旦那様、私にお任せ下さい。

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テンプレってヤツですか?

自己紹介しときます?

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乱されたシーツ、少し凹んだ枕たち、気まずそうな顔でベッドをチラッと見て目を逸らしている旦那様。

「事後にはまだ早い時間なので、ちょっと時間潰ししましょう」

「じ、事後……何故そのような言葉を御令嬢が淡々と口にするのだ…」

旦那様がジトリと非難するような視線を私に向けながら白皙の頬を染めている。
その様はまさに可憐な乙女のようである。
非難の視線を向けられている私はスンッとしたものだ。
正直、性別入れ替えた方がいろいろ上手くいきそうな気がしないでもない。

「恥ずかしがる理由が分かりません。ただ破瓜の血と運動の汗を偽装し、少しばかりシーツと枕を乱しただけですよ? やってないものをやったようにーーー」
「も、もういいから!!」

話す途中で大きな声で割り込まれた。
旦那様の顔が熟れた林檎のように真っ赤である。
耳まで真っ赤な人を見たのは初めてかも。

「旦那様、お耳まで赤くなられーーー」
「もう黙って!!お願いします!」

とうとう両手で顔を覆い蹲み込んでしまわれた。

少し構い過ぎたかな?

「なにこの子…本当に公爵令嬢なのか…」と小声でブツブツ呟いてるようですけど、全部聴こえてますからね。





旦那様もようやく落ち着いたので、寝室の寝酒用に用意されたであろうスペースに移動し、テーブルを挟んで椅子に腰を落ち着けた。

(あ、この椅子フカフカ)

「御令嬢、お酒を口にしたことは?」

「ないですね。私は先程ベッドに撒いた果実水の残りを飲むので大丈夫です」

「撒いたって…いやもう何も突っ込まない事にす…いや、これは、そういう意味ではないから!」
「?」

キョトンとするルナマリアを見て押し黙る。

「んんっ、では果実水だな」

グラスに果実水を注ぎ手渡してくれたのでお礼を言って受け取る。
旦那様は少しやつれたような空気を醸し出しながら、琥珀色のお酒をグラスに注ぎグイッと一息に飲み干した。

「旦那様、自己紹介でもしますか?」
「…は?」

「私たち今日初めて顔合わせして、会話もそこそこに両国の同盟を歓迎する!とかで最高潮に盛り上がり、その浮かれた空気のままに宴になって、気付いたらここに居たような慌しさだったでしょう?」

「そんなに酷かったか? まあ、慌しさはあったが」

「女だからですかね? 浴室に連れ込まれてピカピカに磨き上げられたので、その時間の確保に早足で移動させられましたし…まあ、無駄な手入れになりましたけど」

「…っ。すまない…」

「いや、今となっては有難い結果になったので、大丈夫ですよ」

「有難い結果?」

「そうです。旦那様は私に負い目があるわけですよね? 政略とはいえ、初夜にあんなことを言ってきた」

「あ、ああ…負い目があるな…」

「きっと、公爵家に迷惑をかけない行動なら自由にしてもいいと許可をくれる筈です」

私の発言にお酒を口にしようと持ち上げたグラスを旦那様はハッとした顔をしてテーブルに置いた。

何かヤバイ提案してきそうな雰囲気を察知したのかしら。

「その行動が迷惑になるかどうか判断するのは御令嬢ではない」
「ルナマリアです」

「え…?」

ポカンとした顔をしてこちらを見る。

「私の名前は御令嬢ではなくルナマリアです。旦那様のお名前を教えて下さいますか?」

「知らないのか?」

「ライなんちゃら…いや、レオなんちゃら?」

「なんちゃらって…」

「レオンハルトだ。なんちゃらではない。そもそも最初のライなんちゃらはかすりもしてないではないか」

呆れたような眼差しでルナマリアを見る。
いや、御令嬢とか言ってた方に言われたくないですからね?

「旦那様も知らなかったのでは? ずっと御令嬢と仰ってましたし。まだ最初の二文字だけでも覚えていた私の方がまだマシです」

「いや、私は知っていた」

「なら尚悪いではないですか。知ってるのにわざわざ他人を強調したくて名前呼び避けてたんですから。政略だからって憎み合って敵国の同盟じゃあるまいし態度悪すぎです、反省してください」

ぐっと喉が詰まったような音がした後、

「申し訳なかった。以後そのような扱いは二度としない」

と頭を下げてくれた。

うんうん、憎み合うより尊重大事よ。
旦那様がテンプレ小説にありがちな屑で馬鹿なタイプじゃなくて話の分かる相手で良かったわ。

「それで、公爵家に迷惑をかけない行動とは?」

あ、そこはちゃんと知りたいよね。
まだ家を継いでないとはいえ後継者ですからね。

「言わなきゃダメですか?」
「駄目に決まってるだろう」

正直に話すと反対して来そう…
そう考えると険悪な間柄を構築した方が楽だったかな?
お互い関与しないから勝手に死ね、みたいな。

いや、この旦那様じゃムリか。
根が優しそうだ。
寝室に入ってすぐの発言は阿呆の極みでしかなかったけど。

「えーっと…」

旦那様の金色の瞳が段々とジト目になっていく。

「ちょっとだけ外出したいなって」
「外出に制限はない。ルナマリア嬢が言い淀むのは、公爵家に迷惑をかけるような場に行く可能性ではなく、公爵夫人として人によっては好ましくない行動をする可能性があるということではないか?」

うぐ。なかなか鋭い。
ダンジョンの出入りは夫人としては誠に宜しくないだろう。

「ぺらぺら話していた貴女が黙るという事は核心に近いという事か」

「絶対反対されないように色々整えますから!」

「整えなければならない反対されそうな事?」

「ええー…急に詰めてきますよね、旦那様」

茶化すように笑ってみたが、美しい顔立ちを人形のように無にして見つめ返されただけだった。

「はあ…言いますよ。反対されようが絶対に諦めることはしませんからね!」

「訊いてから判断しよう」

「…ダンジョンに潜りたいんです」

「………は?」

本日だけで旦那様を何度固まらせられるでしょう。
唖然とした顔を拝むのもそろそろ飽きてきました。
私のせいですが。えへ。
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