しろとあおのクオリア

美也

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8.ふたつの青い果実

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 文化祭が終わると受験モードのピリついた校内。受験に関する確認事項に受験料、入学金、授業料……親に相談するのも気を遣う。
 そして二者面談で意図もせず自己推薦の打診を受けた。

「夏の作品も大賞だし、文化祭のパフォーマンスも感動したぞ~。良いアピールになると思うんだ。挑戦してみたらどうだ?」

 担任にそう言われて……気持ちは半分半分だった。確かに文化祭から昂ぶった心の内はまだくすぶっている。何でもできるような根拠のない自信さえポンッと飛び出しそうだ。

 でも……
 面談重視の選考は苦手だし、名門なので志望している学校だが、大都市にあって遠いうえ授業料が高い。
 迷っているまま両親に打ち明けると……

「やってみなよ!」と母。
「挑戦で合格したら凄い事だぞ」と父。

 目を凝らして見つめたオーラにも言葉通り、二人は星屑を光らせて私に期待をこめていた。
 私の心は一気に燃え上がってやる気に満ちた。自分の中にこれほど熱い気持ちが生まれるとは思いもせず……

 もしかするとあおいくんの影響かな?
 と考えがよぎると、進路の準備でしばらく会っていないので急にしんみり。
 葵くんはどんな進路を選択するのだろう?


「―――俺? やっぱ大学かな~。まだ準備も整ってないけど」

 週イチの英語授業で私達は久し振りに話をすることができた。A組じゃないのに大学を志望する葵くんが凄いと思った。
 でも本気を出したら優秀なんだろう。

 けれど、ちょっと……大丈夫かな?

 葵くんは会わない間にオーラが青くなっていて、疲れているのかもしれなかった。バイトも続けているようで年末までは受験のためにも稼ぐと。

真白ましろは推薦頑張れよ! 絶対上手くいくからな!」

 葵くんは授業終わりに励ましてくれて。
 なぜか葵くんにそう言われると不思議と安心できたんだ―――。


☆☆☆

「県立東川高校、大井田原おおいたわら真白ましろです」

 緊張の受験会場。始発の電車でJRに乗り継ぐと乗り換えをして新幹線に地下鉄。着いただけで少しふらふらした。田舎の自然に慣れていると都市に出ただけで疲労する。

 朝の通勤ラッシュ時間帯で人が多かったのでオーラも色々様々見えてしまった。
 モチベーションを保つのに精一杯。緊張を溶かす術はなかった。

「私は今まで――――――」

 自己PRに志望動機は200回位練習しただろうか?
 入室寸前まで繰り返していたし、スラスラと発言できたと……思う。
 構えていたより面接官の口調は柔らかく、地元の自然や文化祭のパフォーマンスについても受け答えできた。

「コンクールの受賞歴が素晴らしいですね」

 面接官の二人が目配せして頷きながら話す。オーラも穏やかで私はその感触に、ひと安心へ気持ちが傾いてホッと息をした。
 しかし……

「絵を描く上で特別に意識していることは?」
「はい。それは被写体の持つオ……」

 オーラ、が喉でつっかえた。
 これは駄目なのだった!
 一瞬の戸惑いがそれを掴んで喉元でとどまらせる。

「どうしました?」
「あ、あの……」

 共感覚、理解して……もらえる?
 私は見えたままを、絵に描いているだけ。
 どうしよう、言ってもいいのかな?
 ……はっ!

 面接官のオーラにモヤッと薄暗い煙が湧き始めて……私に対する不信感だと悟った。
 凝視するほどに突き刺さる鋭い眼光がより疑いの目に見えて―――。

 もう駄目だ……
 私に下だされたその色に目は塞ぎがちになり背筋も縮こまってしまった。

「難しかったですね。では……」

 ―――その後のやり取りは余り覚えていない。

 質問されて気付いたのは、自分の能力の無さ。モデルのオーラが一際ひときわ美しかったから、奇跡的な絶景を見る幸運に恵まれたから、ありのままを描いた絵が評価されたわけで……私は模写が得意なだけだ。

 オーラが見えなくって共感覚が無かったら―――
 まともに絵も描けないんだろうな。
 
 無力さと反省と折混ざって心がどっと疲れた。
 自信て……簡単に折れる。

 案の定、不合格。
 落ち込んだりはしなかった。都会に憧れもあったけれど、通勤ラッシュの電車は苦しかったしビルだらけの街並みも窮屈に感じた。人が多いのも苦痛な時もある。

 理想と夢に突きつける現実。
 失敗は良い経験だと踏ん切りはついていた。当初の予定通り一般入試で勝負。元々考えていた隣県の専門学校に決めて、受験予定表を再提出した。
 
 11月初旬。
 再び美術室へ通う放課後。文化祭以来ほとんど足を運んでいなかったが、次は実技もあるので腕が鈍らないように着彩の練習。なんだか元の生活に戻った感じで、やっぱり落ち着くなぁと染み染み。
 そこへ……

 あおいくんが私の受験結果を心配してくれて訪ねてきた。不合格だったことを伝えると、私以上に残念がってびっくりした。

「そっかぁ……頑張ったのにな」

 労いなのか、私の頭をポンポンとして。眉尻を下げて本気で悲しそうな顔をする。
 同情……全然それでもいい。

 優しい葵くんの大きな手に包まれると、たくさん考えて疲労していた頭が、ふわっと春の風をうけたみたいに心地良いほど軽くなる。

 私はそれでまた頑張ろうとゆう気になるのだけれど……
 葵くんの表情は晴れなかった。

 純平じゅんぺいは推薦で農業の専学に合格した、そんな話題にも「ホント良かった。純平、家業継ぐの夢だって言ってたから」安堵の溜息と目元を緩ませるが、向日葵のような明るさは見れない。

 影があるような青色のオーラを漂わせて……
 受験生だからか同じオーラを持つ人も増えているけれど。

 葵くんも何か気に病む事があるのだろうか?
 とそれは私の心に少し引っ掛かった。

 このときの予感を、私は後悔することになる―――。
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