ここは花咲く『日本史BL検定対策講座』

陣リン

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第一話 恋のつぼみはふくらんで

恋のつぼみはふくらんで(2)

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「小野くんもレポート書いてきてくれたのかい? えらいねぇ」

 へらっと笑ったせいか、足元が留守になった。
 冊子を抱えたまま踏み出した蓮の足は、見事に教壇を滑り落ちる。

「アレェ」なんて間の抜けた声とともに、モブ子たちのレポートが宙を舞った。
 そのまま蓮の背中は床に叩きつけられる……はずだった。

「先生、どこも痛くないですか?」

「う、うう……」

 頭上に降り注ぐ深い声。
 同時に背にぬくもりを感じ、蓮はぱちくりと目を見開く。

 薄茶色の涼やかな瞳と至近距離で視線がぶつかって、大慌てで手足をじたばた動かした。

「す、すまないねぇ。小野くんにはいつも迷惑をかけてしまって」

「別に迷惑なんて思ってませんよ。先生に怪我がないなら良かったです」

 とっさに駆け寄った青年が、背後から抱きしめるように支えてくれていたのだ。
 彼がいなければレポートはそこらに散乱。
 蓮は腰を強打し、しばらく杖の世話になるところだったろう。

 サイズの合っていないジャケットが肩からずり落ちるのをさりげなく直してやりながら、小野と呼ばれた青年は蓮を教壇の下にそっと立たせてくれた。

「小野ちんが、連ちんの腰を抱いていやがるよ」
「エロ従者よ、そのまま押し倒してしまうのだ」

 モブ子たちが色めき立つ。
 彼女たちに悪意がないのは分かるが、大学の講義終了後のセリフとしては、これはもはやカオスである。

「何てこと言うんだよ、モブ子さんたち」と蓮の焦った声に、彼女たちのにやにや笑いは止まらなかった。

 ちなみに。教室には圧倒的に女子が多い。
 この物語にさして関係のない彼女たちを、総じて「モブ子」と呼ぶのである。

 私立登成野となりの学園大学で、今年度からひっそりと始まったこの「日本史BL検定対策講座」──もちろん、正規の講義ではない。
 あくまで検定対策の臨時講座であり、当初の予定では別館四階隅の小教室が予定されていた。
 図らずも本館大教室での開催となったのは、受講希望者が予想外に多かったためだ。

 大学関係者が驚いたのは、その男女比である。
 かなり……いや、ほとんど全員が女子だったのだ。
 あくまで検定対策講座なのだが、この検定は女性人気が高いのだろうかとお偉方は首をひねったという。
 男女比率100対0──その0と思われた男性比が0.3にアップしたことで、関係者は大いに喜んだそうだ。

 さて、その0.3。
 それがこの涼やかなビジュアルの学生、小野梗一郎なのである。
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