奴らの本質は人の皮を被った蜥蜴だ」

侮蔑の考えを隠そうともせず、吐き捨てるようにXは言った。

その嫌悪と怒り、憎しみ、あらゆる負の感情が顕になった様子に和音は怯んだ。

「自分たちの子供を産ませるために無理矢理体を調べさせ、種を植え付ける。地球は蜥蜴野郎の繁殖場でもなければ、地球人はあいつらの家畜でもない」
「で、でも…地球の文明の発展だって、彼らの助けがあったから…」
「そんなもの、まやかしだ。あいつらの助けが無くても地球人は独自に文明を発展させ技術を進歩させることができる。それをあいつらは自分たちの手柄だと驕り、恩着せがましいことを言って地球を自分たちだけの惑星だと勘違いし、そのうち乗っ取るつもりだ。いや、国のトップ連中はすでに洗脳され、いいように遣われている。表面上の指導者とされて、操られていることにも気づかずのほほんと生きて、蜥蜴に頭を下げる。そんな社会がまかり通っていいのか」

熱が入ってXは朗々と喋り続ける。
まるで政党の決意表明だ。
確かにそういう考えもあるが、彼の言葉も地球人至上主義にしか聞こえない。
どこまで地球人が自立できるものなのか、それを検証する材料を和音は持っていない。
燕が正しいのか、彼らが正しいのか。答えによっては和音の境遇は百八十度変わってくる。

「おかしいと思わないか。発展に貢献してきたと言いながら、地球の歴史は必ずしも平坦ではなかった。大きな戦争が起こり、地球環境も破壊され毎日多くの生物が絶滅していく。自分たちの手柄だと言いながら、地球がおかしくなっていくのを放置しているのは、奴らが地球をただの寄生先にしか思っておらず、いずれ食い尽くして捨て去るつもりなんだ。やつらは地球を使い捨ての仮宿としか思っていない」

和音は何も言い返すことが出来なかった。
そして燕から地球の歴史とトゥールラーク人との関わりを聞かされたときに感じた違和感の正体は、これだったのだと気づいた。

「でも、それは地球で生まれ育った私達にも責任が…」
「騙されてはいけません。それがあいつらの手口だ。現にそのお腹の子を妊娠したのも、奴らが勝手に進めたこと。そこにあなたの意思がありましたか? あなたは…悪い言い方かもしれないが、人格を無視され、勝手に種を植え付けられた。言わば子を生むだけに選ばれた。道具と同じなんですよ」

Xの言葉は、機械を通して語られるだけに更に辛辣に聞こえた。

「何人かの候補から選ばれたと言っているが、果たしてそうですか? 他にもあなたのように妊娠して、あの蜥蜴の『燕』と名乗る宇宙人の子を宿している者がいるのでは?」

他にもいた候補の中から和音を選んだと、燕は言った。
けれど、それが本当かどうか。そしてXの言うことも本当かどうか、和音は確認する術がない。

膝の上に置いた和音の拳がふるふると震える。
「違う」と言いたいのに、喉が張り付いて何も言えない。

「城咲和音さん、あなたに提案があります」

Xは顔の前で手を組んで、改まって和音に言った。

「我々Wbに入り、共に彼らをこの地球から追い出し、地球人の地球人のよる支配を目指しませんか」
「私が?」
「そのお腹の子はあの男…トゥールラークの王族だとか曰う男の子です。その子を盾として彼らに地球からの撤退を要求するのです」
「子供を、利用するんですか?」
「その子はエイリアンなんですよ。妊娠はあなたも望んでいなかったことですよね。あいつらには必要でも、我々には必要ない存在。利用価値はあっても、存在価値などないでしょう」

Xの言葉は和音のお腹の子を、まるで道具のようにしか思っていないのがわかった。
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