危ない双子〜その愛に溺れて〜

橘 葛葉

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14=ハニートラップ=

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阿澄あすみが着替えて頭を拭いていると、見送りに行っていた澄人すみとが戻ってくる。
「あぁ、阿澄。あのさ、色々聞き出したんだけどさ、あの男、まだ何か知ってそうなんだよね。今度三人でやろうって誘っといたから、その時にまた聞き出そうと思うんだけど、いいかな」
阿澄は黙って頷く。
二人がクローゼットの中にいたことを、澄人は気がついているのかいないのか、その事には触れてこない。
「あ、それとメッセージ今見た。桜の飲み会、今日じゃなかったんだ」
それにも無言で頷く。
「いつ?」
「明日だ」
「ふうん、二連ちゃんいけるかな。じゃ、OKだったら、明日連れてきていい?」
阿澄が頷いたところに、シャワーを終えた桜が頭にタオルを巻いて出てきた。
「おかえり、澄人」
「ただいま、桜」
チラリと阿澄を見た桜。反応がないので澄人を見て、クローゼットの事は確認せずに別の事を問いかけた。
「ご飯食べた?」
「う~ん、お菓子つまんだくらい?」
「インスタントだけど、お茶漬けとか、食べる?」
「やった!食べる」
嬉しそうに食卓に着く澄人に、桜は微笑んでキッチンへ入る。
お茶を沸かしながら、冷蔵庫から漬物を取り出し、ご飯を茶碗に入れて用意する。
「お湯、出汁、お茶、どれが好み?」
「え、よくわかんないけど、お茶漬けだからお茶?」
わかったと、桜は緑茶を用意して、漬物と米を澄人の前に置いていく。
沸いた湯を急須に注ぐと、蒸らすためかしばし待ってから、澄人の目の前でお茶を回しながら淹れた。
「いい匂いだな」
阿澄が先に感想を言い、澄人は頷いて手をあわせる。
「いただきま~す」
美味しそうに食べる姿を見守っていた桜は、追加でお湯を沸かしながら二人に言った。
「明日は飲み会に行ってくるね」
「あ、明日だったんだね。うん、ゆっくり楽しんでおいで」
ゆっくりしてきた方がいいのだろうかと思いながら、桜は頷いてお茶を淹れた。青とピンクとオレンジのマグカップに、均等に注いでいく。
「はい、澄人。はい、阿澄」
それぞれの前に置くと、阿澄も着席したので、桜も椅子に腰掛けた。
自分のマグカップを持って啜る。
「家族みたいでいいね、こんなのも」
澄人がポツリとそう言った。
桜は頬を染めて赤くなり、阿澄の方を見れなくなって、澄人の食べ終わった食器を持ってキッチンへ戻る。
「ふふ、照れちゃって」
澄人の声を背中に受けながら洗い物をした。










あの日から、阿澄は桜と一緒に奥のベッドで寝る事になっていた。
澄人は見張りに出ていていないが、阿澄に包まれながら幸せそうに桜は目を閉じた。
体が疲れていてすぐに眠りに落ちる。
夜中に帰ってきた澄人の音で一瞬目が覚めたが、阿澄に引き寄せられて再び眠った。
その様子をじっと澄人が見ている事も知らず、深い眠りについていた。








水曜日の朝、阿澄と一緒に朝食を食べていた桜。
「今日ね、なるべくゆっくりしてくるけど、戻ってきたら危ないタイミングがあったら連絡欲しい」
食パンを齧りながら言う桜に、阿澄は黙って頷いた。
「嫌じゃないのか?」
少し考えた桜。首を捻って答えた。
「それもお仕事なんでしょう?」
頷きを見た桜は、少し寂しそうに笑う。
嫌なんて言える立場じゃない。
自分は好きだと告げたが、阿澄の心がどこにあるのか、桜には分からない。
通り過ぎていく女の一人になれただけでも、幸運だったと思っていた。
いずれここを出ていった時には、どんな関係になるのだろう。
そのまま関係が断ち切られる可能性だってある。
二度と会えなくなるのは、ちょっと嫌だなと桜は考えながらコーヒーを飲んだ。
「飲み会はどこで?」
「え?」
ぼんやり考え込んでいた桜は、問われて阿澄の顔を見る。
「えっと、多分マーレの近くの居酒屋だと思う」
「場所、わかったら教えて」
「うん」
心配してくれているのだと思うと、自然と頬が綻ぶ。
「あと人数と」
「うん」
「……気をつけてな」
それにも頷いて答える。










出勤後、美奈子となかなか話す機会がなく、飲み会の参加人数や場所を聞き出せたのは昼休憩の時だった。
「結構いるよ。五人男性がいて、女の子はこのままだと三人かな」
「え!それは少ないね」
「その代わりチャンス多めでしょ?大丈夫、個室じゃないから」
「ほ、本当に?」
「うん、大丈夫大丈夫。危ない人とかいないから」
美奈子の言葉に疑わしそうな視線を向けた桜。
「どんな人達が来るの?」
そう聞くと、上を見ながら答える美奈子。
「えっとねぇ、店舗経営者に不動産経営者、それと銀行員って言ってたかな」
「あと二人は?」
「聞いてないけど、似たような感じじゃない?」
不安になってきた桜は、美奈子に気づかれないよう、阿澄に詳細を送った。場所はまだ決定していないようなので、マーレの近くとだけ送った。
阿澄からはすぐ返事が来て、名前が分かったら改めて教える事になった。











「ねえ阿澄。彼、今からなら来れるって」
桜が仕事に戻ったのか、メッセージのやり取りが途絶えた。
「分かった。どんな作戦で行く?」
「ちょっとリスキーだけどさ、現金見せてここで罠張るってのはどう?」
澄人はそう言うと、寝室に向かってクローゼットを開ける。何かを探すような音がしてしばらくすると、戻ってきてテーブルに札束を置いた。
「貯めてたショーのお金。やっぱ現金がインパクトあるでしょ」
「五百か。釣れるか?」
「この倍はあるって事にしよ。インパクトあれば口止めしてもうっかりしゃべるんじゃない?一緒に住んでる人には言いたくなるでしょ」
考えるように阿澄は顎を持って頷いた。
「桜に危険がないようにしないと」
「どっちかが見張りについてて、どっちかが桜についてよう。どのみち、この家使ってるのって、逃げてる彼氏がこっそり戻って来れるようにでしょ?男が二人もいたら、警戒して寄って来ないだろうし、桜使って釣るのは嫌だし。それなら金が一番じゃない?」
そうだなと阿澄が頷く。
「ショーの事も明かそうよ。これだけ稼げる、僕達のテクニック知りたくないってプレゼンしてさ」
「よし、それで行こう。さっさと終わらせて迎えに行かないと」
澄人は阿澄のスマホをチラリと見てから、呆れた顔で言った。
「桜の飲み会?過保護は嫌われるよ?」
「念の為だ。桜が自分で納得して誘われて、どっか行くならそれでいいし、楽しく飲み終わるなら姿は見せずに帰ってくる」
ふうん、と澄人はスマホを操作しながら言う。
「お兄ちゃんだねぇ。よし、駅まで迎えに行ってくる」
「近所の特徴言いながら帰ってくるんだぞ」
「わかった」










二人の家に来た男は、無造作に置かれた現金に驚き、ショーの話を興味深そうに聞いた。
阿澄にも興味が湧いたようで、ごくりと生唾を飲み込んだのを澄人は見逃さなかった。
「試してみる?」
澄人の言葉にあっさり頷いた男は、右からと左からとで阿澄と澄人に舐められ、すぐに気持ちよさそうな声を上げた。仰向けに寝かされ、上に澄人が乗り、横から胸を阿澄に攻められてすぐに絶頂を迎える。しばらく緩い会話を澄人がして、以前のように二回目が始まった。
満足して帰る際、現金の束をチラリと確認した事も、二人は見逃さなかった。
「かかると思う?」
「ターゲットがかかるかどうかは賭けだな」
阿澄はそう言うと時計を見て立ち上がる。
「ちょっと出てくる」
「は~い、桜によろしく~」
澄人が手を振って阿澄を送り出す。
位置情報だけが来ており、店名は記載がない。
飲み会ならそろそろ始まりそうな時間だった。
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