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ep.6
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目前には海莉の病室の扉。俺は廊下に設置された椅子に腰掛けて先生が扉から出てくるのを待っていた。
壁の向こうから微かに海莉と先生の声が聞こえてきて、先生の言葉に返事をする声の抑揚から、今その扉の向こう側にいるのは俺の恋人であることが分かる。求めていた存在が、今、そこにあるのだという実感が湧く。
早くその顔が見たいと強く思う反面、しかし心の準備も出来ていないまま対面することに不安も感じている。どんな話をしようか? 海莉が気を失って倒れたあの日以降も、姿自体はほぼ毎日見ていたのだ。中身こそ全く違ったが今やそれにも慣れてしまった。こうして話し方や雰囲気が元に戻ったからといって、そんなにすぐに、俺は彼女が自分の恋人であるという認識を持ち直すことが出来るだろうか。つまり、そこについ最近まで接してきたほうの人格を重ねてしまわないだろうか。そんな不安が頭を過った。
正直、デカルトの二元論を思想の要としたことで恣意的に生じさせた、一般大衆とのモノの見方の差異を自覚して高を括っていた部分があったのではないかと、今になって反省している。
結局、心身一如、自分も精神と肉体とを決して切り離して考えられてはいなかったのだ。だから、実際にこういう局面で恐れてしまう。
俺は彼女の本質を見ていたつもりでいて、やはり実際はその容姿に強く存在を結びつけて認識していたのだろう。それが良い悪いという話ではなくて、その無自覚に留まらずに、錯覚した二元論に陶酔して周囲に誇示していたことが問題なのだ。それが侘びしいのだ。
自己の存在について幾度となく議論した彼女は消えてしまったらしいが、どこかからこんな俺の醜態を嘲笑っているだろうか、きっとそれくらいが丁度いい。
「喉、乾いたな」
目眩を感じ始め、脱水症状を起こしたのだと言い聞かせて無理やり気持ちを切り替える。確かロビーに自販機があったはずだ。そこで水でも買おうか。
廊下の突き当りを左に曲がるとすぐ先に全面ガラス張りの開放的なロビーがあり、土曜日だからだろう人が混み合っている。その大半を占める年寄りがのろのろと動き、白い看護衣に身を包んだ女性が数人その合間を縫うようにしてせっせと書類を運び回っていた。その混雑に時々体当りされながら壁際の自販機まで何とか辿り着いて、天然水を購入する。こんな窮屈の中で喉を潤すのも何だか気が休まらない。俺は一度入口の自動ドアを潜って外に出た。
背中で自動ドアが閉まると、世界は途端に静寂に包まれた。何だか脱力して吐息が漏れる。水を一口含んでから、傍の壁に寄り掛かってぼんやりと夜空を見上げた。ロビーでは雑踏や照明の眩しさで気が付かなかったが、まだ十九時頃だというのに、空は黒ずんで星が塵みたいに散らばっていた。どうやら日没も随分と早くなったようだ。中途半端な厚みの雲が月を隠してモヤモヤと不気味な光を映し出していた。俺はさっき買った天然水に口をつけた。
「かーくん? かーくんじゃない、久しぶり」
少し離れた距離からそんな声が聞こえた後、コツコツと足音が一つ近づいてくる。俺は何となくそちらに視線を向けて声の主を確認しながら、ああそうか俺をこんな風に呼ぶ人物がいたと思い出した。
「おば──桐恵さん」
俺に声を掛けてきたのは楓の母親、桐恵さんだった。楓の母親は昔から俺のこと〈かーくん〉と呼んでいた。中学に入った頃からしばらく会っておらず、数年振りに見た桐恵さんは少し老けた、というより痩せたように思う。しかしどうしてこんなところにいるのだろうか。あまりに奇遇である。
そんな俺の疑問を察したのか、桐恵さんは微笑みを浮かべて俺に鋭い質問した。
「かーくんは、彼女さんのお見舞いに?」
桐恵さんの質問に耳を疑う。どうして桐恵さんが海莉の存在を、加えて海莉が俺の恋人であることを知っているのか。少し考えてみて、そういえば今日海莉を楓の家へ寄越したのだったと思い出した。そう、楓の家へ行ったはずの彼女が病院に搬送されたなんて聞いて、容態も相まって気が動転していたのだ、ああそうだった。きっと、彼女自身が桐恵さんに身の上を明かしたのだろう。
……だとしても疑問は残る。
「ええ。でもどうして搬送されたことを知ってるんです?」
俺が壁から背中を離して尋ねると、桐恵さんは心配そうな表情を浮かべて応えた。
「かーくん、今日、彼女さんをウチに寄越したでしょう、楓のことで」
桐恵さんが眉を傾けて言う。
俺は冷やりとした。一応、一方的に楓の家に押しかけるのは利己的であるという認識をもった上での判断で、海莉も家に上がる際にはその無礼を詫びる前提で実施した。しかしやはり迷惑だったのだということが桐恵さんの渋い表情から見て取れたので、俺は素直に頭を下げた。
しかし桐恵さんは、それは最初は驚いたが結果的には満足しているのだといったようなことを述べて俺に頭を上げさせて、それから再び俺の質問に対する返答を続けた。
桐恵さんが言うにはこうだった。
今日の夕方頃、楓と海莉の話が一通り終わったであろう後に、しばらくの間ずっと部屋に引き籠もって顔も見せなかった楓が海莉を先導して家の前まで出た。衝撃的な光景に母親として胸を打たれていっとき娘のことしか頭になかったが、冷静になって、海莉に礼を言わんと傍を見渡す。しかし海莉はその時既に科での傍からは姿を消しており、どうやら無念にも帰してしまったかとさらに遠くの方を見渡したところで、海莉が道の先に倒れ込んでいるのを確認した。それから救急車を呼んで受け入れ先を探したところ、通院中であるこの病院に搬送されたのだと。
つまり、意識を失って倒れた海莉が病院に運んでもらえたのは桐恵さんのおかげというわけだろう。きっと、桐恵さんは海莉の付添人だったのだ。
「なるほど、それで。ではもう帰るところですか?」
苦笑交じりに尋ねると、桐恵さんがまた辛そうな顔をした。俺は不思議に思って、桐恵さんが再び話し出すのを待った。
少し間を置いて、桐恵さんは言った。
「病院に到着してからしばらくして、うちの子も倒れちゃって」
それを聞いて、二ヶ月前の状況がフラッシュバックする。海莉に続いて楓までもが人格を失ってしまうかもしれないと嫌な想像が浮かんだ途端、鈍器で一発頭を殴られたような衝撃が襲った。身体の末端が脱力してペットボトルが手から滑り落ち、足元で鈍い音を立てた。まだ中身がほとんど口をつけていないそれは、重心をふらつかせながらぎこちない動きで桐恵さんの方へと転がっていった。
桐恵さんが慌ててそれを拾って、大丈夫かと声に出しながら俺に差し出した。
「ああ……すいません。ありがとうございます」
「緊急で検査してもらえて、きっと低血糖で徐脈を起こしたんだろうって」
直ぐにグルカゴン注射剤を打って今は集中治療室で経過観察中であることを話した桐恵さんは、今にも泣き出しそうで、肩を震わせながら頻りに瞬きを繰り返していた。
二ヶ月前、海莉にも似たようなことが起きた。あの時も最初は不整脈による失神だとして、血糖値も下がってきているからと点滴を打って様子を見た。普通に目が覚めると皆どこか安心していた。だけど、そうはならなかった。
学校でも有名な話だから、きっと楓を介して桐恵さんにも話は通じていることだろう。こんな前例がなければ、桐恵さんは今ほど動揺していなかったかもしれない。もしかしたら自分の娘もそんな状況になってしまうのではないか、という悪い予感が、今、桐恵さんを恐怖のどん底に突き落としたのではないだろうか。最悪その予感が当たってしまえば、今はまだ自分を保つことの出来ている桐恵さんもきっとおかしくなってしまうに違いない。
かつて、海莉の母がそうであったように。
しかし、ふと思う。
――楓にとってはどうだろうか? と。
人格の喪失、自身の記憶の抹消は、もしかすれば、楓にとっては幸福かもしれない。蹂躙された記憶を消して、生きるという恐怖から一度開放されること。そうすれば彼女が言った、生きていることの恐怖に自分自身を融け込ませてゆく苦痛を感じるなんて愚かな選択を、一度無かったことに出来るのだから。
楓の幸福はそこにもあるのかもしれない、という言葉は飲み込んだ。
そんな考えがぼんやりと浮かんだことに嫌悪感を抱く。そして、まるで泥沼に沈んでいるような妙な感覚に支配され俺は息苦しくなった。しかし、上がれない。水面は見えず、上も下も、右も左もまるで存在していなかった。
「あ、居た居た。探したぞ、櫻木」
少々不機嫌そうな声が響いて思考が晴れる。声のした方へ視線を向けると、入り口の自動ドアの前に先生が立っていた。腕を組んで仁王立ちだ。
「柳先生……」
俺がそう発した瞬間、桐恵さんの表情が怒りを剥き出しにした。
――不味い、そうだった! 先生は桐恵さんに接触を拒まれていると言っていたじゃないか、しまった。
すっかり夜の暗さに呑まれてしまっているせいか、先生はそんな俺の焦りと桐恵さんの怒りに気が付いた様子もなく、説教を垂れる。
「東雲が会いたがってるぞ、早く行ってやれ。元々それが目的なのに何故あの場所から離れるんだ、アホなのかお前は」
「ご、ごめんなさい」
心臓をバクバクさせながら小さな声で先生に謝って、桐恵さんの横を通り過ぎる。桐恵さんは先生に背中を向けたまま固まっている。さっきより俯いてしまったのか、表情は影っていて確認できない。しかし何となく伝わる怒りのオーラは、母性本能を逆撫でされたことによって放たれているものだと思った。先生はその人影を不信そうに見つめるも、やはりそれが楓の母親であることに気が付いていない様子だった。
修羅場には関わらないでおこう。大人の話は大人だけでしていて下さい、ごめんなさい先生。
「あのー、一応。先生、あれ楓のお母さんです」
病院に戻る直前、すれ違い様に先生にそう耳打ちする。しばらく返答がなかったため直ぐにその場を後にしたが、自動ドアが閉まる間際、後ろで先生が小さく「えっ」と零すのが聞こえた。
俺は初めて、先生の矢が的を外れる音を聞いた。
「か、奏芽くんのアホ!」と怒号を浴びせられた挙げ句に左頬に強い衝撃が走る。流石に酔いから覚めた。
――病室の扉を開けた時、俺は一瞬、幻想にでも紛れ込んだかと思った。病室の照明は何故か点いていなくて、景色は街の明かりにぼんやりと映し出されている。そんな中、輪郭のはっきりした空間がそこにあった。もう夜は肌寒くなってきているというのに、窓は全開にされてカーテンが揺れている。その先には雲一つ無い澄んだ夜空が広がっていて、まるで暗がりで見たサファイアみたいな深い蒼色だった。そこに大きな穴を開けた白い満月。砕けた空の破片がちらちらと白く瞬いている。
白い病衣に身を包んだ少女はその時、窓の外を眺めていた。
すらりと姿勢良く伸びた背中。袖や襟から覗いた白い肌は青白い光に覆われていた。細い髪が風に揺れ、その縁が白く輝いている。風に吹き消されそうなくらい現実味が欠けた美しさにうっとり見惚れて、俺はいっときその場で立ち尽くしていた。
次第にその世界へと足を踏み入れて、彼女の傍に歩み寄る。
「海莉、久し振り」
俺の呼びかけに彼女はゆっくりとこちらを振り返った。冷たく幻想的な景色とは裏腹に温かな微笑みを浮かべる彼女。あまりの感動に言葉を失い、すっかり時が止まってしまったようだった――。
で、次の瞬間。俺は左頬に平手打ちを食らって情けない声を漏らす。酔いから覚めるには十分過ぎる痛みだった。主に心の。
「ってぇな、何だよ急に!」
「び、病室ではお静かにー、奏芽くん!」
「誰のせいだ!」
突然の出来事に頭が回転し、久しぶりに畳み掛けるような言い合いになる。ヒリヒリと痛む左頬を擦りながら一体何なんだと俺が尋ねると、海莉は説教をするみたいにベッドの上に正座した。
「せ、先生ね、困ってたよ」
そうムッとして言われて視線が逸れる。確かに扉の前で待っていると言っておきながら、報告一つ入れずにその場を離れてしまったのはこちらが全面的に悪い。きっと先生はある程度探し回ってくれたんだろう。まさか病院の外に居た俺を見つけ出したとは流石である。そう言えば先生、桐恵さんとはどうなっただろうか。いやはや申し訳ない。
「悪かったよ」
「……あとでちゃんと謝っとくんだよ」
コクリと頷くと、海莉はやっと頬を窄めて苦笑する。それから一度伸びをしてベッドの上をずりずりと移動し、全開にされていた窓を閉めた。何となく、彼女は敢えてああいう雰囲気を作り出していたのだと察して、それを自分の手で終了し始めたのだからもう気は済んだのだと考える。俺は入口の方へ戻って部屋の照明のスイッチを押した。パッと感度良く白い光が部屋を満たすと、窓に部屋の景色が反射する。そこに映し出された彼女の像がニコリと俺に微笑みかけるのと目が合って、ああなんて幸せな時間だろうと心が温まるのを感じた。
ピシャリという音と共に桃色のカーテンが閉められる。俺がベッドの方へ戻っていくのに対応して、彼女も再びゆっくりとこちらに身を翻した。
その顔は、笑ってはいなかった。
俺が平気かと尋ねると彼女は俯いて、とうとうこちらに表情を見せようとはしなかった。加えてしばらく沈黙が降りる。きっと良い雰囲気ではないのだということはひしひしと伝わってきて痛いくらいだが、俺にはその原因に心当たりがなく、ただ彼女の声を待つことしか手段が無かった。
しかしその困惑も、彼女の声によって切り裂かれる。
「あ、謝って」
「……海莉?」
鋭い声音が首元に突きつけられる。それは決して大きな声ではなくて、寧ろこの病室の静寂の中ですら耳を澄ましていなければ聞き損ねるほどのものであったが、俺の鼓膜は乱暴に弾かれた一弦の如く細かく振動した。その後いっとき世界の静寂は増し、耳鳴りみたいに彼女の言葉が尾を引く。
「謝るって、一体何を……」
「二人で決めた振りして、いつも自分の決定ばっかりを私に押し付けたことっ」
彼女は俺の質問を最後まで聞くことなく食い気味に主張した。歯を食いしばって俺を睨みつける彼女だが、しかしその言葉の意味すら理解できず俺はたじろぐ。
情緒の不安定さは突然目覚めたことの代償のようにも思えたが、根拠のない推察はかえって彼女の逆鱗を触れるかもしれない。今するには相応しくない行為かもしれない。
彼女は俺の発言を待たず続けて不平を垂れた。
「いつもそうだった。私の考えてることなんて、きっと奏芽くんの頭の中には一切なかったよね」
怒りを滲ませながら淡々とそう言うが、さっきから彼女の発言は一方的なもので、まるで俺の理解を求めてはいなかった。ただそうなのだと主張を押し付けられて、いくら待ち望んでいた再会の瞬間、愛しい恋人とは言えど流石に腑に落ちない。ここ数日の、いやそれこそ彼女が意識を失ってからの二ヶ月間の疲れは決して癒えてはおらず、せっかくの機会をこのように虐げられては、俺も背伸びを続ける気にはなれなかった。堪えかねて、とうとう声を張り上げてしまう。
「そんなことない!」
しかし彼女の威勢は鈍らず、俺の行為はもはや火に油を注いだようなものだった。彼女の怒りが更に熱を帯びて目はつり上がり、怒号は迫力を増した。
「そんなことあるよ! だ、だって奏芽くん、自分から話題を振った時はいつも一人で喋ってたよ、私が何を知らないかとか全部完璧に予想して喋ってたよ! だから踏み入る隙なんて、ずっとなかった……」
彼女は激しく言葉を並べ立て、最後は掠れた声で苦しそうに胸を押さえた。俺は彼女と過ごした日々を思い返すも、やはり無自覚らしく一切彼女の言うような態度を取った記憶は無かった。
言われるがままに押し黙るのも癪だ。
「そんなこと」
「あるのっ! 絶対あるの!!」
否定を繰り出そうと試みるも彼女は引かない。半ば駄々を捏ねるみたいな子供染みた言い草に、俺は、もしかしたら彼女は目覚めたばかりでまだ意識が錯乱しているのではないかとすら思えた。
「海莉……!」
頭の中で煮えたぎる怒りは次第に声に滲み出て、とうとう気泡はプッツンと割れてしまいそうだ。しかしその局面に差し掛かったところで、彼女はもう一度叫んだ。
「私、反省してる!」
これまで一方的に怒りを向けてきた彼女が、突拍子も無く、自らを省みたのだと発言し、気泡は萎んだ。結局怒りを発散出来ずに消化してしまいその心地悪さが残ったが、俺は彼女の様子を気がかりに思った。
「海莉……」
彼女は俺から目線を外した。その姿こそまさに、いじけた幼児を彷彿とさせるものだった。
「……は、反省してるよ、自分の言いたいこと言わずに奏芽くんのこと欲しがって、う、受け入れようって一方的に努力してたこと。だから奏芽くんは私のこと知らないままで、もうずっと一緒にいたの」
嫌味のように聞こえなくも無い文言だが、こちらを見ない彼女の煮え切らないような表情を見て、その言葉は文字通りの真実なのだと察する。
そして彼女の言った言葉の意味を考える。
自分の意思を隠して俺の主張を求め、呑んできたのだと彼女は言った。そのせいで俺は海莉のことを知らないのだと。
つまり、これまで彼女と話してきたことの数々は全て俺が起点となっていて、彼女はそこに一切の干渉を行わなかったということだろうか? 感想も、転換も差し込まず、ただ俺の発言に相槌を繰り返すだけの機械に成り下がっていたということだろうか?
そう悲しい疑問を持つと、ふと俺の頭の中には彼女と過ごした時間が回想された。
――高校一年の春。文芸部の担当顧問に入部届を出して早速部室に向かえば、扉を開いた先には既に一人女子生徒が到着して本棚の前で爪先立ちになっていた。どうやらあと少しのところで本に触れられず難儀していたようで、そこの椅子でも差し出してやろうかという考えは浮かんだが、俺は敢えて、後ろからそれを引き抜いて渡してやったのだ。鍔の反った浅い帽子を被って椅子に座る髭長の男と、それを見下ろすスフィンクスが描かれた表紙は印象的だった。
「わ、おっきい人……」と礼の前にそんな感想を漏らす少女の不思議さは、高校生活に胸を踊らせていた当時の俺にとってはまるで小説の中のヒロインだった。それは少女が非常に整った容姿をしていたということもあるし、何より、普段廊下ですれ違う生徒たちとは明らかに異なる性質を秘めていると、その時直感的に知ったからだ。
差し出した本に少女が触れるその動作の途中で見つめ合い、時間が静止する。
新入生の入部初日、それもホームルームが終わってからすぐの時間帯であったということで、どの部も活動といった活動を開始しておらずグラウンドすら静かだった。そんな静寂に支配された世界には春陽が降り注ぎ、少女によって半開きにされたであろう窓からは、風がゆっくりと入り込んできて部屋の中を仄かに温かな香りで溢れさせた。
思い出したかのように「ありがとう」と礼を言って微笑んだ少女は、本を受け取って中央の机ではなく敢えて窓際の椅子に腰掛けた。
春の日差しに照らされた少女の髪はそよ風に煽られて白い光の筋を揺らした。本を開いて目線を落とす少女。薄く閉じられた瞼、小さく開いた唇。部屋のとある一角に生まれたその景色は、きっと世界中の誰もが振り返り見惚れてしまう唯一無二の絵画だった。その一枚を知っているのがこの世で自分だけなのだとふと考えた瞬間、俺は恋に落ちた。それを彼女が知るのはまだ先のことだが。
しばらく経って気兼ねなく話す仲になると、彼女は少しずつ俺が読んでいた専門書に関心を示すようになった。一度も手を付けたことの無いジャンルだと言って物珍しそうに覗き込んできたのが嬉しくて、二人で一緒に読んだりもした。新たな世界を知った彼女は次から次に専門書を手に取り、俺に質問した。二人で検索したり勉強したりするうちに、俺は段々、彼女の興味に沿った面白い話でもないかと意識しながら読書を楽しむようになり、実際に紹介したり議論したりした。
彼女の輝く瞳が綺麗で胸が高鳴って、ああきっとこの人なんだと思った――。
どうやら俺は、泣きそうだった。
「俺、無理させてたか。小説を読んでた海莉が急に楽しそうに専門書を読み始めて、俺の話に興味持ってくれたんだって勘違いして……」
あの輝きは全て自分の思い違いで、独りよがりな錯覚に過ぎなくて。寧ろ彼女にとっては自分を殺して仕舞うほどの苦痛だったのだと思うと情けなくて失笑してしまう。
しかし彼女はそれすら否定した。
「そ、そうじゃないよ。実際楽しく読んでたし興味も湧いた。そうじゃないの」
ますます彼女の言っていることが分からなくなってゆく。
「じゃあどういうことだよ、分かるように言ってくれ」
ほとんど掠れて震えた声が漏れる。怒りに昇華できるほどの自信さえ失せていた。
「……私の中にある、奏芽くんと紐付いていない要素を、奏芽くんは知らないでしょ」
彼女はそう言いながら、俺から逸していた視線をとうとう床にまで落としてしまった。それから嗚咽みたいに言葉が発せられて、心臓が縮むように痛み始める。
「奏芽くんはそうだよ、いつも、私の中に創った奏芽くんの世界の内側でしか話してなかった。その世界は、奏芽くんが供給する情報に私が需要を上乗せしたところから始まって、段々と解釈が入れ替わっていってしまったの。需要があるから供給する。そんな均衡の上に成立した世界は、奏芽くんについての情報を処理する為のストレージとしてますます発展し複雑化して、とうとう私の思考の中心は奏芽くんに成り代わってしまった。奏芽くんは奏芽くんとして動いてる。だけど私は違った! 少しずつ、自分が何か、分からなくなっていって。そこにはもう、私はいなかったよ。気が付いたころには、そこに居たのは、奏芽くんだよ」
彼女が言い切るまで、俺は一言すら割り込める言葉が思い浮かばなかった。何となくこれまでの彼女と比べれば語彙が固いような感じもしたが、そんな指摘は相応しくないし、それくらいの違和感はもはや俺の中ではどうでもよかった。
自分は自分を見失ってしまったと訴えるとき、彼女は真下に向いていた顔を一気に俺に向けた。目尻からは絶えず涙を流し、それでも目を細めずに俺を見た。
それでもなお、彼女は俺に訴える。
「私、反省してるよ、一方的に欲しがったこと。だから今度は奏芽くんが反省する番だよ! ね、ねえ、謝って?」
この時既に、俺の方こそが相槌を繰り返すだけの機械のようだった。
「……ごめん」
「……何が?」
俺の放つ無機質な謝罪は彼女を更に苛立たせる。
「分からないけど」
それを聞いて彼女はベッドに拳を叩きつけた。
「思ってもいないことで謝らないでっ!」
「無茶言うなよ、ならどうしろって言うんだ!」
呼応するみたいに二人の怒号が部屋に轟いて、心臓がバクバクと激しく鼓動する。それはどうやら廊下にまで響いていたようで、駆けつけた看護婦が扉を開けて何かあったかと尋ねる。俺も彼女も何も答えないでいると、看護婦は速足でこちらに歩み寄り俺の腕を掴んで後ろに引いた。
「……出てって」
彼女の言葉に看護婦は立ち止まる。その時、少しだけ腕を掴む手の力が緩んだから、きっと海莉の言葉が自分に向けられたものと勘違いしたのだろう。しかし俺は理解していた。それが看護婦でなく、他でもない俺自身に向けられた言葉だということを。
看護婦に腕を引かれる中途半端な姿勢で静止していると、海莉が再び口を開く。
「分からないなら、出てって。私が私を取り戻そうとしてるの、ちゃんと分かるまで会わないで。協力してくれないなら、じゃ、邪魔だよ」
邪魔。たった二文字が俺の心を砕くのは、難しいことじゃなかった。軽い力で押されて崖から落ちてゆくような空虚な感じ。俺は彼女に視線を向けたが、彼女はこれ以上何も話すことはないとでも言いたげに身体をベッドに倒して布団を被った。
「……じっくり考えて」
せめてもの情けか、そう言いながら彼女はとうとう壁の方を向いて布団を身体に巻き付けた。看護婦が引き続き俺の腕を引いて病室を出てゆく。
「何、焦ってんだよ」
扉の前まで辿り着いてそう質問したが、海莉は俺が扉を出るまで一瞬も動くことは無かった。
「……うるさい」
看護婦が扉を閉める時、扉の滑る音に混じってそう聞こえたような気がした。そんな答えなら聞かなければよかったと後悔する。ロビーに出て面会禁止を言い渡されると、俺は覚束ない足取りで玄関の自動ドアを潜った。途中、重みのあるペットボトルを手に持つのも面倒になってごみ箱に捨てた。
自動ドアを潜ってすぐ先に、スポーツカーを背にして立つ柳先生を捉える。先生は右手に持った紙コップを口元に運ぼうと動作したように見えたが、俺と目が合うと怪訝そうな表情を浮かべてその腕を元の位置に戻した。先生の胸の前で停止した紙コップからはもくもくと湯気が立っている。俺が傍に歩み寄ると、先生は紙コップを俺に差し出した。
「私はブラックが飲めない。表の自販機周辺が暗くてね、間違って選んでしまったんだ」
有無を言わさず俺の手にそれを握らせると、先生はズボンのポケットから取り出した車の鍵を人差し指で回しながら車の右側面へと回り込んだ。それから流れ動作でセキュリティロックを解除すると、そのまま運転席に消えた。その後すぐにエンジンが唸ったが中々発進しない。あれ、もしかしてなんて思って顔を上げた時、轟くエンジン音に掻き消されまいと張られた声が耳に届く。
「さっさと乗れよ、男ならそれくらい一気に飲めるだろ。ああ、あとそれ、持って入るなよ。シートに零されたりしたら敵わん」
エンジン音の深い振動が、揺れる意識をどうにか現実に引き繋いでくれるみたいで心地よくて、雑に放たれた先生の言葉も今の俺には優しく滲んだ。
俺はブルッと身震いして唇を噛み、一度固く目を閉じる。頬に伝わる感触は顎の先で途絶え、俺は深呼吸してコーヒーを飲み干した。
助手席のドアを開けて車に乗り込むと、先生は小さいビニール袋を取り出して紙コップを入れるよう指示した。それから車を発進させてすぐ「落ち着いたら話せ、車に乗せてやった礼ならそれでいい」と言った。俺は何だか突然悔しさが湧いてきて、堪えようのない涙をそれでも零さないようにまた固く目を瞑った。
「ブラックコーヒーって、こんなに苦かったですっけ」
そう苦笑して述べると、先生はくすりと小さく俺を笑って駐車場の出口を左折した。
焦げたような強い苦みが舌を刺す。でも今は、それくらいが丁度良いと思った。
壁の向こうから微かに海莉と先生の声が聞こえてきて、先生の言葉に返事をする声の抑揚から、今その扉の向こう側にいるのは俺の恋人であることが分かる。求めていた存在が、今、そこにあるのだという実感が湧く。
早くその顔が見たいと強く思う反面、しかし心の準備も出来ていないまま対面することに不安も感じている。どんな話をしようか? 海莉が気を失って倒れたあの日以降も、姿自体はほぼ毎日見ていたのだ。中身こそ全く違ったが今やそれにも慣れてしまった。こうして話し方や雰囲気が元に戻ったからといって、そんなにすぐに、俺は彼女が自分の恋人であるという認識を持ち直すことが出来るだろうか。つまり、そこについ最近まで接してきたほうの人格を重ねてしまわないだろうか。そんな不安が頭を過った。
正直、デカルトの二元論を思想の要としたことで恣意的に生じさせた、一般大衆とのモノの見方の差異を自覚して高を括っていた部分があったのではないかと、今になって反省している。
結局、心身一如、自分も精神と肉体とを決して切り離して考えられてはいなかったのだ。だから、実際にこういう局面で恐れてしまう。
俺は彼女の本質を見ていたつもりでいて、やはり実際はその容姿に強く存在を結びつけて認識していたのだろう。それが良い悪いという話ではなくて、その無自覚に留まらずに、錯覚した二元論に陶酔して周囲に誇示していたことが問題なのだ。それが侘びしいのだ。
自己の存在について幾度となく議論した彼女は消えてしまったらしいが、どこかからこんな俺の醜態を嘲笑っているだろうか、きっとそれくらいが丁度いい。
「喉、乾いたな」
目眩を感じ始め、脱水症状を起こしたのだと言い聞かせて無理やり気持ちを切り替える。確かロビーに自販機があったはずだ。そこで水でも買おうか。
廊下の突き当りを左に曲がるとすぐ先に全面ガラス張りの開放的なロビーがあり、土曜日だからだろう人が混み合っている。その大半を占める年寄りがのろのろと動き、白い看護衣に身を包んだ女性が数人その合間を縫うようにしてせっせと書類を運び回っていた。その混雑に時々体当りされながら壁際の自販機まで何とか辿り着いて、天然水を購入する。こんな窮屈の中で喉を潤すのも何だか気が休まらない。俺は一度入口の自動ドアを潜って外に出た。
背中で自動ドアが閉まると、世界は途端に静寂に包まれた。何だか脱力して吐息が漏れる。水を一口含んでから、傍の壁に寄り掛かってぼんやりと夜空を見上げた。ロビーでは雑踏や照明の眩しさで気が付かなかったが、まだ十九時頃だというのに、空は黒ずんで星が塵みたいに散らばっていた。どうやら日没も随分と早くなったようだ。中途半端な厚みの雲が月を隠してモヤモヤと不気味な光を映し出していた。俺はさっき買った天然水に口をつけた。
「かーくん? かーくんじゃない、久しぶり」
少し離れた距離からそんな声が聞こえた後、コツコツと足音が一つ近づいてくる。俺は何となくそちらに視線を向けて声の主を確認しながら、ああそうか俺をこんな風に呼ぶ人物がいたと思い出した。
「おば──桐恵さん」
俺に声を掛けてきたのは楓の母親、桐恵さんだった。楓の母親は昔から俺のこと〈かーくん〉と呼んでいた。中学に入った頃からしばらく会っておらず、数年振りに見た桐恵さんは少し老けた、というより痩せたように思う。しかしどうしてこんなところにいるのだろうか。あまりに奇遇である。
そんな俺の疑問を察したのか、桐恵さんは微笑みを浮かべて俺に鋭い質問した。
「かーくんは、彼女さんのお見舞いに?」
桐恵さんの質問に耳を疑う。どうして桐恵さんが海莉の存在を、加えて海莉が俺の恋人であることを知っているのか。少し考えてみて、そういえば今日海莉を楓の家へ寄越したのだったと思い出した。そう、楓の家へ行ったはずの彼女が病院に搬送されたなんて聞いて、容態も相まって気が動転していたのだ、ああそうだった。きっと、彼女自身が桐恵さんに身の上を明かしたのだろう。
……だとしても疑問は残る。
「ええ。でもどうして搬送されたことを知ってるんです?」
俺が壁から背中を離して尋ねると、桐恵さんは心配そうな表情を浮かべて応えた。
「かーくん、今日、彼女さんをウチに寄越したでしょう、楓のことで」
桐恵さんが眉を傾けて言う。
俺は冷やりとした。一応、一方的に楓の家に押しかけるのは利己的であるという認識をもった上での判断で、海莉も家に上がる際にはその無礼を詫びる前提で実施した。しかしやはり迷惑だったのだということが桐恵さんの渋い表情から見て取れたので、俺は素直に頭を下げた。
しかし桐恵さんは、それは最初は驚いたが結果的には満足しているのだといったようなことを述べて俺に頭を上げさせて、それから再び俺の質問に対する返答を続けた。
桐恵さんが言うにはこうだった。
今日の夕方頃、楓と海莉の話が一通り終わったであろう後に、しばらくの間ずっと部屋に引き籠もって顔も見せなかった楓が海莉を先導して家の前まで出た。衝撃的な光景に母親として胸を打たれていっとき娘のことしか頭になかったが、冷静になって、海莉に礼を言わんと傍を見渡す。しかし海莉はその時既に科での傍からは姿を消しており、どうやら無念にも帰してしまったかとさらに遠くの方を見渡したところで、海莉が道の先に倒れ込んでいるのを確認した。それから救急車を呼んで受け入れ先を探したところ、通院中であるこの病院に搬送されたのだと。
つまり、意識を失って倒れた海莉が病院に運んでもらえたのは桐恵さんのおかげというわけだろう。きっと、桐恵さんは海莉の付添人だったのだ。
「なるほど、それで。ではもう帰るところですか?」
苦笑交じりに尋ねると、桐恵さんがまた辛そうな顔をした。俺は不思議に思って、桐恵さんが再び話し出すのを待った。
少し間を置いて、桐恵さんは言った。
「病院に到着してからしばらくして、うちの子も倒れちゃって」
それを聞いて、二ヶ月前の状況がフラッシュバックする。海莉に続いて楓までもが人格を失ってしまうかもしれないと嫌な想像が浮かんだ途端、鈍器で一発頭を殴られたような衝撃が襲った。身体の末端が脱力してペットボトルが手から滑り落ち、足元で鈍い音を立てた。まだ中身がほとんど口をつけていないそれは、重心をふらつかせながらぎこちない動きで桐恵さんの方へと転がっていった。
桐恵さんが慌ててそれを拾って、大丈夫かと声に出しながら俺に差し出した。
「ああ……すいません。ありがとうございます」
「緊急で検査してもらえて、きっと低血糖で徐脈を起こしたんだろうって」
直ぐにグルカゴン注射剤を打って今は集中治療室で経過観察中であることを話した桐恵さんは、今にも泣き出しそうで、肩を震わせながら頻りに瞬きを繰り返していた。
二ヶ月前、海莉にも似たようなことが起きた。あの時も最初は不整脈による失神だとして、血糖値も下がってきているからと点滴を打って様子を見た。普通に目が覚めると皆どこか安心していた。だけど、そうはならなかった。
学校でも有名な話だから、きっと楓を介して桐恵さんにも話は通じていることだろう。こんな前例がなければ、桐恵さんは今ほど動揺していなかったかもしれない。もしかしたら自分の娘もそんな状況になってしまうのではないか、という悪い予感が、今、桐恵さんを恐怖のどん底に突き落としたのではないだろうか。最悪その予感が当たってしまえば、今はまだ自分を保つことの出来ている桐恵さんもきっとおかしくなってしまうに違いない。
かつて、海莉の母がそうであったように。
しかし、ふと思う。
――楓にとってはどうだろうか? と。
人格の喪失、自身の記憶の抹消は、もしかすれば、楓にとっては幸福かもしれない。蹂躙された記憶を消して、生きるという恐怖から一度開放されること。そうすれば彼女が言った、生きていることの恐怖に自分自身を融け込ませてゆく苦痛を感じるなんて愚かな選択を、一度無かったことに出来るのだから。
楓の幸福はそこにもあるのかもしれない、という言葉は飲み込んだ。
そんな考えがぼんやりと浮かんだことに嫌悪感を抱く。そして、まるで泥沼に沈んでいるような妙な感覚に支配され俺は息苦しくなった。しかし、上がれない。水面は見えず、上も下も、右も左もまるで存在していなかった。
「あ、居た居た。探したぞ、櫻木」
少々不機嫌そうな声が響いて思考が晴れる。声のした方へ視線を向けると、入り口の自動ドアの前に先生が立っていた。腕を組んで仁王立ちだ。
「柳先生……」
俺がそう発した瞬間、桐恵さんの表情が怒りを剥き出しにした。
――不味い、そうだった! 先生は桐恵さんに接触を拒まれていると言っていたじゃないか、しまった。
すっかり夜の暗さに呑まれてしまっているせいか、先生はそんな俺の焦りと桐恵さんの怒りに気が付いた様子もなく、説教を垂れる。
「東雲が会いたがってるぞ、早く行ってやれ。元々それが目的なのに何故あの場所から離れるんだ、アホなのかお前は」
「ご、ごめんなさい」
心臓をバクバクさせながら小さな声で先生に謝って、桐恵さんの横を通り過ぎる。桐恵さんは先生に背中を向けたまま固まっている。さっきより俯いてしまったのか、表情は影っていて確認できない。しかし何となく伝わる怒りのオーラは、母性本能を逆撫でされたことによって放たれているものだと思った。先生はその人影を不信そうに見つめるも、やはりそれが楓の母親であることに気が付いていない様子だった。
修羅場には関わらないでおこう。大人の話は大人だけでしていて下さい、ごめんなさい先生。
「あのー、一応。先生、あれ楓のお母さんです」
病院に戻る直前、すれ違い様に先生にそう耳打ちする。しばらく返答がなかったため直ぐにその場を後にしたが、自動ドアが閉まる間際、後ろで先生が小さく「えっ」と零すのが聞こえた。
俺は初めて、先生の矢が的を外れる音を聞いた。
「か、奏芽くんのアホ!」と怒号を浴びせられた挙げ句に左頬に強い衝撃が走る。流石に酔いから覚めた。
――病室の扉を開けた時、俺は一瞬、幻想にでも紛れ込んだかと思った。病室の照明は何故か点いていなくて、景色は街の明かりにぼんやりと映し出されている。そんな中、輪郭のはっきりした空間がそこにあった。もう夜は肌寒くなってきているというのに、窓は全開にされてカーテンが揺れている。その先には雲一つ無い澄んだ夜空が広がっていて、まるで暗がりで見たサファイアみたいな深い蒼色だった。そこに大きな穴を開けた白い満月。砕けた空の破片がちらちらと白く瞬いている。
白い病衣に身を包んだ少女はその時、窓の外を眺めていた。
すらりと姿勢良く伸びた背中。袖や襟から覗いた白い肌は青白い光に覆われていた。細い髪が風に揺れ、その縁が白く輝いている。風に吹き消されそうなくらい現実味が欠けた美しさにうっとり見惚れて、俺はいっときその場で立ち尽くしていた。
次第にその世界へと足を踏み入れて、彼女の傍に歩み寄る。
「海莉、久し振り」
俺の呼びかけに彼女はゆっくりとこちらを振り返った。冷たく幻想的な景色とは裏腹に温かな微笑みを浮かべる彼女。あまりの感動に言葉を失い、すっかり時が止まってしまったようだった――。
で、次の瞬間。俺は左頬に平手打ちを食らって情けない声を漏らす。酔いから覚めるには十分過ぎる痛みだった。主に心の。
「ってぇな、何だよ急に!」
「び、病室ではお静かにー、奏芽くん!」
「誰のせいだ!」
突然の出来事に頭が回転し、久しぶりに畳み掛けるような言い合いになる。ヒリヒリと痛む左頬を擦りながら一体何なんだと俺が尋ねると、海莉は説教をするみたいにベッドの上に正座した。
「せ、先生ね、困ってたよ」
そうムッとして言われて視線が逸れる。確かに扉の前で待っていると言っておきながら、報告一つ入れずにその場を離れてしまったのはこちらが全面的に悪い。きっと先生はある程度探し回ってくれたんだろう。まさか病院の外に居た俺を見つけ出したとは流石である。そう言えば先生、桐恵さんとはどうなっただろうか。いやはや申し訳ない。
「悪かったよ」
「……あとでちゃんと謝っとくんだよ」
コクリと頷くと、海莉はやっと頬を窄めて苦笑する。それから一度伸びをしてベッドの上をずりずりと移動し、全開にされていた窓を閉めた。何となく、彼女は敢えてああいう雰囲気を作り出していたのだと察して、それを自分の手で終了し始めたのだからもう気は済んだのだと考える。俺は入口の方へ戻って部屋の照明のスイッチを押した。パッと感度良く白い光が部屋を満たすと、窓に部屋の景色が反射する。そこに映し出された彼女の像がニコリと俺に微笑みかけるのと目が合って、ああなんて幸せな時間だろうと心が温まるのを感じた。
ピシャリという音と共に桃色のカーテンが閉められる。俺がベッドの方へ戻っていくのに対応して、彼女も再びゆっくりとこちらに身を翻した。
その顔は、笑ってはいなかった。
俺が平気かと尋ねると彼女は俯いて、とうとうこちらに表情を見せようとはしなかった。加えてしばらく沈黙が降りる。きっと良い雰囲気ではないのだということはひしひしと伝わってきて痛いくらいだが、俺にはその原因に心当たりがなく、ただ彼女の声を待つことしか手段が無かった。
しかしその困惑も、彼女の声によって切り裂かれる。
「あ、謝って」
「……海莉?」
鋭い声音が首元に突きつけられる。それは決して大きな声ではなくて、寧ろこの病室の静寂の中ですら耳を澄ましていなければ聞き損ねるほどのものであったが、俺の鼓膜は乱暴に弾かれた一弦の如く細かく振動した。その後いっとき世界の静寂は増し、耳鳴りみたいに彼女の言葉が尾を引く。
「謝るって、一体何を……」
「二人で決めた振りして、いつも自分の決定ばっかりを私に押し付けたことっ」
彼女は俺の質問を最後まで聞くことなく食い気味に主張した。歯を食いしばって俺を睨みつける彼女だが、しかしその言葉の意味すら理解できず俺はたじろぐ。
情緒の不安定さは突然目覚めたことの代償のようにも思えたが、根拠のない推察はかえって彼女の逆鱗を触れるかもしれない。今するには相応しくない行為かもしれない。
彼女は俺の発言を待たず続けて不平を垂れた。
「いつもそうだった。私の考えてることなんて、きっと奏芽くんの頭の中には一切なかったよね」
怒りを滲ませながら淡々とそう言うが、さっきから彼女の発言は一方的なもので、まるで俺の理解を求めてはいなかった。ただそうなのだと主張を押し付けられて、いくら待ち望んでいた再会の瞬間、愛しい恋人とは言えど流石に腑に落ちない。ここ数日の、いやそれこそ彼女が意識を失ってからの二ヶ月間の疲れは決して癒えてはおらず、せっかくの機会をこのように虐げられては、俺も背伸びを続ける気にはなれなかった。堪えかねて、とうとう声を張り上げてしまう。
「そんなことない!」
しかし彼女の威勢は鈍らず、俺の行為はもはや火に油を注いだようなものだった。彼女の怒りが更に熱を帯びて目はつり上がり、怒号は迫力を増した。
「そんなことあるよ! だ、だって奏芽くん、自分から話題を振った時はいつも一人で喋ってたよ、私が何を知らないかとか全部完璧に予想して喋ってたよ! だから踏み入る隙なんて、ずっとなかった……」
彼女は激しく言葉を並べ立て、最後は掠れた声で苦しそうに胸を押さえた。俺は彼女と過ごした日々を思い返すも、やはり無自覚らしく一切彼女の言うような態度を取った記憶は無かった。
言われるがままに押し黙るのも癪だ。
「そんなこと」
「あるのっ! 絶対あるの!!」
否定を繰り出そうと試みるも彼女は引かない。半ば駄々を捏ねるみたいな子供染みた言い草に、俺は、もしかしたら彼女は目覚めたばかりでまだ意識が錯乱しているのではないかとすら思えた。
「海莉……!」
頭の中で煮えたぎる怒りは次第に声に滲み出て、とうとう気泡はプッツンと割れてしまいそうだ。しかしその局面に差し掛かったところで、彼女はもう一度叫んだ。
「私、反省してる!」
これまで一方的に怒りを向けてきた彼女が、突拍子も無く、自らを省みたのだと発言し、気泡は萎んだ。結局怒りを発散出来ずに消化してしまいその心地悪さが残ったが、俺は彼女の様子を気がかりに思った。
「海莉……」
彼女は俺から目線を外した。その姿こそまさに、いじけた幼児を彷彿とさせるものだった。
「……は、反省してるよ、自分の言いたいこと言わずに奏芽くんのこと欲しがって、う、受け入れようって一方的に努力してたこと。だから奏芽くんは私のこと知らないままで、もうずっと一緒にいたの」
嫌味のように聞こえなくも無い文言だが、こちらを見ない彼女の煮え切らないような表情を見て、その言葉は文字通りの真実なのだと察する。
そして彼女の言った言葉の意味を考える。
自分の意思を隠して俺の主張を求め、呑んできたのだと彼女は言った。そのせいで俺は海莉のことを知らないのだと。
つまり、これまで彼女と話してきたことの数々は全て俺が起点となっていて、彼女はそこに一切の干渉を行わなかったということだろうか? 感想も、転換も差し込まず、ただ俺の発言に相槌を繰り返すだけの機械に成り下がっていたということだろうか?
そう悲しい疑問を持つと、ふと俺の頭の中には彼女と過ごした時間が回想された。
――高校一年の春。文芸部の担当顧問に入部届を出して早速部室に向かえば、扉を開いた先には既に一人女子生徒が到着して本棚の前で爪先立ちになっていた。どうやらあと少しのところで本に触れられず難儀していたようで、そこの椅子でも差し出してやろうかという考えは浮かんだが、俺は敢えて、後ろからそれを引き抜いて渡してやったのだ。鍔の反った浅い帽子を被って椅子に座る髭長の男と、それを見下ろすスフィンクスが描かれた表紙は印象的だった。
「わ、おっきい人……」と礼の前にそんな感想を漏らす少女の不思議さは、高校生活に胸を踊らせていた当時の俺にとってはまるで小説の中のヒロインだった。それは少女が非常に整った容姿をしていたということもあるし、何より、普段廊下ですれ違う生徒たちとは明らかに異なる性質を秘めていると、その時直感的に知ったからだ。
差し出した本に少女が触れるその動作の途中で見つめ合い、時間が静止する。
新入生の入部初日、それもホームルームが終わってからすぐの時間帯であったということで、どの部も活動といった活動を開始しておらずグラウンドすら静かだった。そんな静寂に支配された世界には春陽が降り注ぎ、少女によって半開きにされたであろう窓からは、風がゆっくりと入り込んできて部屋の中を仄かに温かな香りで溢れさせた。
思い出したかのように「ありがとう」と礼を言って微笑んだ少女は、本を受け取って中央の机ではなく敢えて窓際の椅子に腰掛けた。
春の日差しに照らされた少女の髪はそよ風に煽られて白い光の筋を揺らした。本を開いて目線を落とす少女。薄く閉じられた瞼、小さく開いた唇。部屋のとある一角に生まれたその景色は、きっと世界中の誰もが振り返り見惚れてしまう唯一無二の絵画だった。その一枚を知っているのがこの世で自分だけなのだとふと考えた瞬間、俺は恋に落ちた。それを彼女が知るのはまだ先のことだが。
しばらく経って気兼ねなく話す仲になると、彼女は少しずつ俺が読んでいた専門書に関心を示すようになった。一度も手を付けたことの無いジャンルだと言って物珍しそうに覗き込んできたのが嬉しくて、二人で一緒に読んだりもした。新たな世界を知った彼女は次から次に専門書を手に取り、俺に質問した。二人で検索したり勉強したりするうちに、俺は段々、彼女の興味に沿った面白い話でもないかと意識しながら読書を楽しむようになり、実際に紹介したり議論したりした。
彼女の輝く瞳が綺麗で胸が高鳴って、ああきっとこの人なんだと思った――。
どうやら俺は、泣きそうだった。
「俺、無理させてたか。小説を読んでた海莉が急に楽しそうに専門書を読み始めて、俺の話に興味持ってくれたんだって勘違いして……」
あの輝きは全て自分の思い違いで、独りよがりな錯覚に過ぎなくて。寧ろ彼女にとっては自分を殺して仕舞うほどの苦痛だったのだと思うと情けなくて失笑してしまう。
しかし彼女はそれすら否定した。
「そ、そうじゃないよ。実際楽しく読んでたし興味も湧いた。そうじゃないの」
ますます彼女の言っていることが分からなくなってゆく。
「じゃあどういうことだよ、分かるように言ってくれ」
ほとんど掠れて震えた声が漏れる。怒りに昇華できるほどの自信さえ失せていた。
「……私の中にある、奏芽くんと紐付いていない要素を、奏芽くんは知らないでしょ」
彼女はそう言いながら、俺から逸していた視線をとうとう床にまで落としてしまった。それから嗚咽みたいに言葉が発せられて、心臓が縮むように痛み始める。
「奏芽くんはそうだよ、いつも、私の中に創った奏芽くんの世界の内側でしか話してなかった。その世界は、奏芽くんが供給する情報に私が需要を上乗せしたところから始まって、段々と解釈が入れ替わっていってしまったの。需要があるから供給する。そんな均衡の上に成立した世界は、奏芽くんについての情報を処理する為のストレージとしてますます発展し複雑化して、とうとう私の思考の中心は奏芽くんに成り代わってしまった。奏芽くんは奏芽くんとして動いてる。だけど私は違った! 少しずつ、自分が何か、分からなくなっていって。そこにはもう、私はいなかったよ。気が付いたころには、そこに居たのは、奏芽くんだよ」
彼女が言い切るまで、俺は一言すら割り込める言葉が思い浮かばなかった。何となくこれまでの彼女と比べれば語彙が固いような感じもしたが、そんな指摘は相応しくないし、それくらいの違和感はもはや俺の中ではどうでもよかった。
自分は自分を見失ってしまったと訴えるとき、彼女は真下に向いていた顔を一気に俺に向けた。目尻からは絶えず涙を流し、それでも目を細めずに俺を見た。
それでもなお、彼女は俺に訴える。
「私、反省してるよ、一方的に欲しがったこと。だから今度は奏芽くんが反省する番だよ! ね、ねえ、謝って?」
この時既に、俺の方こそが相槌を繰り返すだけの機械のようだった。
「……ごめん」
「……何が?」
俺の放つ無機質な謝罪は彼女を更に苛立たせる。
「分からないけど」
それを聞いて彼女はベッドに拳を叩きつけた。
「思ってもいないことで謝らないでっ!」
「無茶言うなよ、ならどうしろって言うんだ!」
呼応するみたいに二人の怒号が部屋に轟いて、心臓がバクバクと激しく鼓動する。それはどうやら廊下にまで響いていたようで、駆けつけた看護婦が扉を開けて何かあったかと尋ねる。俺も彼女も何も答えないでいると、看護婦は速足でこちらに歩み寄り俺の腕を掴んで後ろに引いた。
「……出てって」
彼女の言葉に看護婦は立ち止まる。その時、少しだけ腕を掴む手の力が緩んだから、きっと海莉の言葉が自分に向けられたものと勘違いしたのだろう。しかし俺は理解していた。それが看護婦でなく、他でもない俺自身に向けられた言葉だということを。
看護婦に腕を引かれる中途半端な姿勢で静止していると、海莉が再び口を開く。
「分からないなら、出てって。私が私を取り戻そうとしてるの、ちゃんと分かるまで会わないで。協力してくれないなら、じゃ、邪魔だよ」
邪魔。たった二文字が俺の心を砕くのは、難しいことじゃなかった。軽い力で押されて崖から落ちてゆくような空虚な感じ。俺は彼女に視線を向けたが、彼女はこれ以上何も話すことはないとでも言いたげに身体をベッドに倒して布団を被った。
「……じっくり考えて」
せめてもの情けか、そう言いながら彼女はとうとう壁の方を向いて布団を身体に巻き付けた。看護婦が引き続き俺の腕を引いて病室を出てゆく。
「何、焦ってんだよ」
扉の前まで辿り着いてそう質問したが、海莉は俺が扉を出るまで一瞬も動くことは無かった。
「……うるさい」
看護婦が扉を閉める時、扉の滑る音に混じってそう聞こえたような気がした。そんな答えなら聞かなければよかったと後悔する。ロビーに出て面会禁止を言い渡されると、俺は覚束ない足取りで玄関の自動ドアを潜った。途中、重みのあるペットボトルを手に持つのも面倒になってごみ箱に捨てた。
自動ドアを潜ってすぐ先に、スポーツカーを背にして立つ柳先生を捉える。先生は右手に持った紙コップを口元に運ぼうと動作したように見えたが、俺と目が合うと怪訝そうな表情を浮かべてその腕を元の位置に戻した。先生の胸の前で停止した紙コップからはもくもくと湯気が立っている。俺が傍に歩み寄ると、先生は紙コップを俺に差し出した。
「私はブラックが飲めない。表の自販機周辺が暗くてね、間違って選んでしまったんだ」
有無を言わさず俺の手にそれを握らせると、先生はズボンのポケットから取り出した車の鍵を人差し指で回しながら車の右側面へと回り込んだ。それから流れ動作でセキュリティロックを解除すると、そのまま運転席に消えた。その後すぐにエンジンが唸ったが中々発進しない。あれ、もしかしてなんて思って顔を上げた時、轟くエンジン音に掻き消されまいと張られた声が耳に届く。
「さっさと乗れよ、男ならそれくらい一気に飲めるだろ。ああ、あとそれ、持って入るなよ。シートに零されたりしたら敵わん」
エンジン音の深い振動が、揺れる意識をどうにか現実に引き繋いでくれるみたいで心地よくて、雑に放たれた先生の言葉も今の俺には優しく滲んだ。
俺はブルッと身震いして唇を噛み、一度固く目を閉じる。頬に伝わる感触は顎の先で途絶え、俺は深呼吸してコーヒーを飲み干した。
助手席のドアを開けて車に乗り込むと、先生は小さいビニール袋を取り出して紙コップを入れるよう指示した。それから車を発進させてすぐ「落ち着いたら話せ、車に乗せてやった礼ならそれでいい」と言った。俺は何だか突然悔しさが湧いてきて、堪えようのない涙をそれでも零さないようにまた固く目を瞑った。
「ブラックコーヒーって、こんなに苦かったですっけ」
そう苦笑して述べると、先生はくすりと小さく俺を笑って駐車場の出口を左折した。
焦げたような強い苦みが舌を刺す。でも今は、それくらいが丁度良いと思った。
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