余命わずかな王子様

ぷり

文字の大きさ
6 / 8

ep6◆パーティ②

しおりを挟む
「きれぇーい」
「おまえ……。あ、そうだ、おまえ! 自分に解毒しろ!」
「げどくー? ほむ」

 私は言われるままに、自分を解毒した。
 私は正気に戻った。

「……」
「……」

「殿下……」
「なんだ……」

「とりあえず、おろして頂けますか……?」
「……おう」

 私はそのまま……頭を抱えて俯いた。
 かなりの失態を犯した。
 さすがに落ち込んだ。

「ほら、とりあえず、歩け。侍女に風呂を支度させるから」
「申し訳ありません……。殿下のスーツも……」
「はは。一緒に風呂はいるか?」
「そんな御冗談はよしてください……」

「セシル」
 呼ばれて顔を上げると、殿下の唇か、私の唇に触れた。

「な」
「さっきオレのこと、好きって言っただろ」

「い、言ってませんよ!? 嫌いではありませんが! か、神よ、お許しくださいませ!!!」

 私が慌てふためいて祈ろうとすると、またチュ、とされた。

「あ……ああああ……殿下!! これ以上はおやめくださいね!?」

 私は真っ赤になって恥ずかしいやら腹が立つやらで、冷静さを失った。

「ぷっ……。やっとお前の仮面の下が見れたぜ」
「な……な……」

「あの令嬢たちは許せないが、お前のこんな顔見れたのは良かった。少しだけ 情状酌量でもしてやるかな」
「あ……彼女たちはどうなるのですか」

「まあ、修道院だな。父上にその一族も調査を入れてもらってこの際に不正を行ってないか隅々まで調べ上げる。あんな子供を育てる家門はろくなことをしていない。社交界デビューしたてのピチピチなのに、失敗したな」

「少し厳しすぎです。私はそこまで怒っておりませんし」

「何を言う。お前だけの問題ではない。王族と同位、しかもオレの婚約者にあんなことをしたんだぞ。ごめんなさい、謝ってくれたからいいですよーではすまない世界だ」

「そういうものなのですか……」
「そういうもんだ。というか、お前もっと怒れよ、まったく。……ほら、行くぞ」
「ああ、お風呂……」

 殿下に手を引かれて行った、休憩室でお風呂に入れてもらったあと。

「そういえば、司祭服が……困りました」
「大丈夫ですよ、セシルさま! こちらに着替えをご用意してあります!」
「え。ああ、これは……あの時のドレス!」

「殿下が、服が汚れたから着るしかないだろう、と用意するよう申し付けられました!」
「ちょっと待ってください!! 神殿に怒られま」
「はーい! メイクもしましょうねー!」

 侍女数人に寄って集って、私はドレスアップさせられた。
 その手際は、私が口を挟めないほどの連携とスピードであった。

「できましたー! いかがでしょう!」

 鏡に映った自分を見せられる。

「あ……」

 自分ではない人間がそこに立っている。
 濃さを感じない、可憐なメイクに、ウェーブを入れた銀の髪が水色のドレスに流れ落ちている。金の髪飾りに空色の宝石がいくつもついており、輝きをはなって、それを身につけている自分が、まるで物語の姫君のように見えた。

「まあー! もとからお美しいお嬢様だと思っていましたが」
「磨けば光りますわねえ!」

「あ、ありがとうございます」

 さすがに照れる。
 タイミング良く、ドアをノックして入ってきた殿下が、私を見て少し顔を赤くされた。

「いや、よく似合ってる」
「……どうも、ありがとうございます」

 きれいなドレスを着せてもらって嬉しいのは嬉しいですが、あとで司祭さまに怒られるだろうな……。

 でも着替えがないことと、相手の用意してくれた着替えを着ないのも失礼にあたる、か。

「ほら、パーティも時間が残り少ない。行くぞ」
「あ……やっぱり行くんですね」
「そう、やっぱり行くのだ」


*****

 パーティ会場に戻ると、貴族たちの私を見る目が変わったような気がした。

”まあ、お美しい……会場のどの令嬢よりも可憐なのでは?”
”先程は聖女として当然のふるまいをされていたのに……バカな令嬢たちもいたものですね。どこの家門かしら”
”可愛らしいカップルですこと……将来が楽しみですわ”

 陛下と王妃殿下も
「ひどい目にあったね。大丈夫、ドレスのことは私も司祭を説得しよう。だいたい王子と婚約しているのにドレスが駄目、というのがおかしいんだ」
「大丈夫? 少し酔っ払っていたでしょう? あの娘たちの家門は今後、王宮へのパーティは参加できないようにさせるわ。エリオット、よくやりました。セシル様、エリオットを褒めてやってくださいましね」

「はい、ありがとうございます」

 別に私はドレスを着たいわけではないから、着なくてもいいのだけれど……婚約者として必要というならそれも今後は受け止めよう。司祭様の許可次第ではあるが。

 でも、ドレスを着たら、エリオット殿下が嬉しそうな顔をしてくれた。
 あの笑顔が見れるなら、また着たい……。

 そうか、笑顔……。

 殿下も私の笑顔を見たいと言っていた。
 笑顔を見たいって、こんな気持なんだね。

 その後、少ない時間の中で、踊りの輪に連れ出された。

「だから、踊れませんって」
「バラードだから平気だろ。オレに合わせて、だいだい同じように、動いてればいい」

 よく、ダンスは男性の足を踏んでしまう、とか聞くので、私は下をむいて、殿下の足を踏まないように気をつけていた。

「おい……なんでずっと下向いてるんだ」
「足を踏んだらいけない、と思いまして」
「踏んでもいいから、顔あげろよ」
「でも」
「あーげーろ」

 私は顔をしかたなく、あげた。
 ヒールを履いているせいか、殿下の顔が近い。

 そういえば、2年前、であった頃は私のほうが背が高かった気がします。
 いつの間にか追い抜かれて……ずいぶんと背丈が伸びたものです。

「ほら、別に足踏まないだろ。このバラードなら大丈夫だと思ったんだ」
「本当ですね」

「踊れてないけどな。オレに引きずられてるだけで」
「……なんですか、それ」

 私は思わず、つい思わず。そんななんでもない言葉で笑ってしまった。

「お、笑った」
「あっ」
「笑ったな?」
「笑ったかしれません」
「聖女様、神殿規則を破ったのか?」
「いえ、あなたは子供みたいなものですから、子供に微笑んだのです、私は」

 ……実際、彼は病人なので、実は微笑みかけても構わないのだけれど。

「同じ歳だろ! しかし、はは、やった。今日は良い日だ」
「私はワインを被りましたが」
「そうだった」


 エリオット殿下は、踊り終えると、その一曲で満足した、と私を解放し、

「……ドレスじゃない服を用意しておいた。もう一度着替えて帰るといい」

 と言った。

 着替えたあと、殿下は私をファビンのいる控室まで送ってくださった。

「これからもよろしくな、セシル」
「はい、エリオット殿下」

 ファビンの許に私を届けると、殿下は私の手の甲にキスをして帰られた。


 その翌日、私は司祭様に舞踏会であったことは不問にする、と許された。
 そして、おまえは少し自分に厳しすぎるよ、と逆に諭されたのだった。

 あれ……私、もう少し自分を許して、良いのですか?




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

【完結】お飾り妃〜寵愛は聖女様のモノ〜

恋愛
今日、私はお飾りの妃となります。 ※実際の慣習等とは異なる場合があり、あくまでこの世界観での要素もございますので御了承ください。

【完結】私は聖女の代用品だったらしい

雨雲レーダー
恋愛
異世界に聖女として召喚された紗月。 元の世界に帰る方法を探してくれるというリュミナス王国の王であるアレクの言葉を信じて、聖女として頑張ろうと決意するが、ある日大学の後輩でもあった天音が真の聖女として召喚されてから全てが変わりはじめ、ついには身に覚えのない罪で荒野に置き去りにされてしまう。 絶望の中で手を差し伸べたのは、隣国グランツ帝国の冷酷な皇帝マティアスだった。 「俺のものになれ」 突然の言葉に唖然とするものの、行く場所も帰る場所もない紗月はしぶしぶ着いて行くことに。 だけど帝国での生活は意外と楽しくて、マティアスもそんなにイヤなやつじゃないのかも? 捨てられた聖女と孤高の皇帝が絆を深めていく一方で、リュミナス王国では次々と異変がおこっていた。 ・完結まで予約投稿済みです。 ・1日3回更新(7時・12時・18時)

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

処理中です...