クウェイル・ミルテの花嫁

橘 葛葉

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【22】上書き

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それからの時間は、ゆっくり穏やかに流れていく。
夜までに見かけたのは、管理人を含めて僅か三人だった。
浴槽の用意をして帰宅する女性、夕食を運んで配膳した女性(その後帰宅)と、男性管理人のみ。
管理人は住み込みだが、今夜は外泊するとの事。
ゆったりと湯浴みをしながら、自分の体に異変がないか確認する。
ヘリオスは前と同じように触れてくれるだろうか。
いざ、その時になったら、あの男達の事を思い出したりしないだろうか。
ヘリオスが思い出すにしても、自分が思い出すにしても嫌だと思った。
男達は鍵だと言った。
それが比喩的表現なのか、自分の知らない何かがあるのか、それもヘリオスに聞けずにいる。
今はとにかく、早くあの者達の感触を消して欲しかった。
ヘリオスの手で、舌で、唇で上書きして欲しい。
その思いを胸に、湯から上がり体を拭いた。







浴室を整えた女性はもう帰宅しており、セレーネは用意された寝巻きを手に取って広げた。
向こうが透けて見えるデザインの服で、これを羽織ってヘリオスの元に向かうのだと思うと、緊張と期待に心が躍る。
袖を通してから、左右の腕を交互に挙げて自らを見下ろす。
「……大胆な服」
人がいないと分かっているからよいものの、本邸では移動できないような透け具合だ。
セレーネは浴室の扉をそっと開けて、本当に人がいないか確認する。キョロキョロと首を回して人気がないことを確認すると、そっと廊下に出る。
緊張しながら寝室へ向かい、扉の前まで来ると足を止めて深呼吸をした。
自分から抱かれに来たみたいに感じて、鼓動が鳴り止まない。
中に入るのを躊躇っていると、背後から人の気配。
慌てて振り返ると、ヘリオスが薄いガウンを羽織って立っていた。
「綺麗ですね、今夜も」
ヘリオスはセレーネの肩に手を置くと、あっさり扉を開いてその背を押した。
月明かりだけが照らす室内は、ほんのり明るくて、適度に薄暗い。
「以前、服を買わせて欲しいと言った事を覚えていますか?」
少し考えたセレーネは、小さく二度頷いた。
確か、いらないと言ったような記憶がある。
「ドレスは断られてしまったので、これを購入しました」
嬉しそうに言うヘリオスに、頬を染めながら再び頷いたセレーネ。嬉しさと恥ずかしさが同時に押し寄せ、どのように反応していいのか分からない。
赤面して俯き、押されるまま部屋に入る。
「セレーネ」
背後からヘリオスが優しく抱きしめてきた。
「ヘリオス……」
不安が僅かに顔を覗かせる。
「愛しています、セレーネ」
その囁きと共に唇が合わさる。
「ん……」
ヘリオスの舌が口腔内を満たし、心まで満たしていく。
じりじりと足が動き、やがてベッドに倒れ込む。
透けた服を着たまま、角度を変えたキスが何度も交わされる。
夢中で応えていると、裾にヘリオスの手がかかり、布がたくしあげられる。
つぅっと足にヘリオスの指が這う。
「あ……」
迷いなく上がってきた指は、割れ目を見つけてスライドを始めた。
「もう濡れてますね」
ヘリオスの声にぎゅっと目を閉じたセレーネの顔が、赤く染まって横に倒される。
ぬるぬると上下する指に反応する腰。
「先に謝っておきますね」
そうヘリオスが言う。
何に対してなのか問おうとしたセレーネは、その直後、ヘリオスの分身に突然貫かれて息を呑んだ。
「一度出して良いですか?あまりにも、あなたが綺麗で我慢できそうにない」
ググッと奥に入りながら言うヘリオスに、応えられるはずもなく、セレーネはその腕に手をかけて熱い息を漏らした。
「あぁ……」
突起をヘリオスの指が擦り、腰が緩やかに動き始めた。
ヘリオスで満たされたセレーネは、歓喜の表情で目を閉じている。
その瞳の上からキスを落としたヘリオスは、腰の動きを早めた。
「う……」
びゅるっと、お腹に熱い液体がかかるのを感じたセレーネ。
ぐったりしたヘリオスの首に腕を回すと、幸せそうに微笑んだ。
しばらくセレーネの胸元で休んだヘリオスは、体を起こすとセレーネのお腹に出した体液を拭う。
セレーネの首の下に腕を入れると、横から抱き寄せて額に音を立てて唇を寄せて離す。
「ここからが本番」
そのまま話でもするのかと思っていたセレーネは、突然の宣言に固まっていた。しかしヘリオスは気にする事なく、緑の植物を取り出した。
「エイラを使いたいのですが、あなたが思い出して辛いのならやめます。どうしますか?」
セレーネの目の前でくるくる回る植物。
男達を思い出さないでもないが、今はヘリオスの手にある。
それがどのような快楽をもたらすのか、知りたいと思ってしまった。
「上書きしてほしい……」
小さく言ったが、しっかりヘリオスの耳には届いていた。
再びキスをしたヘリオスは、エイラを口に入れて咀嚼を始める。
セレーネの胸を透けた布越しに弄びながら、頭を下に移動させた。
グチュグチュ音が聞こえ、ややしてヘリオスの唇がセレーネの敏感な部分に触れる。
「あ……」
ぴくりと反応したセレーネ。それを確認したのか、ヘリオスの舌が突起を舐め上げた。
「あぁ!」
強い刺激に腰が浮いた。
ヘリオスが腰をしっかり掴んでおり、それ以上は動くことが出来ない。
ぴちゃ、くちゅ、ぐちゅ
「あっ……あっぁ!……ん、あん……ダメ……あぁっ!」
くちゅくちゅくちゅと、ヘリオスの舌の動きに腰が反応する。
「だめ、ヘリオス……も、もう……」
セレーネはそう言うと、全身を使って痙攣した。その絶頂は想像以上で、しばらく体の痙攣が止まらなかった。
「あっ……あぁ……」
余韻だけでも声が漏れる。ようやく体の痙攣が治ろうとしていたその時、ヘリオスの口が動きを再開させた。
「あ、駄目、ヘリオス。今、敏感に……あっ……んん、駄目、お願い、やめ……あぁっ!」
再び痙攣がセレーネを襲う。
「ぷくっとピンクに膨れてきた。ふふ、かわいい」
ヘリオスの声がしたと思ったら、ちゅるっと吸い上げられて腰がアーチを描く。
再びヘリオスの口に含まれた突起は、吸われたり転がされたりしている。
それなのに、下の方に指がつぷっと挿れられ、奥へぐぐっと刺激が入る。
「ふっ、んん……あっ、……あん……だめ、……あぁ、ヘリオス、ダメ」
「ふふ、プルプルしてる」
どこが、とは言わなかったが、その言葉と共に指が奥を掻き回す。
「あっ!……あっ、あぁあ!」
セレーネは再び絶頂を迎えると全身の力が抜け切って意識を手放した。








薄い意識の中で、ヘリオスのキスを感じる。エイラの甘い香りと、喉を潤す水分が流れ込み、こくん、と喉が動いて意識が浮上する。
「あ……はぁ、ヘリオス」
弱々しく腕を伸ばすと、その首筋に絡める。
「ん……」
ヘリオスの唇が優しく下唇を吸い上げたと思ったら、腰骨辺りにヘリオスの指の感触。それがつぅっと中心に移動してきて、滑りを持った部分に到達する。
「ヘリオス、少し、休憩し……あっ……」
ぬるんと滑る指に、跳ねる腰。躊躇いなく中に挿れられた指は、滑り具合を確認するとすぐに引き出された。
「セレーネ……」
耳元に唇を寄せたヘリオスは、続きを囁くように言った。
「挿れたい、セレーネ」
「……うん」
ヘリオスのものが入ってきたら、どうなってしまうのだろう。少しの不安と大きな期待に、ヘリオスの首に回した腕に力を入れる。
熱く大きな塊が、自身の入口に当てられているのを感じ、ぎゅっと瞳を閉じた。
ぐっと負荷がかかるが、エイラの効果で滑りが良く、ぬるんと中に入ってくる。
「あ……ヘリオス」
大きくて中が苦しいが、同時に突き抜けるような快楽を感じる。
ゆっくり動き出すヘリオスは、唇をセレーネの耳に寄せて囁く。
「エイラの効果が……」
ずん、と突かれて腰が跳ねる。
「あ……」
「これほどまでに出ていましたか?」
また突かれて、今度は上体を捩った。
「ん……」
「あの男達への嫌悪で」
「あぁ!」
「あまり感じなったでしょう?」
確かにこれほどまでに強い快楽は感じなかった。
「あぁ、締め付けてくる……セレーネ」
ずぱんっと強く中に入ってきたヘリオスは、少しだけ動きを止めてセレーネの顔を見る。
潤んだ瞳が見つめ返してくると、満足気に笑い、セレーネの両膝を抱えるとさらに奥へと腰を叩きつける。
「あぁっ!」
連続して強い刺激をセレーネに叩きつけ、指で小さな突起を探し出して動きを合わせる。
エイラの塊を魔法で小さく作ると、突起に残して動きを早めた。
「あっ、ヘリオス。あぁ!ヘリオス、だめ、だめっ!あぁっあぁっ……!」
どこで感じているのか分からないくらいの快楽が全身を包み、絶頂に体を震わせた。
ガクガクと腰が痙攣し、同時に中でヘリオスの脈動を感じる。
しばし、互いに動きを止めて相手の鼓動を感じていた。
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