6 / 115
第一話 恋のつぼみはふくらんで
恋のつぼみはふくらんで(2)
しおりを挟む
「小野くんもレポート書いてきてくれたのかい? えらいねぇ」
へらっと笑ったせいか、足元が留守になった。
冊子を抱えたまま踏み出した蓮の足は、見事に教壇を滑り落ちる。
「アレェ」なんて間の抜けた声とともに、モブ子たちのレポートが宙を舞った。
そのまま蓮の背中は床に叩きつけられる……はずだった。
「先生、どこも痛くないですか?」
「う、うう……」
頭上に降り注ぐ深い声。
同時に背にぬくもりを感じ、蓮はぱちくりと目を見開く。
薄茶色の涼やかな瞳と至近距離で視線がぶつかって、大慌てで手足をじたばた動かした。
「す、すまないねぇ。小野くんにはいつも迷惑をかけてしまって」
「別に迷惑なんて思ってませんよ。先生に怪我がないなら良かったです」
とっさに駆け寄った青年が、背後から抱きしめるように支えてくれていたのだ。
彼がいなければレポートはそこらに散乱。
蓮は腰を強打し、しばらく杖の世話になるところだったろう。
サイズの合っていないジャケットが肩からずり落ちるのをさりげなく直してやりながら、小野と呼ばれた青年は蓮を教壇の下にそっと立たせてくれた。
「小野ちんが、連ちんの腰を抱いていやがるよ」
「エロ従者よ、そのまま押し倒してしまうのだ」
モブ子たちが色めき立つ。
彼女たちに悪意がないのは分かるが、大学の講義終了後のセリフとしては、これはもはやカオスである。
「何てこと言うんだよ、モブ子さんたち」と蓮の焦った声に、彼女たちのにやにや笑いは止まらなかった。
ちなみに。教室には圧倒的に女子が多い。
この物語にさして関係のない彼女たちを、総じて「モブ子」と呼ぶのである。
私立登成野学園大学で、今年度からひっそりと始まったこの「日本史BL検定対策講座」──もちろん、正規の講義ではない。
あくまで検定対策の臨時講座であり、当初の予定では別館四階隅の小教室が予定されていた。
図らずも本館大教室での開催となったのは、受講希望者が予想外に多かったためだ。
大学関係者が驚いたのは、その男女比である。
かなり……いや、ほとんど全員が女子だったのだ。
あくまで検定対策講座なのだが、この検定は女性人気が高いのだろうかとお偉方は首をひねったという。
男女比率100対0──その0と思われた男性比が0.3にアップしたことで、関係者は大いに喜んだそうだ。
さて、その0.3。
それがこの涼やかなビジュアルの学生、小野梗一郎なのである。
へらっと笑ったせいか、足元が留守になった。
冊子を抱えたまま踏み出した蓮の足は、見事に教壇を滑り落ちる。
「アレェ」なんて間の抜けた声とともに、モブ子たちのレポートが宙を舞った。
そのまま蓮の背中は床に叩きつけられる……はずだった。
「先生、どこも痛くないですか?」
「う、うう……」
頭上に降り注ぐ深い声。
同時に背にぬくもりを感じ、蓮はぱちくりと目を見開く。
薄茶色の涼やかな瞳と至近距離で視線がぶつかって、大慌てで手足をじたばた動かした。
「す、すまないねぇ。小野くんにはいつも迷惑をかけてしまって」
「別に迷惑なんて思ってませんよ。先生に怪我がないなら良かったです」
とっさに駆け寄った青年が、背後から抱きしめるように支えてくれていたのだ。
彼がいなければレポートはそこらに散乱。
蓮は腰を強打し、しばらく杖の世話になるところだったろう。
サイズの合っていないジャケットが肩からずり落ちるのをさりげなく直してやりながら、小野と呼ばれた青年は蓮を教壇の下にそっと立たせてくれた。
「小野ちんが、連ちんの腰を抱いていやがるよ」
「エロ従者よ、そのまま押し倒してしまうのだ」
モブ子たちが色めき立つ。
彼女たちに悪意がないのは分かるが、大学の講義終了後のセリフとしては、これはもはやカオスである。
「何てこと言うんだよ、モブ子さんたち」と蓮の焦った声に、彼女たちのにやにや笑いは止まらなかった。
ちなみに。教室には圧倒的に女子が多い。
この物語にさして関係のない彼女たちを、総じて「モブ子」と呼ぶのである。
私立登成野学園大学で、今年度からひっそりと始まったこの「日本史BL検定対策講座」──もちろん、正規の講義ではない。
あくまで検定対策の臨時講座であり、当初の予定では別館四階隅の小教室が予定されていた。
図らずも本館大教室での開催となったのは、受講希望者が予想外に多かったためだ。
大学関係者が驚いたのは、その男女比である。
かなり……いや、ほとんど全員が女子だったのだ。
あくまで検定対策講座なのだが、この検定は女性人気が高いのだろうかとお偉方は首をひねったという。
男女比率100対0──その0と思われた男性比が0.3にアップしたことで、関係者は大いに喜んだそうだ。
さて、その0.3。
それがこの涼やかなビジュアルの学生、小野梗一郎なのである。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】取り柄は顔が良い事だけです
pino
BL
昔から顔だけは良い夏川伊吹は、高級デートクラブでバイトをするフリーター。25歳で美しい顔だけを頼りに様々な女性と仕事でデートを繰り返して何とか生計を立てている伊吹はたまに同性からもデートを申し込まれていた。お小遣い欲しさにいつも年上だけを相手にしていたけど、たまには若い子と触れ合って、ターゲット層を広げようと20歳の大学生とデートをする事に。
そこで出会った男に気に入られ、高額なプレゼントをされていい気になる伊吹だったが、相手は年下だしまだ学生だしと罪悪感を抱く。
そんな中もう一人の20歳の大学生の男からもデートを申し込まれ、更に同業でただの同僚だと思っていた23歳の男からも言い寄られて?
ノンケの伊吹と伊吹を落とそうと奮闘する三人の若者が巻き起こすラブコメディ!
BLです。
性的表現有り。
伊吹視点のお話になります。
題名に※が付いてるお話は他の登場人物の視点になります。
表紙は伊吹です。
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
「普通を探した彼の二年間の物語」
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
雪解けを待つ森で ―スヴェル森の鎮魂歌(レクイエム)―
なの
BL
百年に一度、森の魔物へ生贄を捧げる村。
その年の供物に選ばれたのは、誰にも必要とされなかった孤児のアシェルだった。
死を覚悟して踏み入れた森の奥で、彼は古の守護者である獣人・ヴァルと出会う。
かつて人に裏切られ、心を閉ざしたヴァル。
そして、孤独だったアシェル。
凍てつく森での暮らしは、二人の運命を少しずつ溶かしていく。
だが、古い呪いは再び動き出し、燃え盛る炎が森と二人を飲み込もうとしていた。
生贄の少年と孤独な獣が紡ぐ、絶望の果てにある再生と愛のファンタジー
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!
中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。
無表情・無駄のない所作・隙のない資料――
完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。
けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。
イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。
毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、
凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。
「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」
戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。
けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、
どこか“計算”を感じ始めていて……?
狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ
業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる