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第三話 願いをだきしめて
願いをだきしめて(4)
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「またまた。モブ子さんたちには塩だねぇ、君」
問答無用でめくったページにはキラキラ目をした、やたら睫毛の長い男性が着物をはだけて床に横たわっているイラストが描かれている。
その横には、これまた目がキラキラした肩幅の広い男性が。
肩幅の広い男は、睫毛が長い男の腰に手を回している。
肩幅の顔が睫毛の唇に今にもふれそうなシーンであった。
「先生、こんなの燃やしてしまいましょう」
「えっ、何で?」
まじまじと肩幅と睫毛を眺める蓮。
「たしかに、日本史BL検定からは少し離れた印象だけど。でも素敵な絵じゃないか。モブ子さんたちの情熱が迸ってるよ」
彼女たちがいつも自主的に提出するレポートを自宅に持ち帰って見ては感心し、すっかり寝不足なのだという。
先生の睡眠時間を奪うな──梗一郎がボソッと呟いた声は、幸いというべきか蓮の耳には届かなかったようだ。
「モブ子さんたちが求めるものとは少し違うのかもしれないけど。でも検定対策だけじゃなくて、ちゃんと面白い講義にしたいって思ってるんだ」
「先生……」
新米講師の情熱に素直に感動したらしい。
梗一郎の目元が和らぐ。
そんな彼の隣りで、蓮はモブ子の冊子をしげしげと眺めていた。
「モブ子さんたちがよくカベドンとかアゴクイとか言うじゃないか。日本史BL学では出てこない用語だからよく分からないんだけど。どんな丼なんだろう」
「……もしかして、カベ丼って思ってますか?」
天然が服を着て歩いている様に、梗一郎の頬がひくひくと引きつる。
呆れたのかと思いきや、口元を覆って小さな声で呟いた。
「先生、可愛いです……」
「えっ、何か言ったかい? カベ丼を定食屋さんで探すんだけど、見つけられなくてねぇ。お店の人に尋ねようと思ったんだけど、何となく躊躇してしまって。なぜだか、聞いちゃいけないって気がするんだ」
「その直観、正しいです」
童顔の男が定食屋で「カベ丼ひとつください」なんて注文している様子を想像したら、梗一郎でなくとも笑ってしまうだろう。
問答無用でめくったページにはキラキラ目をした、やたら睫毛の長い男性が着物をはだけて床に横たわっているイラストが描かれている。
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肩幅の顔が睫毛の唇に今にもふれそうなシーンであった。
「先生、こんなの燃やしてしまいましょう」
「えっ、何で?」
まじまじと肩幅と睫毛を眺める蓮。
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彼女たちがいつも自主的に提出するレポートを自宅に持ち帰って見ては感心し、すっかり寝不足なのだという。
先生の睡眠時間を奪うな──梗一郎がボソッと呟いた声は、幸いというべきか蓮の耳には届かなかったようだ。
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「先生……」
新米講師の情熱に素直に感動したらしい。
梗一郎の目元が和らぐ。
そんな彼の隣りで、蓮はモブ子の冊子をしげしげと眺めていた。
「モブ子さんたちがよくカベドンとかアゴクイとか言うじゃないか。日本史BL学では出てこない用語だからよく分からないんだけど。どんな丼なんだろう」
「……もしかして、カベ丼って思ってますか?」
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「先生、可愛いです……」
「えっ、何か言ったかい? カベ丼を定食屋さんで探すんだけど、見つけられなくてねぇ。お店の人に尋ねようと思ったんだけど、何となく躊躇してしまって。なぜだか、聞いちゃいけないって気がするんだ」
「その直観、正しいです」
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