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11=牽制=
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ぐったりしている桜の上から、上体を起こした阿澄。桜の腹の上をティッシュで拭うと、服を被せて背後から抱きつき、声をかける。
「桜……」
腕の中で動かない桜の首に顎を乗せて、覗き込むようにして問いかけた。
「どこも痛くないか?」
薄く開かれる桜の瞳。
「うん」
桜の身じろぎを感じた阿澄は、腕の力を抜いて少し離れる。
向かい合うように体を動かした桜は、阿澄の顔を見上げて言った。
「ありがとう」
なぜ礼を言われるのか分からない阿澄は、桜を抱き寄せて問いかけた。
「何の礼だ?」
桜は阿澄の鎖骨に頬を密着させた状態で答えた。
「その……抱いて、くれて」
「はぁ?」
驚いた阿澄は桜の肩を掴んで引き離し、その顔を覗き込んだ。真っ赤な顔の桜が涙目で阿澄を見ている。
「いや、お前な。怒るとこだろ?」
「だって、ずっと……そうなりたいって思ってた」
阿澄は呆れた顔のまま桜を抱き寄せる。
「早く言えよ。こっちがどんだけ我慢したと思ってんだ」
「え?」
阿澄の顔が見えない桜は、僅かに動かせる頭を上に向ける。首しか見えていないので、どんな顔をしているのか不明だ。
「そんな事を言われたら、簡単には寝かせられないな」
「ええ?」
「お前が煽ったんだぞ。覚悟しろよ」
あっという間に組み敷かれた桜。上から落とされる阿澄のキスに、幸福を噛み締めながら瞳を閉じた。
「ふうん、そーゆーこと」
澄人の声で覚醒する。
背中が暖かく、背後から抱きつかれたまま眠ったのだと分かった。
「いいけどさぁ、何回やったの?阿澄臭いよ、ここ」
そう言う澄人は笑ってもなく、怒ってもいない。
焦って布団から抜け出そうとした桜は、がっちり阿澄に掴まれていて殆ど動けないでいた。
「気にしないで、僕はこっちで寝るし。狭かったからちょうどいいや」
ぼすんと音を立てて澄人はベッドに横になる。大きな欠伸をすると、すぐに寝てしまったようだ。
「阿澄、起きて。阿澄」
「ん……」
振り返り見上げた阿澄のまつ毛が、ぴくりと動いた。
「桜」
おはようも言わず、唇を奪われる。
「お、おはよ……」
「もう会社の時間か?」
「うん。そろそろ用意しなきゃ」
阿澄が頷くと力が抜けて、桜は暖かい場所から抜け出して身震いした。
「朝ご飯、作るね」
頷いた阿澄は、寝たばかりの澄人に声をかける。
「飯、食うか」
返事はないと思っていた桜だが、澄人は眠そうな声で返してきた。
「できたら起こして……」
「だそうだ」
「分かった。三人分作るね」
桜は嬉しそうに言うとシャワーを浴びにいった。阿澄の匂いに包まれていたかったが、さすがにそれで出勤は出来ない。
さっと体を洗うとスーツに着替え、エプロンを掛けて朝食を作る。
「あんまり時間ないからトーストと目玉焼きと……」
冷蔵庫を開けてしばし考え、ほうれん草を取り出した。
「スープに入れよう」
手早く整えていると、阿澄が手伝うと背後に立つ。
「コーヒーをお願いしていい?」
頷いた阿澄は、卵の焼き加減を見ている桜を横目で見る。視線に気がついた桜が少し顔を上げた瞬間を狙って、唇を奪いにいった。
「!」
驚いた桜は真っ赤になったまま、フライパンに視線を落とした。
「仕事中、思い出したら連絡して」
意地悪く言う阿澄に、昨晩の事を思い出した桜はさらに顔を赤らめた。
横から桜の頭部に、阿澄のキスがちゅっと音を立てて落とされる。
「連絡したら、どうなるの?」
「俺が嬉しくて頑張れる」
桜は赤い顔のまま阿澄に言う。
「仕事中、阿澄に会いたくなったら困るから、思い出さないようにする」
「会いたくても、俺は会社にいないからな。それは困る」
桜はうんと頷き、手元を見て朝食作りを続ける。じゅーじゅーとフライパンの音だけがリビングに響いた。
「なあに、君達。隠そうって気はないわけ?」
澄人がふわぁと欠伸をしながら、寝室から出てきた。
桜は澄人にどんな顔を向けていいのか分からず、黙々と朝食を仕上げていく。
「隠すわけないだろ。お前への牽制もあるんだからな」
「僕なら女には興味ないから大丈夫だよ」
阿澄が焼けたパンを皿に置き、桜はコーヒーを三つのマグカップに入れて運ぶ。スープを取り分けていると、あ、でも、と言う澄人の声で顔をあげた。
澄人はイタズラっぽい顔で言う。
「刺激が欲しいってんなら協力するよ。桜なら嫌じゃないし」
「黙って食え」
阿澄からの鋭い意見に、澄人は口を尖らせてコーヒーを啜り始める。
「はぁ、沁みる。桜には胃袋掴まれてるね、僕達」
「そんな大袈裟な」
桜はそう言ったが嬉しそうに微笑む。
「大袈裟じゃないぞ」
澄人の援護をする阿澄は珍しい。桜はまた赤面して俯き、ありがとうと言ってスープを飲んだ。
勤務中、一人で作業する時間になると、桜は昨日のことをありありと思い出していた。記憶が新鮮なのだから、思い出さない方が不自然だが、体の痛みのせいも大きかった。
昨晩何度もいかされたおかげで、太腿や下腹部が筋肉痛だし、腰もじんわり痛い。
「桜~、お昼行こっ」
美奈子がランチの誘いに来たが、歩いてどこかに行くのが億劫だ。
今日はコンビニで何か買ってきて食べようと思ったが、美奈子の手には割引チケットと書かれた紙が二枚。
「マーレの裏にある焼鳥屋分かる?そこの鳥丼食べに行かない?」
嬉しそうに言われて終えば、頷くしかない。
「はぁ、どっかにいい男、落ちてないかなぁ」
焼鳥屋で丼の中の鳥を突きながら、美奈子はそんな言葉を呟く。
「落ちてないよ、人は……」
困った顔で答える桜は、男性の多い店内に視線を走らせた。誰も美奈子の言葉は聞いていなかったようで、少しホッとして食事を進める。
「澄人さんも彼氏がいるみたいだし、残念すぎる」
「あ、あぁ、はは……そうだね」
「澄人さんから聞いてるよ。阿澄さんといい感じなんでしょ?」
「え!」
美奈子がニヤニヤしながら桜を見る。
昨日の事を思い出した桜の顔が赤くなった。
「い、いつ聞いたの?」
「四日くらい前?なんだか二人の進展なくて面白くないって嘆いてたよ。阿澄さん奥手なんだって。経験も少ないみたいだから、桜から告っちゃえば?」
その言葉で、昨晩の事を鮮明に思い出した桜。あれが経験少ない人の言動なのだろうか。
「ま、それは冗談として、今週の水曜、暇?」
美奈子は桜の反応を確かめもせずに話を進める。美奈子の切り替えが早かったおかげで、阿澄との事はこれ以上追及されずに済みそうだ。
「な、何かあるの?」
「飲み会!付き合ってよ」
「いいけど……」
「やった!あ、一応言っておくけど、男性もいるからね。阿澄さんには報告しといたほうが良いんじゃない?」
そんな人を誘うなんてとは思ったが、先に行くと言ってしまった手前断りずらい。
阿澄になんと言えば良いのかと、桜は悩み始めてしまった。
「飲み会?良いんじゃない?」
帰ると澄人しかおらず、阿澄は見張りに出ているという。
「阿澄、怒らないかな?男性もいるって」
「そんな過保護じゃないよ。大丈夫じゃない?」
澄人はそう言って、桜の作った晩御飯をパクパク食べる。
阿澄の分は小分けにして置いてあるが、桜が起きているうちに帰ってきてくれるだろうか。
「美奈子ちゃんの頼みなんでしょ?彼女、最近飢えてんのかな。ま、僕とはダメだったんだし、協力してあげなよ」
「う、うん」
澄人はそう言うが、帰ってきたらちゃんと阿澄にも相談しようと桜は考えた。そしてもし反対されたら、美奈子に謝ろうと心に決める。
「桜……」
腕の中で動かない桜の首に顎を乗せて、覗き込むようにして問いかけた。
「どこも痛くないか?」
薄く開かれる桜の瞳。
「うん」
桜の身じろぎを感じた阿澄は、腕の力を抜いて少し離れる。
向かい合うように体を動かした桜は、阿澄の顔を見上げて言った。
「ありがとう」
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「何の礼だ?」
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「その……抱いて、くれて」
「はぁ?」
驚いた阿澄は桜の肩を掴んで引き離し、その顔を覗き込んだ。真っ赤な顔の桜が涙目で阿澄を見ている。
「いや、お前な。怒るとこだろ?」
「だって、ずっと……そうなりたいって思ってた」
阿澄は呆れた顔のまま桜を抱き寄せる。
「早く言えよ。こっちがどんだけ我慢したと思ってんだ」
「え?」
阿澄の顔が見えない桜は、僅かに動かせる頭を上に向ける。首しか見えていないので、どんな顔をしているのか不明だ。
「そんな事を言われたら、簡単には寝かせられないな」
「ええ?」
「お前が煽ったんだぞ。覚悟しろよ」
あっという間に組み敷かれた桜。上から落とされる阿澄のキスに、幸福を噛み締めながら瞳を閉じた。
「ふうん、そーゆーこと」
澄人の声で覚醒する。
背中が暖かく、背後から抱きつかれたまま眠ったのだと分かった。
「いいけどさぁ、何回やったの?阿澄臭いよ、ここ」
そう言う澄人は笑ってもなく、怒ってもいない。
焦って布団から抜け出そうとした桜は、がっちり阿澄に掴まれていて殆ど動けないでいた。
「気にしないで、僕はこっちで寝るし。狭かったからちょうどいいや」
ぼすんと音を立てて澄人はベッドに横になる。大きな欠伸をすると、すぐに寝てしまったようだ。
「阿澄、起きて。阿澄」
「ん……」
振り返り見上げた阿澄のまつ毛が、ぴくりと動いた。
「桜」
おはようも言わず、唇を奪われる。
「お、おはよ……」
「もう会社の時間か?」
「うん。そろそろ用意しなきゃ」
阿澄が頷くと力が抜けて、桜は暖かい場所から抜け出して身震いした。
「朝ご飯、作るね」
頷いた阿澄は、寝たばかりの澄人に声をかける。
「飯、食うか」
返事はないと思っていた桜だが、澄人は眠そうな声で返してきた。
「できたら起こして……」
「だそうだ」
「分かった。三人分作るね」
桜は嬉しそうに言うとシャワーを浴びにいった。阿澄の匂いに包まれていたかったが、さすがにそれで出勤は出来ない。
さっと体を洗うとスーツに着替え、エプロンを掛けて朝食を作る。
「あんまり時間ないからトーストと目玉焼きと……」
冷蔵庫を開けてしばし考え、ほうれん草を取り出した。
「スープに入れよう」
手早く整えていると、阿澄が手伝うと背後に立つ。
「コーヒーをお願いしていい?」
頷いた阿澄は、卵の焼き加減を見ている桜を横目で見る。視線に気がついた桜が少し顔を上げた瞬間を狙って、唇を奪いにいった。
「!」
驚いた桜は真っ赤になったまま、フライパンに視線を落とした。
「仕事中、思い出したら連絡して」
意地悪く言う阿澄に、昨晩の事を思い出した桜はさらに顔を赤らめた。
横から桜の頭部に、阿澄のキスがちゅっと音を立てて落とされる。
「連絡したら、どうなるの?」
「俺が嬉しくて頑張れる」
桜は赤い顔のまま阿澄に言う。
「仕事中、阿澄に会いたくなったら困るから、思い出さないようにする」
「会いたくても、俺は会社にいないからな。それは困る」
桜はうんと頷き、手元を見て朝食作りを続ける。じゅーじゅーとフライパンの音だけがリビングに響いた。
「なあに、君達。隠そうって気はないわけ?」
澄人がふわぁと欠伸をしながら、寝室から出てきた。
桜は澄人にどんな顔を向けていいのか分からず、黙々と朝食を仕上げていく。
「隠すわけないだろ。お前への牽制もあるんだからな」
「僕なら女には興味ないから大丈夫だよ」
阿澄が焼けたパンを皿に置き、桜はコーヒーを三つのマグカップに入れて運ぶ。スープを取り分けていると、あ、でも、と言う澄人の声で顔をあげた。
澄人はイタズラっぽい顔で言う。
「刺激が欲しいってんなら協力するよ。桜なら嫌じゃないし」
「黙って食え」
阿澄からの鋭い意見に、澄人は口を尖らせてコーヒーを啜り始める。
「はぁ、沁みる。桜には胃袋掴まれてるね、僕達」
「そんな大袈裟な」
桜はそう言ったが嬉しそうに微笑む。
「大袈裟じゃないぞ」
澄人の援護をする阿澄は珍しい。桜はまた赤面して俯き、ありがとうと言ってスープを飲んだ。
勤務中、一人で作業する時間になると、桜は昨日のことをありありと思い出していた。記憶が新鮮なのだから、思い出さない方が不自然だが、体の痛みのせいも大きかった。
昨晩何度もいかされたおかげで、太腿や下腹部が筋肉痛だし、腰もじんわり痛い。
「桜~、お昼行こっ」
美奈子がランチの誘いに来たが、歩いてどこかに行くのが億劫だ。
今日はコンビニで何か買ってきて食べようと思ったが、美奈子の手には割引チケットと書かれた紙が二枚。
「マーレの裏にある焼鳥屋分かる?そこの鳥丼食べに行かない?」
嬉しそうに言われて終えば、頷くしかない。
「はぁ、どっかにいい男、落ちてないかなぁ」
焼鳥屋で丼の中の鳥を突きながら、美奈子はそんな言葉を呟く。
「落ちてないよ、人は……」
困った顔で答える桜は、男性の多い店内に視線を走らせた。誰も美奈子の言葉は聞いていなかったようで、少しホッとして食事を進める。
「澄人さんも彼氏がいるみたいだし、残念すぎる」
「あ、あぁ、はは……そうだね」
「澄人さんから聞いてるよ。阿澄さんといい感じなんでしょ?」
「え!」
美奈子がニヤニヤしながら桜を見る。
昨日の事を思い出した桜の顔が赤くなった。
「い、いつ聞いたの?」
「四日くらい前?なんだか二人の進展なくて面白くないって嘆いてたよ。阿澄さん奥手なんだって。経験も少ないみたいだから、桜から告っちゃえば?」
その言葉で、昨晩の事を鮮明に思い出した桜。あれが経験少ない人の言動なのだろうか。
「ま、それは冗談として、今週の水曜、暇?」
美奈子は桜の反応を確かめもせずに話を進める。美奈子の切り替えが早かったおかげで、阿澄との事はこれ以上追及されずに済みそうだ。
「な、何かあるの?」
「飲み会!付き合ってよ」
「いいけど……」
「やった!あ、一応言っておくけど、男性もいるからね。阿澄さんには報告しといたほうが良いんじゃない?」
そんな人を誘うなんてとは思ったが、先に行くと言ってしまった手前断りずらい。
阿澄になんと言えば良いのかと、桜は悩み始めてしまった。
「飲み会?良いんじゃない?」
帰ると澄人しかおらず、阿澄は見張りに出ているという。
「阿澄、怒らないかな?男性もいるって」
「そんな過保護じゃないよ。大丈夫じゃない?」
澄人はそう言って、桜の作った晩御飯をパクパク食べる。
阿澄の分は小分けにして置いてあるが、桜が起きているうちに帰ってきてくれるだろうか。
「美奈子ちゃんの頼みなんでしょ?彼女、最近飢えてんのかな。ま、僕とはダメだったんだし、協力してあげなよ」
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