危ない双子〜その愛に溺れて〜

橘 葛葉

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2=入れ替わり=

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マーレに着くと、昼間と同じ席に二人はいた。それぞれの隣が空いている。
服も同じだ。
気さくに手を振ってくるのは、灰色セーターの方だった。オレンジセーターの方はじっと桜を見ている。その強い目力に負けて、思わず俯いてしまった。
「お待たせしました~」
美奈子がそう言って、オレンジセーターの横に座った。
「え?」
驚いた桜は美奈子とオレンジセーターの男性を見た。
「どうしたの?」
気さくな感じで話しかけてきた、灰色セーターの男に桜は目を向け、オレンジセーターの男を再度見てから言った。
「あ、ごめんなさい。美奈子とやりとりしているのは、弟さんの方だと思ってたので、予測が外れてびっくりしただけなんです」
桜の言葉に、今度は美奈子が驚いた声を出す。
「オレンジセーターの澄人すみとくんが弟さんじゃないの?」
「……そう言ってたよね」
言ってというか、メモだったが。しかし桜は首を横に振って言った。
「昼間と服が入れ替わってますよね」
桜が言うと、ふっと息を吐き出したのは灰色セーターの男。しかし口を開いたのはオレンジセーターの方だった。
「澄人のアイデアだったが、あっさり見破られたな」
想像通りの落ち着いた声だった。
「俺は予測通り、兄の方」
「凄いね、桜ちゃん」
隣から澄人が顔を覗き込んでくる。
「どうして分かった?」
兄の方が聞いてくるが、どうしてと言われても桜にもは答えられない。ただ、なんとなくそう思っただけだ。
答えに困っていると、澄人が陽気に言う。
「いいね、楽しくなってきた。二人とも、お酒は飲めるほう?」
「強くはないですけど、そこそこ」
美奈子が桜の隣の澄人に言う。
「じゃ、居酒屋とか行く?それともカラオケ?」
「桜、どうする?」
「ふうん、桜ちゃんって言うんだ」
澄人が素早く反応する。
「あ、初めまして。澄人、さん」
「よろしく~、こっちは阿澄ね」
親指で澄人が兄を指差す。それを見た美奈子が二人を交互に見て言った。
「全然区別つかない。凄いね桜」
「とりあえず移動しよっ」
さっと立ち上がった澄人に、美奈子が勢いよく立ち上がる。
居酒屋かなぁと言いながら歩き出す澄人を追って、全員で駅前へ移動した。









居酒屋で軽く食べて飲んだ四人は、そのままカラオケに移動しようと道を歩いていた。
主に澄人と美奈子のテンションが同じで、その二人に付き合うような形の阿澄と桜。
「危ないからこっちへ」
さりげなく道の内側に寄せてくれる阿澄に、桜は内心でドキドキしていた。
「あ、な~にやらしい顔して歩いてんの」
顔が赤い美奈子がそう言って桜に絡む。
「そんな顔してないよ。ちょっと美奈子、大丈夫なの?」
「大丈夫~」
澄人が近寄ってきて、美奈子の腕を持つ。
「ほんとに大丈夫?そんなんじゃお持ち帰りされちゃうよ」
「え~澄人さんになら持って帰られた~い」
美奈子がそう言って澄人に絡む。
「え~、僕アブノーマルだけどいい?」
「アブノーマルってどんな風に?SMとか?」
「ん~、男もいけるって感じ」
「えっ!凄い。それってどんな感じ?」
「どんなって言われても」
会話が凄いことになってきて、桜はどちらをどう止めようか迷って何も言えない。
「ど、どうしましょう」
「放っておけばいい。恥ずかしいからちょっと距離を取るか」
阿澄の意見に賛成した桜は、その歩みに合わせてゆっくり歩く。
前の会話も聞こえなくなってきた頃、突然背後から声がかかり、阿澄あすみの肩を誰かの手が掴んだ。
澄人すみと
「あ?」
少し厳つい感じの声音で振り返った阿澄は、そこに見知らぬ男を見て眉を顰める。
「誰?今取り込んでるから今度にしな」
阿澄に気押されて、男は何も言えずに後退する。守るように肩を抱かれた桜は、鼓動が跳ねるのを感じながら歩く。男はその場に止まり追ってこないようで、ようやく安堵の息を吐いた。
「怖かったか?」
無言で首を横に振って否定したが、正直に言うと少し怖かった。
「服なんか入れ替えるからこんな事になるんだ」
桜の肩から手を離した阿澄は、面倒そうにため息をついてぼやく。
「それでも言うとおりにしてあげるんだから、優しいんだね」
「家族ってそんなもんだろ」
そっけなく言う阿澄の顔を見上げた桜。そこまで身長差はないが、見上げる程度には阿澄の方が高い。そしてその顔は少し照れているように見えた。







カラオケで終電近くまで楽しんだ四人。桜は一番早く終電が来るので急いで駅へ向かっていた。
阿澄とも澄人とも連絡先を交換しなかった桜は、美奈子に駅に着いた報告をして電車に駆け込んだ。阿澄は駅まで送ってくれると言っていたが、美奈子と澄人が危ない雰囲気だったので、それを頼んで一人で帰った。
まさかその電車に、先ほど阿澄に声をかけてきた男がいるとも知らずに。






最寄駅に付いて、帰途へ着く桜の背後から忍び寄る男。
家に着く直前、その存在に気がついた桜は、美奈子にメッセージを送った。
変な男が付いてきてると送ったが、美奈子からの返信はない。通報しようかと思ったが、一度コンビニに寄って時間を稼ぐ事にした。
桜がコンビニで色々物色しているふりをしていると、男もコンビニに入ってきた。
そこでようやく、阿澄に声をかけていた男だと分かった。
何か勘違いしているのかもしれないが、面と向かって説明するのは怖い。男が店内を歩き回り、奥の方へ行くのを見計らった桜は、急いで外に出て駆けだした。
追ってきているような音もしたが、構わず自宅へ駆け込んだ。
マンションの一階なので不安もあったが、しっかりと施錠して様子を伺う。
そこから二時間経っても、外から誰かが訪ねてくる気配はなかった。
するとそこへ美奈子からの返信が来た。
【無事~?阿澄さんが最寄駅教えろってうるさいで~す】
美奈子が両手に花で楽しんでる様子が眼に浮かぶ。
それでようやく脱力した。
「ふっ」
はぁ、と息を漏らすと、美奈子に返信した。
【教えてあげたら?お持ち帰りされるんでしょ】
返信するとスマホを置いて、浴室に向かった。
ゆっくり浸かって上がってくると、美奈子から返信が来ている。
【教えといたよ。住所もほのめかしといた】
「え?それってもしかして、うちの住所?」
勘違いしていた事に気がついたが、阿澄が何故住所を知りたがったのか考え、急に不安になって美奈子にメッセージを送る。
【私、何か忘れ物した?】
しかしそこから返信がぱったり途絶えてしまった。
どうしようかとスマホの暗い画面を睨んだまま考える。
体が温まっていた桜は、その体勢のまま眠ってしまった。








轟々ごうごう、パチパチいう音に覚醒した桜。
「何……?」
視界に違和感を感じて体を起こした。
「え、煙?」
窓の外がやけに明るい。
咄嗟に火事だと思った。
そう思ったら外の音がようやく聞こえてきて、火災報知器がけたたましく鳴っている事に気がついた。
逃げなきゃと思ったが、何か持って出なければと同時に思う。
火はどこから?
財布は?
玄関から逃げる?それとも窓から?
パニックになっている事も気が付かず、桜は目線だけがぐるぐるしている。
「中に誰かいないか!」
外から男の声。
阿澄あすみ……さん?」
「いたら玄関側から外に出て来い!早くしないと危ないぞ」
その言葉で、弾かれるように動き出した桜。何も持たずに外へ飛び出した。
「よかった、生きてたな」
玄関を出た所に阿澄が立っていて、桜を捕まえて抱きしめた。
「ど、どうしてここに」
「町名までは聞いてた。後は何もないか歩き回ってたら燃えてるのが見えてここにきたんだが……勘違いであって欲しかったが、まさか本当に桜の家が燃えてるとは思わなかった」
消防には通報済みだと言う阿澄に肩を抱かれて、他の避難している人達の輪に加わる。
ガタガタ震える肩を阿澄が優しく撫で、付き添うように桜の側にいた。
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